おことわり
このブログには、エッチなことがたくさん書いてあります。まだ18歳になっていない人が見ていい所ではありません。今からこんな所を見ていると、将来ダメ人間になってしまいます。早くほかのページへ移動してください。 >googleでほかのページを検索する< なお、掲載している小説はすべて虚構であり、実在の人物・団体等とは一切の関係がございません。 |
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「オナこもりの小説」は、エロ小説を気ままにアップしていくブログです。たまに、AV女優や、TVで見た巨乳のことなども書いています。左サイドにある「カテゴリ」から、それっぽい項目を選んでご覧ください。
小説には、連続作品と一話完結作品があります。連続作品は、左「カテゴリ」の各作品名より一話から順番に読むことができます。また「目次」には、各作品の概要などをまとめた記事が集められています。 ■連続作品 ◆長編作品 ▼「子宝混浴『湯けむ輪』~美肌効姦~」 ◆中編作品 ▼「大輪動会~友母姦戦記~」 ▼「青き山、揺れる」 ▼「師匠のお筆」 ◆オムニバス ▼「母を犯されて」 ◆短編作品 ▼「育てる夫」 ▼「最後の願い」 ▼「ママの枕」 ▼「ブラック&ワイフ」 ▼「夏のおばさん」 ▼「二回り三回り年下男」 ▼「兄と妻」 ■一話完結 ▼「ふんどし締めて」 ▼「旧居出し納め・新居出し初め」 ▼「牛方と嫁っこ」 ▼「ガンカケ」 ▼「祭りの声にまぎれて」 ▼「シーコイコイコイ!」 ▼「サルオナ」 ▼「母の独白」 ▼「童貞卒業式」 ▼「お昼寝おばさん」 ▼「上手くやりたい」 ▼「珍休さんと水あめ女」 ▼「栗の花匂う人」 ▼「乳搾りの手コキ」 ▼「妻つき餅」 ▼「いたずらの入り口」 ▼「学食のおばさん便器」 ▼「山姥今様」 ▼「おしっこ、ついてきて。」 ★作品一覧 |
『師匠のお筆』
3-6-2-2 口の中に神雄のペニスがある。舌の上に乗っている。弾力がある。重さがある。 (ああ……) この瞬間をどれほど夢見たことか。須美恵は恍惚となった。 やはり手と口とは感じ方が全然違う。この数日来手による感触は何度も味わっているが、口で、それこそ文字通り味わうというのは何と彼と自分の距離を近づけることか。須美恵は大きな喜びに包まれていた。間違いなくこれは、人生最良のフェラチオであった。 須美恵は唇をすぼめ、陰茎をすっぽりと口内に収めたまま蓋をした。 唇は陰茎の根元まで達した。そこにはまだ一本の陰毛も生えていなかった。また唇の開き具合、先端まですべて収めても十分に余裕がある具合からいっても、神雄のそれは細く短く、須美恵が見た中で最もスケールの小さなものではあった。 しかしそれがいいのだ。この幼稚さが。須美恵にとってはかけがえのないペニスなのだ。 (わたしが、育ててあげる) そんな風に須美恵は思った。 須美恵は舌を動かしてゆっくりとその輪郭をなぞった。鈴口から亀頭、カリ、裏筋と……。 この感触は不思議だ、と須美恵は思った。固くなっているとはいえ表面はむしろ柔らかくもある。柔らかさの中に固さがあり、そしてそれは温かく、まったくほかに比較するものを思いつかない。地上でこれしかない特有の感触である。 須美恵は思い切り吸い上げた。いかに肉の中に管が通っているとはいえストローのようにそこから何かが出てくるというものではないが、イメージでは男の精がそこから直接供給されてくるような気がする。 その時、ざわざわと玄関から声が聞こえた。須美恵は心で舌打ちした。そうだった、制限時間は極めて限られているのだ。もっと丁寧に舐めてやりたいのに、と須美恵は残念がったがここは致し方ない。 須美恵は両手を神雄の尻や太ももに回して固定すると、激しく頭を振って陰茎に刺激を与え始めた。 妙齢の女が年端もいかない少年の足元にしゃがみ込み、その股間を一心不乱にむさぼっているこの光景、傍で見た人間の目にはどう映るであろうか。女は鼻腔をはしたなく広げ、いつしか口紅や尖った顎をよだれまみれにしている。やはり女の方のあさましい性欲をそこに見出すであろうか。 須美恵は頭を前後にストロークし、ペニスを口から出したり入れたりした。 こんなに熱心に口淫をしたことはかつてない。須美恵はこの行為を以前から軽蔑していた。かつての恋人にもほとんど挨拶程度にしかしてやらなかった。それが今は違う。今はこの行為に幸せをすら感じている。 汚らしいと思っている部分、いやそういう部分だからこそ直に、それももっともそういう部分を敬遠したいはずの口という器官で感じたい。それはある種の愛なのかもしれなかった。須美恵は夢中でしゃぶった。 亀頭上部に舌の裏側を乗せて、ちょうど舌で亀頭を挟むような格好で摩擦した。そうするうち、神雄の尻にぐぐっと力がこもりだした。 (来る……来る、そろそろ……) 須美恵は少し緊張しながら、口の中に初めて受け取る発射を待った。やがて神雄の身の硬直が極度に達しふるふると震えだしたかと思うと、亀頭の先から熱い熱い液体がほとばしり口の中に広がっていった。 (来た!) 待ち構えていたものが口内に来た。よし、飲もう、この貴重なる生命のエキスを、そう思った一瞬の後であった。 (これ……違……う……?) 勢いよくほとばしりくる液体は次から次へと湧いて出た。それは予期していたよりもずっとシャバシャバと流動的で粘性の薄いものだった。まるでお湯のような……? (やっ……! これ、違う!) 気付いた時にはすでに口内いっぱいにその液体が浸透し、あまつさえ喉を通って体内に流れ込んでさえいた。 思わず須美恵は神雄を見上げた。しかしその表情からは現在の結果に対する特別な何かを読み取ることはできなかった。ひょっとしたら、今何が起こっているのかすら理解していないのかもしれない。 考えてみれば、射精そのものについてもつい最近知ったばかりで、しかもそれがどういう意味かさえなお分かっていないかもしれないし、フェラチオに至っては今初めてされたわけであるから、その結果がどういうものになるのか、口内で出すのがどういう感覚かなぞ想像だにできないことかもしれないのである。 須美恵にはとやかく考えている余裕はなかった。ただ行動に出るのみであった。彼女の前には、いち早く口に貯まったものを吐き出し神雄を叱りつけるか、あるいはトイレットペーパーを取りに走るなどの選択肢が並んでいた。 しかし、彼女はそのいずれをも選択しなかった。彼女は現状のすべてを受け入れたのであった。 (これ……おしっこ……) 須美恵ののどは静かに動いていた。 (おしっこ、されてる……口に……わたし……) みるみる内に神雄の尿は口内に充満し、須美恵の頬は膨らむほどであった。ごくりごくりとのどの奥へと流し込むが、液はとめどなく湧き出でるために追いつかず、ついに陰茎と唇の接着部分から溢れだし、顎を伝い首を伝った。襟元から服の中まで流れ込んだのである。 (この子のおしっこ……わたし、飲んで……) のどを抜ける尿は胸の中で熱かった。それは須美恵の気持ちの高ぶりと同調するようだった。 すべてを受け入れてやりたいと、須美恵は思っていた。汚らしいものであればなお一層。いや、これはもはや汚いものでもないのかもしれない。須美恵は半ば混乱し、半ば恍惚として飲尿していた。 すべてが終わって神雄親子を送り出した後も、まだ須美恵は夢うつつの境をさまよっていた。 彼女は一人トイレに戻ると、ブラウスのボタンをはずした。ブラジャーにも尿が染みて冷たかった。それをそっとはずして匂いを嗅ぎ、股間に手をやった。ぐっしょりと濡れていた。 そこをいじくるうち、須美恵は立ったまま、下着もつけたままに尿を垂らしていた。 <つづく> << 前回 | 次回 >> <3章 目次> 1 2 3 4 { 1 2 } 5 6 { 1 2 ( 1 2 ) } 目次へ |
<登場人物> 枕必(ちんひつ)……有名書道家。須美恵の父。 須美恵(すみえ)……枕必の娘。書道教室を経営。 神雄(かみお) ……須美恵の生徒。鈴美と神雄の息子。 鈴美(すずみ) ……神雄の母。 瑞夫(みずお) ……神雄の父。 ※この小説はフィクションであり、実在の人物・団体等とは一切の関係がございません。 『師匠のお筆』 4-1 鈴美が枕必の主宰する書道の会に参加するようになったのは、神雄が須美恵のもとで熱心なる補習講義を受けるようになってからひと月余りも経った頃だった。 「ぜひぜひお母さまも書を!」 とは、須美恵からの勧めの言葉である。 一体に須美恵について見当違いをしていたらしいことを、鈴美は認めざるをえなかった。須美恵といえばクールであるどころか、その書に懸ける情熱たるや、神雄に対する指導ぶりから言っても自分に対する口ぶりから言っても、並大抵のこととは思われないのである。 「お子さまとご一緒に、ね?」 須美恵のこうした言葉に、元より心揺らがぬ鈴美ではない。彼女にとってほぼ唯一の趣味でもあり誇れるものでもある書道は、しばらく離れていたことから新たな興味とともに、大いに鈴美の心を惹きつけた。 加えて決定的だったのは、枕必からの誘いである。鈴美が敬愛してやまない名書家枕必とは、あの初めての邂逅以来再び教室でまみえる機会があったのだが、その時鈴美のことを覚えていて、自身の主宰する勉強会に誘ってくれたのだ。 「私としても、本当に書を愛してらっしゃる方とご一緒できることは、大いに嬉しいことなのです」 もちろん須美恵の口添えがあった上でのことだったが、それでも鈴美の心を舞い上がらせるには十分であった。 「はい! 是非!」 二つ返事で承諾した。 難関は夫であったが、その日の勢いで思い切って打ち明けてみれば意外にもすんなりと受け入れてくれた。わざわざ夫の好きなおかずを夕飯に揃えたのが功を奏したのかもしれない、などと考えながら、鈴美の頭はもう早枕必の会のことでいっぱいであった。 <つづく> << 前回 | 次回 >> <4章 目次> 1 2 { 1 2 3 } 3 4 { 1 2 } 5 { 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 } 目次へ |
『師匠のお筆』
4-2-1 さて、いよいよ書の会の当日となり、鈴美はあらかじめ教えられた場所へと赴いた。期待に胸は高鳴り、そのことは今日着て行く服を選ぶのに一昨日からたっぷりと時間をかけたことにも表れていた。 鈴美にとって再び書道を始められることはもちろん喜ばしかったが、それをさらに枕必の下で直々に学べるということが何より嬉しかった。枕必は学生時代からの憧れの存在で、これまでずっと雲の上の人だと考えていた。それが気さくに話をしてくれた上に、自身の会にまで招待してくれたのだ。 別に何を期待してというのではないが、女性として身支度に気を使いたくもなり、一種の印象は与えたいが会の趣旨をも勘案しつつ……、などとあれこれと迷った挙句、いつも控えめな鈴美としてはやや華美な、それでいて清楚な洋服を選んできた。 電車を乗り継ぎ、やがて鈴美は目的地と思われる場所に着いた。そこは白くツヤツヤした大理石のようなタイルで覆われた四角いビルで、ちょっとした会社のような建物だった。 鈴美は、こんな会社のような所に入っていいものだろうかと少し気後れして、ガラス張りの正面玄関の前でちょっとためらったりしたが、さりとてここで引き返すわけにもいかないので、今はただ約束を信じるばかりと、思い切って中に入った。 ふっくらと足の裏に心地よい感触の絨毯を踏んで、鈴美は辺りを見まわす。ホールに電気はついていず、外からの明かりだけが中を照らしていた。人は誰もいない。奥にエレベーターがあるが、これで上に行ったものかどうか、彼女は思案した。 と、その時、自動ドアが開いて後ろから人が入ってきた。 「あら、どうなさったんですか?」 振り向くと、そこには濃いピンク色のスーツが鮮やかな一人の女性が立っていた。女性は見るからに鈴美よりも大分年上で、スーツはいいものらしかったが一昔前に流行ったような、少し時代を感じるデザインであり、それが彼女の世代の趣味を表しているように見えた。 「こちらにご用?」 余裕のある笑みを浮かべながら女性は言った。 「はい……」 新人らしく畏まって鈴美はここに来た用を述べた。 「ああ、お教室の」 女性曰く、彼女もその「お教室」に向かうところらしい。それは果たして枕必の開く会であった。 女性はエレベーターのボタンを押した。彼女のパーマのかかった茶色い髪からは強烈な香水の匂いが漂い、それは一緒にエレベーターに乗ると殊更だった。 エレベーターを待つ間から3階で降りるまでの間に、二人は互いに自己紹介した。女性は文子(ふみこ)といった。 鈴美は、この短い間にこれまでの経緯を洗いざらい説明させられた。文子は会話が巧みで、神雄のことを聞きだせばすぐさま彼を上手く持ち上げながら相槌を打つので、鈴美もついつい話してしまうのだった。 しかし、「じゃああなたも枕必先生のファンなのね」という一言には、内心少し引っかかった。 一つは「ファン」という言葉で、客観的に見て鈴美の立場はファン以外の何者でもないのだが、ファンと称するのは少しく軽薄な気がしたし、また「あなたも」という言葉には、鈴美以外にも熱烈なる信奉者がいることを表しており、それは当り前のことではあるのだが、それを改めて思い出させられたと同時に、そうした人がほかにも今日参加していることをも示唆された気がして心安らかならぬ思いにさせられたのである。 3階に着くと文子はやや先に立って歩いたが、ちょっと行ってすぐ振り返った。 「ここよ」 そこは会議室のような一室だった。 「こんにちは」 中には既に二人の女性がいて、こちらが入ると挨拶をしてきた。文子は二人に鈴美のことを紹介してくれた。この二人は文子と同年輩ぐらいに見えたが、会話ぶりからすると文子の方が立場が上らしかった。 それにしても鈴美の気を引いたのは、二人の着ている物や持ち物である。二人とも文子に負けず劣らず派手で、しかも見るからに高価そうなものばかりを身につけているのである。いや、この二人ばかりではない。後から入って来た人達、そのいずれも女性であったが、皆が皆ブランド物で着飾っているのである。とてもこれから書道を始めようという出で立ちには見えない。 そんなどう見ても富裕層の集まりといった中で、一介の主婦然といった格好の鈴美は、ここへきてまた気おくれを感じずにはいられなかった。どんなにおしゃれに気を使ってこようと、これでは端から場違いだったのだ。 鈴美は目を上げた。そこには鈴美よりもずっと年下の、まるでギャルのような見かけの女性がいた。しかしそんなギャル風のメイクをしていても、やはり手にしているのは高級ブランドの鞄であった。鈴美は今日来たことを後悔し始めていた。 <つづく> << 前回 | 次回 >> <4章 目次> 1 2 { 1 2 3 } 3 4 { 1 2 } 5 { 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 } 目次へ |
『師匠のお筆』
4-2-2 そうして女性ばかり8人も揃ったところへ、ようやく枕必は現れた。 落ち込んでいた鈴美は何とか気を取り直そうと努めたが、いざ書の時間が始まってみると、それは彼女をさらに失望させる内容であった。というのも、それは小学生が学校で習うような、初歩の初歩の書き取りだったからである。 何も鈴美は傲慢になっているのではない。そうではないが、周りを見渡してみるとどうもこれまで書を真面目にやったことがないような、下手をするとまだ始めて日も浅いのではないかというような手つきの者ばかりで、それが余計に彼女を落胆させたのである。 要するにこの会は、山の手有閑婦人の習いごと教室といったところなのだろう、と鈴美はそう結論付けた。 (やっぱり場違い……) 鈴美ががっかりしていると、そこへ生徒を見回っていた枕必がやって来た。 「やあ、あなたは! 来て下さったんですね」 枕必は親しげに言葉をかけてきた。 「ど、どうも」 話しかけられるとまた嬉しさがこみあげてきて、ドギマギしながら鈴美は挨拶した。 「ふむ……なるほど……」 枕必は隣に立ってしばらく鈴美の手を見ていた。その表情は先ほどとは打って変わって真剣であったので、鈴美は大いに緊張した。そして、ここへ来た当初の目的を思い出した。そうだ、枕必に書を習いに来たのだ、と。 「ちょっと、これ、いいですか」 言いながら、枕必は一枚の作品を取り上げると、それを参加者の皆が見える位置に持って行った。 「見て下さい。さっきも言いましたように……」 彼女の作品を持って枕必は解説らしきものを始めた。鈴美の胸は急激な不安に鼓動を速めた。うぬぼれからとんでもないミスを犯したのではあるまいか、と。しかし、それが杞憂に過ぎないことはすぐに明らかとなった。 「ここのはらい。ちゃんとこういう風にしっかりと……」 それは絶賛の言葉だった。一切の手直しをされなかったばかりか、その課題の内容に対する深い理解やそれに則した適切な表現を採用しているなどと紹介して鈴美の作品を褒めあげ、皆の手本として張り出したのだ。 鈴美はただただ呆然としていた。あの枕必が自分の作品に目を通してくれただけでも驚きなのに、あろうことかそれを称賛してくれるとは! 鈴美は完全に夢見心地であった。 「すごいのね、鈴美さん」 すぐに文子が寄って来た。枕必が褒めたので、改めて鈴美に興味を持ったようであった。 「あら、そういえば立派なお道具使っていらっしゃるわ」 鈴美の手元を見て、いかにもびっくりした風で文子は言った。まだ夢見心地の鈴美は文子のお世辞にもうまく合わせられなかったが、道具を褒められたことで改めて自分の書に対する誇りを思い起こしていた。ブランド物で着飾ってはいないが、自分は書の前では何ら引け目を覚えることはないのだと。 やがて時間が来て散会となると、帰り支度をする鈴美のもとに枕必がやって来た。 「今日はどうもありがとうございました。あなたのおかげでいつになく有意義な時間となりました」 枕必は嬉しそうに言った。 「い、いいえ、こちらこそ」 腰の低い枕必の態度に鈴美は恐縮しきってしまった。 「またいらして下さいますね」 「あ、ええ……」 枕必に誘われるのは嬉しかったが、鈴美の脳裏には自分とは釣り合いの取れそうにない有閑婦人達の姿が浮かび、つい返事をためらってしまった。するとそれを察したのか、枕必は言った。 「ああ、いや、今日の集まりではなくてですね、私の工房の方の……。そうだ、これからご一緒頂けませんか。なに、すぐそこですから」 「え、はあ……」 鈴美にはちょっと要領を得ない話ではあったが、今の枕必は鈴美のようにいささか興奮気味で、半ば彼の独り決めのような格好で話が進んだ結果、この後鈴美は、枕必の外車に乗って彼の工房へと向かうことになったのである。 <つづく> << 前回 | 次回 >> <4章 目次> 1 2 { 1 2 3 } 3 4 { 1 2 } 5 { 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 } 目次へ |
『師匠のお筆』
4-2-3 二人を乗せた車は住宅地を抜け竹林の中で停まった。風が若々しい青い葉の間を抜け、全体をさやさやと揺らして過ぎた。静かな場所だった。 車は鈴美を先に降ろし、コンクリートに覆われた暗がりへと降りて行った。それを目で追いながら、きっとさぞかし豪邸が現れるに違いない、と鈴美は何となく考えていた。 だがその予想は裏切られた。枕必の先導に従って目の当たりにしたのは、実にこじんまりとした純和風の木造建築であった。「工房」と彼は呼んだが、まさしく芸術的作業にぴったりな質素な建物だった。 「どうぞ」 鍵を開け、ガラガラと格子戸を引いた枕必が鈴美を誘った。しかし、自身は中に入らず表へと出て行く。 鈴美は手持無沙汰に屋内を見まわした。民芸品のような置物や壁掛けが並んでいる。と、奥の方からぱっと光が差し込んできた。どうやら枕必が雨戸をはずしたらしかった。 「これですっきりするでしょう。さ、上がって」 玄関の仕切り一つ隔てて、左にガラス板の机と向かい合わせの二対の椅子があり、枕必は鈴美をその一つに座らせておいて、自分は流しの前へ立ちやかんを火にかけた。 「どうも散らかっていて……」 やがて茶を持って来た枕必がそう言いながら座った。 「いいえ、とても趣があって……」 鈴美は言った。お世辞ではなくそう思っていた。 確かに玄関の民芸品や目の前の机などの調度品といい、ただ乱雑に設置しただけで何らの統一感もなかったが、その乱雑な感じが仕事に徹する男らしさならではに見え、鈴美には好ましく思えた。 枕必が言うには、家具は昔住んでいた家からの余り物ばかりだそうで、ここはまったくの私的な作業場であり、誰気兼ねなく過ごせる場所なのだという。 「ここに来るのは気の置けない人ばかりですからね、まあ、後は仕事をするだけで」 「ありがとうございます、そんなところにお招き頂いて」 実際鈴美は名誉に感じていた。枕必はそれに対して鷹揚な感じだった。鈴美の言葉をそのままに受け取り、さもありなんという態度だったが、それは日頃から集めてきた名声が彼を慣れさせたものであろう。 「いやしかしまあ、男やもめの気楽さですよ」 この庵で寝泊まりもし、食事もするのだと枕必は言い、茶をすすった。 「どうぞ、飲んで下さい」 茶に手をつけない鈴美に枕必は促す。 「はあ、頂きます」 それまで両手を膝に揃えていた鈴美は、それでようやく茶を飲んだ。すっかり畏まっている彼女に対して、相変わらず枕必は話の道を付けるのが上手く、この日も一人でしゃべった。 「実は茶室もあるんですがね、使ったことが無くて、今じゃ布団が敷きっぱなしなんですよ」 その日は結局他愛もない話に明け暮れ、鈴美は帰宅した。次回この庵を訪れる約束を交わして。 <つづく> << 前回 | 次回 >> <4章 目次> 1 2 { 1 2 3 } 3 4 { 1 2 } 5 { 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 } 目次へ |
『師匠のお筆』
4-3 それから、鈴美は枕必の工房に通うようになった。 工房には他の弟子や仕事上の関係者などもやって来たが、以前行った山の手婦人風の会とは打って変わって、こちらの人々は普通の格好、つまり着飾って来る者などはなかった。鈴美はその清廉さに安心し、改めて枕必から指導を受けたのだった。 しかし、ただ一つ悩ましいことには、時折師である枕必に男性を感じてしまうことである。 例えば、書の指導を受けている際に、ごく近くに彼の存在がある時、彼が自分の筆を使う時、さらにそんな彼の手の甲に浮かんだ血管をいつの間にか見つめてしまっている時、鈴美ははっとするのである。 また、工房に通うにつれ枕必との中は親密の度を増し、須美恵の教室から彼の車で工房まで送ってもらったり、昼食を共にしたりするようになると、枕必が気さくな人柄であるがゆえになおさら心惹かれ、工房に行った際他に訪問者がいないと、心が弾む自分がいることにも薄々気付き始めていた。 枕必の前で、鈴美は乙女だった。まるで学生時代に帰ったかのようであった。そしてそれを、鈴美は決して悪いことのようには思えなかった。それはひとえに、枕必が紳士であり、一切の男性的危険を感じさせなかったからにほかならない。 一方、枕必との距離が縮まるのに反比例するかのごとく、夫の瑞夫との仲はいつしかぎくしゃくしだした。 「またお出かけでしたか」 などと、チクリと刺さる一言を夫はよく言った。そう言われると、何かしら咎められているような気分になる。しかし、何ら卑屈になる必要などないのだ、家のことだって今まで通りちゃんとやっているのに、と鈴美は度々不愉快になった。 月謝のことを訊いてきたこともあった。 「それが安いのよ、ほとんどいらないとおっしゃって。だから結局半紙代とかだけ……」 これは鈴美自身前々から考えていたことなので容易に答えられた。枕必がそのネームバリューに比して余りにも金を取らないことは事実であったのだ。鈴美が感心もし恐縮もする点である。 このことをさらに勢い込んで説明してやると瑞夫はすっかり黙ってしまった。それでもまだ不満な様子で、 「だって、神雄が習ってるんだからそれでいいじゃないか。それに、君はもうとっくにできるんだろう? いっそ神雄に教えてやったら」 などと、ぶつぶつ言うのだった。 「わたしだって趣味ぐらい持ってもいいでしょ! あなただってゲームやってるじゃない!」 鈴美は、寝そべってテレビゲームをしている夫に、近頃殺意すら覚えることがある。ろくろく家族サービスもしないで家でゴロゴロしている男に言われたくないものだ、と彼女は思った。 ある日、鈴美はそんな夫とのいさかいを枕必に愚痴ってしまったことがある。枕必の包容力につられてつい口に上してしまったものであるが、言ってしまってから激しく後悔した。 枕必は終始にこやかに聞いていたが、最後に、 「でも、けんかできる相手がいるだけいいんですよ」 と静かに言った。その横顔はいつになく寂しげだった。枕必は妻を早くに亡くしていたのだった。鈴美は彼のことをかわいそうに思った。 だが、いくら枕必の諭しがあっても、夫の方でいらいらしているものをこちらの一存で容易に治められるものでなない。こちらでいくら気を使っても、あちらが何かと突っかかってくるのである。 「どうしてそんなことまでするんだ」 「だって日頃お世話になってるのに、それぐらいしなきゃ失礼よ」 その日の朝も軽い言いあいがあった。その日は枕必の個展があり、鈴美は枕必から少し手伝いをしてほしいと頼まれていたのであるが、そのことでもめたのである。 「神雄はどうするんだ」 「ちゃんと準備して行くわよ。それに別に遅くなるわけじゃないの」 夫はまだ納得しかねる風であったが、不承不承出勤していった。今日は帰りが遅くなるというので彼は家で晩御飯をとらないという。 (仕事というけれど、どうだか?) 鈴美は、夫の持ち物から出てきた裸の女性の写ったチラシと、手書きの文字の書かれたどこかの店のメッセージカードのことを思い出していた。昨晩はそれでけんかになったのだった。 鈴美はいやなことを振り払うように冠りを振って玄関から台所に戻った。 「神雄、晩御飯は一応用意していくけど、お母さんもそんなに遅くならないと思うから……。もし遅かったらあっためて食べといてくれる?」 そう言いながら、その時は確かに息子と二人で夕飯を囲むつもりでいた鈴美だったが。 <つづく> << 前回 | 次回 >> <4章 目次> 1 2 { 1 2 3 } 3 4 { 1 2 } 5 { 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 } 目次へ |
『師匠のお筆』
4-4-1 「ただいまあ」 言いながら鈴美は足元を見まわした。まだ夫の靴は無かった。 「おかえりなさい」 出迎えたのは神雄だった。 「ごめんねえ、遅くなって」 鈴美は両手を合わせてみせながら時計を見上げた。ちょうど九時を指していた。それから神雄に問うた。 「ご飯食べた?」 「うん、メール」 「あ、メール」 鈴美は家に上がって鍵をテーブルの上に置くと、バッグから携帯電話を取りだした。ランプが点滅していた。 「ゴメーン、気付かなかった」 メールを開くと、 「ご飯食べちゃうよ?」 と書いてあり、七時受信となっていた。 (七時……) 一瞬鈴美の頬に赤みがさした。 神雄を寝かせた後で、鈴美はお風呂に入ることにした。作り置きしておいた自分の分の夕飯は、そのまま冷蔵庫にしまっておいた。 (七時……気付かなかった……ちょうど……) 考えているとカーッと体の中を巡る血が熱くなるのを感じた。服を脱ぐ時には、太ももが震えているのに気付いた。鈴美は裸になって姿見の前へ行った。そこに映った体は何の変哲もない自分の体だったが、自分の裸体をあまり見付けない鈴美にとっては、何となく異様なようにも見えた。 浴槽につかっても、鈴美はぼんやりとしていた。だが、心は目まぐるしく動いていた。喜び、悲しみ、不安、満足、恐れ、幸せ、種々雑多な感情が入り混じって、もはや自分では整理しきれないほどだった。 大変な一日になった、と鈴美は思った。 <つづく> << 前回 | 次回 >> <4章 目次> 1 2 { 1 2 3 } 3 4 { 1 2 } 5 { 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 } 目次へ |
『師匠のお筆』
4-4-2 その日の昼過ぎ、鈴美は枕必の個展の手伝いをするべく会場があるホテルの広間に向かった。手伝いというのは訪問客に記帳を促す受付の役である。元々は別の人の役割だったが、急きょバトンタッチしてその時間帯だけ居てほしいという依頼であった。 会場には枕必も現れた。この日の彼は神々しいまでに輝いて見えた。今まで工房や須美恵の教室で会った時は大抵一人か、ごく少数の人間とともにいるだけだったのが、今日は多くの訪問客に囲まれ、時には写真にも撮られて、普段にも増して有名人ぶりを発揮しているのだった。 そんな中、裏の準備室で二人だけで顔を会わせた折には、鈴美が枕必のシャツの襟を直してやる一幕もあった。何気ない風で始めたことであったが、彼女は今日の主役である彼に、自分だけが妻のようにこうして甲斐甲斐しく尽くしてやれることに一種の高揚感を覚えていた。 「ありがとう」 枕必はほほ笑んだ。その口元との距離はいつにも増して近かった。彼は相変わらず甘いマスクに優しげな笑みをたたえており、加えて今日は人前で仕事をしているせいかバイタリティーに溢れた感じもあって、いつも以上に頼りがいのある男性に感じられた。 鈴美は一瞬、このまま彼の胸に手を置いて密着していたい衝動にかられた。そうすればもっと心の安らぎが得られるような気がしたのだ。だが、当然と言えば当然ながらそれ以上のことはなく、実際にはわずかな時間一緒にいただけで、枕必は忙しげに表へ出て行ったのであった。 二人が再会したのは、鈴美が次の者と役を交代した後だった。彼女は食事に誘われた。 「まだちょっと早いけど」 そう言って枕必は腕時計をちらりと見た。時刻は午後五時を過ぎた頃だった。展望レストランは本来六時からディナータイムだったが、枕必の顔で早めに入らせて貰えることになった。彼の顔の広さは今に知ったことではなく、これまでご馳走になった所でも大概顔なじみなのであった。 レストランの照明は暖かい色の落ち着いたもので、主婦とも家族とも縁のない、それはまるっきり大人の雰囲気だった。枕必は色々な店に連れ出してくれるので鈴美は嬉しい。こういうところ一つとっても、夫瑞夫との違いは明白であると思う。瑞夫といえば結婚する前からそういう気遣いをしてこなかったのだ。鈴美が心ときめくのも無理はなかった。 それに、枕必は鈴美を一人の大人の女性として丁重に扱ってくれる。彼のエスコートに従っていれば何ら恥をかくこともなく安心していられた。そういう紳士的な枕必と向き合ってこうした場所で食事をしていると、鈴美はいつしか夫や子供のことを忘れ、恋人になったような錯覚を覚えた。いや実際のところ、今の二人の様子は事情を知らない他人から見ても、いわゆるいい雰囲気に見えたものだった。 一時間ほどして二人は店を出た。個展の成功を祝して乾杯した二人は大いに盛り上がり、エレベーターを待つ間もずっと話しっぱなしだった。 しかし、エレベーターに乗り込むと、ふと会話が途切れた。何気なく、鈴美は扉の上の数字が一つずつ減るのを見ていた。と、足場が一瞬揺れた、……ような気がした。鈴美は枕必の胸に抱きとめられていた。 「少し、酔いましたか?」 「あ、ええ……すみません……」 鈴美ははしたないことと思い自分を恥じた。だが、すぐには起き直らなかった。ただ枕必の胸に手を置いて静かに立っていた。先ほど彼のシャツの襟を直した時と同じ気持ちだった。 ただ一つさっきと違うのは、枕必もまた彼女を離さなかったのである。今鈴美がよろめいたのも、実は枕必が引き寄せたからかもしれないのだった。 鈴美は見上げた。そこには枕必の強く熱い眼差しがあった。思わず鈴美は視線を逸らした。だが、枕必の右手がそれを遮った。 「あっ……!」 少女マンガか何かであるような、わざとらしくも聞こえるかすかな驚きの声を上げて、鈴美は枕必の温かい唇を感じた。枕必の手が彼女の顎を軽く持ち上げていた。もう一方の手は彼女の細い体を抱き寄せて……。 と、エレベーターのドアが開いた。幸いなことに誰も待っていなかった。だが、たとえ誰かが待っていようとも、二人が動じることはなかっただろう。枕必も、鈴美さえも。 枕必はキスをやめることなくボタンを操作して扉を閉じた。そこはもう二人だけの世界だった。やがて二人の世界は再び階を昇り、ある客室フロアに着いた。そこには、枕必のリザーブした部屋があるのだった。彼らの世界は、その部屋へと移動していった。 鈴美と枕必の甘い時間が始まった。 <つづく> << 前回 | 次回 >> <4章 目次> 1 2 { 1 2 3 } 3 4 { 1 2 } 5 { 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 } 目次へ |
『師匠のお筆』
4-5-1 少しばかりの残照が暗がりの中に差していたが、じきにそれは街灯やネオンの光に取って代わった。いずれも窓の外から差し込んだもので、部屋の中は薄暗く、互いの顔さえぼんやりとしか確認できないほどだった。そこで一つの影となった二人は、静かに、しかし情熱的に唇を重ねた。 鈴美にとっては久しぶりの、そして初めて尽くしのキスだった。枕必の唇は、端から端へととどまることを知らず、鈴美が付いていくのがやっとというほどで、上唇を挟まれ、下唇を吸われ、時に歯がぶつかることがあっても、それで立ち止まったりすることもなかった。これが成熟した本当の大人のキスなのだと鈴美は思い、初めてそれをちゃんとした形で教わったとも思った。 しかし、感動の一方で大人のキスは苦しかった。身長差のために上から覆いかぶさってくる枕必の圧に負けじと、鈴美は首を反らし必死に顔を上向けていたが、そのせいもあり、また目まぐるしく変化に富んだ彼の口づけに必死に付いていこうとするせいもあって、鈴美は徐々に息が上がっていった。 「ん、んん……」 思わずため息混じりの声が出た。口の筋肉が緩み、口がひとりでに開いていく。するとその隙を逃す枕必ではなく、彼はすかさず舌を彼女の口内へと侵入させてきた。彼には彼女のタイミングが手に取るように分かるらしかった。 「あ、はあ……」 鈴美の呼吸はさらに苦しくなった。まるで溺れているようだった。加えて枕必は、そうしながら指を鈴美の髪に通してくる。頭をそうして撫でられるのは心地よく、呼吸が困難なのと相まって、鈴美の意識はいつしかぼんやりとしてきた。 (何も、考えられなくなる……) 鈴美は思った。 だがそれは詭弁でもあった。この部屋に入る前から、いやひょっとしたらもうずっと前から、単なる師弟以上の関係になることを鈴美はむしろ期待していたはずだった。女として、彼を一人の男として見ていたのである。だが同時に、彼女は母でありまた妻でもあり、それを認められはしないのであった。 (何も考えたくない……) むしろそれが正直な気持ちだったろう。罪悪感から逃れて、しかし女としての欲は果たしたいという展開が、実に都合の良い話であることは、彼女自身が一番よく理解していたのだから。 そうした鈴美の決意と逡巡をよそにして、サラサラと衣擦れの音も軽やかに鈴美の服は次々と床に落ちていった。枕必の手つきは素早い。それこそ鈴美に悩む暇を与えぬかのようだった。 その甲斐もあってか、一時そういった大局的な悩みから解放され、鈴美の心に現実的でごく日常的な不安が新たに浮かんだ。 (シャワーは……) つまり、先にシャワーを浴びて身ぎれいにしておきたいという考えがふとひらめいたのである。だがそう考えた途端に、鈴美は次の問題に捕らわれて赤面した。シャワーをするということは、自ら枕必に抱かれることを肯定するという意味になるのだと。この状況に及んで、鈴美はまだそんな腹の定まらぬ有り様なのだった。 <つづく> << 前回 | 次回 >> <4章 目次> 1 2 { 1 2 3 } 3 4 { 1 2 } 5 { 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 } 目次へ |
『師匠のお筆』 4-5-2 しかし鈴美にとっては幸いなことに、枕必の行動は迅速で、かつはまた強引であり、それはまるで彼女のジレンマを押し流すかのようであったため、シャワーの悩みも一瞬後には吹き飛んでしまい、そればかりか、すぐさま次から次へと新たな対処に常に心を砕かねばならなくなって、内省を深める余裕などとても作れなくなってしまった。それは、この情事を勢いに任せたどうしようのないものと決め付けるのに都合がよいことを意味し、鈴美の心を大いに救ったものだ。 鈴美はこれに力を得て動物的がむしゃらさを決め込みながら、枕必に負けじと彼の服を脱がしにかかった。だが、彼女がどうにかなしえたのは、シャツのボタンをやっと一通りはずすことだけだった。鈴美にとっては、常に枕必に抱き寄せられていたので両手を使いづらかったし、唇を奪われていたので手元の確認もしづらかったしというわけだったが、要するに経験の差が出たということである。 一方枕必の手さばきは彼女に比べれば驚異的で、彼女がジタバタしている間にあっという間に服を脱がし、流れのままにブラジャーまではぎとってしまっていた。反射的に、こぼれ出た乳房を腕でかばう鈴美。と、その瞬間、枕必は鈴美の体をまるで投げ飛ばすかのように軽く、ベッドへと押し倒していた。 「キャッ!」 鈴美は短く叫んだ。その時の枕必はいつになく乱暴に感じられた。だがその乱暴さは決して嫌な感じではなかった。むしろ女にはない男の良さを意識させる力強さだと鈴美は評価した。 すぐに枕必もベッドに追って来た。彼は鈴美の隣に密着して寝そべると、左腕を彼女の頭の下に敷いてこれを持ち上げ、空いた手で彼女の髪や頬を撫でながら、再び接吻を始めた。 そうされると、鈴美の意識にはまた靄がかかり始めて、快楽に酔いしれたようになる。鈴美はもはや何の抵抗もなしに枕必と舌を絡めあい、今度は逆に、彼女が彼の口内へと自身の舌を伸ばしいれるまでになっていた。 やがて枕必の手は頬から首、肩と下がっていき、鈴美の乳房へと至った。彼女の乳房は、枕必が指を揃えて手の平を広げた時に、ちょうどその手の作る弧と外周部分が軌を一にするようにぴったりと収まるもので、椀をひっくり返したようなほぼ真円に近い形をしていた。その中央に位置する円は、指先二本で隠れる程度の直径で、薄淡い肌色をしていたが、鈴美の肌は日に焼けたことがついぞないかのように白かったので、淡いとはいえ存在感はあった。 枕必は今、その中央の輪郭を指の腹でかすかになぞったが、頂上までは触れず、そのままさわさわと優しく通り過ぎて一旦腹部まで手をずらしていった。 鈴美は全身の産毛をそばだたせて快感に酔った。頬に触れられていた時から感じていたことだが、枕必の手のひらは温かく、そこから彼自身の優しい心が伝わってくるようで心地よかった。 枕必はそうやって胸から腹へ指先を這わせつつ、腕枕にした左腕をさらに進ませて、左肩から彼女の体の下へと潜り込んでいった。すると、鈴美は右の半身以上を枕必の体の上に預ける格好になった。枕必はまだ上下の服を脱がないまま、他方鈴美は下着とストッキング以外もはや身につけていない。ほぼ裸の女が、服を着た男性の上にあおむけに寝そべる形である。 そうして枕必は、鈴美のセミロングの後ろ髪に鼻をうずめ、息を吸い込みそして吐き出した。 「ん……」 後頭部からうなじにかけて熱い風が当たり、鈴美はぞくぞくと感じた。枕必はそのまま髪の中へ深く侵入していき、彼女の右の耳に唇を当てた。 「ひ……あ……」 こそばゆさと恥じらいから、鈴美は反射的に吐息を漏らす。枕必はなおもやめずに耳たぶを唇で挟み、さらに舌でそこをなぞった。鈴美は身じろぎして左に倒れそうになったが、それを受け止めるのが枕必の左腕。彼はその腕で鈴美を抱えながら、その先の手を動かして彼女の左の乳房をギュッと揉みしだいた。今度は先ほどのような軽いタッチとは反対の、半ば暴力的な握り方である。 「ううん……」 鈴美は軽くうめいた。痛いほどではないものの、さっきとは打って変わって力強く乳房を揉みしだかれ、鈴美は男に抱かれている実感を覚えた。 枕必は、そのまま右手を彼女の股間へと伸ばした。 <つづく> << 前回 | 次回 >> <4章 目次> 1 2 { 1 2 3 } 3 4 { 1 2 } 5 { 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 } 目次へ |