静江さんは綺麗な人だった。亜麻色のソバージュは派手だったが、クリクリとした大きな目と、彫刻のようにそり立った鼻筋とはよく釣り合いがとれていて、決して違和感はなかった。よく着ていたイメージのある肩から胸の辺りにかけてふわりと襟の広がったライトブルーのワンピースは、まるでドレスのような着こなしであり、古典的な表現ながら、フランス人形を連想させたものだ。
十代や二十代の頃はもっと美人だったというから驚きであるが、その当時でも十二分に美しかった。むしろ色っぽさを加えて魅力は増していたのではないだろうか。あの時、僕は十歳だったから、母の同級生である静江さんは三十四ということになる。まさしく女盛りという表現がピッタリであった。
母ら友人達は、息子や娘らを連れて時々ピクニックに出かけた。もっとも、四人いた同級生の中で静江さんだけが独身。子 供もなかった。学生時代からモテたらしい彼女は、理想が高く選り好みが激しいのだと母達はよく冷やかしていた。実際の所、真相は分からない。ただ、美貌に比して男勝りでサバサバとした性格が問題なのではないかとは密かに思った次第である。
そう、あの人はおしとやかとは無縁の人だった。豪快な笑い声を上げて、はっきりと物を言った。黙っていれば幾らでも寄って来るだろう男達も、その姉御気質に少しく辟易となる程に。ただ、同性には好かれただろうと思う。確かに友人としては最高のキャラクターだった。実際、会話の中心はいつも彼女だったから。
僕は静江さんに憧れていた。否、正確に言おう。彼女を性的な目で見ていた。僕は早熟で、性の目覚めも早かった。十歳のその時には精通も終えていた。自慰の習慣があったから。そして、その時妄想していたのが静江さんにほかならなかったのである。
いつも思い描いていたのは、幼き頃、一緒に風呂に入ったことだった。小顔の割に豊満な胸を今でも鮮明に覚えている。それが水面にプカプカと浮いて、ローズピンクの華やかさを湯船に飾っていた。
「あ、ヒデくん、今、あたしのおっぱい見てたでしょ」
静江さんは、そう言って僕をからかった、それも浴室にこだまする程大きな声で。
「見てたやん。絶対見てた。いつからそんな助べえな子になったん? お姉さん悲しいわあ」
お国訛りでじわじわと僕をなぶる。その内一緒に入っていた子らも声を揃えて「スケベ、スケベ」と囃し立てだしたものだから、僕は必死に「違う違う」と否定しながら、いたたまれなくなって浴室を飛び出した。あの時知った恥ずかしさ、思えば、あれが性への目覚めだったのかもしれない。
小 学校に上がると、もう女風呂へ入ることはなくなったが、静江さんによるからかいは収まることがなかった。
「ヒデくんは好きな女の子いてるん? え、アイちゃん? わあ、アイちゃんなんや、言うてきたろ」
こんなのは可愛い方で、
「なあなあ、ヒデくんてチュウしたことあるん? まだないんやろ。お姉ちゃんがしたげよか? あ、今本気にした? イヤやわ、この子。オマセさんやわあ」
果ては、
「そろそろオチンチンに毛生えてきたんとちゃう? なあ見してえや。そや、今晩一緒にお風呂入ろか? エー、なんでイヤなん!」
などと、露骨な下ネタまで飛び出す始末。万事子 供と同じ目線で会話するこの人は、僕らにとって大いに親しみを感じる愉快な味方であった反面、子 供でも手を焼く位面倒な時もあったわけで、それはまるでガキ大将のようですらあった。ただ、今になってよく思い返してみると、僕のことを殊更狙い撃ちしていたようでもあったし、あるいは僕の密かな想いをとっくに見抜いていたのかもしれない。
ともかくも、僕はいつしか悶々とした想いを抱えるようになり、そのやり場のない気持ちで股間をさすっていたら、我知らず手淫に至っていたようなわけで。とはいえ、性の知識もなんにもまだない僕は、ただ闇雲にいじって、肉体的な快楽を得るに過ぎなかった。そんな、ある意味ウブな、しかしある意味好色なといういびつな人格が出来上がった絶妙な機会をとらえて、あの日のささやかで強烈な奇跡は巡ってきたのだった。
例によって、僕達は弁当を持ち寄り野山へ出かけていた。列の最後尾に僕。歩くのが遅いのには訳があった。尿意を催していたのだ。もっとも、その辺りは延々と草木の生い茂る山道で人通りも少なく、一般的な感覚からすれば、立ち小便もやむなしとする所であろう。ところが、その当時の僕には妙にこだわりがあって、屋外で小用を足すことに強い抵抗があった。都会の温室育ちから、自然の中で過ごすことにおっかなびっくりな面もあったろう。しかも、その直前に蛇を見かけたとあればなおさらだ。
だが、それ以上に決断を鈍らせる理由が、すぐ傍にあった。
「ほら、はよ歩きいな。みんな見えへんようになってしもたで」
こんな時に限って、静江さんが歩調を合わせてくれていたのだ。それは彼女なりの優しさだったかもしれないが、その時の僕にはありがた迷惑だった。その上、勘の鋭い彼女は、すぐに僕の事情にも気付いた。
「なんやおし っこかいな。そんなんその辺で済ましいな」
静江さんは、いつの間に拾ったものか木の枝を振り回して足元の雑草を退屈そうに薙ぎ払いながら言った。
「大丈夫やて、誰も見てへんから。ほら、あの辺の木のとこでしい」
その口ぶりは、いつものようにからかう感じではなくて、むしろ淡々としたものだった。早く前の列に追いつきたい様子がありありと窺えたし、いつまでもグズグズとためらっている僕への苛立ちも次第に見て取れた。それが僕を一層委縮させた。
しかし、彼女は怒りはしなかった。あくまでも僕の幼稚な迷いに付き合ってくれた。それは静江さんの母性だったのだと思う。ガサツなようでいて根は優しい女性なのだ。
「どないしてんな、もう辛気くさいなあ。手つどうたろか?」
僕は渋々道から外れ、草むらに恐々分け入っていった。好きな人の前で格好悪いことこの上なかったが、出物腫れ物所嫌わずで、人間生理現象には勝てない。また漏らすよりはずっとマシだろうと覚悟を決めた。大人の静江さんが十歳児の僕を対等に男と見なしているはずもない。それでも十歳児には十歳児なりの体面があったのだ。
ところが、ここで生来のお節介な気性が発揮されて、静江さんはその心細いプライドに土足で踏み込んできた。「手伝う」と言ったことを本気で実行するらしく、用を足そうとする僕の横にぴったりとくっ付いて立ったものだ。
「ほら、はよズボン下ろして」
彼女は僕が「いいから」と拒むのにも一切頓着なく、半ズボンもブリーフもすっかりずり下ろしてしまった。あっという間にポロンと股間を露出させられる僕。静江さんも確かにそれを見た。僕は顔から火の出る思いをして羞恥に耐えた。一時は尿意も後退した程だ。だが、経験豊富なご婦人にとって、そんなことはなんでもないらしい。陰茎を見たって子 供のものだと思えば当たり前に動じることはないわけで。
「はい、『ミミズもカエルもごめんなさい』て」
いきなりそう言い出した静江さん。僕は意味が分からず、彼女の目を反射的に見返して、それからすぐまた目をそらした。
「あれ、最近の子は言わへんの? こない言わなアカンねんで。言わな、オチンチン腫れてしまうんやで」
その丁寧な解説によって意図を理解すると、腫れてしまっては大変だということで僕はその謎の呪文『ミミズもカエルもごめんなさい』を彼女と合唱した。それから今日まで、僕の陰茎に異常が見られなかったということは、このお祈りが効いたのだろう。
続いて放 尿が始まる、はずだったが、一旦引っ込んだものはすぐに出なかった。ためらいが最後の抵抗をして、膀胱に待ったをかけているらしい。すると静江さんは、さらに驚くべき大胆さを見せてきた。
「はよしな、人来るで」
そう言って周囲をキョロキョロと見渡した後でやや腰をかがめると、なんと僕の陰茎をちょいと摘まみ上げたのだ。長くほっそりとした人差し指と親指が、芋虫程の海綿体を上下から挟んで浮かしている。淡い紅色のマニキュアが、僕の生殖器に初めての女を添えた。その柔らかな弾力と、ひんやりする感触が劇的に脳髄を駆け巡る。
「ほら、シーコイコイコイ……」
彼女はまたしても謎の呪文を唱えて、僕に排尿を促した。その心地の良いささやきがゾクゾクと耳の裏をしびれさせると、僕はもう何がなんだか分からなくなった。罪悪感も恐怖も一遍に洗い流して、体の中枢から奔流が飛び出していく。
「あっ、出てきた。シーコイコイコイ……」
その場の枯れ葉と下草にだけ温い雨が局地的にジャージャーと降り注ぐ。陰部が外気に触れることで、まるでお漏らししているような諦めが心地よい。しかもその世話の一切を静江さんがやってくれるのだ。僕はといえば直立不動で両手をぴったりと体に貼り付け、ただただ放 尿の先に視線を落とすばかり。その間静江さんは僕の陰茎を支え続けてくれた、相変わらずのささやきを唱えながら。
「シーコイコイコイ……」
我慢していた分大量に出る。それでも僕は、もっともっとと、このまま永遠に出続けてくれたらいいと願った。尿管を通る振動が静江さんの指にも伝わっているだろう。その肌と肌の体温が同化して、さらに温められた尿が迸るように僕は夢想した。
「ようけ出るなあ」
クスクスと笑う静江さんの声で、ようやく僕はやや落ち着きを取り戻した。しかし、直後に彼女が姿勢を直したことで、よりその身が接近することになると、立ちどころに理性は崩壊した。静江さんは右手で陰茎を摘まみながら、左手で僕のむき出しになった左の尻の上部に手を回し、自分と僕の体を支えようとしだしたのだ。そうして僕の右腕に顔をつけ、放 尿を覗き込む。幼くはあっても既に性に目覚めている男子にとって、このシチュエーションは琴線に触れるものがあった。
「全部出た?」
静江さんはご丁寧にも最後の水切りまでやってくれた。尿が出切った後で、海綿体をプルプルと振って仕上げをしてくれたのである。異変はその時に起こり始めた。
「ん? あっ! いやいやいや! これ、ちょっと!」
静江さんはバチンと僕の左腰をはたいて非難の意思を表明した。
僕の男根が、静江さんの指の間で勃起しだしたのである。
「ちょっと、何よ、これ!」
静江さんは咄嗟に男根を手放した。これまで全自動で排尿させてもらってきたそいつは、ようやく過保護から解放されて独り立ちすると、みるみる鎌首を持ち上げて自立。一旦膨らみだすと途中では止められないもので、とうとう完全に臨戦態勢のそれとなった。年齢上、先端まで包皮にくるまれたままではあるが。
「ちょっ……ウソぉ、これ、もう……」
その声音からは照れと戸惑いが感じられたが、不思議と怒気は含まれていなかったようだ。あくまでも朗らかに、この“事故”を責めるのみだった。眉根を寄せ、しかし笑みは絶やすことのない口元で、彼女はこちらの表情を窺っている。
一方、僕には状況の深刻さがいまいち伝わっていなかった。繰り返しになるが、手淫はしていてもその意味は知らなかったのだ。その種の情報が耳に入ってくる環境ではなく、同じ経験を同世代の子と共有したこともなかったから、責められていることの本質が理解出来なかったのである。
それでも漠然とした後ろめたさ位はあったところ、静江さんによって、
「何チンチンおっきくしてんのよ。スケベなこと考えてたんやろ」
と指摘されると、にわかに点と点が結びついて確信に変わった。“スケベ”とチンチンの変化が関係していることを、頭の鈍い僕でもその時になってようやく察せられたのである。と、同時に、すぐにそれは焦燥に変わった。知られてしまったのだと、静江さんに。
「こら。お姉さんにおし っこ手伝わせて、オチンチンかとうしてどういうつもり?」
ここぞとばかりに静江さんが追及してくる。僕は恥ずかしさの極みを感じ、やがて絶望に包まれた。快楽の正体は背徳にあり、だからこそ本能的に隠してやってきた訳であったのだ。それが露見した今、僕の人生はお先真っ暗ではないか。
すると、その時の僕はよっぽど困った顔をしていたのだろう。結果的にそんな純粋さが功を奏したのか、静江さんは急に噴き出して、一旦は僕を許してくれた。
「もぉ……」
そして改めて距離を詰めてくる。
「しょうがないなあ……」
僕は先程までと違い、逆に相手の目から視線を外せなかった。まさに蛇に睨まれた蛙の心境である。相手が笑顔でも全く安心は出来ない。もはや我が生殺与奪の権限は静江さんに委ねられているのだ。
「こんなんでパンツもズボンも穿かれへんやないの」
いたずらっぽい目が笑う。ガキ大将のことだ、やはりとことん詰るつもりなのだ。いつもなら照れて終わるところだが、その時の僕は絶望の淵に立たされているから、もうどうにでもしてくれ、という心境だった。正直言って、彼女の言葉もはっきりと耳に届いていなかった。
「どうすんのよ、ねえ。聞いてんの?」
心臓がバクバク拍動して、返答の余裕もない。脳も飽和状態で、適切な解答を導けない。そんな僕をさらに情け容赦もないやり方で静江さんは問い詰めた。ただそれは、今もって意味の分からない、全く必然性のないもので、とにかく驚くべき手法だった。
「もう、ホンマにしょうがないなあ。ホンマにしょうがない子!」
大袈裟に呆れた風を装った静江さんは、ひょいと軽く手を伸ばし、なんと今一度僕の男根を取ったのだ。僕はビクリと痙攣した後、全身を硬直させて立ち尽くした。人差し指と中指が下側面、親指が上部から一本を挟んでいる。それらはにぎにぎと腹で弾性を確かめるようにうねっていた。
「ああ、ああ、もう、こんなして、この子は……」
静江さんの髪の匂いが鼻腔をくすぐる。さっきより幾分浅めにしゃがんでいるので、僕の右肩に彼女の頬があった。
「興奮してしもたん? お姉さんにチンチン持ってもうて」
僕はその時になって初めて「うん」と返事をした。もっとも、一度目の時は答えず、さらに強く問われて慌てて返したものだ。その瞬間、静江さんの指にも強い力がこもった。
多分静江さんにとってはほんの出来心で、幼く従順な僕をからかって面白がっていたのだろう。いつもの座興の延長上にある、些細な遊びのつもりだ。無論、その時の僕にはこれらの洞察など全く不可能だったが、ただ少し感じたのは、今までには聞かれなかった妖艶な声音が含まれていた点だ。これは思い過ごしとばかりも言えなかっただろう。遊びは遊びでも大人のそれといったニュアンスな。
「こんな腫らして、ああ、ああ、ほら」
次第に指は前後にさするように動いていった。いつしか左手も再び腰の方に回ってきて、僕の身はすっかり彼女に抱かれていた。先程と違うのは、胸まで当たることだ。ブラジャーの質感が右腕に感じられる。その向こうにあのふくよかな乳房があるのだと想像すると、僕の高揚感は急速に高まっていった。
「スケベなんやねえ、ヒデくんは。こんなスケベな子に育って、お姉さんショック」
静江さんはそうささやきつつ、実際は全然悲しそうでもない様子で、むしろクスクスと笑っている。その甘い声が、今までにない艶めかしさで耳朶をくすぐると、全身の産毛がゾワゾワと逆立ち、ますます肉棒はいきり立った。まだ亀頭は顔を出さない未熟なチンポ。それを大人の女性が慰めてくれている。僕の心から絶望が消え、それに卑猥な興味が取って代わった。よく知った例の切なさが股間一杯に広がっていく。
「恥ずかしいなあ。赤ちゃんみたいにおし っこさせてもうて。オチンチンかとして。恥ずかしないの?」
「うん」と僕は夢うつつに答える。
「え? 恥ずかしいんやろ?」
「うん」とまた僕は答えた。直後に笑い声で生じた吐息が僕の右頬をかすめる。生温かい息だった。
「イヤらしい子やねえ」
さすっていた指に今少し力が加わり、包皮も前後に動く。僕の興奮はこの時極致に達した。刺激以上の刺激が僕の快感を急加速していた。それは静江さんにとってなんの前兆もない終わりだった。
「イヤらしいチンチ……あっ! いやっ! え……!」
呆気なくも絶頂の時は来た。僕は軽く身をすくめ、その反動でより豊乳に密着することが出来た。最高潮の快感がやってくる。僕は静江さんに抱かれ支えられながら、彼女の腕の中で射精した。
「ウッソ……! ウソウソ……エエーッ!」
白い汁が先端から飛び出す。それは前方の木の根にかかり、また枯れ葉や下草に飛び散った。この時ばかりは静江さんも率直に驚いていた。
「ウソやん……出る……の?」
既に射精しうるというのが、予想外の出来ことであったらしい。彼女はまだ脈動を続ける肉茎からゆっくりと手を離した。
「エー……! ホンマにぃ」
指や手首にまでかかった白濁液を、手を裏返したりしながら見つめている。その時間はしばらく続いた。やがて、ハッとしたように向き直って、口辺を緩めた。
「ヘー……」
何に感心したのか知らないが、言いながら静江さんはニヤニヤと笑った。
「さっ」
彼女は一区切りつけるように言うと、ポケットからハンカチを取り出した。白いレースで縁取られた、黄色いハンカチだ。僕はその瞬間まで何をするつもりか分からなかったが、静江さんはその綺麗なハンカチで、僕の汚れた陰茎を拭ってくれるのだった。優しい手つきで、まだ立ったままの肉棒が拭かれていく。放 尿の世話から射精後の掃除まで、何から何まで面倒を見てくれる。僕は自ら手を下さず、ただ直立しているだけでよかった。
静江さんはテキパキと段取りをこなす。最初は右手だけでやっていたが、やがて左手で竿の根元を支え、両手を使うようになった。ひんやりした布地の向こうで甲斐甲斐しく十本の指が動き回る。こんなことをされて、勃起が治まるはずもなかった。
「このまま、また出そうやねえ」
静江さんがそんなことを言うので、僕は大いに期待してしまったが、すぐに「そんなことしてたらキリないわ」と言われ、それが冗談だったことを知った。静江さんは僕を拭き終わると、続いて自分の手を拭き、やがてハンカチを僕に差し出した。
「後で気持ち悪かったら自分で拭き。それ、もういらんから、あげるわ」
二人して茂みから出ると、空はますますカンカン照りで、急に現実へ引き戻されたような気がした。ただ股間のわだかまりだけが夢の続きを引きずっている。
「それ、はよ元戻しや」
静江さんが笑って指をさす。彼女の気遣いも空しく、いやそのおかげでと言うべきか、結局は勃起のままでズボンを穿くことになったのである。
とにもかくにも僕達は蝶の舞う道を先へ急ぐのだった。
その道の先に見上げた空の青さは、今でも鮮明に覚えている。手元に残されたハンカチからはしばらく静江さんの香りがしていたが、やがてはそれも消え果てた。
静江さんとはその後間もなくして会わなくなった。子 供らが大きくなるに従って母友会に連れ出されなくなったからだ。
「シーコイコイコイ、か」
僕はひとり呟いて、陰茎をパンツに閉まった。
〈おわり〉
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