その悲鳴は、ちょうど浩樹がモニターへ接続を終えた時に起こった。慌てて消音ボタンを探す。彼は今中広間に移動し、薮塚から送られるライブ映像を大きな画面で見られるように設定した所だった。
「音デケえよ」
慶介もびっくりしている。彼や竜二、さらには小林、島田、鈴木といった面々もこちらの部屋に移動していた。
またしても悲鳴が空気をつんざく。“キャー”とか“ギャー”とかいう擬音では表せない複雑な声色。それが断続的に直接大広間から館内へ響き渡る。
「何事だ」
事情をよくわきまえない浪岡がボソリとつぶやいて画面に近寄った。逆に理由を知っている慶介はニヤニヤと笑った。
「近親相姦っすよ」
一斉に彼の顔へ視線が集中する中で、島田だけが一人“ウウム”と唸って頭を抱えた。
その頃、画面の中ではちょっとした格闘が繰り広げられていた。
「おい、そっち押さえろ」
花村が迅速にも舞台へ飛び上がって有紀の肩をつかみ、足の方を薮塚に押さえさせる。中継用の端末は袋田に継承されていた。
「おおっと、ヒカル選手、ここにきて激しい抵抗! これはどうしたことだ」
リングアナウンサーの煽りが突然の暴動を滑稽に彩る。有紀は暴れ、ブンブン首を振って何事かを絶叫していた。佳彦はただ棒立ちで微動だにしない。
「なんだなんだ」
金光も呆気に取られて事態を把握できないでいる。その横で前原はただ冷笑を含んでうつむいていた。
有紀の抵抗は佳彦を佳彦と認識した時点から始まった。散々人間性を否定されてきた有紀も、我が子による姦淫をそう易々と諦めへ解消することは出来なかったのである。
「(離せ! キ チ ガ イ!)」
脳内で周囲を罵っているが、考えは飽和状態でまとまらない。真に拷問に掛けられる恐怖を、彼女は今痛感したと言っていい。追い詰められ、もはやこの先は死あるのみと。
自分最優先で情愛の薄い彼女、お腹を痛めた子でありながら、それへ向ける視線はこれまで冷淡だった。それでも禁忌の関係は拒絶しようとする。彼女自身、これは一つの発見であった。だがその実は、背徳というより気持ちの悪さが先に立つのである。吐き気を催すような生理的なそれだ。
佳彦は怖がって、凶暴化した母に近づけないでいる。その時、その背をそっと押した男がいた。村本だ。勘のいい彼は佳彦の正体を察したのである。覆面女の中身が有紀でほぼ確定ならば、彼女のこの異常な暴れようと、目の前の少年から推して、さもありなんと仮説を立てることは容易だった。何度も金光邸を訪問している彼は、息子とも面識があったのである。
「ほら、金光さん!」
彼は佳彦を励ましつつ金光を呼び、相手が渋っていると、わざわざそこまで迎えに行って半ば強引に立たせた。もし金光が酔っていなかったら互いにこんなフットワークではなかったろう。
「プロレスですよ、プロレス! やっと女子プロがやる気だして、らしくなってきましたよ」
卑俗な村本の、それが愉しみ方だった。推定とはいえ夫である金光を相姦鑑賞の一等席へと誘いゆく。コバンザメの彼がどういう本性を抱いているか、これでよく分かろうというものだ。そうとは知らぬ金光は“もういいよ”などと面倒そうに言いながらも多少の好奇心を刺激されたと見え、連れられるがままに舞台の下まで行った。
舞台上では女体を取り押さえている二人が佳彦に行動を促していた。その陰茎はいまだ包皮にくるまれているというものの、十二分に性交の役に立ちうるコンディションだ。
彼は見た、毛の生えた穴の濡れてひくついている様子を。鮮烈な赤と沈んだ鼠色が混沌と渦巻いているのを。初めて目にする母の恥部、そして中。マスクの内は過呼吸のように鼻息荒く、心臓の拍動は全身を揺らさんばかり。そんな時、ちらりと脳裏をよぎるのは同級生の顔。自分より先に母を愉しんだ彼らだ。
「(ぼくのお母さんなのに)」
彼は一歩踏み出した。有紀は歯を食いしばって全身を硬直させる。仰向けで押さえつけられている彼女は、背中の筋肉が今にもつりそうだ。いよいよ逃げ場はなかった。
佳彦はまた一歩前進する。既に亀頭の先端が肌に接触するかしないかの位置に来た。だがここでしばし躊躇う。それは、勝手の分からないが故だった。世話焼きの薮塚が、頼んでもいないのに的を教え、あまつさえ陰唇を開いてみせる。恥をかきたくない佳彦は普段ならへそを曲げるところだが、今は素直に受け入れた。
「ウググ……」
有紀の大きく“い”の字に結んだ口から、声にもならない唸りが漏れ出る。彼女は固く目をつぶった。奇跡など起ころうはずもなかった。
次の一歩で、佳彦の男根はとうとう外界から姿を消した。
「入った! 入りました! なんとこの小兵レスラーが、爆乳大女を遂に征服しました!」
間髪入れずの実況が感動を押し売りする。もっとも、感動自体は確かに一部実在した。
「(あああっ!)」
えもいわれぬ満足感が佳彦の中心から広がり、体内をくまなく駆け巡っていく。“入れた”と思ったのは最初だけで、後はもうズルズルと勝手に沈んでいく感じ。あるいは飲み込まれていく感じ。強い感触はないが、ぬるい液体の中に全部浸けたような印象だ。
親子の肉体には今や一部の隙間もなくなっていた。生殖器のみにとどまらず、彼の中では全てが入った位の感覚がある。果たして、子が母の中に帰ったと言うべきだろうか。
有紀は硬直したまま動かず、目も開けない。ここに至りなば、全ては手遅れだ。しかし、状況は一瞬で終わるはずもない。
射精は挿入と全く同時に起こった。むしろ、噴出しながら入れ進んでいった観がある。
「あぁ……」
少年の口からか細い声が漏れた。尿道を抜ける快楽の極み。佳彦はどっぷりと射精していた、我が母の胎内で。自らが出てきた産道で。
精通だった。初めて陰茎から尿以外の汁を出した。だが怖くはなかった。焦りもなかった。これまで同年配の子 供 達が母の体を使って気持ちよさそうに搾り出すのをさんざっぱら見てきたから手本は十分だった。だから当たり前のように精通した、母の体で。
自慰すら未体験だった。だが性欲には目覚めている。衆人環視の中辱められる母を見て、激しく勃起した。ムラムラと興奮を覚えた。その解消方法、それはオナニーならぬセックス。それが自分を鎮める術だと知った。彼は童貞を捨てた、自分の母親で。
母の表情はよく分からない。セックスに同意は得ていない。だが問題はないと思われた。あんなに大勢のペニスを受け入れる女だ、どうして自分だけ拒絶されよう。
佳彦は初射精汁を漏れ出るに任せて母に注いだ。後から後から湧いて出るのが思春期の精液である。
一方、有紀の生理的嫌悪感はこの時ピークに達したと言っていい。胃液がこみ上げ、涙がこぼれる。
「(キモチワルイ)」
その感想が息子の人格否定に転化するのに時間は掛からなかった。それは世に数多いる蔑視の対象、すなわち彼女が日頃偏見の目で見ているモテない男達、就中オタクと呼ばれる連中と彼が同等であり、且つ自分の遺伝子とは相容れない、全て金光に端を発するものだと確信せしめた。
これも親の心子知らずというのか、そんな結論が出ているとは露知らず、佳彦はただ子種汁を注ぎ続ける。己を産んだ母を、子である己がまた孕ませようというのか。その子は果たして子か孫か。
「なんだい、あのちっちぇえのも動かなくなりやがった」
動きを止めた男女を見て、金光が回らない呂律で言った。
佳彦はそんな言葉も耳に入らず、父の前で母の膣内に射精し続ける。
村本が金光の肘をつついて言った。
「金光さんもどうぞヤッて下さいよ。オレもヤりましたし」
〈つづく〉
〈現在の位置関係〉
▼大広間
有紀、金光、花村、猪瀬、舛添、村本、藪塚、前原、鎌先、佳彦、袋田
▼廊下
比嘉、祥吾、雅也、矢板、高橋
▼中広間
服部、羽根沢、森岳、沼尻、浪岡、松倉、七里川、慶介、浩樹、竜二、小林、島田、鈴木
▼帰宅
俊之、克弘、恵太、優斗、豊、聡、翼、清美、瑞穂
〈輪姦記録〉
挿入男根:32本
射精回数:94発
(膣56・口16・尻14・乳5・顔1・髪1・外1)
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