「なんだ、子 供じゃないか!?」
猪瀬が目を丸くして指摘した。それは、その場にいる誰もが感じたことだった。
「いえいえ、まさかまさか」
鎌先はわざとらしい位に顔の前で手を振って否定する。だが、背格好や肌の張り等から言って、どう考えても中 学 生程にしか見えなかった。
覆面以外は一切を身にまとわず、いや、亀頭だけはきっちりと包皮にくるまれてはいたが、その貧相なペニスをおっ立たせて、半歩ずつ舞台中央に寄って来る、ぽっちゃり体型の彼。
「さあ、ミゼットレスラーはこの巨大女にどう挑むのか」
司会者の煽りは廊下の者にも届いていた。直に聞こえる分もあるが、こちらでは今、中継動画を見ている。それは、広間にいる薮塚が撮影する映像で、矢板のタブレット端末が受信したものだ。
皆で一つの画面を覗き込む中で、とりわけ熱心に見入っているのは祥吾と雅也だった。この顛末が意味する所を切実に感じている。
「(あいつ、本当に母親と……!)」
雅也は鼓動が早まるのを感じた。ザワザワする胸の高鳴りの中で、全く考えがまとまらない。ただ、飽きる程よく見知った母と子なだけに、そのとんでもなさが、彼の小さな胸を締め付けるのである。
それは、祥吾も同様だった。ここに居並ぶ中で、間違いなく当事者に一番近い間柄の二人である。
「(自分のお母さんと、そんなこと……)」
想像もつかない例だった。我が身にはとても置き換えられない。なのに、現に彼はヤろうとしているのが、その体の変化からも明らかである。
「(狂ってるよな……)」
比嘉も思った。もっとも、今さら道義観に直面はしない。そもそも、金光家が被害者でなければ、ここまで許容などしなかった話なのだ。
「(やっぱり異常だよな)」
親と子、双方をよく知る三人は、己らの行状を棚に上げて、彼ら一家の特殊性をやり玉に挙げるのだった。
比嘉が視線を上げると、そこには入り口に肘をかけ、控え室内に話しかける慶介の姿。中にいるのは浩樹だ。舞台袖まで出張っていたが、高橋に半ば強引に場所を入れ替わられたのである。
高橋、彼こそがやはり、この件も首謀者だった。慶介のマスクを奪うや、佳彦にかぶせたのである。
「見てみろよ、あの顔」
彼は口の中で呟きながら、不敵な笑みを禁じえなかった。その見つめているのは舞台ではなく、客である金光だ。彼の企画はもはや復讐の度を越え、むしろ嗜虐性を満たす方向へシフトしていた。
金光は思考が追いついていなかった。つい今しがた有紀の可能性にようやく思い至った彼だが、それを検証するより前に新たな珍事が発生。思考を遮断した。
「ミゼットってのは、キミ、なんだ」
呂律の回らない舌で周囲に問う。
「小人みたいなことですよ」
舛添が答えるのを聞いても、“ほお”と言ったっきりで、分かったのかどうだかも怪しい。
「ウ~ン……」
彼は唸りながら、また酒の席に戻ってしまった。子 供の出てきたことが何となく彼にとって興醒めで、元より妻のことも本気でなかっただけに、とうとう馬鹿々々しくなってしまったのである。
「チッ」
高橋は、ターゲットが視界から消えたことに舌打ちし、急いで廊下に出た。そうしてタブレット画面を覗いた後、袋田を探したが、生憎彼の姿は見当たらない。
袋田は中広間に戻っていた。舞台移動前に皆が屯していた部屋である。廊下で待っていても仕方がないと気づいた面々を案内していたのだった。
帰ってきた彼に高橋は、金光のことも映せという薮塚への伝言を命じた。意を受けた袋田が立つ。間もなくして、手元の画面に、金光の表情が映った。
「もうちょっと大きかったらいいのにな」
高橋は直に見られないもどかしさを感じつつも、妥協点としてはそれなりに満足した。袋田に意を含めるに際し付け加えた誘い文句が、きっと功を奏したと察せられたからだ。すなわち、目の前で妻を寝取られる旦那、しかも実の息子との不倫を見せつけられている奴の図、と薮塚にはよく伝えろと。薮塚は意図をよく理解したのだと、画面からは読み取れた。
「いよいよっすね」
近寄ってきた慶介が企画者に同調する。格別当人らに思い入れのない彼だが、企画の趣旨には賛同している。
「(マジで、ヤるんだ……)」
祥吾と雅也は生唾を飲んだ。こればかりは自分達がヤるのとは訳が違うという理解があった。
「(ああ、とうとう……!)」
舞台上の島田も、さっきからソワソワと落ち着かない。
客の反応で挑戦者の違和感に遅れて気付いた彼。女体の裏から覗いてみて、その体型を見てまず驚いた。
「(子 供を出すなんて!)」
はじめはそう思って、それでも行き過ぎた悪ふざけに肝を冷やしたが、高橋の表情を見、金光を見、そうして覆面少年を見ている内に、じわじわと真相にたどり着いたものだ。
「(なんということだ!)」
途端に空恐ろしくなり、キョロキョロと視線を泳がせる、袖と司会者の間を何度も。
「(バチが当たるな、こりゃ……)」
比嘉と同じで、自分が良心なのだとはもう思えない。大体公衆の面前で人妻と肛門セックスしているような奴だ。ただそれでも、身内からの焦りが彼の心臓を引き絞り、それと同時に肉茎の熱が沸点を超えようとしてくる。
「ウゥ……ッ!」
どす黒い汚辱感が体の芯からいよいよ沸き上がっていく。
「近親相姦」
慶介がにやけた声でささやいた。それは、タブレットを見る皆が同時に思いついた言葉だった。
島田の射精も同時に起こった。
「(ああ……)」
天井のライトを、呆然と見上げる。その間も、骨盤に乗った巨尻の中へ、自動で悦楽汁が吸われていった。ドクン、ドクン……と、自分でも嫌になる位の量がしわしわの陰嚢から。
それが収まり切らぬ内から、彼は上体を起こした。体位を動かしたことで、また残りの汁が搾られる。
「(そうか――)」
彼はぼんやりとした気持ちを立て直していく。
「(あれがこれの夫で、これがあれの妻だったな。金光の、そうだ、嫁だ)」
一つ一つ確認するように思い返すのは、平生の恨みが何やら遠い昔になった気がしたからだ。
ふと、覆面少年に目を止める。その時、彼の脳裏にある光景が思い出された。人の家の庭に、ホースで水を撒いていた少年の姿だ。彼の態度はワンパクとかヤンチャといったそれではなく、もっと陰にこもったものだった。見とがめた島田はすぐさまクレームを入れたが、結局謝罪の言葉はいまだ聞かれていない。
「(ああ、あの時の子か……)」
ふいにそんなことを思い出して、彼は視線を避けると、有紀の腰を持って、ズルリと陰茎を引き出した。
「ンフィッ!」
有紀は悲鳴を上げ、島田の抜けた床へドスンと尻もちをつく。その時彼女の瞳孔が、ようやく佳彦の存在を識別した。
〈つづく〉
〈現在の位置関係〉
▼大広間
有紀、金光、花村、猪瀬、舛添、村本、藪塚、前原、鎌先、佳彦、袋田
▼控室
島田、鈴木
▼廊下
比嘉、祥吾、雅也、矢板、高橋、小林、慶介、浩樹、竜二
▼中広間
服部、羽根沢、森岳、沼尻、浪岡、松倉、七里川
▼帰宅
俊之、克弘、恵太、優斗、豊、聡、翼、清美、瑞穂
〈輪姦記録〉
挿入男根:31本
射精回数:93発
(膣55・口16・尻14・乳5・顔1・髪1・外1)
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