『おしっこ、ついてきて。』
深夜、私は目を覚ました。隣に眠る妻も、そして別の部屋にいる子供達もおそらく、皆等しく夢の中だ。私は彼らを起こさぬように気遣いながら、静まり返った廊下をそろりそろりと歩いて行った。
一階の端、庭に面して続く廊下は、位置こそ昔と変わらぬものの、フローリングの色もまだまだ真新しく、子供の頃に感じた、あのおどろおどろしい闇など微塵もなかった。
そう、あの頃、あの幼かった頃、この廊下は、いや、ひいてはこの家全体が恐ろしいまでの妖しさに満ちて見えた。なぜあんなに怖かったのか、今となっては分からない。
そして、その怖さが払拭されたのも、単に数年前のリフォームのせいばかりではないだろう。やはり、子供の心に特有のあの心細さというものが作用していたに違いない。
あの頃、この廊下の先は果てしなく長かった。その先は闇に包まれており、幼い心に奇々怪々の想像を否応なく強いた。薄い障子を一枚隔てて、そこには妖怪の類がいるとみて間違いなかった。
だから、尿意を催そうものなら、それは死活問題だった。廊下の突き当たり、この家の角に当たる所に便所はあったが、皆のいる居間からは離れており、そこは昼間ですら騙し騙しでなければ近づけなかった。
大体からして、古い家というもの自体に子供には馴染みづらい要素があるものだ。殊に田舎に立地するともなれば、街とは違う独特の雰囲気に、年に数度しか訪れない身にとっては違和感もひとしおである。
そして、夜――。
昼間は、この家へ来ることに、祖父母や親戚と会えることに単純に舞い上がっていた私も、夜ともなればその違和感のただ中にいる自分を直視しなければならなかった。まして、父母の下を離れては。
いつだったか、あれは確かまだ小学校に上がる前だったと思うが、その晩、私は両親とは別に、いとこ達や彼らの母、すなわち叔母と同じ部屋で寝た。
ついさっきまで、いつ果てるとも知れない戯れに一心不乱に暴れまわっていたというのに、何の前触れもなくそれは終息し、私たちは布団に横になった。やがて電灯も消された。
私は物足りなかった。もっと遊んでいたかった。しかし、いとこ達はいともあっさりと眠りに落ちてしまった。すぐに寝息が一定の長さで聞こえ出す。私は焦った。
眠れない。彼らが眠ったと思うと余計に眠れなかった。ぼんやりと目に映るのは、天井の木目、障子の影……。次第に恐怖が身にしみてくる。私はぎゅっと目を閉じた。
そんな時だ、尿意を感じたのは。膀胱を圧迫するあのどうしようもない感じ。初めのうちは、ごまかそうとか、早く寝てしまおうとか考えるのだが、意識すればするほど不安感は募るばかり。
私は、そんなことをしても何の効果もないと知りつつも、思わず股間を押さえ、そして貧乏ゆすりをしたりして何とか気を紛らせようとした。だが、もちろんどうにもならない。私は、最悪の結末をも意識した。
お漏らし――、それは選択肢とは言えない。しかし、便所に行くことが、今はそれ以上に怖かった。私はついに諦めた。もはやどうあがいても今からではどうせ間に合わない。そう思うことにした。
私は諦めた。確かに諦めていた。だから、その奇跡はまったくもって想像だにできないことだった。
「おしっこ?」
その声は叔母だった。横を向くと、叔母もこちらを見ていた。彼女が元々起きていたのか、私が目を覚まさせたのかは分からないが、私の様子がよほど目に付いたのだろう、気遣って声をかけてくれたのだ。
「うん……」
私は答えた。私はその時ほど叔母の心遣いを嬉しく感じたことはなかった。
叔母は優しく、また子供をよく可愛がる人だったが、私にとってはいとこ達の母であり、よその家の人として少しく遠慮を感じていたものだ。もしこれが母だったら、とっくに起こして便所へ付き添ってもらっていただろう。
本当によく気が付いてくれたものだと思う。私は、一気に重荷から解放された気分で、叔母に便所へ連れて行ってもらうべく、布団から出た。いや、出ようとした。だが、その必要がないと、そう言ったのは叔母だった。
「えっ?」
戸惑う私を尻目に、叔母はのそのそと私の足元の方へと這ってくる。私はどうしていいか分からない。どっちみち部屋の外へ一人で出て行く勇気などないのだから。
だから、すこしマシになっていた尿意が再び激しくなっても、ただ膝を震わせながらじっと寝転がっているしかなかった。そんな状態で、私は叔母の態度を不思議に思いながらも、彼女の指示をただ待っていた。
すると、彼女は驚くべき挙動に出た。なんと、私のパジャマのズボンを下にずらし始めたのである。私はたちまち不安になった、さては、ここでしろというのかと。そして、それはとてもできないとも思った。
だが、叔母はあっという間にパンツまで脱がしてしまったのだ。もはや、事態は明白だった。私は、驚きながらも、幼心に妙に納得してもいた。こういう緊急事態ならば、致し方ないのだろうと。
今はとにかく、おしっこがしたい、何よりもそれが一番の要請なのだ。どうやってするのかは分からぬが、叔母の指示通りにやれば間違いあるはずないのだから。
だが、そう覚悟を決めてみても、その先の顛末には、さすがにあっと驚かざるを得なかった。
叔母は私の股間に顔を寄せ、そして陰茎をつまみ上げ、そして――、
「あっ!」
私は思わず声を上げた。
「シーッ!」
唇の前に人差し指を立てて、叔母がたしなめる。私は反省し、声を抑えた。しかし、これが驚かずにいられようか。
叔母は再び作業に入った。私の陰茎、そう、確かに陰茎を、彼女は、叔母は口に入れたのだ!
そういう性戯があることなど、もちろん知る由もない年頃の私である。おちんちんはおしっこを出す汚い所だと思っており、それを触ることはもちろん、口にくわえるなど、考えも及ばないことだった。
もっとも、叔母は何も、いわゆるフェラチオをしようとしてそんな行為に出たわけではなかった。
驚き慌てる私を見て、彼女は口にくわえたまま目配せをする。私は薄々想像がついてきていたが、それでも本当にそんなことをしていいものかどうか、まだためらいが大きかった。
すると、叔母がこちらにのし上がってきて、囁くのである。
「叔母ちゃんのお口にしなさい」
やっぱりそうか、と決定された衝撃の事実に私の神経は異様に興奮した。それは、背徳的興奮だった。私が性を知るのはもっとずっと後になってからだが、その時感じた興奮も、今思えば性の萌芽だったような気がする。
「いいの? おばちゃん」
思わず私は聞いていた。
「いいから、遠慮しなくていいから」
叔母は髪をちょっとかき上げながら言って、再び股間へ戻っていった。そうして、パクッと陰茎を口で覆い隠す。
私はまだ迷っていた。そこに感じる温もりは、興奮と同時に言い知れぬ不安を誘った。やってはいけないことだと思われた。妙なもので、あれほど迫った尿意も、その瞬間には収まっていた。
叔母は、そんな私の心境を鋭敏に察知する。
「大丈夫よ」
彼女はそう言って、私の緊張をほぐすように笑った。
「おばちゃんが全部おしっこ飲んであげるから」
その言葉に、私はやすらいだ。そして、静かに、静かに尿を漏らしだしたのだ。そう、叔母の口の中におしっこを……。
それは放尿というより、まさに尿を漏らすといった感覚だった。お漏らしした時の、あの全てを諦めてしまう感じに似ている。手を使う必要もなく、寝ころんだまま出すからだろう。生温かい入れ物の中へとただ……。
私は叔母の顔を見つめた。叔母は確かに飲んでいた。叔母の頬やのどがよく動いていた。私が見つめているのに気付くと、彼女は私を安心させるように微笑んでくれた。おしっこを飲みながら、微笑んでくれた。
どれだけの量が出たのかは分からないが、よく一気に飲みきれたものだと思う。叔母は私が出し終わるまで、すっかり便器の役割をこなしてくれた。
さらには、尿が出終わった陰茎を吸い上げたり、また舌先で舐めたり、睾丸を撫でたりもした。その時の表情はいたずらっぽい笑顔だったので、私は彼女がいたずらをしているのだと思ってキャッキャと喜んだものだった。
こうして私は、叔母の口を尿瓶扱いにして、どうにかその晩をやり過ごしたのであった。それが大変に貴重な経験であったと気づくのは、ずっと後になってからである。
私にとって、この経験は特別のものとなった。後には、この経験こそが自分の性的嗜好の根幹であるとまで結論づけるようになった。その頃には、いけないと思いつつも、それを思い出して自慰に耽りもした。
あの夜のことは今でも鮮明に記憶している。あの後、ズボンを履かせてくれた叔母が何食わぬ顔で自分の布団に戻った様子まで、昨日のことのように覚えている。
今も、私は便所に立って、ついその時の物思いに浸ってしまった。かけがえのない一生の思い出である。
私はこの思い出について、誰にも語ったことはない。叔母自身にすら、その後この件について話さなかった。彼女からは何ら口止めめいたものはなかったが、なぜだか秘密にしておかなければならないと、そう思ったのである。
<おわり>
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