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小説には、連続作品と一話完結作品があります。連続作品は、左「カテゴリ」の各作品名より一話から順番に読むことができます。また「目次」には、各作品の概要などをまとめた記事が集められています。

■連続作品
◆長編作品
「子宝混浴『湯けむ輪』~美肌効姦~」

◆中編作品
「大輪動会~友母姦戦記~」
「青き山、揺れる」 ▼「師匠のお筆」

◆オムニバス
「母を犯されて」

◆短編作品
「育てる夫」  ▼「最後の願い」  ▼「ママの枕」  ▼「ブラック&ワイフ」
「夏のおばさん」  ▼「二回り三回り年下男」  ▼「兄と妻」

■一話完結
「ふんどし締めて」
「旧居出し納め・新居出し初め」  ▼「牛方と嫁っこ」  ▼「ガンカケ」
「祭りの声にまぎれて」  ▼「シーコイコイコイ!」  ▼「サルオナ」  ▼「母の独白」
「童貞卒業式」 ▼「お昼寝おばさん」  ▼「上手くやりたい」 ▼「珍休さんと水あめ女」
「栗の花匂う人」「乳搾りの手コキ」 ▼「妻つき餅」 ▼「いたずらの入り口」
「学食のおばさん便器」 ▼「山姥今様」 ▼「おしっこ、ついてきて。」

作品一覧

「師匠のお筆」 4-2-2
『師匠のお筆』


4-2-2


そうして女性ばかり8人も揃ったところへ、ようやく枕必は現れた。

落ち込んでいた鈴美は何とか気を取り直そうと努めたが、いざ書の時間が始まってみると、それは彼女をさらに失望させる内容であった。というのも、それは小学生が学校で習うような、初歩の初歩の書き取りだったからである。

何も鈴美は傲慢になっているのではない。そうではないが、周りを見渡してみるとどうもこれまで書を真面目にやったことがないような、下手をするとまだ始めて日も浅いのではないかというような手つきの者ばかりで、それが余計に彼女を落胆させたのである。

要するにこの会は、山の手有閑婦人の習いごと教室といったところなのだろう、と鈴美はそう結論付けた。

(やっぱり場違い……)

鈴美ががっかりしていると、そこへ生徒を見回っていた枕必がやって来た。

「やあ、あなたは! 来て下さったんですね」

枕必は親しげに言葉をかけてきた。

「ど、どうも」

話しかけられるとまた嬉しさがこみあげてきて、ドギマギしながら鈴美は挨拶した。

「ふむ……なるほど……」

枕必は隣に立ってしばらく鈴美の手を見ていた。その表情は先ほどとは打って変わって真剣であったので、鈴美は大いに緊張した。そして、ここへ来た当初の目的を思い出した。そうだ、枕必に書を習いに来たのだ、と。

「ちょっと、これ、いいですか」

言いながら、枕必は一枚の作品を取り上げると、それを参加者の皆が見える位置に持って行った。

「見て下さい。さっきも言いましたように……」

彼女の作品を持って枕必は解説らしきものを始めた。鈴美の胸は急激な不安に鼓動を速めた。うぬぼれからとんでもないミスを犯したのではあるまいか、と。しかし、それが杞憂に過ぎないことはすぐに明らかとなった。

「ここのはらい。ちゃんとこういう風にしっかりと……」

それは絶賛の言葉だった。一切の手直しをされなかったばかりか、その課題の内容に対する深い理解やそれに則した適切な表現を採用しているなどと紹介して鈴美の作品を褒めあげ、皆の手本として張り出したのだ。

鈴美はただただ呆然としていた。あの枕必が自分の作品に目を通してくれただけでも驚きなのに、あろうことかそれを称賛してくれるとは! 鈴美は完全に夢見心地であった。

「すごいのね、鈴美さん」

すぐに文子が寄って来た。枕必が褒めたので、改めて鈴美に興味を持ったようであった。

「あら、そういえば立派なお道具使っていらっしゃるわ」

鈴美の手元を見て、いかにもびっくりした風で文子は言った。まだ夢見心地の鈴美は文子のお世辞にもうまく合わせられなかったが、道具を褒められたことで改めて自分の書に対する誇りを思い起こしていた。ブランド物で着飾ってはいないが、自分は書の前では何ら引け目を覚えることはないのだと。

やがて時間が来て散会となると、帰り支度をする鈴美のもとに枕必がやって来た。

「今日はどうもありがとうございました。あなたのおかげでいつになく有意義な時間となりました」

枕必は嬉しそうに言った。

「い、いいえ、こちらこそ」

腰の低い枕必の態度に鈴美は恐縮しきってしまった。

「またいらして下さいますね」

「あ、ええ……」

枕必に誘われるのは嬉しかったが、鈴美の脳裏には自分とは釣り合いの取れそうにない有閑婦人達の姿が浮かび、つい返事をためらってしまった。するとそれを察したのか、枕必は言った。

「ああ、いや、今日の集まりではなくてですね、私の工房の方の……。そうだ、これからご一緒頂けませんか。なに、すぐそこですから」

「え、はあ……」

鈴美にはちょっと要領を得ない話ではあったが、今の枕必は鈴美のようにいささか興奮気味で、半ば彼の独り決めのような格好で話が進んだ結果、この後鈴美は、枕必の外車に乗って彼の工房へと向かうことになったのである。


<つづく>



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