*
金光が家に帰ってまず目の当たりにしたものは、息子が母親に挑みかかろうという場面だった。
「おい! 何してる!」
佳彦を引きはがすと、現れた勃起から粘液が弧を描いて散り、彼は尻もちを着いた。父は顔をしかめ、その腹を思い切り蹴飛ばす。
「あっち行ってろ!」
佳彦はなお立ち去りがたそうにしていたが、父が殴るような素振りを見せると諦めて逃げていった。母ともう一発の野望は遂に叶わなかった。
さて、と向き直る。今度は妻の始末である。その姿は明らかに何かの事後であった。
「やってくれたな!」
何から責めたものかも決めかねて、とりあえず大声でなじる。妻はぼんやりとしたまま無反応。
「どういうつもりだ!」
金光は盛んに大声を上げて、間もなくつかみ掛かろうとしたが、相手の体が妙に濡れているようで、また先程の息子の件もあり、まるで汚らしい物に対するが如く、その手を引っ込めた。
「今まで何してやがった」
ここでようやく有紀の機能が復旧してきた。
「あたし……犯されたのよ」
「あ?」
「あたし、レ○プされたの。あたしねえ、集団レ○プされたのよ!」
口に出す内に段々と言葉は強くなる。それに負けじと夫も語気を強めた。
「何言ってる」
「集団レ○プ! 分かんない? あんたの妻が、男共に寄ってたかって乱暴されたのよ!」
「チッ!」
気がふれたような妻の剣幕は夫をただただ苛立たせる。彼女の体を見れば、確かにそういうことかもしれない。だが、彼がここに来たのは、第一に妻の浮気問題を糾弾するためであって、一足飛びに別の事件を持ち出されても混乱するばかりだ。
「前原はどうした。お前、オレが知らないとでも思ってんのか!」
「は?」
有紀はまだ動画流出の件を知らない。それで、もはや過去となった愛人のことを今さら夫が気にしているのを見て一気に鼻白んだ。
「どうでもいいでしょ、あんな奴」
「どうでもいいことあるか!」
金光は激高してソファーを殴った。
「お前のせいで大迷惑だ! マスコミも嗅ぎ付けやがったし……」
有紀は最後まで聞かず、ふいに立ち上がってフラフラと歩き出した。
「おい、どこへ行く」
「警察。警察呼ぶのよ」
「ダメだ」
「じゃあ、あんた呼んでよ。顔利くんでしょ、先生」
「警察は関係ない。呼ぶ必要ない」
「なんでよ! あたしレ○プされたのよ! あたしが証拠よ!」
「いい加減にしろ!」
金光はとうとう妻を蹴り飛ばした。
「お前、どんだけオレに迷惑かけたら気が済むんだ! オレの立場を考えろ!」
彼の考えでは己の社会的立場こそが第一だし、なんとなればそれは家族にとっても最重要課題のはずだった。
「オレの金で贅沢できてんだろうが! それを、つまんねえ浮気なんかで足引っ張りやがって。ロクなことしねえなあ! このバカ女が!」
有紀は蹴られた反動で突っ伏したまま、相手の顔を見ずに床の先を睨んでいる。
「レ○プだあ? どうせお前が連れ込んだんだろうが。このアバズレめ」
ここで息子のことを思い出した。
「さっきのあいつ、あれなんだ? お前、自分の子 供にも手ぇ出したのか」
「フン」
有紀は鼻で笑った。
「アイツもレ○プ犯よ」
「とんでもない母親だな! どんな教育してんだよ」
「は? あんな奴息子でもなんでもないわよ。気に食わないんだったら、愛人ちゃん達に新しい子でも産んでもらえばぁ? ま、どうせ、あんたの子じゃ、キ○ガイしか出来ないだろうけど」
「黙れクソが!」
金光は妻の髪の毛を引っ掴むと床にその顔をこすり付けた。決して我が子への侮辱に怒っているのではない。口の減らない“バカ女”にただ腹を立てているのである。
「もういい! 出ていけ!」
吐き捨てて、とりあえずタバコに火を点ける。有紀はゆっくり起き上がると、ノロノロと出口へ向かった。その背中へ念を押す。
「おい、余計なことすんじゃねえぞ」
警察への通報を念頭に置いた発言だった。有紀は一切歩みを止めることなく去ってゆく。それを見て金光はまた舌打ちすると、おもむろに電話を手に取った。
「おう。カンか」
掛けた相手は元金光配下で一時はナンバー2にまで上り詰めたが、任せられたシンジケートの薬物に自ら手を出し、身を持ち崩した挙句に今では己の名前すら忘れてしまった憐れな男である。
「仕事だ。ツラ出せ」
それだけ言って切る。ほとんどまともな会話も通じない相手だが、命じれば何でもやるので汚れ役をさせるために飼っている。
「愛人に新しい子 供か。フン、なるほどな」
一人呟いて鼻で笑う。金光の念頭には今、妻とさらに息子に対するある決着があった。
その時玄関のチャイムが鳴った。出てみると一人の青年が立っている。豪志という彼は裕福な家の御曹司で、現在は金光家のいわば食客という身分である。後々は政界へ進出する予定だ。
「先生、おはようございます」
育ちの良さを絵に描いたような朗らかさで、能天気に笑っている。昨夜来の事件も知らず、平常通りの訪問であったが、生憎主人の機嫌は悪かった。
「家内を見張ってろ」
「え、見張る?」
初めての指示に聞き返すも答えてくれない。
「……あの、奥様はどちらに」
「知らねえよ、自分で探せ」
いつにない剣幕で怒鳴られ、豪志は逃げるように奥へ入った。金光はそちらをもう見ようともせずに、新しいタバコを取り出して、また新たな電話を掛ける。
豪志は戸惑いながら捜索を始めた。この邸宅に出入りするといっても隅々まで見たことはない。寒々しい廊下をただ何となく気配のする方へ進んでいくと、忙しなく物音を立てている者を見つけた。
「あっ」
思わず声を上げ、慌てて隠れる。開け放たれた部屋の中で派手に探し物をしていた人こそまさに尋ね人であったが、彼女が素っ裸であったので遠慮したのである。
「誰? あ、豪志君?」
「す、すみません」
「何? 何か用?」
こちらもまた、いつになく抑揚のない調子で早口に言う。彼ら夫婦は通常彼に対して比較的温厚なのである。豪志は一瞬ためらったが結局白状することにした。
「先生に、奥様を見張れと」
「ああ……」
有紀は素っ気なく応じた。この無考えの青年は言われたことを言われるがままにやっている。まだ立ち入った仕事は任せられず、したがって金光の負の職域には触れていない。つまりは金光本体の一派には組み込まれていない。そんなことを頭の片隅で考えて、ふと彼女は手を止めた。そうして部屋の外に佇む豪志の元に近寄る。
「ねえ」
「お、奥様」
豪志が目のやり場に困って顔を背ける中、有紀は一層彼との距離を詰めた。サラサラしたカッターシャツに、昨日から勃起しっぱなしの乳首がこすれ、さらにギュウッと肉塊がうずもれていく。
「お、奥様、どうされたんですか」
有紀は答えず、相手の腰から尻の方へと手を回し、腿で股間の辺りをまさぐる。もちろん豪志は身を逸らそうとするが、彼女はこれを逃がさない。
「時間が無いの。じっとして」
乳房を密着させながら有紀の顔は徐々に下降していった。事態を察した豪志は焦りに焦る。
「ま、まずいですよ、奥様」
「どうして? わたしじゃ不満?」
そんなことはない。そのことは彼の熱くなった股間が証明していたし、有紀も足で感じて気付いている。豪志から見ても彼女は日頃から魅力的だった。もし“先生の奥様”でなければ願ってもない誘いだったろう。現にきっぱり振り払おうとも逃げようともしない。
「大丈夫」
そう囁きつつ有紀はファスナーを下ろすと、ゴソゴソと肉茎を取り出すが早いかパクリとそれを吸い込んだ。全く躊躇の無い動きだった。その上口をモゴモゴさせながら手をベルトに掛ける。が、外すのは困難だった。
「ほら、自分で脱いで」
「でも……」
「早くしなさい」
命じられたからには逆らえない、とばかり、豪志は下半身をさらけ出す。夢みたいなシチュエーションだと思った。夢はさらに続く。日頃見飽きる程見つめてきたあの大きな乳房、それがありのまま拝めているだけでも驚きなのに、その持ち主はなんとそれを持ち上げて、その谷間でペニスを包み込んでみせたのだ。
「奥様ぁ」
歓喜の声が漏れる。勃起はKカップに埋もれてすっかり姿を消し、不可視の領域で全身をズリズリと摩擦されている。亀頭から先走りの白い汁が飛べば、他方で乳首からはミルクがポタポタと垂れた。
「(大きい人はみんなこんなことが得意なんだ)」
とは彼の感想だが、どうしてどうして一夜漬けのテクニックである。哀しいかな昨日の経験は彼女をパイズリ名人に仕立て上げたのだった。ギュウッと押し付けた親指でへこんだ窪みがその乳圧の凄さを物語る。
豪志はもう自分から腰を使い始めた。膝立ちの女の胸に向けてヘコヘコと腰を打ち付ける。親には見せられない情けない姿である。
「奥様ぁ!」
最後はとうとう胸の中で射精した。けたたましく震えて全部中に出す。圧迫がきつ過ぎて最初は精液も見えなかったが、後にじわじわと谷間の上の方に滲み出して水たまりが出来た。有紀はそれを湛えたまま肉棒を抜いて立ち上がる。
「お願いがあるの」
白い水たまりを見せつけるように捧げ持ち、相手の目をじっと見つめて言った。
「ねえ聞いてくれる?」
彼女がさり気なく胸を揉みだすと、間のダムが決壊し粘液がドロドロと腹の方へ落ちる。その行方を追う豪志の目線が、やがて漆黒の森に行き当たった。二人の間でまだ勢いのあるわだかまりがビンビンとしなる。
「中でお話しましょうか」
これで豪志の理性もまた決壊した。閉ざされた部屋で彼は有紀の乳房にむさぼりつく。己の精液が付くのも厭わず、揉みしだき、あるいは舐めしゃぶる。
そしてやがては森の奥へと移る段階で、有紀はさり気なく攻守交代を促した。なんとなく恥部を直視されたくなかったからである。あれだけの輪姦の後で、どういう変化があったかを知られたくない思いがあった。
「時間がないから、ね」
興奮する男を半ば強引に押し倒して、再び怒張を頬ばる。程なく、それが使用可能なことを知った。すると、自ら跨っていく。
「ゴム……」
「いいの」
生身の男根が一気に女陰の奥へと引きずり込まれた。直前の挿入からまだ一時間と経っていない。最後に入れたのは駐車場のバスの外だった。体に仕込まれた記憶がフラッシュバックする。
「アンッ!」
思いがけず艶めいた喘ぎが漏れた。絶え間なく肉棒を嵌められ続けてきて、彼女の穴はもう空洞であることを忘れていた。久しぶりにまた塞がれて、何やら安定したような感覚である。肉体が輪姦専用機に作り変えられていたことをにわかに思い出したものだ。
何も知らない豪志はただただ艶めかしい有紀の身悶えに圧倒されていた。女体として最高の出来だと思う。引き締まったくびれ、それに反比例して豊満に突き出た胸、整った顔、重厚な尻。それらをサワサワとさすりつつ、暴れ回る乳房に顔面をぶつけて、彼は肉棒を上下に出し入れする。もうどうなってもいいと開き直り、子種汁を噴射するのはもう時間の問題だった。
その頃、金光はとりあえず電話で済ませられる用件を終え、気分を変えるべく朝のリフレッシュタイムに移っていた。椅子に腰かける彼の足の間には次女の瑞穂がおり、父の勃起した陰茎をペロペロと舐めている。生まれた時から仕込んできただけあって、父自慢の口淫技術である。
「ミーちゃん、ほら、パパのおチ○ポミルク出るよ、飲んで飲んで」
父は甘えた声で言うと、次女の小さな口にドバドバと精液を流し込んだ。先程妻を責めた口でこういうことを言う。金光とはこういう男である。ちなみに、既に長女の処女は奪っている。次女もやがては自分が初めての男になるつもりだ。
そういえば、と次は長女に奉仕させるつもりで彼はその部屋へ向かった。ようやく気分が落ち着いてきた所だったが、娘の部屋へ入るや否や、また激怒することとなる。
「何やってんだ、貴様!」
父が見たのは、長男の佳彦が長女の清美とまぐわっている場面だった。紛れもなく彼の陰茎は娘の膣に挿し込まれている。金光はやにわに息子を突き飛ばすと、さらに掴みかかって、二発、三発と顔や頭を殴り、それでも飽き足らず、腹を何度も蹴飛ばした。
それを見て、長女は耳を塞いで恐れ戦いた。彼女は兄との性交を何ら恐れてはいなかったが、それというのも今朝が初めての交わりではなかったからである。だが、父の暴力を見たのは初めてだった。後から付いて来た次女も同様である。二人してワンワン泣き出した。
「うるさい!」
金光は怒り狂い、それもこれも皆妻の所為だと思い至って、ようやく彼女の所在を気に掛けだした。
「お前も覚えてろよ!」
丸まって動かない息子に捨て台詞を吐くと、ドスドスと音を立てて屋敷内を歩き回る。どこへ行っても見つからない。最後に中庭へ出ると、やっと豪志に出会った。
「アイツはどうした」
「いや、それが、いないんです」
「は? 見張ってろっつっただろうが!」
「す、すみません。でも、見つからなくて」
「ふざけんなクソが!」
金持ちのボンボンだからと甘く接していたが、今日ばかりは枝野らと同様に殴り倒してやろうと、金光は豪志の胸ぐらを掴む。が、柵の向こうが騒がしいと気づいて、まずはそちらを見た。マスコミだ。屋敷の前をマスコミの連中が取り巻いている。庭のその辺りは外からも覗き込めた。
「チッ」
金光は舌打ちして手を離す。それから幾分トーンを落として吐き捨てた。
「お前なんかクビだよ。とっとと出ていけ。二度とうちに来んじゃねえぞ」
こうして豪志は追放されたわけだが、これが幸運だったことに気付くのはもう少し先のことである。
さて、金光は家中探し回ったが妻は見つからなかった。それもそのはず、彼女はもうそこには居なかった。豪志を体で買収し、脱出したからである。着の身着のまま、最低限の貴重品と現金だけ持って。買いためた服も宝石も全部手放したが、命より高いものはない。
初めは車で逃げようとしたが、前述の通り記者が張っており表から出られない。そこで逃げ込んだのは、なんと隣の島田家であった。島田その人が招き入れてくれたのである。彼は多くを語らなかったが何かと察している様子だった。結果、自ら車を出し、有紀の逃走を手助けした。
「(罪滅ぼしのつもり?)」
そんな悪態が脳裏をよぎる。そのほか様々な罵詈雑言も浮かんだ。だが有紀は一言も口に出さなかった。助けてもらった恩義からというより、そのどれも見当違いで、今や空々しく思えたからである。
「フン……フ、フフ、フハハハハハ……!」
無言の車内で有紀は突如けたたましく笑った。大人数に丸一日輪姦され、夫から命を狙われて逃げ出し、積み上げた何もかもを失った挙句、その輪姦魔に助けられる滑稽さ。たった一日で一変した我が身の上こそあまりにも劇的だ。
だが、心は清々しかった。ちょうど化粧の剥がれた今の顔が物語っている。それはまるで憑き物が落ちたような晴れやかさで、すっきりとしていた。
車は町を出た。有紀は里には戻らず、知人を頼って別の街へ行くつもりだ。
*
金光家の没落は早かった。端緒となった不倫問題から芋づる式に悪事が露見していった。何しろ叩けば埃しか出ない体だ。おまけにマスコミが面白おかしく騒ぎ立てたので余計に拍車がかかった。町の人間や反対勢力がかねてから準備を進めていた結果である。とうとう金光は複数の汚職事件で何度も逮捕され、犯罪者となった彼は表舞台から姿を消した。
ならば父祖伝来の裏社会で生き残ろうともがくも、当人に才覚がない上、日頃の行い故に人望もなく、周りからどんどんと人が去ってゆき、あるいは敵対勢力に寝返られ、ほとんど四面楚歌の有り様となって破綻。
今は邸宅も売却され、土地が島田に戻るかといえば中々そうもいかないが、ともかくあれだけ幅を利かせた名物一家は、その一味も含め瞬く間に町から姿を消したのだった。
当の金光は祖国へ渡り一念発起をと最後の望みをかけたが、生まれも育ちも異なる地で今さら地盤を築けるわけもなく、差別され社会に溶け込めないまま孤独に死んでいった。
彼らの子らもまた憐れで、父が亡くなるよりも随分前のこと、川で顔の確認出来ない少年らしき変死体が発見されたがこれが佳彦であるという。陰茎部分がそぎ落とされていたり、体の損傷が激しく、まるで拷問を受けたかのようであった。間もなく“カン”と自称する住所不定無職で外国籍の男が逮捕されて事件は収束。通常に比して大きな話題とならなかったのは、遺族が名乗りを上げなかったからである。
二人の娘は施設に預けられたが、いずれも体が弱く、また日に日に精神障害が激しくなったせいもあり、続けざまに他界してしまった。
このほか金光に加担したり取り入ったりしていた者はことごとく失脚し、距離を保っていた猪瀬や舛添ですら隠居となったし、村本は己の横領が発覚して逮捕、秘書の枝野などは罪をかぶって偽装自殺させられた。
直前に解雇された豪志は幸運で、政治家こそ断念して町を離れたが、今は家業の子会社を任せられている。例の流出動画で一躍時の人となってしまった前原も、ほとぼりが冷めてから細々と働きだしている。
ところで、あの大輪姦に関わった男連中はというと、一切の罪に問われることなく、それ以前にあの件自体が世に出ることなく、ただ当事者だけが知る記憶となっている。ということは親告されなかったわけである。
あれだけ金光が話題となった時も、当然に注目されるべき派手妻の存在は忘却されていた。あの強烈なモンスターペアレンツの記憶も、PTA役員の一方的放棄を不問に付したことも、いつしか人々から忘れ去られていったのは、破廉恥な動画流出がある意味禊と見なされたためかもしれない。町から消えた彼女をさらに追い詰めようとまでは誰も思わなかった。それに、もっと大きな禊を彼女が為したことを、一部の人間は知っていたから。
〈完〉
〈輪姦記録〉
挿入男根:38本
射精回数:172発
(膣87・口23・尻44・乳8・顔8・髪1・外1)
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