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小説には、連続作品と一話完結作品があります。連続作品は、左「カテゴリ」の各作品名より一話から順番に読むことができます。また「目次」には、各作品の概要などをまとめた記事が集められています。

■連続作品
◆長編作品
「子宝混浴『湯けむ輪』~美肌効姦~」

◆中編作品
「大輪動会~友母姦戦記~」
「青き山、揺れる」 ▼「師匠のお筆」

◆オムニバス
「母を犯されて」

◆短編作品
「育てる夫」  ▼「最後の願い」  ▼「ママの枕」  ▼「ブラック&ワイフ」
「夏のおばさん」  ▼「二回り三回り年下男」  ▼「兄と妻」

■一話完結
「ふんどし締めて」
「旧居出し納め・新居出し初め」  ▼「牛方と嫁っこ」  ▼「ガンカケ」
「祭りの声にまぎれて」  ▼「シーコイコイコイ!」  ▼「サルオナ」  ▼「母の独白」
「童貞卒業式」 ▼「お昼寝おばさん」  ▼「上手くやりたい」 ▼「珍休さんと水あめ女」
「栗の花匂う人」「乳搾りの手コキ」 ▼「妻つき餅」 ▼「いたずらの入り口」
「学食のおばさん便器」 ▼「山姥今様」 ▼「おしっこ、ついてきて。」

作品一覧

「師匠のお筆」5-1-4
『師匠のお筆』


5-1-4



あの夜以来、枕必と鈴美は既に何度も密会を重ねてきた。つい先日も、例の工房で逢ったばかりである。

工房は、枕必にとって半作業場、半居住空間といった感じだが、初めて迎えた時に比して格段に打ち解けた鈴美は、ここへ彼のために手料理を作りにきたのであった。買い物袋を提げて、散らかった台所に現れたその姿は、まるっきり男のやもめ暮らしを訪れた恋人のそれだった。

「お口に合うか分かりませんけれど……」

はにかみながら鈴美は言い、手早く料理に取りかかった。その後ろ姿を思い浮かべると、なるほど、確かに文子の言うごとく、「いいお母さん」そのものだと彼は思った。

そういうところが枕必にとって良かった。これまた文子の指摘した通り、彼はこのところ鈴美にかかりっきりであったが、平凡で貞淑で、まるで情事とは縁のないような主婦と特別な関係になる、それが枕必にとって最も興奮を誘うシチュエーションであり、今の鈴美がまさにその理想的な存在なのだった。

彼女と文子とでは、比較するまでもなく違いは明らかだった。

鈴美がそのような主婦ならではの背徳感を常々抱えているのに対し、文子には当初からそのようなものは無く、それは長い年月の故にそうなったのではなくして、まさしく初めての逢瀬からそんなものは無かったのであるが、彼女はとにかく性に開けっぴろげで、いつでも肉欲至上主義なのであった。

また、文子がこのように肉欲そのものにのみ関心を集中させているのに対して、鈴美には肉欲に至るまでに愛情の裏打ちがあることも特筆すべき点であった。

文子は、前述の通り、枕必に恋を感じることはなく、二人はまるで長年連れ添った夫婦のようにさばさばとした心の通わせ方をしていたが、彼女はただ枕必の性技と彼との体の相性を強烈に欲するが故に関係を継続させているのであった。

他方鈴美は、完全に枕必に恋していた。恋という起爆剤があったればこそ、不倫からの快楽を求めたのであった。たとえ本性では、肉体的快楽への好奇心に突き動かされていたとしても。

一方、恋の戯れは枕必にも愉しいものだった。彼が言うどんなことも鈴美は目を輝かせて聞いたし、自分の言いつけを聞くことにかけては師弟の関係以上である様子も、男としての支配欲を満足させてくれた。恋に彩られた鈴美との逢瀬は、こうして枕必の琴線に触れたのである。

もっとも、恋愛感情のかけらもない文子との間柄ながら、あちらのみならず枕必の方でも彼女を手放さなかったのには理由があった。それは、やはり文子の理由と大差ないのであるが、彼女の体が良いからであった。

文子は、乳房も尻もでっぷりとして大きく、また四十路に入ってからは他の部分にも脂肪が目立つようになってはいたものの、要するに豊満で肉感的な体型をしていた。その肉体は枕必の性欲を高め、そこに彼女の積極的な性と、一方実は従順な性格が加わって、彼が思い切り性欲をぶつけたいと思った時にうってつけなのである。また彼女の秘穴が、俗に言う名器であるらしいことも、枕必のお気に入りであった。

それにしても、いくら彼自身に妻が無いとはいえ、夫のある婦人と、しかも並行して関係を結ぶというのは決してありふれた状況ではない。久しく関係を続けている文子ならばこそ特別認められるということではないし、まして、鈴美はつい最近まで夫と子供と平穏に暮らしていたのに、枕必のために道義に外れることとなったわけで、世間一般では到底筋の通らない話である。

しかし、この件について彼自身は一切、まったくもって全然意にかいしていないのであった。どちらかに悪いとか、後ろめたいとか、あるいはこういう背徳感とスリルが楽しいなどとも、何とも思っていなかった。

以前、鈴美が文子も参加する彼の書道教室に一度だけ来た時、文子はこう言っていた。

「また新しい獲物が来たじゃない? また、食べちゃうんでしょ? それとも、もう?」

彼女はいたずらっぽく笑った。

「このお教室に来た人達、みいんな食べられちゃうのよね、先生に」

そう、鈴美にとっては彼女のこれまでの人生最大の事件である不倫の恋だったが、枕必にとってはこれまで幾度となく経験してきた数多の関係の一つに過ぎなかったのである。


<つづく>



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