ショートオムニバス・シリーズ
『母を犯されて』 ケース10
母・みゆき 36歳
「忘れ物ないか」
共に出かける玄関で父は我が子に声を掛けた。息子・すばるは「うん」と頷いて靴を履く。母親は既に出勤しており、今家の中には二人しかいない。
「あれ? 今日非番って言ってなかったっけ?」
今朝まだ外が薄暗い中でゴソゴソと着替えをしていた妻に夫は声を掛けた。昨晩も随分遅く帰ってきたのにご苦労なことだと感心する。
「う、うん、ちょっと緊急入っちゃって」
妻・みゆきは忙しなく身支度を整えながらも、どこか軽やかな声音で答えた。去り際に、
「じゃ、行ってくるね。すばるのことお願いね。遅刻しないようにね」
と念を押すのを、皆まで言うなと押しとどめ、夫は欠伸をしながらベッドの中で彼女を見送ったのだった。
鍵をかけ、父子は歩き出す。父にとってはいつもより遅い時間、息子にとっては少し早めの出発である。
「学校一番乗りなんじゃない?」
「ううん、そんなことないよ」
何気ない会話をしながら十字路まで来た。ここで、右左に行き先が分かれる。
「じゃあ気を付けてな」
「うん」
すばるは去り行く父に軽く手を振ってクルリと方向を変えた。確かに、まだ通学する子は見当たらない。彼は別に急ぐ必要もないのに、トトトッと軽く駆けては、朝の澄んだ空気を胸いっぱいに吸い込んだ。
「(そうだ!)」
ふと思いつく。工場の裏手に小さな空き地があって、そこに時々人懐こい猫が来ている。近頃すばるは友達とそこでよく遊んでいて、今からちょっと寄り道してみようかと思ったのである。
彼は早速、大人なら通れない細い道や、他所の家の私有地などを通り抜けて、一目散に目的地へたどり着いた。すると、同じことを思いついたらしい同級生が一人既に先に来ていた。
「おはよう」
すばるは声を掛けたが、相手の様子はなんだか変である。敷地へ入ることなく別な方向を見ている。
「猫いる?」
「シー!」
彼はすばるの発言を制してから、小さく手招きした。
「あれ見て」
指差した先には、黒塗りの高級車が停まっている。それが、ただ停車しているだけではなかった。
「ね、動いてるでしょ」
確かに“動いて”いた。決して走行しているのではない。その場で、車体が微動しているのである。それも一定のリズムでギシギシ揺れているかと思えば時折止んで、そしてからまたユサユサと揺れだす。
「ホントだ! あれ何?」
「分かんない」
そう話していると、もう一人の男児がやってきた。
「よっ、何してんの?」
二人はさっきと同じやり取りを繰り返す。すると、後から来たヤンチャ坊主は、
「もっと近く行ってみようぜ」
と、大胆不敵には距離を詰めだした。たじろいでいた先客達も彼の後に続く。
この時三人の頭には、何か不思議なことが起きているのではないかという予感があった。車が意思を持って、喋ったりひとりでに動いたりするようなことだ。
だが、近付くにつれその期待は呆気なく消滅した。斜め後方から窺うに、人の脚が見えたからである。ほっそりとした剥き出しの脚は、側面の窓ガラスの辺りまで持ち上がっている。空想は外れたが、これはこれで妙である。座りながらダッシュボードに脚を乗せる人がいないとも限らないが……
好奇心に駆られた子 供 達は、そろりそろりと更に距離を詰めていった。二本の脚はダッシュボードよりもっと高く宙に浮いている。ちょうど背もたれに近い程に。そういえば、座席シートは見当たらず、脚の持ち主は見えない。代わりに、何者かの背中が見え隠れした。それは、脚と脚の間におり、背もたれがあったならちょうどそれと向かい合う位置になる。つまり、二人の人間が一つの椅子に乗っている格好だ。
「何してるのかな」
これは少年達共通の疑問であった。と、ここでまた車体の揺れが止まる。三人はハッとして身を低くした。すると、ややあって窓ガラスに女性の姿が映った。髪の長い妙齢の女性。白いブラウスの前ははだけ、ツンと突き出した乳房が露出している。
「あ……れ……?」
すばるは我が目を疑った。状況がよく分からないし、そんなはずはないとも思うが、一瞬で確信に近い疑惑を抱く。
程なくして、女性は姿を消した。前方へ倒れ込んだのである。ちょうどさっきまで背中を見せていた者と同じ格好になった。上下の立場を入れ替えたのである。
「何してるのかな」
何が起きているのか分からない。三人ともそうだったが、すばるの違和感だけがほかと違っていた。彼以外の二人は、説明こそ出来ないものの、直感で何やら淫靡な匂いを感じ取り、一種の期待感で胸をドキドキさせ始めていた。対してすばるは、背徳的で衝撃的な何かを察知し、恐ろしくも落ち着かない気持ちでいた。
三者二様の冒険心は、彼らの歩みにリスクを超えさせた。フロント方面へ回り込んで中を窺い見る。
「アァァ……ン」
艶めかしく喘いで、みゆきは髪をかき上げた。それを見上げ、乳房を下から支え上げながら男が言う。
「気分出てきたね。やっぱり興奮するだろ」
「しないわよ、バカァ」
二人はにやけた口元を重ね合わせた。
ここは長い塀が続くばかりで、ほとんど人通りがない。それをリサーチ済みだった男が、この場での情事を提案したのである。
「ホテルより返って人目につかないから」
「でも、見つかったら……」
「そういうスリルがいいんだろ。実際――」
男は女のスカートをめくり上げ、丸出しにした尻を丸々と撫でまわした。
「今日すっごく締まる」
「バカァ」
男根は、みゆきの女陰を深々と貫いている。濡れそぼった肉びらの隙間から、白く泡立った汁が溢れて流れた。
「昨日の晩、あんなにヤッたのにさ」
「それはこっちの台詞ですぅ」
男が肉棒を突き上げると、その反動でサスペンションが軋む。彼らにはこれも快楽の一装置と思われた。
「アッ、あんまり揺らさないで、バレちゃう」
「大丈夫だって」
根拠のない自信を覗かせて、男は相手の背を抱いたまま上体を起こしたが、果たしてこの時、フロントガラス越しにすばるらの姿を見つけた。少年らは咄嗟に身を伏せたが、男の確認が一瞬早かった。彼はさすがに驚いたがその反応は最小限にとどめ、
「こんなとこ、誰も来やしないって」
と言って、ニヤニヤとほくそ笑んだ。彼とすばるとの間に面識はない。単に性に未熟な近所の小 学 生が、好奇心にかられて覗いているだけだと読んでいる。それならこれも一つの装置に利用してやろうと企てた。
「そろそろ登校時間か」
「え?」
みゆきはすぐに緊張した面持ちを相手の肩に伏せて隠した。そして小声で言う。
「誰か通った?」
「いいや、誰も」
「おどかさないでよ」
「見られるかもしれないと思ったら、興奮するだろ」
「もぉ、バカ。だから早く済ませてって言ってるのぉ」
彼女だって自分の家の近所でこんな行為に及ぶ危険性は承知している。あえて言えば、それでもなお相手に従う程、熱を上げているということである。それに早い時間から始めたから、登校時間よりまだ大分あるとも踏んでいた。
「ホントに? 早く終わっていいの?」
「バカァ……」
二人はまた唇をかぶせ合い、互いの舌を絡めた。こぼれた唾液が腹の上に落ちる。男は横目で子 供らの目線を窺い知ると、また上下運動を激しくしていった。ギシギシと部品の軋む声と、クチュクチュと局部のこすれる声が合唱する。男はそれとなく手招きした。
少年らは既に見つかっていることを知って狼狽えた。しかし、それならそれと開き直る者もいた。結局彼らはガラスへ顔をつけんとする位置にまで大胆にも肉薄した。
男はみゆきの頭を左肩に抱き、外を見ないように、且つ外から顔が見えないように気遣いながら、そっと耳元で囁いた。
「もし、見られたらどうする?」
「いやよ」
「旦那さん、ここ通ったら」
「通らないってば、やめてよ」
周囲の子 供 達はまんじりともしないで男女を見つめている。二人の男 児に至っては、半ズボンの前を隆起させていた。それは男から確認出来なかったが、彼らの期待に満ち満ちた目だけは分かった。ただ一人だけは不安そうに、惨めな表情を浮かべている。その理由は彼以外の誰にも分からない。
「学校近いんだよね。息子さん通るかもしれないよ」
男はなおも意地悪に詰る。この時周囲の子らと重ね合わせて、彼の怒張は一層固く引き締まった。
「いやよ、いやいや。バカァ」
みゆきの痴穴も急激に収縮した。
「ヤッバイな……」
「え、イきそう?」
みゆきは問うたが、男の危惧は別のことだった。
その時、男子達の元へ女 子 児 童が二人連れだって寄ってきたのだ。なんのことはない、それなりに人通りのある道だったのである。殊に子 供 達の行動は大人の予測を超えるものだ。
女子の一人は薄っすらと車内の光景の意味を察していた。それで顔を真っ赤にして、
「もう行こう!」
と、友人を強引に引っ張っていった。男子にも同調を促したが彼らは強情に残る。
「ねえ、なんか、声しなかった?」
みゆきが不安気に小声で訊く。
「ああ……大丈夫」
男はわざと間をためて外を窺う素振りを演じてからゴーサインを出した。
「それよりさ、最後、口でヤッて」
彼は合体を解くと左の運転席に移動した。その体を浮かした一瞬の間、みゆきはふと人影らしき存在を視界の端に感じた。
「え?」
「ヤバイヤバイ! ほら、伏せて」
慌てて男が彼女の頭を抑え込む。そうして、半ば無理矢理に口の中へ勃起をねじ込む。
「オ、オゴォ……ッ!」
元より拒絶する意思はないのだが、強引にされて戸惑うみゆき。だが、見られたのではないかとの懸念は消えない。
「ねえ……いはへへふぁい?」
一旦口から吐きだしたものの、相手に再びくわえさせられ、「見られてない?」をはっきり言えなかった。
他方、今度という今度は紛れもなく確信を得たのがすばるだ。車体横まで回り込んでいたことで、ほんの一瞬だったが、はっきりと顔を見た。彼は激しいショックを受け、訳も分からず呆然と立ち尽くした。
母だった。通学路でカーセックスしていたのは母だった。もちろん、セックスの意味など知らない。けれど、いけない事をしているのは本能的に察知出来た。
息子の目の前で行為は続く。男の人が向こうへ移動する時、見たことない位大きくなった陰茎を見た。そして、母はその上へ覆いかぶさった。今彼女の髪で彼の股間はすっかり隠れ、彼女の頭が動くたび長い髪がサラサラと揺れた。
「ン……ンブ……」
とりあえず懸念を先送りし、みゆきは口淫に没頭する。半ば強引なやり方だがその無理強いさ加減が返って心地いい。昨夜から今朝に掛けて何度も自分を悦ばせてくれた大事な道具を、口を使って優しく愛おし気に慰め、最後の務めへと導く。
「イく! イくよ、みゆき!」
男は彼女の頭を抑えつけた。すばるには見えなかったが、男が母の口の中へ精液を流し込んだのである。
「飲んで、みゆき、飲んで」
彼は母の名を呼び捨てにしながら、息子の前で彼女に精液を飲ませる。口いっぱいに次々と溢れ来る汁を、みゆきはむせ返りそうになるのをなんとか耐えながら、ゆっくりゆっくりと味わうように飲み下した。
男はしばし恍惚としていたが、すぐに気分を切り替えて、エンジンをスタートさせる。
「え?」
名残惜しそうにまだペニスをくわえていたみゆきは、焦って起き上がろうとし体勢を崩した。
「キャアッ!」
その瞬間、口の端からチョロリと白濁汁が飛び出る。
「みゆき」
「ん?」
「見られてるぞ」
「キャッ! ウソ!」
起き直ろうとしていた時に、確かに右手に人の目を感じて、彼女は再び倒れる。
「ホテルまで、続きしゃぶっててよ」
「もう!」
みゆきは冗談で相手の膝を叩いて笑い、従順に再びフェラチオを始める。男も笑いながら車を発進させた。
「ママ……」
すばるはまだ呆然としながら、当初の予定通りこれからホテルで一日中セックスする母と浮気相手の車を見送った。唇から白い汁がこぼれていた母の最後の表情を思い出しながら。
〈おわり〉
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