ショートオムニバス・シリーズ 『母を犯されて』
ケース8
母・マリ子 47歳
マリ子はキリの良い所で作業を止めると、腕をピンと上げて背筋を伸ばした。そうして視線をカラフルな紙袋に落とす。味気ないデスクにはちょっと浮いた存在感だ。息子への誕生日プレゼントである。
息子といってももう社会人二年目の大人。それでもまだ同じ屋根の下に住んでいるし、何より親から見れば子 供はいつまでも子 供。誕生日祝いは毎年欠かさず行ってきた。今日は早めに仕事を切り上げ、家でささやかな会を開く予定である。
「わっ、びっくりした」
席を立った時、ふと研究室の入り口に人影を見つけ、マリ子は驚いた。
「ええっと……」
すぐに名前が出てこないのは年の所為か。だが顔は覚えている。インターンとしてこの間から来ている学生の一人だ。すると、彼は物も言わず、ズカズカと室内に入ってきた。それも足早に一気に間合いを詰めて。
「ちょ、ちょっと!」
あっという間に白衣の肩を掴まれ、訳も分からぬうちに揉み合いとなる。そのまま体勢を崩され、押し倒されてしまった。
「松浦君だ」
やっと名前を思い出したが、今それどころではない。松浦は今や馬乗りになってマリ子を組み敷いている。
彼女は一瞬笑顔を作り相手をなだめようかと反射的に試みたが、それは面へ完全に現れる前に立ち消えとなった。命の危険へと考え至ったからである。動機に全く心当たりはなかったが。
他方で現実はまるで予想だにしない方向へと展開していった。松浦の手はスカートの中へと潜り込み、パンティストッキングの上を粗雑に滑々と遡っていく。
「嘘でしょ!?」
まるっきり想定外の行動だった。自分が性の対象となることも、会社という空間と性が結びつくことも彼女には想像つかないことだった。
「ちょっと!」
必至に押しのけようとするも、青年の力は思うより強い。
「そうだ、名村さん!」
警備員の名村は心やすい老人である。彼に駆け付けてもらうほかない。マリ子は声を上げようとしたが腕で口を塞がれた。暴れた手足が当たって、書類やらトレイやらが落ちるがそう大した音にはならない。名村は何をしているのか。彼女の脳裏に、警備室で大口を開けて寝ていた、いつかの姿が思い起こされた。
松浦は尋常とも思えぬ器用さで既に欲棒の塊を露出。股間のストッキングは破かれ、下着の縁に指が掛けられる。
「イヤッ!」
この時になって初めて、マリ子は女としての恐怖を実感した。生まれてから初めてでもあった。思い返せば、これまで出会ってきた男性はたまたま優しい人ばかりだったのかもしれない。それだものだから、ついこの時も最後の奇跡を漠然と信じずにはいられなかった。
しかし、希望は簡単に砕かれた。松浦はマリ子に入ってきた。
「悟史さん……!」
夫の顔が浮かんだ。それとは別物の男が、ゴツゴツとした憎たらしい塊が、体の芯をえぐっていく。さっき顔を合わせてから実にあっという間の出来事。これがレ イ プ。正真正銘、自分はレ イ プされたのだ。
間もなく、松浦のエキスが膣内に迸り始める。マリ子は顔を背けた。腹の中に種汁が注ぎ込まれるのと反対に目から出た雫が床に落ちた。彼女は己の意思に反して泣いたことも悔しく、また腹立たしく、しばし動かぬ男に向かって、
「もう気が済んだでしょ?」
そんな言葉を吐き捨てようとした。
が、彼にはまだ続ける意思があった。萎まぬ肉塊は硬さをいや増し再動を始める。
「ええっ!?」
信じられぬ気持ちだった。マリ子は確かに射精を感じた。それは認めたくない恥ずかしさながら、確かに感知したのだ。だが松浦にとっては終わっていないというのである。
肉棒はゴリゴリと壁を削り、穴をこじ開け、ただ単調にズンズンとえぐり込んで打つ、打つ、打つ。今度は先程よりか長く続いたが、それも間もなく終わった。つい今しがたの再現とばかり、二発目が入ってくる。勢いと量は先程よりあるのではないか。
「ウウゥ……」
マリ子は相変わらず横を向いたまま、勝手にされる屈辱に耐えた。なんて惨めなのだろうか、そう感じながら彼女はこの後のことに思いを馳せ始めた。
その時である、三回目が始まったのは。休憩といってもごく僅かの時間だったろう。そんなに深く物思いに沈んでいた覚えはない。それなのに、松浦はまた、始めた。
「嘘……!」
とても信じられない現象だった。少なくとも夫の若い頃でもこんなことはなかった。あるいは隠していただけだったのか。男はみんなこうなのか。異常な興奮状態にある男の心情がマリ子にはまるで分からない。
分からないといえば、なぜ彼が自分を選んだのかもそう。申し訳ないが、彼女には松浦の印象があまりない。口数も少なく、影も薄かった。好意を寄せられていたなんて考えるのは、自惚れも甚だしいだろう。だけど、親子ほど年の離れたおばさんを性の対象に選ぶだろか。どうせなら若い方が。いや、おばさんだから気安く犯せると思ったのだろうか。
そんな答えの出ぬ堂々巡りをしている時、視界にプレゼントの袋が映った。
「親子ほど……」
思わず、彼女は目をつぶった。インターン生、松浦。社会人二年目、息子の亮。ちょうど同い年か、あるいは、年下……
「こんな……」
松浦は三発目も中に出した。
「こんな日に……」
マリ子の涙は止まらない。もはや名村も来てほしくない。こんな所を見られたら終わりだ。彼女は自分で口元を覆った。
さて、彼女の家ではさすがに母の帰りが遅すぎるということで、夫が苛立ちを見せていた。既に何度も電話を掛けているが一向に出ない。会社に掛けてみようかと言ったが、それは息子が止めた。勤めに出るようになって仕事の辛さを知った彼である。だが夜も八時を回る頃、さすがに待ちきれぬとなって、とうとう二人で食事を始めた。その途中でようやく電話が繋がる。
「今どこ?」
「ア、 ええ……」
「会社?」
「ンンン……」
「もしもし?」
「ア、 大丈夫、ウゥ……あの、ちょっと、ね……」
要領を得ない返事だった。電波が悪いのではないか、と息子。父はスピーカーホンにして会話を続けた。何とか聞き取れた所では、どうしても外せない仕事が増えてしまったという。
マリ子は必死の思いで正気を維持していた。何度も掛かってくる電話。松浦がそれに勝手に出たのだ。声を聞けばすぐ家庭の母に戻る。たとえ、他人の男根が挿さっていても。今も今とて彼女はうつ伏せに抑え込まれ、背後から不倫合体を強いられていた。
もう何度精液を注がれただろう。その何発目かの時に彼女は気づいてしまっていた。
「これは……ダメ……イ……ッ!」
忘れかけていた感覚。新婚の当時、若かりし夫によって僅かに味わわされたアレがまざまざと身内に蘇ってくるのを。
「来ちゃう……!」
アクメ。絶頂。オーガズム。これは一度来ると癖付く。
「今日、誕生日会だって言ったじゃんか」
「ウン……ごめんね……」
夫の非難は最もだ。その後ろから遠く、
「いいよいいよ、無理しないで」
と、息子の気遣う声。夫もそれ以上責めはしなかった。
「あんまり根詰めんなよ。まだ遅くなりそう?」
「ウウン……もう、もうすぐ、出……!」
松浦に精子を出された。いまだ濃く若い精子が子宮にまで侵入してくる。優しい家族に代わって責めるのは絶倫男の役割とばかり、精子を悶絶女の不貞穴、それも奥へ奥へと追い込んでいく。電話口の向こうへ聞こえぬかと案じられる位、粘り汁の摩擦音が鳴る。
「イ……ク……から……!」
恥も外聞もなく、母はエクスタシーを家族に報告。ついに「おめでとう」の一言も言いそびれて電話は切れた。
その後も散々“残業”は続き、気が付くと時計は午前零時を越していた。
「とうとう終わっちゃった……あの子の誕生日……」
嵐は去り、後には出がらしのような女の肉が残された。シャツのボタンは幾つか弾け飛び、剥かれたブラジャーの中身も露に。そして、ブクブクと泡を吹く性器。ピクピクと時折筋肉が引き攣り、かろうじてそれがまだ生きていることを知らしめた。
時は流れ、マリ子は新たにまた人の親となったことを知った。よりにもよって息子の誕生日に孕んだ種。確実にあの夜の受精だと、女の体は言っていた。
〈おわり〉
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