ショートオムニバス・シリーズ 『母を犯されて』
ケース6
母・アサミ 38歳
スグルは何気なく玄関へ出てみた。本当に何の気なしに、何の予感もなく。
そこには母が居た。そして男が居た。母は靴箱にしがみつき、それをガタガタと揺らしていた。というのも、男が後ろから母の尻を突いて揺さぶるからだ。被服を下着ごとずり下ろされ、露になっている生白い尻。その狭間から見え隠れするドス黒い肉棒。母は歯を食いしばり、苦し気に壁を向いている。瞬時にこれらの視覚情報が衝撃的になだれ込んで来た。
母は犯されていた。
「な、な……!」
スグルは言葉を失いつつも、手を前に突き出して、二、三歩進んだ。
すると、母と男が同時にこちらを見た。母は悔しそうな表情を一変させ、悲し気な目をハッと見開いて息子を見た。男の表情は良く見えない。黒いキャップを目深にかぶり、マスクを着けていた。
男は見つかった瞬間に離れ、股間を手で押さえたまま扉を開けて走り去っていった。
「お、おい!」
スグルは反射的に追いかけようとしたが、その腕を信じられない程の力で母に掴まれた。ギョッとして見ると、微かに首を横に振っている。
「で、でも!」
「お願い……スグル、お願い……」
カサカサの声を搾り出すように彼女は言った。
スグルは扉を見、母を見て逡巡したが、遂に折れた。何よりも、肌に食い込む指の力が凄まじかった。そこから悲壮な願いが伝わってきたのである。
彼女は息子が理解してくれたのを見て取ると、後ろを向き黙って衣服を整えた。臀部の肉がツルリと納まれば、それはいつものパンツルック。日々見慣れた格好であって、まるで何事もなかったかのようだ。
スグルはふいに足元に目を落とした。靴下で降りた土間に白濁汁が点々と円になって落ちている。彼はそれを踏んだかと思い、慌てて後ずさった。それと同時に暗澹たる思いに沈んだ。
男は既に済ませていたのかもしれない、と。途中で逃げたように見えたが、最後までやりきっていたのではないか、と。いや、最後とは何か。そもそも入れられた時点で終わりではないか。彼は、当初より一層混乱してきて、頭を掻きむしりたい衝動に駆られた。
そんな中、母はやはり同じく靴下のままで土間から廊下へ上がると、ややあって振り返った。
「スグル」
ふいに声を掛けられて息子は顔を上げる。
「さっきのこと……」
少し言いよどんで、それからも一言一言確かめるように区切りながら、
「お父さんにも、みんなにも、言わないでね。お願い、ね? 誰にも」
彼女は念を押した。その目は赤く縁どられており、心底からの懇願と見て取れた。
息子はもう頷くしかなかった。彼は促されるままに、先にリビングへ戻り、トイレに向かう母と別れた。
「おう、誰か来てたんかぁ?」
部屋に戻ると、父が問いかけてきた。
「ううん、誰も」
スグルは素っ気なく答えると、誤魔化すように冷蔵庫を開け、取り出したジュースをコップに注いだ。
今日はよりにもよって祖母が家に来ており、その手土産にくれたゲームで、今まさに家族みんなで遊んでいる最中だった。妹などは夢中ではしゃいでいる。先程までは彼もそんなだった。
「母さんは?」
「トイレじゃない?」
スグルは出来得る限り平静を装いながら、コップを持った。
「お、なんだ、部屋に戻るのか?」
「うん……明日提出の課題があるの思い出して……」
「なんだよ、またお前ため込んだんだろう。あっ、さてはそれで母さんに怒られたか?」
スグルはもう父を相手にはせず、そのまま自室に上がった。そんな彼の背に祖母の気の毒そうな声が聞こえた。
「あらまあ、大変ねえ」
「(大変なのは……!)」
彼はグッと心を押し殺した。時間が経つほどに深刻な悩みが深まっていく。
あいつは誰なのか。どうして母さんは止めたのか。無理矢理されたのではなかったのか。ひょっとして、母さんは不倫しているのか……
「ああ……!」
ため息ついて机に突っ伏す。
その頃、当の母は便座に腰掛けて顔面蒼白であった。トイレットペーパーでぬぐい、ビデを使い、また拭き、を繰り返す。あるいはウッと下腹に力を入れてみる。そうして、これはもう本当に精神的に苦痛であったが、膣に指を入れてかき出すこともした。思う程、中からは出てこない。だが確実に奴が精子を注いだ実感はある。そう、あの短時間で。彼女は遂に泣き崩れた。
男は彼女がパートを務めるホームセンターの客だった。何度か店で見る内、横恋慕したものだ。特にピチピチに張ったパンツの膨らみに下着のラインがくっきり浮かぶのを眺める内に我慢しきれなくなった。そうしてストーカーに発展し、住居を特定。今日も今日とて玄関先まで侵入してみたところ、思いがけず郵便物を取りに目当ての女が出て来たので、出会い頭に犯行に及んだのである。
急に襲われて、もちろんアサミは抵抗したが、子 供らに危害が及ぶことをほのめかされると、フッと力が抜けた。その刹那を見逃されることなく、下半身を剥かれ、いつの間にか飛び出した剛直で一気に奥まで貫かれた。入室から格闘、そして合体まで、この間僅か数分。挿入後はひたすらの摩擦でノンストップ。
男は歓喜に震えるというより、この時はもう義務を遂行するような調子で、ただただ勃起をこすり続けた。憧れた尻が自分との間で波打って揺れているのも、じっくりとは愉しめない。ましてや、女の家族がいる家で彼女の貞操を奪っているなどという普段なら興奮する実感も、まだまだ追いついてはこなかった。それでも射精はすぐに起きる。だがそれはタッチの差だった。
息子が現れて、あっと思った瞬間、厳密にはその直前位から、彼は射精していた。息子と目を合わせていた時、彼は母親に己の子種汁を注いでいたのである。一波、二波、三波と小刻みに放出する精液の、第四波目途中まで粘ったが、さすがに玉袋の分全部は無理だった。抜く時にトロリとつららが架かって、名残惜しい気持ちを代弁する。それが作業ズボンに付着した。
後はもう逃げるだけだ。大仕事を終えて、その喜びにしばし浸りたい。そう一息ついたのも束の間、運悪く彼は巡回中の警官に見つかってしまった。生憎とまだ股間を露出したままだ。現行犯である。
犯行から逮捕までもあっという間であった。
〈おわり〉
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