おことわり
このブログには、エッチなことがたくさん書いてあります。まだ18歳になっていない人が見ていい所ではありません。今からこんな所を見ていると、将来ダメ人間になってしまいます。早くほかのページへ移動してください。 >googleでほかのページを検索する< なお、掲載している小説はすべて虚構であり、実在の人物・団体等とは一切の関係がございません。 |
お知らせ
「オナこもりの小説」は、エロ小説を気ままにアップしていくブログです。たまに、AV女優や、TVで見た巨乳のことなども書いています。左サイドにある「カテゴリ」から、それっぽい項目を選んでご覧ください。
小説には、連続作品と一話完結作品があります。連続作品は、左「カテゴリ」の各作品名より一話から順番に読むことができます。また「目次」には、各作品の概要などをまとめた記事が集められています。 ■連続作品 ◆長編作品 ▼「子宝混浴『湯けむ輪』~美肌効姦~」 ◆中編作品 ▼「大輪動会~友母姦戦記~」 ▼「青き山、揺れる」 ▼「師匠のお筆」 ◆オムニバス ▼「母を犯されて」 ◆短編作品 ▼「育てる夫」 ▼「最後の願い」 ▼「ママの枕」 ▼「ブラック&ワイフ」 ▼「夏のおばさん」 ▼「二回り三回り年下男」 ▼「兄と妻」 ■一話完結 ▼「ふんどし締めて」 ▼「旧居出し納め・新居出し初め」 ▼「牛方と嫁っこ」 ▼「ガンカケ」 ▼「祭りの声にまぎれて」 ▼「シーコイコイコイ!」 ▼「サルオナ」 ▼「母の独白」 ▼「童貞卒業式」 ▼「お昼寝おばさん」 ▼「上手くやりたい」 ▼「珍休さんと水あめ女」 ▼「栗の花匂う人」 ▼「乳搾りの手コキ」 ▼「妻つき餅」 ▼「いたずらの入り口」 ▼「学食のおばさん便器」 ▼「山姥今様」 ▼「おしっこ、ついてきて。」 ★作品一覧 |
『師匠のお筆』
5-1-11 仕方なしに、枕必は文子の元へと近づいて行った。だがそれは、彼女のリタイアを許すためではなかった。彼は文子の後ろに回り込むと、その乳房をもろ手で鷲づかみにし、それを持って無理やりに起き直らせたのだ。 「ひっ!」 強引に乳房を引っ張り上げられて、文子は痛がった。痛みにつられて腰を浮かす。こうしてとりあえず元の姿勢に帰ることはできた。 しかし、枕必の手はいまだ乳房をつかんだままだ。彼はその手を目いっぱい広げて、乳房のみならず胸板までも握りつぶさんとばかりつかみかかったが、行く手を阻む脂肪の量があまりに多過ぎるので手のひらが押し戻され、指先は胸板に到達するどころか、そこをかすめる機会さえついになかった。その豊かな脂肪は指の間からも大量にこあふれ出ていて、それにより指が胸の肉に沈み込んでいく様が一層強調されて見えた。 ともかくも、枕必がそうして胸を持っていたおかげで、文子は再び倒れ込まずには済んだのであった。 「続けなさい」 厳粛に枕必は言った。 「はい……」 気力なく文子は返事した。一度倒れてしまうと気持ちも途切れてしまい、続きは「お」の次からだ、とは頭で命じていても、中々体がついていきそうにない。 いささか億劫な気分でいると、その時、彼女はふいに背中に生温かいふくらみが当たるのを感じた。 (あ、アレが……) 懐かしい温もりが、コリコリと背中を押していた。文子がいじくった時の固さはもうなかったが、柔らかい中にも芯があり、ぼってりと厚みのある独特の重さが確かに感じられた。 まさしくそれは枕必の男根であった。 (重い……) 背中に乗せられて、文子は思った。しかし、嫌な重さではなかった。むしろ嬉しかった。 重さには、物理的なもの以外に、精神的な意味合いもある。生命にとって神聖な所、大事な場所、また自分との関係からいえば、自分が目標と狙うもの、そういう重さである。 今背中に乗せられてみて、その重みがずしりと心に響く思いだった。そうして意識すると、徐々に背中からエネルギーが伝わってくる気がした。 しおれかけていた文子のやる気に、再び弾みがついた。彼女は嬉々として作業を再開した。男根が体に触れている限り、無限のパワーがみなぎってくるような気さえした。そのやる気ぶりは、まるで鼻先に餌をぶら下げられた動物のようだった。 枕必は、文子の乳房を上方へ向けて握りしめ、男根を背中に下腹部ごと押し当てて固定し、彼女ないし彼女の筆と一体になって動いた。こうして膣に筆をはめ込んでいる文子を抱きしめ動いていると、文子自身が巨大な筆で、枕必はそれを使って書いているように見えないこともなかった。 二人は紙の上で共に体を移動させ、残りの文字をつづっていった。「ち・ん・ぽ」そう書きながら、背中にある実際のそれを意識し、文子の股間はむずむずとかゆいような切なさを帯びて熱していった。総毛立ち、乳首は勃起し、肌が一瞬冷たくなったかと思うと、全身からじっとりと汗が吹き出した。なんだかそわそわと落ち着かなかった。 「おほおぉ……」 文子の口の端からよだれがこぼれ落ちた。まだ挿入していないのに、もう結合している気分で、気持ちが良かった。このままでは、この書が書き終わるより先に、文子はまた気をやってしまうかもしれない。 彼ら中年二人は、こうして自分たちだけの変態的な世界に酔いしれるのであった。 <つづく> << 前回 | 次回 >> <5章 目次> 1 { 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 } 2 { 1 2 3 4 } 目次へ |
『師匠のお筆』
5-2-1 所変わって、こちらは若い二人のいる場所。彼らもまた、淫らな行いに没頭していた。 「イくの? どうしたの? ほら」 須美恵(すみえ)は、神雄(かみお)のペニスを右の手で激しくしごき上げた。左の手は彼の背中からわき腹へ回し、がっしりと逃げ場のないようにホールドした状態だ。 神雄は全身をビクンビクンと痙攣させて、やり場のないこそばゆさに悶絶しそうだったが、須美恵のそのホールドのせいでこの拷問から逃げ出すことができなかった。 一方神雄の方でも、右手は須美恵の背中へ、左手は向こうの肩へと回していたが、こちらは相手の動きを封じるというよりも、むしろしがみついているといった方が正しかった。神雄は、陰茎の刺激を敏感に感じすぎて、何かにしがみついてでもいないと居ても立ってもいられないのである。 「うう……ああぁ……」 神雄は荒い吐息をもらしながら、須美恵の鎖骨辺りに強く顔を押し付けていた。 そんな彼を見下ろしていると、須美恵の心には彼がかわいいと思う気持ちが満ち満ちていく。その気持ちは、母性愛に近かった。神雄ときたら、顔を真っ赤にしてぎゅっとしがみついてきて、その様子はまるで、母に必死で甘える幼子のいじらしさそのものだったのだ。 須美恵はそのかわいさのあまり、今すぐにも彼の頭を抱きしめてやりたかった。が、そうはしなかった。そうする代わりに、彼をいじめるようないじわるな言葉を言い放つのだった。 「どうしよう。ねえ。またドピュドピュゥゥってするの、また。ねえ」 いじらしい少年の表情は、母性愛と同時に、彼女に加虐心をも生じさせるらしかった。須美恵は彼を抱きしめたい衝動をせき止め、逆に突き放すような態度を取ることに一種の快感を覚えていた。 「何回もしちゃうねえ。ねえ? さっきしたばっかりなのにねえ」 須美恵のサディズムは勢いを増していく。それと同時に、陰茎をいじくる彼女の指の動きもまた加速した。 神雄の陰茎は、須美恵の前に初めて姿を露わした時はまだ包皮に先っぽまでくるまっていたが、彼女の度重なる性のアプローチを受けて、今は平常時でも亀頭を露出するまでになっていた。 その亀頭の先端から根元にかけて、須美恵の指が細かく素早く往来する。 「ああっ……あぅ……」 神雄はあえいだ。まだ声変わりする前の彼の声は、高く澄んでいて、かつ悩ましく妙に卑猥だった。 その声の度に漏れ出る熱い吐息が、密着する彼の鼻や口から須美恵の胸に吹きかかり、彼女の胸の内もまた熱を帯びていった。するとそれにともない、彼女の台詞にも色っぽい熱がこもる。 「スケベねえ……。ねえ? おちんちんスケベだね」 聞こえているのかいないのか、神雄は何も答えず、その代わりに左足を須美恵の足に覆いかぶせようとしてきた。 それまでは須美恵にしがみついて上半身を起こしながら、仰向けに足を伸ばしていたのだが、今度はくるりと横になって、ちょうど抱き枕を抱くように左足を彼女に重ねてきたのである。それは、無意識のうちに彼がとった、ささやかな抵抗であった。 しかし、これをされると須美恵の手は神雄の股に挟み込まれてしまい、身動きがとれなくなる。そこで彼女は、その足をブロックするべく自分の右足をごろんと回してきて、逆にそれを彼の両腿の上に乗せた。重石というわけだ。おかげで彼は両足の動きを完全に封じられてしまった。 「おちんちん……、さっきしたのに、おまんこパンパンって。ねえ?」 プロレスまがいの固め技をかけつつ、須美恵はささやく。 「先生のおまんこパンパンってしたのに。ねえ。なんで?」 質問の意図が分からぬのか、耳に入らなかったのか、またしても神雄は言葉を発しない。ただぎゅっと目を閉じて、荒い息を吐くだけである。 「なんでだろ。スケベなんだね。何回もしちゃうね」 須美恵は興に乗って、次から次へと卑猥な言葉を投げかけた。口調は優しかったが、内容は彼を責め立てるものだった。 「どうしよう、ねえ? 困っちゃうね、このスケベちんちん」 彼女は言って、神雄の頭に頬をこすりつけた。そして、彼女が好む柔らかい髪と頭皮からの熱気をそこに確かめた。 「はぁぁ……あはぁぁぁ……」 相変わらず悩ましい吐息を、ただただ彼は吐いている。 「どうしようもないね」 言いながら、彼女は神雄の顔を覗き込んだ。しかし彼は、きつく目をつむっており、彼女の視線に気づかない。須美恵はその愛くるしさに打たれ、その時ばかりはいつくしみたい情に負けて、彼の閉じたまぶたに思い切り口づけをした。薄い皮膚と柔らかいまつ毛が唇に触れる。 彼の態度は変わらなかった。ただかたくなに目をつむって、彼女を避けるわけでもなかった。 須美恵はしばらくそうした後、思い切って体を下にずらしていった。しがみつく神雄の手を無理やりはがし、宙に浮いた彼の左手は、わき腹に回していた手で手繰り寄せて持った。先ほどの足のように、いらぬ抵抗をさせぬためだ。右手は自分の背の後ろに回っているので、股間に届く気遣いはなかった。 彼女はそうしておいて、神雄のいたいけな乳首に思い切り吸いついた。 <つづく> << 前回 | 次回 >> <5章 目次> 1 { 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 } 2 { 1 2 3 4 } 目次へ |
『師匠のお筆』
5-2-2 左、続いて右と、一円玉よりも小さい神雄の乳輪を須美恵は強烈に吸い上げる。時には唇を尖らせて乳首をつまむように吸い、時には大口を開けて広く胸全体を吸った。そうしてペロペロと小刻みに舌を動かす。まるでアダルトビデオの男優さながらに、これ見よがしに大胆な愛撫だ。 それにつられまったく受身で胸を舐めしゃぶられている少年も、これまたAV女優のようであった。 「あぁっ……ふぅっ……」 切ない吐息を漏らして、神雄は身悶える。須美恵が口を離すと、元々は淡い桃色をしていた彼の乳輪が、いつの間にかその周囲も含めてほのかに赤くなっているのが見えた。 「おっぱいなんか吸われて気持ちいいの?」 須美恵は目元に笑みを浮かべて訊いた。 「じゃあおっぱいもスケベだね」 言いながら、神雄の亀頭を激しくこすり上げる。乳首を愛撫している間も、片時とてその手は休まることがなかった。 亀頭は今、粘っこい汁でドロドロにまみれていた。そこには、それ以前に射出した精液の分も混じっているし、今現在も尿道から溢れ続けている新たな粘液も混じっていた。そのせいで、須美恵の手もベチャベチャに濡れていたから、動かすとその度にヌチャヌチャというような卑猥な音が鳴った。 「ふっ……ふあっ……!」 ペニスをドロドロに濡らされて、神雄はもう気持ちいいというよりもわけが分からなかった。ペニスを愛撫されることは確かに気持ちはいいはずなのだが、今は快感を通り越して、無に近い感情だった。エクスタシーが続き過ぎて、その極限の先に行ってしまったような感覚である。 亀頭に刺激を続けられるうち、尿道口の辺りは妙にスースーするし、それに尿意のようなものも強烈にこみあげてくる。しかし神雄には、それが小便を出したい状態なのか、精液を出したい状態なのかが判別できなかった。 「あっ、やっ……!」 されるがままになって、少女のように神雄は高い声を上げた。自分の意志とは無関係にペニスを刺激され、無理矢理その快感を掘り起こされるのは、まるでレイプされているような感覚だった。神雄の体は必死に拒否反応を示したが、まだ腕力では須美恵に勝てなかった。それに、なぜだか力もこもらないような感じだった。 「いいの? 気持ちいいんでしょう? スケベちんちん」 須美恵は煽りたてる。 気持ちいい、確かに気持ちいいのだが、どうにも耐えがたい、それが神雄の今の気持ちだった。ただただ射精の前の快感だけではないのだった。神雄は一生懸命に須美恵にしがみついた。もうそれしかこの拷問に耐え抜く術はなかった。 「うぅぅ……ああんん……!」 何かが出そうだった。それはやはり小便に近いように思えた。神雄は必死にこらえた。ここでお漏らしをしてしまうわけにはいかないと。 だが、須美恵の手は待ってくれない。彼女の指は亀頭上部を休みなく摩擦し、神雄の意志とは関係なく何かを出させようとして止まらない。 「いいのよ。出していいのよぉ。ほら、ほらほら。出しなさい!」 その言葉が引き金となった。 「んっ! んくぅっ!」 神雄の尿道から大量の液体があふれ出てきた。それはやはり尿のようだったが、不思議と匂いはそれっぽくなく、また色もなく、それでいてややとろみのある汁だった。さりとて精液とは明らかに違うし、またいつもの粘液よりはシャバシャバと粘性が薄かった。 須美恵は、出せとは言ったが、こういうものが出ようとは思ってもみなかった。 「あらあらあら……」 彼女には初めての経験だった。そもそもそれほど男性経験の豊富でない彼女だから仕方がない。彼女は、それが尿であることを疑った。だが、それでいいとも思った。もうこうなったら、シーツが汚れようと関係ない、とことん出させてやろうと、むしろさらなる加虐心に火をつけるのだった。 「出ちゃったわねえ……。ねえ? ほらあ、まだ出るぅ?」 須美恵は、そのトロトロの液体を伸ばしながら陰嚢までクリクリといじくり、そこから竿の先まで一気にこすり上げる。そしてその往復を、時折指を屈折したりなどしながら、大きな動きで始めた。 「いっ……ひぅ……ん……!」 一時は我慢の限界から解放された神雄だったが、それも一瞬のことで、再び始まった陰茎への刺激に、またしても悶絶させられるのだった。汁も最初の噴出の後すぐ止まっていたが、新たに亀頭をこすられるとすぐにまた出た。 「うわ……やだ、ほんとにどんどん出る……」 須美恵のその言葉を聞いたのが最後だった。頭が真っ白になって、神雄の意識が飛んだ。 <つづく> << 前回 | 次回 >> <5章 目次> 1 { 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 } 2 { 1 2 3 4 } 目次へ |
『師匠のお筆』
5-2-3 それからどれくらいの時間が経ったのか。神雄が気が付くと、そこには見覚えのない天井が広がっていた。いや、覚えがないと思ったのは一瞬のことで、その後すぐにそこがどこなのか、今どういう状況だったのかを順々に思い出した。 (……ここは、須美恵先生の家で……) 今日は習字の日ではなかったが、先生から特別の指導があるということで、個人的に須美恵の家へと招かれたのである。そして例によって、指導とは名ばかりの淫らな時間を過ごしたのだった。 神雄はそうやって一つ一つ記憶をたどっていき、それが最後まで行き着いた時、はっとして股間を見た。 「ん……んふ……」 そこには、自身の陰茎をぱっくりと口の中に収めた須美恵の顔があった。須美恵は、唇から顎、さらには鼻の頭まで濡らし光らせながら、ペチャペチャと陰茎をなめしゃぶっていた。 だが神雄には、舐められていてももう気持ちいいという感覚はなかった。それどころか、勃起しているのかどうかすら分からなかった。 「ウーン、もう勃たないかなあ。いっぱい出ちゃったもんね……」 そう話す須美恵の口からポロリとこぼれ出た陰茎は、もうすっかりしぼんでいた。神雄が意識を失った後も彼女は執拗にいじくっていたのだが、どんどんとそれはしおれるばかり。そうはさせじと須美恵は口唇愛撫まで持ち出したが、さすがにもう手遅れだったらしい。 実は神雄の意識が飛んでいたのはごくわずかの間だけで、彼女が口淫をし始めた時に、ちょうど目が覚めたのだった。 「ダメね、もう」 ようやく諦めて、須美恵は最後に口づけをし、陰茎を手放した。 「シャワーしよっか。いっぱい汚しちゃったし」 彼女はそう言うとすぐに立ち上がって、さらに神雄の手を取り彼を助け起こした。 「ねえ、見て、ほら。こんななっちゃって」 言われて、神雄は後ろを振り返った。すると、今自分がいた辺りのシーツがぐっしょりと濡れていた。それを見て、彼は考えた。最後は、射精したのだろうか、それとも放尿したのだろうかと。だがいくら考えても判然としなかった。肝心の陰茎の感覚でも、どちらだか分からなかった。 「このスケベなおちんちんがいけないのよ」 神雄の疑問も知らず、須美恵はふざけた調子でそう言うと、彼の陰茎を手のひらに乗せポンポンと跳ね上げた。そうして、そのままそれをつかむと、まるで手を引くようにそれを引っ張って、彼を浴室まで案内した。 浴室は、神雄が見たところ、彼の家のそれよりも広いように思われた。いずれもマンション住まい、しかも、かたや家族と同居、かたや一人暮らしであるにもかかわらずである。須美恵の暮らしぶりが富裕であるらしいことは、子供である神雄にも何となく理解できた。 「熱くない? 大丈夫?」 シャワーの温度について、須美恵は訊いた。 「うん……」 神雄は二度頷きながら答えた。緊張して声が出にくく、一回で返事が伝わったかどうか不安だった。相手は既に肉体関係を結んだ女でありながら、まだ彼の緊張は取れなかった。彼にとって、肉体がどうのという事情は何ら関係なかった。日頃教室にいるときから、彼女の前では常に動揺気味だったし、そうして、彼女にはいつも従順だった。 「座って」 須美恵に勧められ、今も従順に彼は腰かけに座った。 その後ろで、彼女はスポンジを泡立て、うきうきと神雄の体をこすり始める。背中、腕、前へ回って、胸、腹……。 と、唐突に須美恵は言った。 「チュウしよ」 嫌も応もなかった。神雄は唇を奪われた。 そして、しばらくくっついて、やがて、チュッ、と音を立てて離れた。 唇を離した須美恵は、真っ直ぐに神雄の目を見た。神雄も、この時ばかりは真正面から須美恵の目を見返した。 そうして見つめあった後、須美恵は彼の頭を撫でながら言った。 「好き……」 彼女の手に付いていた泡が、神雄の髪にも付いた。 <つづく> << 前回 | 次回 >> <5章 目次> 1 { 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 } 2 { 1 2 3 4 } 目次へ |
『師匠のお筆』
5-2-4 須美恵はそうして髪を撫でながら、心底愛おしそうに神雄を見つめていた。ただ、彼女の感じるその愛おしさとは、成熟した男女間のそれとは違い、もっと限定的なものだった。 「ちょっと重いかも」 須美恵は言って、神雄の膝に向かい合わせに跨った。そうして、彼の胸にスポンジを当ててこすった。少年の体は、まだ骨も発達途上の上に筋肉もあまりついていず、柔らかくほっそりとしていた。肋骨などは、まるでウサギか猫のように危うくももろかった。その段差を、彼女は下からなぞり上げる。 「きれいきれいにしないとね」 年齢以上に幼い子供に言うように、須美恵は言った。彼女は、相手が自分自身では体を洗えないものと、いつしか決め付けていた。またそうであるならば、自分こそが洗ってやらなければならないという魂胆でいた。 神雄も神雄で、一切合財まかせっきりで、おとなしくいいなりになっている。それは、女に洗わせているという優越感からのことではなく、ただどうしていいか分からずに流れに従っているというだけなのであった。 それをいいことに須美恵は図に乗り、まるで着せ替え人形か何かで遊ぶように、己の欲望のままに彼の世話を焼いてやる。彼女の感じる愛おしさとは、このように人形を愛でる少女のような感情であって、すなわちそれは、完全に自分の支配下にあるものに対する、権力的な愛情なのであった。 期せずしてそれは、父・枕必が神雄の母・鈴美に対して抱く感情と似た性質のものであったが、須美恵はそのことを知る由もない。 「くっついちゃおうかな」 言いながら、須美恵は自分の乳房を相手の薄い胸板に押し付けた。ボディーソープの泡が胸板から乳房に移りゆく。そうして彼の背中に手を回しながら、泡にまみれた乳房を胸の上でこすり回す。するとその二つの脂肪の塊は、いとも軽快に所狭しと踊りまわり、密着する二人の間でコロコロと形を変えていく。 そんな乳房の優しい圧迫は、二人ともに心地のいいものだった。 「ねえ、おっぱい気持ちいいでしょう?」 須美恵は訊いたが、それは自分自身も気持ちがいいことを踏まえた上でのことだった。一つには、己の胸に対する自信の表れでもあったが、単純に、二人の肌の間を脂肪の弾力がヌルヌルと移動する感触が心地よいのであった。 心地よいのは神雄にも同じだった。その上、彼はなんだか不思議な気分であった。というのも、既にこれまで何度も須美恵の乳房には触らせてもらってきたが、いまだに女性の乳房というのはとらえどころがなく、彼にとって神秘的なものだったからだ。だから、今体の上でつぶれたり盛り上がったりしている様子を見ても、どこか夢のような気持ちなのである。 乳房について今までに確信が持てたのは、母の胸よりも須美恵のそれの方が確かにボリュームがあるということぐらいだった。母・鈴美もまったく無いわけではないし、須美恵も目立って大きいというほどではなかったが、須美恵の場合、バストの下に影ができる位容積が明らかだった。 「……ここは、一番きれいにしないとね」 膝から降りて下半身を洗った後、いよいよメインディッシュとでも言いたげに、須美恵は神雄の股間に手を伸ばした。 「今日がんばったもんね……。お疲れ様」 ひとり言のように言って、須美恵は、肛門、精嚢、幹部、裏筋、亀頭と、実に丹念に精魂こめて磨いていった。ほとんどそれまでにかかった時間の倍ほどもかけてだ。 最初はスポンジで軽くこすり、しかしそれだと亀頭には刺激が強すぎるらしく、神雄が痛そうに腰を引いたので、途中からは泡まみれの両手で、丁寧に丁寧にさすりながら洗った。ある時は陰茎を手のひらに乗せて、ハムスターか何かを撫でるようによしよしとさすり、ある時はそれを下腹部に押し付けて伸ばし、陰嚢から裏筋にかけて少し力強くごしごしとこすった。 そうしてようやく磨き終えると、これも須美恵手ずからシャワーで彼の泡を洗い流す。 「きれいになったねえ」 健全な保護者のような口ぶりで須美恵は言った。しかし語調とは裏腹に、その内心にはいまだ淫らな思いが渦巻いていた。それが証拠に、シャワーで体を流しながらも、彼女はちらちらと神雄の股間を横目でうかがい見ていたのである。未練だった。 その未練に、彼女はためらわなかった。神雄の前ではいつも、ためらうべき何物もないのだ。須美恵は、一通り泡を落とすやいなや、すぐさま床に這いつくばった。そして、今洗ったばかりの陰茎を、何も言わずに口淫し始めたのである。 神雄は見ていた。彼も何も言わなかった。なんだか夢と現実の区別がつかないような、曖昧な気分だった。度重なる須美恵との情事によって、彼の常識はマヒしていた。 「はい、いいわ……」 しばらくやってとりあえず満足したのか、須美恵は離れた。実は、また勃起するのではないかとひそかに期待していたのだが、いくら口の中でモグモグとやっても、あいにくそれは柔らかいままだった。 脱衣所でも須美恵が主導権を取って、甲斐甲斐しく神雄の体を拭いてやった。そこでも、たまりかねた様子で彼女は言った。 「ちょっとごめん……」 またしても彼女はぱっくりとやった。くるぶしの辺りをタオルで拭きながらのことだった。目の前に来た肉竿を、どうしてもスルーできなかったのである。 その後、服を着せてやる最中にもくわえた。そばにそれがある限り、須美恵としてはどうしても弄びたくて仕方がないらしい。 ようやく服を着ると、二人は揃って家を出た。その足で教室へと帰るのである。今まで淫らな時間を過ごしていたなどとはおくびにも見せずに。実際、すれ違う誰も、彼らが肉体関係にあるなどとは考えもしないだろう。 こんな風に二人の逢引は、須美恵の自宅という誰気兼ねない場所を得て、より一層濃密なものへと進展するのであった。 <つづく> << 前回 | 次回 >> <5章 目次> 1 { 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 } 2 { 1 2 3 4 } 目次へ |
<登場人物> 枕必(ちんひつ)……有名書道家。須美恵の父。 須美恵(すみえ)……枕必の娘。書道教室を経営。 神雄(かみお) ……須美恵の生徒。鈴美と神雄の息子。 鈴美(すずみ) ……神雄の母。 瑞夫(みずお) ……神雄の父。 文子(ふみこ) ……枕必の古くからの愛人。 『師匠のお筆』 6-1 瑞夫は、今日も定時に仕事を終え会社を出た。残業という観念のない職場だった。そのまま電車に乗り、一時間ほどかけて帰宅する。いつも真っ直ぐに帰る。無趣味で交際範囲の狭い彼にとって、寄り道する当てなどなかった。 独身時代には、性風俗店に通ったこともあった。月に一度位の割で通った。だが、結婚してからは、そういう遊びに金を費やすことがなんだか勿体なくなって、それで行くのをやめた。飽きた、とも言えた。 そういえば、先日ふと魔が差して、久しぶりにファッションヘルスに寄ったのだが、間の悪いことに、その時貰った名刺を妻に見られてしまうという、彼にとってちょっとしたアクシデントがあった。 (あれは、まずかった) そんな時に限って見つかってしまうというのは、何とも運のない話だと思った。 彼の妻・鈴美は、瑞夫の金の使い道を常々事細かに制限するということをしなかったので、彼としては、自分の趣味に使う分を比較的自由にねん出することができたのだが、だからといって、やはりそういう場所に出入りすることを、彼女が歓迎しているわけなどなかった。 (悪いことをしたかな……) 彼は、平生にもなく後悔していた。一体に無感動な彼が、他人に対してすまないと思うことは、珍しいことだった。 それというのも、近頃妻の態度が冷やかだと感じられるからだった。 一つ合点がいかぬことには、息子の態度までもよそよそしく感じられることである。やはりこれも、母親の影響によるものだろうかと、彼は考えていた。 (そういえば、今日も教室だったかな) 駅に降りた瑞夫は、ふと立ち止まって考えた。 神雄が書道教室に通い出してからというもの、息子ばかりか鈴美までもが熱烈に書道にのめり込んでいく様子を見て、彼としてはやっかみ半分、これまであまり関心を示してこなかったが……。 (よし) これも、魔が差したというべきだろうか。妙に晴れ晴れとした気持ちで、彼はいつもの家路ではなく、別の道を選んで歩き出したのである。 その先に待ち受けるのが、世にも淫らな痴情教室であるとも知らずに……。 <つづく> << 前回 | 次回 >> <6章 目次> 1 2 3 4 5 6 7 8(終) 一話から連続表示する 目次へ |
『師匠のお筆』 6-2 教室には、その日、期せずして鈴美も訪れていた。ここに通う生徒の母親として、ごく自然な訪問だった、はずだが……。 「ああぁ……先生……、もう許してくださいませ……」 あえぎあえぎ、鈴美は言った。明らかに、ただの保護者らしからぬ様子だった。 「んん? どうして?」 そばにいた枕必が尋ねる。彼も教室に来ていたのだ。ここの経営者の父親、あるいは師匠として、それもやはり不自然なことではないのだが……。 「だって、先生……」 鈴美は口ごもる。 「何? 言ってごらん?」 「あぁん……いやぁ……」 身悶えて、ごまかす鈴美。二人は、恋人が情事にふけるように、彼らだけの世界でじゃれ合っているようだった。 二人が、初めてこの教室で出会ってから半年近く、初めて肉体関係を結んでから二か月余りの月日が流れていた。 (変われば変わるものだな) と、枕必は思うことがある。初めて会った頃の鈴美からは、不倫に興じる様子など微塵も想像できなかった。まして、性を前向きに愉しむようになろうとは。 「せ、先生ぇぇ……」 彼女は今、膣に後ろから毛筆をねじ込まれていた。これも、性の戯れの一環である。彼女は、それを拒まないのだった。 それも、ここはラブホテルの一室ではなく、息子の通う書道教室の事務室である。鈴美はそこで、スカートをたくし上げ、壁に手をつき、尻を男に向かって突き出しているのだ。 「許してぇ……」 枕必のつかむ毛筆が、肉竿よろしく彼女の秘唇をかき乱すと、自然と鈴美は媚びた様な艶やかな仕草を見せる。そんな艶姿に説得力を持たせるがごとく、彼女のそこは濡れそぼち、筆が動く度にクチャクチャ言った。 「止した方がいいかい?」 枕必は訊いた。筆を持たぬ方の手で、鈴美の白い尻を撫で回しながら。 「さすがに、ここじゃ気が引けるかい?」 言いながら、尻肉をつかむ。元々肉は薄かったが、それでも近頃は女らしい色気が出てきたと彼は思う。おそらく、枕必になぶられたせいも、年齢的に肉体が果実のように熟してきたせいも、どっちのせいでもあるのだろう。 パチン、と、そこを軽く打って、その肌の反発を確かめながら、彼は言った。 「違うだろ? ここだから、余計に興奮するんだろ?」 「あ、いえ、ちが……」 鈴美はやや焦って、それ以上具体的なことを言わせないつもりで遮った。しかし、枕必は先を続けた。 「息子がすぐそこにいるのに、こうやっていけないことをしてしまうのが、いいんだろう?」 枕必の言う通り、彼女の息子・神雄は今、この部屋のすぐ隣にある教室で、習字の勉強をしているはずだった。例によって、須美恵とのマンツーマンによる補習である。 「おっしゃらないで」 違う、と鈴美は思った。息子は関係ないと。そもそも、枕必との逢瀬の時に、家庭を思い出させるようなことを言わないでほしかった。それは、逃げだった。 「ほら、神雄君がそこに……」 「言わないでください!」 痛いところをあえて突く枕必、それを必死にかわそうとする鈴美。このつばぜり合いを押し切ったのは、やはり枕必だった。 「違やしないだろう! こんなになっておいて!」 彼は少し声を荒げて、そうして、激しく膣内の筆を上下させた。ジュバジュバと聞こえるような汁の音が、けたたましいほどにそこから鳴る。 「あぁぁ……、それは、だって……」 理不尽な話だった。この体の状況にしても、こういう関係になるに至ったのにしても、全部枕必のせいではないかと鈴美は思った。だが、彼だけを責められるものではない。 (それは、わたしだって……) 鈴美は心にごちた。自分にも責任があることは分かっている。枕必に抱かれることを気持ちいいと思うのだから。そして、彼に抱かれたいと思うのも真実なのだから。 (だけど……だけど……) 女には理由が要る。単純に肉欲だけを欲しがれたら、どんなにかいいだろう、と彼女は思うこともある。しかし、現実にそんなことはあり得ない。だから、許しが欲しい。逃げの口実が。 「ああぁっ……いやぁっ……!」 千々に乱れる心そのままに、鈴美はあえいだ。 「ア~ア、ビッチョビチョだ」 呆れて見せて、枕必は筆を一旦抜いた。ポタリポタリと愛液の雫が、筆の柄、秘穴、両方からこぼれ落ちる。 「ほら、この筆」 彼は、抜いた筆を鈴美の顔の前に持って行った。それは、つい先日枕必から彼女にプレゼントした筆だった。 「こんなことに使っちまって」 「あぁ……」 鈴美は羞恥にゾクゾクと震えた。なんて情けないことをしてしまっているのかと。唯一ともいえるプライドの書道の道具を、そして、敬愛の対象である師・枕必を、自分は淫乱な背徳の渦中に貶めてしまっているのだ。 「いやぁ……」 誇りと痴情が倒錯し、彼女は混乱した。 枕必は、そんな内心を知ってか知らずか何も言わず、唐突に鈴美の肉穴に中指をぐっと挿し入れた。筆で空洞が作られていたおかげで、穴はわけもなく指を奥まですっぽりと飲み込む。その中で彼は、クイクイと関節を動かした。 「ひゃぁああ……!」 「気持ちいいんだろう? 鈴美」 枕必は、彼女の耳元に寄ってささやく。 「気持ちいいのは、いけないことじゃないよ」 肉穴に刺さる指が二本に増えた。薬指だった。 「神雄君が居たって……」 枕必は、二本の指を穴の中で折り曲げた。そして、それを自在鉤のように見立てて膣穴をひっかけ、そのまま彼女の体を持ち上げんばかりに引っ張り上げた。指の腹が上の壁に食い込み、排泄のための経路まで歪める。 「うぅっ……! うふぅぅっ……」 うめく鈴美。 枕必はそれに構わず、膣壁をこそばすように指先を振動させる。そうした上で、語りを続けた。 「いや……、神雄君が居た方がいいんだ! 何もかも受け入れて、気持ちよくなるために」 言いながら、人差し指までその穴に追加する。 「お母さんだって、気持ちよくなるのは当たり前のことだよ。神雄君が――、息子が居る場所で、素直にそれを認めなさい」 鈴美には、彼の理論が理解できたわけではなかった。だが、言葉以上に心に響くものはあった。彼女は、何もかも枕必の言う通りなのだと、いつしか暗示にかかっていた。 そんな鈴美の痴穴を、三本の指がかき混ぜる。枕必は、指を三本ねじ込んだまま、手首を右、左に返して回転させた。それにつれて愛液の卑猥な音が、クチャッ、クチャッ、クチャッ、クチャッ、と響く。 「何もかも受け入れたいんだろう? 何もかも、一緒くたに。母としての自分も……、セックスも……」 「あ、あ、あ、あ……」 枕必のささやきにより、体の芯を何か熱い物が鋭く貫いていく気がして、鈴美は鳥肌を立てた。やがて、混乱した彼女の心には、肉欲だけが残るのだった。 <つづく> << 前回 | 次回 >> <6章 目次> 1 2 3 4 5 6 7 8(終) 一話から連続表示する 目次へ |
『師匠のお筆』 6-3 その頃、枕必と鈴美が戯れる部屋の隣の教室では、彼らの子供たちである須美恵と神雄が、これもまた淫らな遊戯に興じていた。 「ぶっといわね、これ」 神雄の顔に向かって、吐き捨てるように須美恵は言った。その視線の先には、彼の男根がある。それは、地面と平行、いや、その度を越してさらに上方へ向かって勃ちつつ、ピクンピクンとリズムを刻んでいた。 彼の足元には、シャツやズボンやブリーフなどの衣類が、ぐしゃぐしゃになって落ちている。少年は今、素っ裸で立たされているのだった。 そんな彼を、こちらはしっかりと洋服を纏った須美恵が、高飛車に見下している。 「見られるわよ、お母さんに」 真顔で須美恵は言った。脅かすような口ぶりだった。 鈴美が来ていることを、二人は知っていた。さっき、この教室の前を通っていったからだ。さらにその後、枕必と隣の部屋にいることも知っていた。 「見られるわよって言ってるの! このぶっといの」 須美恵は、肉竿の先の方を握って、大きく上下に振った。握手をした手を、子供がふざけてブンブン振り回すような仕草だ。 神雄は、つかまれた瞬間こそビクリと肩をいからせたが、後はただ委縮し、硬直して立ちつくしていた。硬直の具合は全身に至っており、彼の陰嚢までもが、まるで持ち主と同じように縮こまっていたので、それは肉竿を振られてもあまり揺れないほどだった。 「こんなとこだけ立派になって。――見てもらいましょうか? お母さんに」 須美恵は、ちょっとイライラした様子で言った。頑なに黙りこくって、態度のはっきりしない神雄を見ていると、時々癇に障ることがあるのだ。 もちろん、本当に見せに行くつもりなどない。そんなことをすれば、かえって須美恵の身の破滅である。彼女は、神雄が反抗しないことを見透かしていて、それでわざと踏み込んだ発言をし、愉しんでいるのだ。 「お母さん知ってるの? 知らないわよね。あなたがこういう……、変態だってこと」 変態呼ばわりされてもなお、相変わらず神雄は沈黙を守っている。いつもそうだった。そして、そんな彼のことを、須美恵はよく、いじめたいと感じる。これも愛情の裏返し、というわけだろうか。 須美恵は、さらにまくしたてる。 「おちんちん大きくしちゃってさあ。いやらしいこと考えてるから、こんなになるんでしょう? ねえ?」 言いながら、肉棒をベタンと下腹に押し付ける。 その反動で、神雄は足を後ろによろめかせた。いかにも屈辱的なポーズだった。 「もうお母さんとか関係ないんだ? スケベ過ぎてどうしようもないんだ?」 矢継ぎ早の詰問に、ますますうなだれる神雄。まるっきり、悪さを咎められて説教されている格好だった。だが、もちろんこれは筋の通らない説教である。彼がこんな目にあっているのも、須美恵の主導によるものなのだから。 そういえば、神雄の母・鈴美も、隣の部屋でちょうど同じような理不尽な思いをさせられている。須美恵の父・枕必の企みによってだ。 須美恵も神雄も、そんなことは知らない。 神雄は言うまでもないが、枕必の女癖の悪さは重々承知しているはずの須美恵でさえ、具体的に彼と鈴美を結び付けて想像したことはなかった。まして、隣で情事にいそしんでいようとは。 (あいつの名声で、あの女をたぶらかしておいて……) などと、かつてその程度の画策は目論んだが、肉体関係に至っているとまでは考えないのが、彼女の想像力の限界だった。 「ねえ、もしかして、お母さんがいるから余計に興奮してるの?」 意地悪くほほ笑みながら、須美恵は訊いた。そんなことはないだろうという思いと、ひょっとしたら、という思いの相半ばする心境だった。 (でも、本当に母親のせいで欲情したりもするのかしら? 男はみんなマザコンだって言うし……) だとしたら、と須美恵は考えているうち、何だか鈴美に嫉妬の気持ちが湧いてきた。結果、神雄をさらにいびりたくなった。 「お尻を出しなさい」 言って、彼女は強引に神雄を引き寄せた。 彼は、腹部を彼女の左腕に預けて、そこを軸に体を前のめりにする姿勢をとらされた。これで命令通り、尻が須美恵の眼下に位置するわけだ。 「いけない子ねえ。お母さんが居ても、スケベなことばっかり考えて。おちんちんこんなに勃てて……。そういうダメな子はねえ……」 (お尻ペンペンよ!) 須美恵の頬が緩む。この思いつきは彼女を興奮させた。 須美恵は右手を振り上げた。そして――、ピシャリ! したたかに神雄の尻をぶった。 「こうよ!」 すぐにもう一発ぶつ。ジーンと手のひらがしびれる。それと同時に、彼女の心をゾクゾクと黒い悦びが走る。 (ああ! お尻を! この子のお尻を!) 少年の小さな尻をぶって、懲罰を与えること――、まるで母親の代役としてそれをなす自分に、彼女は酔いしれていた。実の母親よりも重要な地位を占めていると、彼女は実感するのだった。 神雄は、この不条理極まる体罰をも、甘んじて受けた。もはや理屈などはなく、ただただ須美恵に従うのみだった。彼の男根は、その間も強固に勃起していた。 「こうよっ! そういうスケベな子にはねえ、こうっ!」 バチン! バチン! 須美恵の平手が連発する。叩く度に、力も強くなる。見る間に、神雄の尻は真っ赤になった。 須美恵は、ちょっと休むつもりで、右手をさらに奥へと伸ばしてみた。陰嚢、そして、その肉棒がそこに確かめられるはずである。と、すぐにその指先に、そそり立つ肉棒が触れた。 「あなた、子供のくせになんてちんちんしてるの! どうしようもない変態さんね!」 須美恵は、容赦ない罵声を浴びせた。が、内心は狂喜していた。望み通りの彼の反応に。 (なんて素晴らしい子……!) 彼女にとって、理想の性奴隷だった。彼女はうっとりと、彼の背中を撫でた。少年の肉体は、猫を抱くような柔らかさだった。その表面の細かい産毛が、手のひらに心地良かった。 そこを撫でるうち、今までとは打って変わって極端に優しい言葉を、われ知らず須美恵は発していた。 「痛かったわね……。ごめんね……」 彼女の心に、少年への愛が満ち満ちている証だった。 神雄は何も言わない。ただ彼の男根は、今にも暴発しそうなほどに猛り狂って勃っていた。 <つづく> << 前回 | 次回 >> <6章 目次> 1 2 3 4 5 6 7 8(終) 一話から連続表示する 目次へ |
『師匠のお筆』
6-4 瑞夫は、書道教室の前に着いた。それは、駅から少し離れた、住宅地の中にあった。近所でありながら家とは別方向なので、今までこちら側に用事のなかった彼は、この辺りに来ること自体初めてだった。 (さすがにちょっと遅かったかな……) 彼は、腕時計を見た。午後六時前を指していた。 まだ完全に日は落ちていないものの、急速に迫る闇が、ぼちぼち道の先の見通しを遮りだしていた。その夕闇と同調するような灰色の四角い建物が、一種不気味な存在感を放って建っている。 子供たちの通う習字教室ということだが、それらしい声は一切聞こえない。瑞夫は、門扉の所でちょっと躊躇した。 (もう帰っているかもしれないな) 内向的な彼の心は、先方に確かめるという作業を厭い、次第にこのまま帰る選択へと傾いていった。そして、実際踵を返しかけた。が、その時――、 (何か聞こえた……?) 女の声が聞こえた気がした。それは一瞬で、しかもかすかなかすかな声だった。だが、彼の足をとどめさせるのには、それで十分だった。 男が性に関して張り巡らせるアンテナは、実に侮りがたいものがある。ごくわずかな手掛かりによってさえ、それを性的関心事に結び付け、妄想をたくましくするものだ。これは男のさがであり、女の想像を超えたものである。 今も、彼の心には、たちまちにしてむくむくと下世話な好奇心がわき起こっていた。 (喘ぎ声……のような……?) 性的好奇心は、思いもかけぬ行動力を呼び覚ます。彼は、辺りをうかがいながら、そろりそろりと建物の外周に沿って歩いていった。 教室の建物の周囲には、そのさらに外を囲む壁との間に、一メートル強の隙間がある。瑞夫は、建物の玄関に入らず、門扉から道をそれて、そちらの隙間へと侵入していった。 (どこから聞こえたのか……?) 声は、もう途切れていた。気のせいだった可能性もある。それでも彼は、大きな期待と確信を持って進んだ。 壁の向こうを眺めてみる。隣の敷地との境界をなす壁、その向こう側には民家があった。あちらは、こちらのように隙間がないようで、壁のぎりぎりに家を建てている。 最初彼は、その二階辺りから聞こえたのかと思っていた。だが、そちらは窓が閉め切ってあって、閑散と人の気配も感じられない。 (まさか、こっち?) ほどなくして彼は、教室の窓が一つ開いているのを見付けた。どうやら、声はそちらから聞こえたようである。 性に関しては、すさまじい執念と度胸を発揮するのが男という生き物だ。瑞夫は、ドキドキしながらも、思い切ってその窓に顔を近づけていった。 まず目に入ったのは、網戸。続いて、内部の道具類が視界を遮る。窓際には棚があるらしく、そこに何やら雑多な物が色々置いてある様子だ。おかげで、すっきりとは中を見渡させてもらえない。 それでもその隙間から、瑞夫は何とか目を凝らす。部屋の中は電気がついていず、かなり薄暗かった。しかし、次第に目が慣れてくる。――と、 (あっ!) 彼は目をみはった。そこには女性がいた。 女性は壁に手をつき、身を低くして尻を突き出していた。尻から脚部にかけては、何も覆う物無く露わになっている。すらりと伸びた美脚が、薄闇にひと際まぶしかった。 (これは……!) 心臓の鼓動が高まる。件の声は、明らかにその女性が発したものだった。瑞夫は目撃したのだ、セックスの現場を。 いかに期待していたこととはいえ、まさかセックスそのものを目の当たりのしようとは半信半疑だった。人のセックスを盗み見る機会など、そうあるものではない。それが、こんな形で実現しようとは。 よくよく見れば、乳房も露出しているようである。まさにまぎれもなく、ことの最中というわけだ。 (きれいな女だ) と、瑞夫には見えた。切れ長の眉と尖った顎の輪郭が、引き締まった小顔に映え、鋭敏で勝気な美人を感じさせた。体形も、背中から腰の辺りは洋服で隠れていたが、足の細さから推して、スレンダーなのが連想された。 そんな美人が今、眉根を寄せ、顎を上向けた先から色っぽい吐息を吐いて、後ろから何者かに腰を突かれているのだ。 (誰なんだろう? それに、相手は?) 残念なことに、隙間から見える断片的な視界からは、男性の姿まで確認することができなかった。 もっとも、男性の方に対する興味はすぐに失せてしまった。彼の猥褻な好奇心は、女性の痴態さえ拝めれば、それで満足だったのである。それに、女性の素性すら分からない彼にとっては、男性の情報などなおさら意味のないものと思われたのだ。 だが実のところ、瑞夫には、その男性の素性こそが重大だったのである……。 そうと知らない彼は、無思慮にも、己の股間をまさぐり始めた。 (大丈夫、見つかりはしない……) 性欲いかんともしがたい時、男は時として、理性を見失うことがある。瑞夫もまた、目の前の痴態に引き込まれる余り、根拠のない甘い判断を下すのだった。 彼の股間は、心臓の鼓動とともに激しく拍動していた。そして、おそらくは目の前の女性を貫くそれと同じであろう状態に、彼の肉棒もなっていた。 瑞夫は、遮二無二それを引っ張り出した。せっかくの絶景を前にして、シャッターを切らない手はないとばかりに、彼はカメラを取り出すがごとくにペニスを取り出し、そうして、それをしごき始めたのだ。 (ああ……) 強烈な興奮が、彼を快感の淵に引きずり込む。瑞夫は、まるで自慰を覚えたての少年時代に戻ったかのように、ほとんど一心不乱に肉竿をしごいた。 たとえ子を持つ親となろうとも、この因習からは逃れることができない。彼は、それが幼稚な行いと知りつつも、また、自分が世間で“いい歳”と呼ばれる大人だと自覚しつつも、今この場での手淫を我慢することができなかった。 もし、裏の家の住人がこの状況に気付けば、一遍に全ての地位を失いかねない危険な状況だったが、頭に血の上った彼にはそんな冷静な判断はできなかった。むしろ、そういう緊迫感が、かえって興奮に拍車をかけるぐらいだった。 「アッ! アアンッ!」 目の前の女性が、気持ち良さそうにひと際甲高い声で喘いだ。それを見て瑞夫は、一層激しく右手を動かす。まるで、アダルトビデオを見て、オナニーしている感覚だ。ただそれと違うのは、映像でなく実演の点である。 生の迫力は、映像と比較にならない。それもこの場合、作り物ではなく、自然の性である。他人の生々しい本気セックスが、今目の前で展開されているのだ。 そう思うと、瑞夫は、眼前の女性のことは知らぬながら、彼女が日頃、性とは無縁のような顔をしている様を夢想し、そんな女でもプライベートでこんなセックスをするのかと思えば、それをただならぬ卑猥なことのように感じるのだった。 (エロい女だ) パンパンと肌を鳴らしながら、男と腰をぶつけ合う彼女を見て、瑞夫の興奮はいやが上にも高揚した。ここが、息子の通う書道教室であることなど、とっくの昔に忘却していた。 そのことがちょっとでも頭をよぎっていれば、彼女がどういう立場の人間なのか予想がついたかもしれない。いかに、彼女の顔を見知らぬとはいえ……。 だが、たとえ女の正体が分かったとしても、その相手がまさか息子であろうとは、瑞夫には想像だにできないことだったろう。子供が、まさかあんな大人の女と、堂々腰を突き合わせていようなどとは! それは、世間の誰にも予想しづらい事態であるに相違ない。ましてや、彼にとって神雄は息子であり、なおさら小さな子供、何もできない子供、性から最も縁遠い存在と確信していたのだから。 その神雄は、父が覗いているとも知らず、須美恵の尻に激しく腰を打ちつけていた。いきり立った肉棒を、彼女の肉穴にハめ込みながら。 それを見て手淫にふけるのは、彼の父・瑞夫。息子とは知らぬながら、結果的に息子のなす性交を見て、彼は己の肉棒を握りしめているのだった。 「か……君、もっとぉ……あぁ……」 今、確かに須美恵は神雄の名を呼んだ。しかし、喘ぎながら言うのと、声が遠いのとで、幸か不幸か瑞夫にはそれが伝わらなかった。 瑞夫は夢中でオナニーした。彼が夢中である様子は、傍目にもよくわかった。実際、すぐ近くで人が見ているのにも、まるで気が付かなかったのだから。 <つづく> << 前回 | 次回 >> <6章 目次> 1 2 3 4 5 6 7 8(終) 一話から連続表示する 目次へ |
『師匠のお筆』 6-5 ――その瞬間、瑞夫の心臓は凍りついた。 先ほどまでの高揚感が、嘘のように引いていく。 彼は油断しすぎた。 ほんの三、四歩の距離に、相手はもう立っていたのである。 (はっ!) 振り向きざまに、瑞夫は眼を見開いた。 薄闇の中に、ぼやっと浮かび上がる白い顔。その顔が、首をかしげるようにして、そおっと瑞夫の手元を覗きこんでいた。 彼は恐怖した。それは、見つかったからの焦りではなく、純粋なる恐れだった。その瞬間、相手がこの世のものではない存在に思われたのである。 (わっ!) 気が動転した瑞夫は、思わず飛び上がって驚いた。いやもう本当に、文字通り飛び上がったのだ。 足を踏み変えるようにして地面を蹴り、手をばたつかせて虚空をつかむ。が、着地が上手くなかった。バランスを崩し、そのまま後ろへとひっくり返る。――いや、ひっくり返ってしまうところであった。 「あっ!」 瑞夫は、小さく叫んだ。その瞬間、彼は、壁に背中を打ち付けることも、地面に尻をつくこともなかった。 ただ、きつい香水の匂いに、鼻腔を占拠されただけである。 「しぃっ!」 白い顔が言う、唇の前に人差し指を立てて。 (女……?) よく見れば女だ。その女の柔らかな腕が、頼もしくも迅速に、瑞夫の体を抱きとめていた。 すぐに女は窓の中を覗く。そして、瑞夫の方に向き直り、“OK”と指で合図してみせた。中には気付かれていない、という意味だろう。 彼女の立ち居振る舞いは、実に落ち着いたもので、とても変質者を前にした態度とは思われなかった。 (な、なんなんだ……?) かろうじて女の機転は理解したものの、目まぐるしい状況の変化に、まったくついていけない瑞夫。パニックに陥った彼の頭脳は、もはや思考停止状態だった。 (どうしたらいいんだ……どうしたらいいんだ……) 彼は微動だにせず、ただまじまじと彼女の顔ばかり見つめていた。密着していたために、相手の顔は息が吹きかかりそうなほどの至近距離にある。 女は、ふっくらとした頬の丸顔に、ぼってりと厚ぼったい唇が特徴的だった。唇には真っ赤なルージュが引いてあり、油を塗ったようにその表面をテラテラ光らせている。 と、ふいにその角が吊り上がり、頬にえくぼが浮かんだ。 「ふふっ……」 女はほほ笑んでいた。それに合わせて、目尻のしわが濃くなる。 普段からよく笑うのか、そこには放射状の線がいくつも刻まれていた。彼女の年齢を感じさせる線だった。そんなこと通常なら気にならないのだろうが、こうして近くで見ると、相手の肌の質感などまでよく分かるものである。 (わ、笑ってる……?) 相手は別に笑っていたわけではないのかもしれない。顔立ちが明るいために、普段からほほ笑んでいるように見えやすいのだとも考えられた。 ただいずれにせよ、心落ち着かぬ瑞夫の目には、奇妙で不敵な笑みに映ったのは事実だ。 (一体何者なのか……?) 彼女の表情は自信に満ちて見えた。またその福々しい顔つきから推して、何不自由ない裕福な家庭の夫人か、あるいは彼女自身会社を経営するオーナーか、などと瑞夫は考えた。ある種の貫録まで感じられるのだった。 その推測が当たったかどうかは別として、しかし貫録だけはたっぷりに、ふいに彼女は瑞夫の腕を引っ張って言った。 「あっちでも」 言いながら、彼女は奥の方を指す。 唐突なことで、瑞夫には何のことか見当が付かない。というより、いまだ現実に戸惑っていて、頭が整理しきれていないのである。 しかし、そんな彼にはお構いなしに、彼女は強引に彼の腕を引いて歩きだした。今いた場所を離れ、壁伝いに移動していくこと数歩。そうして、行き着いたのは、これまた窓の前であった。 ただ、今度の窓はさっきよりもやや高い位置にあった。同じ階なのに、さきほどの部屋のよりもこちらの窓の方が高い所にあるのだ。 「ほら、聞いて」 女は、背伸びしながら窓の中を示した。彼女の背では、窓の底辺にも目が届かない。 一方、瑞夫の身長でも、顎を窓枠につけるのがやっとだった。その窓は閉め切ってあり、おまけに中を見通せない濁った材質のガラスをはめてあった。それでも彼は中をうかがいつつ、言われた通りに耳をすましてみる。 (あっ……!) ほんのわずか、ほんのわずかながら、声が聞こえた。それも、先ほどまで聞いていたのと同じ傾向の声である。 (ひょっとして?) そんな目で瑞夫は女を振り返った。意外な展開に直面し、一時的に絶望感から解放された気分だった。 女は瑞夫の目に、仔細ありげにうなずき返す。 「こっちでもシてるのよ」 ひそひそと彼女は言った。その顔は、他人の秘密は蜜の味と言わんばかりに、ニヤニヤと悪どそうに笑っていた。 「先生よ、ここの」 尋ねてもいない解説を、彼女は勝手にし始める。 「奥さんと……、あっ、奥さんって言っても、他人のよ」 女の語り口は、まるで近所の主婦が井戸端会議でしゃべっている様を想像させる、気さくな調子だった。 「それも……、生徒さんの……、お母さん!」 ここで女は一旦言葉を切った。相手のリアクションに期待しているらしい。 「お母さん?」 おうむ返しに瑞夫は聞いた。相手の巧みなペースに釣られて、反射的に発した言葉だった。 その時の彼は、相変わらず先行きの見えない不安から心ここにあらず、複雑な表情を浮かべていたのだが、その眉をひそめた様子が、結果的に女の期待に沿うものだったようで、 「そう! 保護者と、……ヤッてるのよ! 先生がよ?」 大いに気分を盛り上げて、彼女は言った。「ヤッてるのよ」と言う前には、壁を叩くようにして部屋の中を指し示し、口の横に手のひらを立ててみせるなど、身振り手振りまで交えた。 (先生? “枕必先生”……?) 少しずつ落ち着きを取り戻してきた瑞夫は、頭の隅の方で、漠然と以前妻の鈴美が口にした名前を思い出していた。 (そうか、枕必か) もし今の女の話が本当だとすると、中には鈴美だっているかもしれない。 だがその時の彼は、そんなこと思いつきさえしなかった。彼の頭はまだ完全に冴え切っていなかったし、それに何より、妻が浮気するなどとは夢にも思わなかったのだ。 (鈴美にも教えてやらねば) 寝ぼけた頭で、瑞夫はそう考えていた。女の言う“先生”というのが、果たして枕必かどうかの確認もせず、半ば早とちり気味の判断である。そして、その的外れな思いつきに続き、彼は早くも別の疑問にとらわれていた。 (だが、どうやって伝えたものか……) 当然の問題だった。覗きをして得た情報だとは言えないし、そもそも、今の状況を打開しないことには、鈴美とそんな会話を交わすことすらままならないのである。 (いや……、どうにかなるかもしれない……) 彼は、目の前の女を見ていてふと思った。“近所のおばちゃん”といった風の女のしゃべりを聞いているうち、彼にはいつしか、ある期待感が生まれていたのだ。それにともなって、気持ちも段々と落ち着いてきていた。 (このフレンドリーな女に調子を合わせていれば、なんとかやり過ごせるのではないか) (ひょっとしたらアレは見られていないのではないか) そんな甘い考えも生まれてきた。と、そこまで考えて彼は気が付いた。 (はっ! しまった、そうだ!) 彼は、さりげなく股間に触れた。いつの間にかしぼんではいたが、まだソレは出しっぱなしになっていたのである。瑞夫は、女の顔を見詰めたまま、何気ない風でジッパーを上げようとした。 が、その時、思いもかけないことが起こった。女が、瑞夫の企みを知ってか知らずか、彼が行動に移るのとほとんど同時に、彼の手に自分の手を重ねてきたのである。おまけに、女は唐突に質問まで投げかけてきた。 「ねえ、見える?」 彼の手の甲をさすりながら、彼女は言った。 「え?」 瑞夫はぎょっとしていた。固まったままで動けない。質問の意味も分からない。 「中の様子」 「ああ、い、いえ……」 瑞夫はやっとこさ答えた。中の様子が見えようと見えまいと、今さらどっちでもよかった。彼にとっての今の関心事は、彼女の真意、その一点のみなのである。 (ただのおばちゃんではない……) そう思い直した瞬間、恐怖が新たになる。一度淡い期待を抱いた分、余計にショックだった。 「すごいわよね、ここ」 そんな彼の恐怖も知らず、女は、瑞夫の耳に唇を近付けてささやく。 「この中で、二組もセックスしてる」 「ええ……」 消え入りそうな声で、瑞夫は答えた。今はもう、生殺与奪の権利を彼女に握られたがごとく、相手の出方をじっと待つばかり。 (いっそ、ひと思いに責めてくれれば) どうせ捕まるなら、と、そうも考えた。だが、わざとらしくここまで引っ張ってきたのには、何か特別な意図がありそうにも思えた。 果たして、女は意味深長なことを言いだした。 「興奮しちゃうわよね、こんな所にいると……」 ため息混じりの声が、瑞夫の耳に吹きかかる。妙に官能的なその声は、耳から直接彼の脳髄を揺さぶった。それにつれ吐息の熱までが、耳から全身に広がっていくようである。やがてそれは、彼の股間にまで到達した。 すると、まるでそのタイミングを見すましたように、女の指が、ふわっとそこに触れる。 「ふふっ……」 今度は確実に、女は笑っていた。 「え……?」 瑞夫はわが目を疑った。だが、女は確かに股間に触れていた。しかも、肉竿をその手にくるみすらしだしたのだ。 「興奮……、しちゃうわよ、ねえ?」 これらの言動に接して、その時ようやく瑞夫は確信した。 (見られていたんだ、やっぱり……) 当然と言えば当然かもしれないが、自慰の場面はやはり押さえられていたのである。しかし、それならそれで、なおさら今の女の行動は理解できない。 と、女の胸が腕に当たる。まるで、自分から押し当ててくるようだ。 転びそうなのを助けられて以来、瑞夫の体はずっと彼女に支えられたままでいた。要するに、二人の体は常にくっついていたのだ。それなのに彼は、今ごろになって初めて、彼女が“女”だというのを意識しだしていた。 (何を考えているんだ!) 相手にも自分にも、同時に瑞夫は問いかけていた。 ふと、彼女の胸の谷間が視界に入る。彼女は、薄闇でも目立つ、何やらガチャガチャとした複雑な色と柄のブラウスらしき服を着ていたが、その襟がわずかに開いていて、その隙間から見えたのだった。 腕に当たる感触から言っても、その洋服のせり出し具合から言っても、かなり大きな乳房であるのは確かである。 (どういうことなんだ……!) 瑞夫は逡巡した。状況から察するに、誘われているようである。だが、そんなことがあろうとは、常識から言ってとても考えられない。 (試されているのか?) そう考える方が自然な気がした。だが、もしそうだとしたら、今の彼にはとても説得力のある振り切り方はできなかったろう。なぜなら、女の手の中で、既に彼の陰茎はむくむくと棒状に成長していたのだから。 瑞夫は、改めて女のことをよく見た。彼の当初の見立てでは、自分の母親と肩を並べるほど、一般的に興味の対象とはなりえないはずの女であった。実際、街で彼女とすれ違っても、簡単に見過ごしていただろう。 少なくとも、彼の中では“熟女”に分類すべき女であって、そして、彼は通常熟女には興味がなかった。 (だって、おばちゃんじゃないか) そう考えていた。“おばちゃん”とはセックスする気になれないと。 だから、もし彼女がそれを望んでいるのだとしたら、彼の弱味と引き換えにしてやろうとの魂胆なのだと、いつもの瑞夫なら穿って考えるところだった。 しかし、今の彼の感じ方は違っていた。彼女を、あさましい性欲の持ち主、とさげすむ気持ちになど微塵もなれなかった。 確かに、熟女ではあると思う。その認識は変わらない。 (思ったほど老けてはいなさそうだ) とわずかに判断を修正はしたものの、やはり熟女は熟女。少なくとも、瑞夫より年上であるのは確かであったから。 それなのに、彼女はかわいらしく見えた。思えば、瑞夫は、妻以外の人妻の顔を、こんなに近くで観察したことなどなかった。まるで新しい美に気づいた思いだ。彼女は、今や確実に、彼の目に“女”として映っていた。 何より、彼女は魅力的な肉体をしていたのだ! (もういい! もうどうなってもいい!) 瑞夫はとうとう吹っ切れた。最初にあの窓を覗いた時の、あの積極果敢さを彼は取り戻していた。彼は、男の本能を遺憾なく発揮すべく、まっすぐに女の体に組み付いたのだった。 <つづく> << 前回 | 次回 >> <6章 目次> 1 2 3 4 5 6 7 8(終) 一話から連続表示する 目次へ |