「ブファッ!」
多量の粘液と共に陰茎を吐き出すと、ミナミはもう走り出していた。
「おいおい、どこ行くの」
下にいた男性が慌てて腰を捕まえようとしたが一歩及ばず、その手は空を切る。彼の屹立した肉棒だけが後に残された。
「コウ!」
ミナミは思わず叫んでいた。しかし、為す術もなくステージ前で止まる。
コウはちらりとこちらを一瞥した。が、その目にはなんの親しみも宿っていない。そればかりか、精を吐き出した男根の方をむしろ愛おしそうに舌で清めるのに夢中だ。
そんな彼の髪をこれまた優しく撫でながら、奉仕される男が、こちらは極めて親しげに話しかけてきた。
「やあ、ミナミ。君も来てたんだ」
仮面の甲斐もなく、いつも通りの調子で。
「ジン……」
ミナミは何か言おうとしたが、言葉が続かなかった。愛しいはずの恋人が目の前にいる。それなのに全く嬉しくない。というより、心が追いつかない。
代わりに、ジンの方から口を開く。
「ほら、コウ。ママ来たよ」
そう言ってコウの柔らかな前髪をかき上げるが、当の本人は相変わらず、もう母を見ようともしないで奉仕に専念している。
「おいおいコウ、そんなにしたらまた勃っちゃうよ」
サれている方はくすぐったそうに笑った。
ちょうどそこへ発情した男達がまた群がってきた。立ち止まったら最後、容赦なく食い尽くされるのが定め。ある者は乳を、またある者は尻を、ミナミの体に狩人達の手が伸びる。
「やめてっ!」
ミナミはそう言って、手を振り払った。それは周囲に言ったのでありながら、同時にジンに向けて言ったのでもあった。
しかし、ジンは意図を解さず、逆にコウの幼い恥部を、竿の先から根元へ、そして玉袋からその下へとねちっこくこね回す。その都度硬直しっぱなしのペニスが、いじらしくフルフルと震え、ステージライトを照り返す。
「やめて……」
同じく震えるミナミ。そこへしつこくも男が、まるで亡者のようにまとわりついてくる。その男根が尻の間に迫るのを身悶えして避けながら、彼女は息子へと近づこうとした。
と、その時、頭上から威圧的な声が届いた。
「感動のご対面ってとこかしら?」
見れば、“大女優”の呼び声高い、当会の主催者だった。なんと仮面すら着けていず、堂々たる面持ちだ。いや、そればかりか、衣服すらなんら身にまとっていないのである。ただ下腹部の前に抱えた“装飾物”を除いて。
「レイコ、さん……」
ミナミは息を飲んだ。彼女が抱えているもの、それは後ろ姿ながら明らかに男児だった。全裸のその子はレイコに両の尻を鷲掴みにされて、彼女の胴にしがみついている。ちょうどその顔が胸の谷間に挟まり、また股間と股間がくっつく位置。彼がその女体の内部にまで“装着”されているのは想像に難くなかった。
「よいしょ……」
レイコは抱っこの姿勢を崩さずに、その子を床に寝かせた。すると、待ってましたとばかりに彼女の尻へまたがる者がある。これもまた、か細い線の男の子。彼は前方の巨大な山にしがみつくや、うっとりと目を細めながら、クネクネと腰を振り出した。彼もまたなんらかの穴と“繋がった”のだろう。
「あらあら、ウフフ」
動じることなくレイコは嬉しそうに目を細めると、前後の子に気を遣いながら前方へ這って行った。その先にはコウがいる。
ハッとしてミナミは見た。ちょっと目を逸らした隙に、また事態は動いていた。自分への奉仕を止めさせたジンは、代わってコウの生殖具を口淫していたのだ。あのさっきまで照り輝いていた勃起が、今や端正な頬の奥にズッポリと隠れている。
レイコはそこへ顔を寄せると、彼に一旦吐き出させたソレを指でつまんで言った。
「まあまあ、さっきまであんなに頑張ってくれたのに、もうこんなに大きくして。頑張り屋さんのスケベおチンポ」
そしてそのまま真っ赤なルージュの唇で先端から吸い上げた。ジンも相変わらず竿から玉へと唇を這わせていたので、その未成熟な股間は二人の大人の顔にすっかり占拠されることとなった。
“未成熟”――果たしてそうだろうか。性毛こそ生えていないとはいえ、包皮は既に剥けている。亀頭の先から伸びる粘り汁は、もはや唾液ばかりではあるまい。蠕動する睾丸、拍動する青筋。見紛う事なきそれは、完熟たる種付け道具で……。
「イヤァ……ッ!」
とうとうミナミは悲鳴を上げ、口元を覆った。
かつて見た“アイツ”のモノは、まるっきり年齢と不釣り合いな程ふてぶてしく、かつ熟練していた。まさか、アレと同じ道程を早くもたどり始めているのだろうか。アイツよりもまだずっと年若い我が子なのに! さもありなん、何しろ現にレイコとまぐわっている二匹の小さきオスは、オスの顔してすっかりその気なのだから!
「イヤ! イヤッ!」
ミナミは激しい嫌悪感に逆上した。認められない、どうしても。
すると、脇からまるでタイミングを計ったかのように“ソイツ”が現れた。
「よお、デカパイママン、久しぶり」
タイガだった。キジマの話通り、やはり居たのだ。だが、コウを目の当たりにした今、ミナミに新鮮な驚きはない。
「あ、コウ。そっか、ついに親子で枕か」
少年はステージに目を向けてニヤリと口角を上げた。もっともその目には、いつになく疲労の色が見て取れた。彼もまた全裸で、そしてやはり子役として仮面を着けていなかった。その額が、妙にねっとりした汗で濡れている。
そんな彼を、ステージ上から目ざとく見つけたジンが手招きした。
「タイガ、来いよ!」
「チッ……」
呼ばれた方は、顔を歪めて舌打ちした。それでも逆らわず、素直に足を向ける。
彼が来るのを見て、付け加えるようにジンはミナミも呼んだ。
「ミナミも来なよ。一緒にヤろう」
屈託なく、優しげな声音。何も後ろめたい所がない人の声だ。
「イヤ、イヤ、イヤ、イヤ……」
ミナミは口の中で繰り返しながら、小刻みに首を振った。それでも前へ前へと歩を進めだす。ジンも、この状況も受け入れられない。それでもコウの下へ。
が、しかし、彼女は行かせられなかった。左右から手が伸びて、見ず知らずの男共に阻まれる。
「イヤ、イヤッ、イヤァッ!」
ミナミは絶叫した。もうビジネスやコネクションがどうとかいう次元ではなかった。
「コウッ!」
必死で手足を振り廻し、周りを傷つけるのも構わずに前進する。それを押さえつけけようとする男達との乱闘の中で、ベビードールは破れ、仮面も取れ、いつしかありのままのミナミが現れた。
「騒がしいわねえ」
レイコはちらりと顔を上げ眉をひそめた。そして、つと立ち上がると、その前後に、まるでコアラのように小動物をしがみつかせたままで降壇した。そのままミナミの前まで行く。彼女の前を塞ぐ人垣が割れた。と、次の瞬間。
「キャッ!」
ミナミは軽く呻いて頬をそむけた。レイコの平手が飛んだのだった。
「ここは、私の、パーティーよ」
彼女はそう言い放つと、相手の髪を掴んで元の場所へと戻り出した。
「イタッ!」
掴まれた方が言ったが、レイコは意に介しない。代わりに周囲を気遣った。
「ごめんなさいね、お騒がせして。この人、ちょっと借りるわよ」
ミナミは彼女によって舞台まで、いや、コウの傍まで連れて行かれ、そこでやっと解放された。
「痛いッ……!」
地べたへと身を投げ出すミナミ。その上へ、レイコがあざけりの言葉を投げた。
「散々ヤることヤッてるくせに、意外とウブなのねえ。見なさいよ、あんたの息子の方がよっぽど大人よ」
その時、ちょうど時を同じくして、二人の子供が彼女の前後ろからはがれた。するとレイコは、打って変わって柔和な表情で彼らの頭を撫でてやる。二人は用が済むや否や、物も言わずに去って行った。彼らが去った跡から、すなわち大女優の股の間にある二つの穴から、下痢便のような音が鳴って白濁汁が床に垂れた。彼女はそれを足の裏で伸ばし、また跡地の肉びらを“ブリブリ”と大袈裟な音で鳴らしてかき回し、どことなく得意げな表情で語りを続けた。
「コウくんはねえ、もうオ・ト・ナ、なの」
ミナミはただ見上げるしかなかった。聞く前からそれが恐ろしい話に違いないと思いながらも。
「あなたのうちは親子でシないんですってね。でもそのおかげで“初めて”は私が……」
ここで、レイコはぐっとミナミへと顔を近づけた。
「ごちそうさまでした。お母さん」
「ヒッ……!」
ミナミの背筋を悪寒が走り抜けた。“この女何を言っているのか”分からない。分からない、が、分かる。分かる、が、分かりたくない。年齢は自分より一回り以上も上のはずだ。そんな女と、否、そんな“ババア”とかわいい息子が……。
目じりに皺をたたえ、レイコは話を続ける。いくら美容に金をかけ、年より若く見えるとはいえ、年齢が帳消しになるものではない。
「手取り足取り教えてあげて。撮影の度に愛し合って。彼が初めてのこと、なんでもシてあげたのよ。フフ、体の隅々まで開発してあげた。ねえ、知ってる? 彼が感じる場所」
“彼”という単語が出る度、ミナミは果てしない気持ち悪さを感じた。本当に、果てしなく、それは止まらない。
「すごく勉強熱心な子よね。覚えが早いのよ。クンニだって絶品よ、私をイかせるほど。あなたもシてもらいなさいよ。あ、ヤらないんだっけ、息子とは。かわいそうに」
まるで呪文のように、ミナミの耳朶に痴女の告白がこだましていく。
「もう私なしではいられない体なのね。彼、切なそうな顔でこう言うの“レイコさん、オマンコ入れさせてください。早くイかせてください。お願いします。お願いします”って、土下座」
悪魔のようにけたたましく笑うレイコ。
「小っちゃなおチンポパンパンに腫らして。目なんかギラギラさせて。あの歳でもうオッサン並にスケベさん。かわいそうだから入れさせてあげるでしょ。そしたらすごいのよ、あいつ。何度も何度もせがんできて、休ませてくれないのよ」
少しでも想像が及びそうになるのを、母は必死でこらえた。これも子役の宿命なのか、芸能界の常識なのか。彼女は甘かったのか。後悔の念が浮かび上がる。喪失感、そして敗北感もやってくる。
「見て、あんなにズリ剥けに育てたのも私」
彼女が指さす先を呆然自失のミナミも自然と見た。が、そこに息子の勃起があると気付くや、すぐに目を逸らした。
「お母さん、ごめんなさいね、息子さん獲っちゃって。お宅の息子さん、ううん、お宅のどスケベなコウくん、すっかり私の虜みたい。今日もねえ、実はさっきまで――」
レイコは滔々とまくし立てたが、途中からミナミの耳には入っていなかった。一度は目を逸らした彼女だったが、すぐにまた視線を戻したのだ。なぜなら、コウがまた新たな挙動に移っていたから。
「い、いいよ、オレ。汚ねえな。勃たねえよ。オレ、そっちの趣味ないんだからさ。ジンさん、頼むよ」
タイガが懇願しているが、事態は変わらない。少年の足元にコウの姿があり、彼の今度の相手がタイガなのだった。コウは親しい兄貴分を上目使いで見つつ、その勃起にしゃぶりついていた。そう、かつて母がしていたように。
「そうそう、あの子って――」
レイコの次の言葉は、ミナミの、すなわちコウの母親にとっての、最悪の予期を呼び起こすものだった。
「もう“処女”でもないのよね」
同意を求めるように、彼女はジンの方へ小首をかしげる。ジンは、笑った。
〈つづく〉
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