「じゃあ、その日はロクンと二人だけになるな」
数日前、夫が言った。彼が出張に出る日、息子はお泊り保育に行く。たまたま重なったのだ。
二人きりになれば、ヤることは決まっている。その日、朝から晩、さらには翌日の夕方まで、性悦の声が途切れることはなかった。
「オオォー……オホオォォー……ッ!」
野獣の如く吠えるメス。息子を送り出した後帰宅し恐らく一分も経っていまい、いきり立つペニスの突き立てられたのは。両者一糸まとわぬ姿となり、互いの肉を貪り合う。
あの日再開してからというもの、二人の関係は一層ただれたものとなっていた。家族の目を盗んで繰り返される交尾。その間婦人科に世話になったこともある。それでも止められない。今や積極的に仕掛けるようになった陽子は、ロクンを欲して半ば強引に彼を傍置くようにすらなった。
ある時はトイレに連れ込んだ。実のところ、前みたいに回数を減らされたり放置されたりするのが怖かった。ロクンは相変わらず精勤に講義を受けに行っている。また、交流の幅も広がっている。それら留学生活の邪魔をする気はない。しかし、体は欲するばかり。となれば、僅かの間でも独占するほかなかった。
夫や息子が居間でくつろぐ中、そっと抜け出して便所へ。ロクンも拒みはしない。まるで静志になつかれる時のように従順だ。発情妻が股を開けば、鷹揚にペニスを挿してやる。まぐわいの最中に夫が扉を叩き、
「長いトイレだなあ」
と外から声を掛ければ、妻は重ねていた唇を離し、
「ごめんなさい、ついでにお掃除してるから」
などと言い放ち、夫をそっちのけにして膣を締め、そこへ子種の入れられた体で悠々と皆の元に戻った。背徳とかなんとかいうより、とにかく時間が惜しかったのだ。
ロクンが朝から一日帰ってこない予定だと分かっているときは、夜這いならぬ朝這いを仕掛けもする。すなわち起床前の彼の部屋へ押しかけていって、朝立ちの精子を搾り取るのだ。彼はやはり拒まないし、それにやはり勃起した。その前の晩にも搾られているのに。
というのは、夕食前のほんのわずかな時間、料理中に何気ない風で抜け出した陽子が彼の部屋で尻を突き出してせがんだものだ。外には腹を空かせた家族が待っている。にもかかわらず彼女は己の欲求を優先した。下の口で肉棒を食し、オスのミルクで腹をパンパンに満たす。終わると、実に上機嫌で家事に戻るのだ。
そしてそのあくる日の朝にはもう飢えている。まるで薬物依存症かアルコール中毒者のようだ。今度は上の口から搾りとる。寝起きの肉茎にうっとりと頬ずりし、その重みを額に感じながら玉袋の皺を舐め、唇を陰唇よろしくすぼめては喉奥でザーメンを受ける。
ロクンが尿意まで催すと、なんとそれすらも甘んじて受け入れる。すなわち、飲む、そして浴びる。未経験のことだったのに、当たり前のようにできた。強き男にマーキングされて、誇らしさすら感じた。
「なんだ、おい、顔洗ったんなら拭けよ」
呆れて注意した夫や寝ぼけ眼をこする息子が見た彼女の顔は、男の小便で濡れていたものである。メスとしては誰のものとなったのか、周囲に知らしめたものだ。もはや鬼畜と言われようと外道と呼ばれようと、己の道を邁進するのみ。
夫が友人を家に呼んだ時も、料理を並べ、酒をついだら間もなく中座した。しばらくして、
「あれ、奥さんもう寝ちゃったの?」
「息子を寝かしてるんじゃないかなあ」
こんな会話が交わされた時には、すっかり子作りの真っ最中であった。忙しい彼女に代わって、仕方なしに夫が新しい酒を用意する。夫らが酒盛りの最中、妻は肉棒を喰らい、精液を飲んで酔い、彼女は彼女で"盛り"の最中なのであった。
再び顔を見せたのは、結局客人を送り出す時になってやっとだ。
「すみません、お構いもしませんで」
オーガズムする肉体でそう頭を下げた時、変形した子宮の中で白濁液が躍った。羞恥心などない。
果ては、子供らの前でも堂々と。今度は、息子が友人を招いた時だ。幼子達はロクンも交えて遊んでいた。ロクンは他の子達にも人気だ。その膝に乗ったり、背中に乗ったりする。この輪に、母・陽子も加わった。
夫の酒盛りのように、別の部屋へ抜け出すことは難しい。となれば、と……
「(分かってる。バカだって)」
陽子は心で泣いた。それはそれで本心だった。だが、実際には、スカートに隠しながらペニスを挿入していた。ちょうど椅子に座るように、皆の方を向いて。
「(これ! これ、我慢できない!)」
深々と座ると、唇を噛み締めて、早くもエクスタシーに酔う母。それへ子供達が圧し掛かってくる。すなわち、彼女も遊びに加わったと見たのだ。それは、ロクンの上へどれだけ乗れるかという遊びだった。
椅子と化したロクン。それへ串刺しで掛ける彼女の右腿、左腿へそれぞれ男の子が乗る。さらに、静志は左肩の上にまたがってきた。彼の股間が左の頬に迫る。それを見たもう一人の子も逆の肩に乗ってきた。心なしか彼らの股間も熱を帯びているようなのは、成熟した女のフェロモンに中てられた所為だろうか。膝の上も肩の上もじんわりと温かい。
もっとも、周囲の状況など彼女にはどうでもいいことだった。別にスリルを求めているわけではない。心を占めるのは、体内の芯棒のみだ。それ故、純朴なる子供達すらも、単なる重石のようにしか感じない。
「ワー!」
膝上の"重石"につかまろうとした瞬間、体勢が崩れてタワーは崩壊した。すると覚えず前のめりになって、つながったままに彼女は床に手を突く。と、今度はその四つん這いの背中へ、子供達はまたがりだした。ひどい奴は頭にまで乗る。普通なら怒り出すであろう保護者が一向に怒らないものだから、大いに調子に乗る。
一方、保護者も調子に乗りっぱなしだ。実の子を始め幼子達を背に乗せて"お馬さんごっこ"の態で下劣な姦通に勤しむ。ばれないと踏むや尻まで丸出しにして、本格的にパンパンやる。
「イィ、ヒヒイィー……!」
我慢もそこそこにいななく肌馬。ロクンの鞭は益々激しさを増す。騎手達は暴れ馬の上で大はしゃぎ。その暴れたる所以は、胎内にて猛り狂う男根と軌を一にしてのことだ。勃起の入った母がしきりに悶絶する上で、息子達は至って無邪気に愉快だった。
それは結局種付けが終了し、勢いで肌馬が突っ伏すまで続いた。雪崩を打って倒れ込む一同。その最下層で、子種汁が静かにこぼれ出た。やがて皆起き直った時、
「わっ、濡れてる!」
足を滑らせて、静志が言った。そこにあったのは、母の穴から漏れた精液だった。
鬼畜外道に成り果てた。妻としても母としても。いや、もはやそういう境涯と次元を異にする今、彼女はただ自由なのだ。彼女はただ純粋にひたむきに肉欲に従った。ロクンとの性、というよりも、もはやロクンを使って。
日がな一日ペニスを入れていても飽き足らない。ここに至りなば、ロクンの意思など介在しなかった。彼はただの肉人形。ある一定の体積を有し、抱くに足る手ごたえさえあれば事足りる存在だった。
「オ、オ、オ、オグヒヤアァー……ッ!」
なんの歯止めもなく本気でイきまくる主婦。醜い年増女のサガと自嘲することもない。肉人形は、相変わらず優秀だった。必ず肉チューブを硬化させ、また逆らうことなく鷹揚に応えてやる。
二人の立場は完全に逆転していた。ロクンは、陽子の性欲処理の為に居た。それはまるで、元来野獣だった男が知性を身に着けていったのと、知識偏重の女が野蛮化していくのと、二つの異なる世界が中和していくような格好だった。
「ガヘェ……ロ、ツゥリヤ、ダッ、ハッ……!」
全く意味を成さない音を口から発して、泡を飛ばしながら、陽子はもう在りし日の面影もない。
そこへ、電話が鳴った。当然のように、彼女らは出ない。すると、留守番電話に切り替わって、伝言が流れた。その声はお泊り保育に行っている静志だった。
「もしもし、ママ? ロッくんと仲良くしてますか――」
劣情に満ちた暗がりへ、清廉な声が通る。しかし今は、それに耳を貸す者はいない。当のママの耳にすら届かなかった。だが落胆することはない。彼の望みは叶っているのだから。
「アヴヘー……ダッ、ツァッ……グカ……!」
まるで彼に聞かせようとでもいうかのように、肉の悦びを吠えて仲の良さをアピールするママ。もし意識があったなら、こんな風に語っているだろう。
「ママ、ロッくんと仲良しよ。セーくんが大好きなロッくんのおチンチン、ママも大好き。セーくんより大好き」
だが生憎、今の彼女には言語の認識がなかった。脳内に何もない状態。トランス状態。まさに野生に帰ったのだった――。
――半年後、彼女はカデラマにあった。身一つでの渡航。離婚し、親権も放棄した。
ロクンと共に居るのか。そうでもない。強き男共なら、ここには幾らでもいるからだ。寡黙で、逞しく、大きな大きな男達。あのロクンですら霞む程の。
肩書は日本語教師ということになっているが、それも名ばかりだ。ここに来た目的は言うまでもない。今しも、路地裏で交尾に励んでいる。
「オッ、オッ、オゥウォホ……ッ!」
ひび割れた壁に手を突き、後ろから極太で突き刺される。相手は、教え子の祖父の使用人の家の隣に住んでいるチンピラが昨日喧嘩した変わり者のじじいである。住所不定で定職にも就いていない、近所の鼻つまみ者だ。陽子とは昨夜初めて会った。そして昨夜からこの状況である。
陽子は誰とでも寝た。教え子、その祖父、その使用人、その隣家のチンピラ、いずれも一度ならず男根を受け入れたオスである。
これら全て、彼女が望んだ結末だ。名誉も愛も捨て去ってまで欲しかった悦びだ。そうだ、そのはずだ。なのに、彼女はまだ真に満たされてはいない。
初めてロクンに蹂躙されて知らしめられた獣の強さ、あれこそ真実だと悟ったはずだった。だからこそここまで来た。それなのに、あの強さへの確信がどんどん遠ざかっていく気がしてならないのである。
そして、それに代わって浮き彫りになるのが、失った生活の尊かったこと。今更認めてはいけないことだった、が、この構図に彼女は次第に囚われ始めていた。
それを打ち消すように、あるいは試すようにカデラマでもロクンとプレイした。それどころか、彼の父親、祖父、兄弟、親類縁者にも犯してもらい、果ては、級友らに三日三晩輪姦されさえした。だがそこから得られる衝撃も一瞬のことで、すぐにまた虚しさがやってくる。
先が見えた気がした。かつての平穏だった日常と同様に。全く、欲望とは無間の闇である。
変わり者じじいの奇行に、近所の学生らが足を止め、路地を指さして嗤っている。彼に犬のように犯されている陽子も同様に嗤われている。あまつさえ、子宮に亀頭をめり込まされ、白目を向いてニヤけているのだからなおさらだ。
陽子は思う。次はあの学生らに輪姦されよう。今後の人生、もう後戻りの道はない。
〈おわり〉
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