やがて、嵐はあっけなく去った。終わり方もまた唐突。しかも、ロクンの勃起は全く収まっていない。にも関わらずの終了だった。彼はそのまま自室に引き取った。
ややあって、陽子はもぞもぞと動き出した。彼女には目的があった。静志を保育園に迎えに行くことだ。ロクンもまた、ちょうど図ったようにこの時間に終わった節がある。
「うぅっ……」
惨めに呻きながら、よろよろと這って浴室に向かう。それは執念だった。満身創痍のような重たい体ながら、意地で動かした。一体どれほどの深手を負っているものか、考えるだに恐ろしい。
しかし、シャワーを浴びた彼女が知ったのは、裂傷ひとつない体だった。あれ程の巨体に苛め抜かれてさぞかし痛んだろうと思いのほか、意外にも陰唇にすら傷がなかったのである。ただ、酷使された恥穴だけが、黒い口を閉じぬままになっていた。そこから溢れ出た白濁液が、湯に混じって排水口に流れる。
「んくっ……」
下唇を噛んでうずきに耐える陽子。開け放った女性器とそこから漏れる子種汁。それに伴ってジンジンと体内から響くうずきは、後遺症のように彼女の肉体と精神を苛んだ。
「ガッ……アッ……!」
時折力なくよろめくと、尖りきった乳首がはずみで壁にぶち当たり、陽子は啼いた。白い粘液がドロリと股の間からこぼれ落ちる。まだ入っていた。それは最後まで硬いままだった彼のペニスと同様に、際限を知らないようだった。
しかし、無論一滴も残しておくわけにいかず、そのためには穴の中からかき出すような作業が必要となる。が、それがどうしても彼女にはできなかった。いまだそこをよく確認するのが怖かったし、それにそこに触れることで、またぞろあの妙な感覚が過敏に蘇りはしまいかと危惧したのである。彼女の精神は、今なお奥まで開きっぱなしの穴ぼこ同様、いまだ冷めることのない女体の昂りに揺れていたのだ。
「ンンウゥ……」
微かに力んで、性器から精液を吐きだそうとする。あるいは恐る恐るシャワーを陰部に当てたりもする。だが、やはりいつまでもあからさまにはできないでいた。結局陽子は、拭い去れない不安を残したままで、浴室を後にせざるを得なかった。
しかし、どんなに不安を抱えていようとも、日常は待ったなしで帰ってくる。何より、執念で自らそこに戻ろうと求めた限りは、なおさらであった。
「ロッくん、ロッくん!」
帰宅した息子は、早速ロクンに飛びついた。ロクンは相変わらずの無愛想。しかし、その応対は以前となんら変わりがなかった。母の貞操を奪っておいて、その息子と応対するのになんの感慨も持たないようだ。無論、静志もなんの違和感もなく母のレイプ魔にじゃれついている。
陽子は黙って、それを見ていた。やがて夫も帰ってきた。彼女はそれにも黙って応じた。いつも通りの反応。彼女もまた、ロクンと同様に平常運転を演じたのだ。夫には打ち明けない。確固たる決意があったわけではないが、言えないというよりは、言わないという選択肢を確かに選んでいた。
そして、その夜の誘いも当然に断った。これも平常の態度の一環として処理された。
ただ、自分自身は偽りきれるものでもない。ロクンが平然としている以上、この家でまともでないのは陽子一人である。彼女は眠れなかった。気を抜くと、あの黒い像がフラッシュバックする。そして体の芯がうずいて熱くなる。これを恐怖と呼ぶべきなのか、彼女には分からない。その心中は著しく混乱しており、懊悩は飽和状態にあった。
考えることはたくさんある。が、方針を絞りきれない。明日からどうすればいいかとか、そういう建設的な方向へ向かう前に思考力が散漫となる。ただ一点はっきりと自覚できていたのは、股間に感じる気持ち悪さである。目下の結論として、彼女はこれに従うほかなかった。
陽子はそっと寝室を抜け出すと、その足で再び浴室へと向かった。まとまらない頭で、とりあえずこの懸念だけは今日中に払拭してしまおうとの判断に至った。
冷たい浴室でうずくまり、じっと股間を見る。その時ようやくにしてちゃんと見ることができた。穴は、やはり開いていた。緩んで、閉じない。彼女は知るまいが、その貫通は子宮まで続いているのである。ロクンの形にくり貫かれて。
陽子は思い切って、そこにシャワーを当てた。
「ううぅ……」
踏ん張る足が痙攣し、たとえようもない切なさが心臓を押し上げる。夜中に独り、股間を洗う女。その背中を、彼女は俯瞰の目で意識した。
涙はない。感情すらない。むしろ持ちたくない。あらゆる評価を回避して、事実をただ淡々と並べ過去に追いやるだけ。今はそれだけで足りた。先のことなどどうでもよかった。
この彼女の無気力な結論は、時を待たずして状況に相応しいものとなる。そもそもが考えることなど無意味なのだとばかりに。
今度はフラッシュバックではない。ロクンが現れた。
〈つづく〉
- 関連記事
-