おことわり
R18
このブログには、エッチなことがたくさん書いてあります。まだ18歳になっていない人が見ていい所ではありません。今からこんな所を見ていると、将来ダメ人間になってしまいます。早くほかのページへ移動してください。

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なお、掲載している小説はすべて虚構であり、実在の人物・団体等とは一切の関係がございません。

    
お知らせ
「オナこもりの小説」は、エロ小説を気ままにアップしていくブログです。たまに、AV女優や、TVで見た巨乳のことなども書いています。左サイドにある「カテゴリ」から、それっぽい項目を選んでご覧ください。



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妄想の座敷牢羞恥の風ましゅまろくらぶ



小説には、連続作品と一話完結作品があります。連続作品は、左「カテゴリ」の各作品名より一話から順番に読むことができます。また「目次」には、各作品の概要などをまとめた記事が集められています。

■連続作品
◆長編作品
「子宝混浴『湯けむ輪』~美肌効姦~」

◆中編作品
「大輪動会~友母姦戦記~」
「青き山、揺れる」 ▼「師匠のお筆」

◆オムニバス
「母を犯されて」

◆短編作品
「育てる夫」  ▼「最後の願い」  ▼「ママの枕」  ▼「ブラック&ワイフ」
「夏のおばさん」  ▼「二回り三回り年下男」  ▼「兄と妻」

■一話完結
「ふんどし締めて」
「旧居出し納め・新居出し初め」  ▼「牛方と嫁っこ」  ▼「ガンカケ」
「祭りの声にまぎれて」  ▼「シーコイコイコイ!」  ▼「サルオナ」  ▼「母の独白」
「童貞卒業式」 ▼「お昼寝おばさん」  ▼「上手くやりたい」 ▼「珍休さんと水あめ女」
「栗の花匂う人」「乳搾りの手コキ」 ▼「妻つき餅」 ▼「いたずらの入り口」
「学食のおばさん便器」 ▼「山姥今様」 ▼「おしっこ、ついてきて。」

作品一覧

夏のおばさん(後編)

「入れるよ」

男は宣言した。まるでここが二人だけの世界とでも言うような、傍若無人な通告である。

「ヒィッ!」

郁恵は頬を引きつらせた。同時に眉間の皺が深くなる。それら表情筋の動きは一気に深刻さを窺わせる程度まで進んで、やがてかっちりと固定した。

その時水面下では、先の割れた赤い頭が沈み、その続きの段差が沈み、さらにその続きのずず黒い竿が沈んで見えなくなる過程であった。

「……グッ……!」

刹那は言葉もなく、郁恵はただただ歯を食いしばる。

「入った」

真っ直ぐに視線を相手の顔の上に落として、男はまた一方的に宣言を発した。その顔はさすがに緊張のためか、一見怒ったようである。

「入ったよ」

念を押すようにもう一度言う。

郁恵はいたたまれない風で、顎を引いたり横へそらしたりした。その身を貫かれる理不尽さに、耐えて耐えてという風に。その悔しい忍耐の渦中で、彼女は言った。

「やめなさい……」

先程までとは一転、低い声だった。そして、どこか子どもを叱るような厳粛な口調でもあった。ただ、その声は震え、弱々しかった。

もちろん、そんな声は悪童の耳に届かない。若者は段々と表情をほころばせながら、さらに深く交わるべく、女の尻をきつく引き寄せて、

「ヤベェ……海でスんのチョー気持ちイー……」

と、ぼそりと一言つぶやくと、その自分の発した言葉で余計に確信を得たのか、

「ウワ、ヤッベ、マンコ止まんねえ!」

などと言って、相手の腿を抱え上げながら、いよいよ激しい腰振り運動を始めた。海中では当然、挿入された肉棒の出し入れが同時に行わている。

「やめなさい……!」

再び郁恵は言った。さっきの反省を踏まえてのことか、その中途までは力強い声音であった。が、語尾の方にかけては、一気に勢いを失っていた。

その時、彼らから少し離れた所、その波間に漂っていた人が、こんなことを言ったのが聞こえたからである。

「ヤダ、ちょっとあの人達、怪しくない?」

若い女性の声だった。郁恵が恐る恐る窺うと、同じ位の年格好の女性が並んでいる。いくら人が少ないといっても、やはりほかに客が全くないわけではないのだ。

「ウワッ! ちょ、マジびっくりした……!」

連れに言われて気づいた方の女性は、大きな声を出して驚いた後、笑いながら慌てて口元を両手で隠した。

後は二人、ヒソヒソと噂し合い、キャッキャと笑い合っている。

「アーア、見つかっちゃったね」

男は、さも残念そうに囁いた。ただし、行為はやめず、むしろ腰の運動は激しさを増すばかりだ。

二人の体は首から下が水に隠れており、その水は暗く底を見通せないので、決して性交が露見したとばかりは言いきれなかったが、男女が向かい合ってくっついている様を見れば、それだけでも十分大胆な振る舞いではあった。

若い女性達は、自分達で遊んでいる風を装いながらも、ちらちらと郁恵らを盗み見ては噂を続け、もうすっかりギャラリーと化している。

「けどまあ、バレてもいっか」

男はあっけらかんと言った。

「オレらもうラブラブだし。それに――」

郁恵の頬ににやけた彼の息が吹きかかる。郁恵は反射的に顔をそむけた。

「お姉さんとおマンコできたからさあ、もういいわ、なんか。もう捕まってもいいわ」

彼は言いながら、郁恵の左の腿まで持ち上げ、ついに彼女の肉体をすっかり海中で抱き上げてしまうと、そのまま、一歩、二歩と浜の方へ向かって歩き始めた。

「もう見せようぜ、オレらのラブラブセックス」

「なっ! 嫌っ!」

郁恵はうろたえて、しかしまだ女性達の存在を視界の端で窺って、抑え気味の声で否定した。

「いいじゃん。――じゃあ代わりにチューして、チュー」

男はまるで駄々っ子のように甘えて、唇を尖らせ相手に覆いかぶさる。

郁恵は顔をしかめた。が、避けることはしなかった。その口に、またレイプ魔の口が重なる。

「キャッ!」

瞬間、見物の女性らから、嬌声が上がった。彼女らにすれば、恰好の娯楽材料なわけである。場合によっては、そのいずれかがこの男の餌食として郁恵の代わりになっていたのかもしれないが、そんなことを知る由も無い。

生贄となった郁恵は奥歯を噛み、心底情けなさそうに俯いた。男が離れたその下唇から、彼の唾液がつららのようにぶら下がる。

と、ここで、今度は別の方角からも声が聞こえてきた。男性の声だ。

「……おい、見ろよ。あいつらヤッてんじゃね?」

見れば、若い男女の二人連れである。

彼氏の指摘を受けて、女性が応じた。

「エー、なわけないじゃん!」

女性は、しかし言葉とは裏腹に半信半疑の様子で、興味津々と郁恵らを窺っている。

その彼女に向かい、

「オレ達もヤッてみる?」

と言いながら、男性は彼女に後ろから抱きついた。

「バーカ!」

女性はそう言ってそれを振りほどくと、彼に向かってバシャバシャと水を浴びせかけた。

それを機に、水の掛け合いや、体の掴み合いをしだす二人。恋人同士の甘い時間を過ごしている様子である。

先程郁恵が助けを求めた時は、誰ひとり気づかなかったというのに、確実に周囲に人が増えていた。今なら絶対に助けてもらえる、だが、郁恵はもう声を上げなかった。

その間も、性器と性器は間断なく摩擦を続けている。

「ねえ、ちょっとエロい声出してよ」

男は囁いた。

しかし、郁恵は相変わらず無言で差し俯いている。

「出さないの、いつも。旦那さんとスる時」

男は重ねて呼びかけた。

しかし、やはり郁恵は無反応を決め込んでいる。

すると、彼は方針を変えて、別なことを申し出た。

「じゃあ、今度後ろからヤらしてよ」

言うが早いか、すぐにその体勢に入る。すなわち、両手で抱え上げていた郁恵の両腿をぱっと離し、彼女を裏向けた。

「ウッ、ウッ、ブッ……!」

急に投げ出されて、海水に鼻まで沈む郁恵。その上、目が回るような速さで浜辺の方を向かせられ、鼻と口に海水が入ったために彼女は焦って、海中で腕をバタバタさせた。

「バック。好き? 奥さん」

男はマイペースである。悠々と相手の尻を抱き寄せる。誰に見つかろうと恐れることもなく、彼女をまだ散々に弄ぶつもりだ。

「好きそうだよね。でっかいケツしてるし」

彼は、また水着を尻の谷間から右に引っ張って陰裂を露出させると、思い切りそこに男根をねじ込んでいった。肉棒は、何の抵抗もなく穴の中に吸い込まれていく。

「旦那さんともバックすんの?」

男は言いながら、乳房を鷲づかみにして彼女を助け起こした。これで外面的には、女と男が立って前後に列をなす格好になる。彼はそうしておいて、ビーチの方を顎でしゃくった。

「あれ旦那さんでしょ? あそこの傘の下にいるの」

それは、確かに郁恵の夫であった。さっき男が彼女をナンパした場所で、仰向けになって眠っている。

「起きればいいのにね。奥さんとおマンコしてるとこ見てもらいたいのに」

男はそう言って明るく笑った。

郁恵の視界にも夫は入っていた。が、彼女は決してそちらを正視することなく、といって全く見ないわけでもなくて、まさに目を泳がせている状態であった。その額から、幾筋もの汗が流れ落ちる。

「なあ、あれ、絶対入ってるって」

先程のカップルの男が、また恋人に声をかけた。一時ちょっと離れていたのだが、また近くまで回ってきたようだ。

「いいよ、もう。あっち行こうよ」

恋人の方はやや不快な調子で、彼氏の肘を引っ張った。

一方、左の方角にいた女性連中は、いまだ一定の距離を保って、郁恵らを肴にヒソヒソ話を続けている。

そんな中、別の方からは、母親らしき口調で、

「そっちは行ったらダメ。あっちで遊びましょう、あっちで」

と、我が子であろう男の子にきっぱりと言っているのが聞こえた。どうやら、郁恵らの様子に不穏なものを感じ取ったらしいのである。もはや、恋人がいちゃついている、との認識以上の違和感が漂い出しているのだろう。砂浜の監視員が注意をしに来るのも時間の問題かもしれない。

そんな切迫した環境の中、男はますます興に乗って、

「アー、バックもヤバい」

などと浮かれながら、ガンガン女穴を突きまくる。折しも、男の欲求にとり、そろそろピークが訪れる頃合いらしかった。

「アーヤベ、マジイきそう! マジで!」

彼らの周りの海面が細かく波打つ。無論、自然のためばかりではない。男は強く激しく腰を押し出していく。

「嫌……! や、やめて!」

今まで黙っていた郁恵がふいに口を開いた。それは、男が腰を突き出しながら、彼女のことを前進させたからであった。

「旦那のとこまで行こうよ」

男は悪びれもせずに言う。

「見せようぜ、中出しするとこ」

興奮しきっている彼の、卑猥な発言も腰の運動も加速して止まらない。

「スンマセーン、旦那さん。奥さん孕ませます!」

相手の耳の裏で囁きながら、彼は浜辺の傘の方をじっと見据え、だらしなく口元を緩ませた。

郁恵の足の裏に、サラサラした砂の中に埋まった何だかわからない固い角や、海藻の付着しているらしいヌルヌルした石などが通過していく。いつしか、彼女の足が海底に接着しうる地点まで戻っていた。

「やめて、もう……!」

必死に足指を地面に突っ張りつつ、郁恵は切に願った。そこには、切羽詰まった恐怖がみなぎっていた。その恐怖は、間もなく実体を伴って眼前に現れる。

「あ! あれ、息子さんじゃないっすか?」

男の指摘に、郁恵は絶句した。男の子が浮き輪と共にこちらに向かって来ていた。

「お母さん」

そう呼びかけながら近づいてくる。紛れもない、郁恵の息子だった。よその家の母親が己の子に近づくなとすら注意していた所へ、また幾人かの人間が好奇の目を注ぐ輪の中へ、郁恵の息子は無邪気に寄って来る。

「じゃあ息子さんに見てもらいましょっか。妊娠するとこ」

男は囁いた。恥知らずな彼は、子供を前にしてもその母親を犯し続ける。

「……クッ!」

郁恵は力を振り絞って抵抗した。息子の存在が、彼女に再び力を与えていた。が、それは悪あがきにすらならなかった。

「お母さん」

少年は、とうとうすぐ傍まで来て止まった。知らない男のペニスが入っている母親の傍まで来て。そうして、物問いた気な表情で、母の後ろの男を見つめる。

「さっきお母さんと仲良くなってさあ――」

強姦魔は優しい笑顔でそれに応えた。さらには、

「一緒に遊ぼっか」

とまで抜けぬけと言った。明るい表情で、子供に親しみを与えるように。しかし真実は海の中、ますます勢いを増した腰振りによって、目の前の少年がかつて産まれ出でてきた膣の内壁を、硬直した肉の突起でグリグリと摩擦してえぐっている。

少年は何も知らない。彼はただ、知らない相手に声をかけられたので、とりあえず母親の顔を見て、彼女の判断を仰いだ。

「イイっすよね、お母さん」

いまだ言葉を失っている母親に、男が迫る。

しかし、彼女は答えない。卑劣な男根は、いよいよ苛烈に股間を暴れ回り、まさしく暴力の様相を呈している。彼女は今、闘いの最中なのだ。

男は、彼女が返答しないのをいいことに、勝手に話を進め、

「じゃあさ、向こうまで競争しよっか?」

と、浜の方を顎で指した。

少年は、再び母の顔を窺う。

母は何も言わなかった。ただ笑顔だけで応えた。もっとも、それは明らかな作り笑顔であった。

平生ならば、それに違和感を覚えたかもしれない息子だ。が、今は特に追及もしなかった。男の勢いに呑まれた観があった。

「イきますよ、お母さん」

勢いのままに、男は郁恵に問うた。

とっさに作り笑顔を凍りつかせる郁恵。それが、スタートを知らせる合図でないことが、明白であったのだ。

「イイ? イくよ?」

男は息子にも問うた。ニコニコしながらだが、一方でちょっとした凄味も混じらせて。

「うん」

少年は頷いた。

その瞬間だった。少年の返答が引き金となって、郁恵にぶち込まれていた暴力的な銃口が、白い火花を吐いていた。

男は勝ち誇って満面の笑みを浮かべる。彼にしてみれば、息子の許諾の下で、その母親に種付けを完了したというわけである。その頬は上気し、興奮の極地といった感じを表していた。

他方、郁恵の頬も上気していた。しかし、その興奮は喜びの故ではなく、緊迫する場面に遭遇したためと形容した方が適当なようであった。

憐れ、彼女の息子は、目の前で母が強姦されたことも、その犯人の策に踊らされて、母への膣内射精の許可を出してしまったことも知らず、早くも浜に向かって泳ぎ出していた。

少し遅れて、男が続く。彼はわざと出遅れて、ギリギリまで郁恵の膣内に精液を搾り出していたのである。

最後に残ったのは郁恵だ。彼女はすぐに動き出さなかった。

そのじっとしている僅かの間に、息子と男は見る見る遠ざかり、一気に波打ち際まで到達してしまう。そうして、そのままその辺りで戯れ始める。犯された女の息子と、彼の母を犯した張本人の男とがだ。

遠目にそれを目の当たりにした郁恵は、女陰に右人差し指を突っ込んで応急的に精液を掻き出しつつ、胸まで水に浸かっていられる限界の所まで急いで歩いていった。

その後、一番近くにいた親戚の子を何とか手招いて、彼にタオルを持ってきてもらい、それで胸を押さえてやっと陸に上がった。もちろん、めくりあげられていた股間の水着を元通りに伸ばすことも忘れてはいない。ただ、いかにも歩きにくそうな足の運びだけは隠しきれなかった。

「エー? 水着流された?」

やっとの思いで帰って来た妻に、呑気な夫は呆れ顔で言った。

妻はそれに詳しい説明をするのももどかしく、イライラしながらシャツを着る。

と、その時だった。

「スイマセン」

呼びかけられて、彼女は振りかえった。そして、目を見張った。

あの男が立っていた。なんと、自ら堂々と訪ねてきたのだ。郁恵が息子のことを連れ戻しに行こうとしていた矢先である。

「これ、水着……落としたんじゃないっすか……?」

男はオレンジ色のビキニを、いかにも遠慮がちの体を装って差しだしていた。

郁恵は何も言えなかった。

すると、

「あ、そうだ、それですよ。どうもありがとう!」

と、代わりに夫が礼を言って、水着を受け取った。人のいい夫はニコニコ顔である。

男も笑顔を返し、さらに振りかえって後ろから来ていた郁恵の息子に手を振ると、自分は海の家の方を向いて去っていった。

彼を見送った夫は、

「あれ、ひょっとしてナンパされた男か?」

と、ちょっとからかう風で訊いた。

郁恵はそれに、

「ううん、違う」

と返事するのがやっとだった。

夫から手渡された水着には、茶色い髪の毛と細かい砂が付着していた。郁恵の股間に、ヒリヒリと激しい痛みが走る。


(おわり)


人妻官能小説【蕩蕩】



テーマ:官能小説 - ジャンル:アダルト

[2011/09/03 22:00] | 「夏のおばさん」 | トラックバック(0) | コメント(0) | page top
夏のおばさん(前編)

『夏のおばさん』


「スイマセン」

ふいに声をかけられて、郁恵はまぶしい空を振り仰いだ。見れば、日に焼けた若者が、こちらに笑いかけている。

「一人っすか」

「よかったら一緒に遊びませんか」

矢継ぎ早に質問を浴びせてくる彼の目的は、一見して明白な、ナンパだ。

「エー、どうしようかなぁ……」

郁恵はまんざらでもなさそうに、にこやかな困り顔を作ってみせた。

それを見て、好感触と受け取った若者は、さらに押しの一手を打つべくパラソルの影に足を踏み入れる。

が、それ以上の交渉は、断念せざるを得なかった。

「オーイ」

「お母さん」

口々に呼びながら駆けてくる者達がある。子どもと大人とが入り交じった一群、どう見ても家族の体である。

それを見た若者、

「あ……失礼しました……」

きまり悪そうに言葉を濁し、たちまち去っていった。

それと入れ違いに、パラソルの下に入ってきたのは夫、

「イヤー、暑い暑い」

と、すっかり日焼けした贅肉をブルブル揺らしながら、バッグの方にしゃがみ込んだ。これからビールでも買いに行こうというのであろう、中から財布をつまみ出す。

「今ねえ、ナンパされちゃった」

彼に向かって、妻は今さっきの出来事を報告する。

「え?」

夫、特に気も無く聞き返す。

「サーファーみたいな男の子。結構イケメンだったなあ……」

妻は、格好のネタとばかりに、嬉々として話を続ける。

これを珍事と判断したのは夫も同様で、彼も少しだけ話に乗った。

「お前みたいな子連れのおばちゃんをか?」

皮肉っぽく口辺を歪めて尋ねる。

「あん、子ども連れとは思わなかったのよ。でもビックリでしょ、ウフフ」

「大方傘で顔まで見えなかったんだろうよ。それか、暑さでおかしくなっちゃったか……」

夫婦は軽口を言いあって、このちょっとしたアクシデントを笑った。

「――お前もそれ脱いで、泳いでこいよ。イケメンがまた寄ってくるぜ」

夫は妻のシャツを指さしてそう言うと、自分は海の家の方へと歩いていった。

「んもう」

妻は、少しく不満そうであったが、続々と戻って来た子どもたちが口々にせがむので、

「はいはい、分かった分かった」

と、一転快活に、軽い足取りで海へと向かった。

シャツを脱げば下はビキニ、なるほど、男の目に留まるのも不思議ではないたっぷりとした盛り上がりが際立っている。この豊満さにしてこの露出ぶり、ナンパは笑い飛ばしてみても、あながち色気がないではないのだ。

ところが、この色気があだになった。海に入って間もなくのこと、ふいの高い波にさらわれて、なんと胸の水着が外れてしまったのである。

「キャッ!」

慌ててこぼれた胸を覆い隠す。だが水着は見当たらない。郁恵は、しかし狼狽するほどのこともなく、愛嬌たっぷり、余裕たっぷりに子ども達に向かって救援を申し出た。

「ねえっ」

一言呼びかけ、次いで水着の捜索を依頼しようとする。が、それより僅かに先んじて、後ろから肩を突っつく者があり、とっさに振りかえった。

「どうも、さっきは」

笑顔の青年。波間からへそより上を出して、こちらに笑いかけている。どうして忘れようか、これなんつい先程声を掛けてきた、ナンパ青年であった。

「あら……」

郁恵は胸元に置いた腕を前よりきつく締めると、ちょっと膝を折って、首まで波の下に隠れた。

「オレも交ぜてもらえませんか」

「え?」

「ボール遊び。なんか楽しそうだなあって」

彼は言った。見ず知らずの青年ながら、郁恵ら家族が興じていた海中バレーに飛び入りで加わりたいという。

郁恵は、時が時だけに困惑した。

「ええっと……」

すると、彼女がためらう中、青年は急にくすくすと笑いだした。

「ひょっとして、何か探し物っすか?」

そう言って、さらに肩を震わせて笑う。

「え、あ、まさか……」

郁恵は不審そうに眉根を寄せた。

果たして、そのまさかだった。青年が海中からスーッと出した手に、オレンジ色の布と紐が握られている。

「あっ!」

郁恵は、思わず眉を上げて叫んだ。

「さっき見つけたんすよ」

彼は手に持ったそれをひらひらと振ってみせる。

郁恵はさすがに決まりが悪くなって、

「あの……ごめん、それ……」

と、ややしょんぼり首を前に出しながら、

「それ、あたし……おばさんの……なの。あの、ありがとう……」

何となく言葉を選び選び言って手を差し出した。

「へえ、おばさ……つうか、お姉さんのっすか」

青年は悪びれもせず、あっけらかんと驚いてみせた。だが、その後の行動は、到底無邪気なものとは言えなかった。

「けど、これデカ過ぎません? こんなあるんすか、お姉さん」

そう言いざま、彼はその布地を自らの胸に当ててみせる。

「ちょ、ちょっと、何するの!」

びっくりして、郁恵はそれを取り上げようと手を伸ばす。が、生憎なことに結果は空振りであった。

「ねえ、さっきのナンパの返事、まだ聞いてないんだけど」

青年は、彼女をかわしながら、地面を蹴って後ろに下がっていく。

「は? 返事?」

強い語調で聞き返す郁恵。相手を追うその指先は、依然空をかすめるばかり。

「このままさあ、一緒に泳ごうよ」

ナンパ男は言った。その顔には満面の笑みが広がっていた。

片や、追う郁恵、このまま行けば、実際そういうことになりかねないと、ちょっと冷静になるべく一瞬立ち止まってみる。その表情は険しい。

既に些かの距離を沖の側へと移動していた。浜の方を振り返ってみる。波打ち際に近い所で、我が子とその従兄弟らが夢中で遊んでいる。現金なもので、向こうから誘っておいて、もう今は母のことなどお構いなしの様子である。その向こうでは夫が、ビールをたらふく飲んで、すっかり昼寝を決め込んでいる。

「んもうっ!」

郁恵は頭にきた様子で、沖の方に向き直りきっとそちらをにらむと、大胆な動作で青年の方へと踊りかかった。

「返しなさいよ!」

今や完全に立腹した彼女である。なり振り構わずに水着に向かって猛進していく。

「おおっと、こっちこっち」

青年は軽快にそれをかわして後ろへ飛んでいく。すっかり彼のペースだ。たまに追跡者が息切れして立ち止まると、

「どうしたの? いらないの、このでっかくて恥ずかしい水着」

と、頭上でオレンジ色をブンブン回して煽りたてる。もう丸っきり幼稚な、例えば、幼馴染の学生などなら絵になりそうな追いかけっこだ。

この陽気で間の抜けた展開に、覚えず郁恵の頬にも少女の頃の面影が蘇りそうになる。が、それを自覚したのかすぐさま、

「もうっ! いい加減にしなさいよ!」

と、苦虫をかみつぶしたような表情に戻る。そうして、必死で彼を追いまわしていく。

ただ、僅かな気の緩みが、時に致命的な失点にもつながるもので。いつしか郁恵の足が砂地から離れるような地点まで来た時、ちょうどそのタイミングで、ようやっと彼女は相手に追いついたのだが……。

思わずギュッとつかんだのは、水着というよりも彼の腕、そして肩。細身のイメージに合わないがっちりとした筋肉だった。

「アーア、つかまっちゃった」

彼は嘆きながら、両手をおもむろにそのまま彼女の背中に回す。

「ちょ、ちょっと、早く返して!」

うすら寒いものが背筋を走ったのか、ふいに身震いし、郁恵は強硬にもがいた。ところが、細い割に腕力のある彼の腕はびくともしない。それどころか、彼女の腕の自由をさらに狭めようとすらしてくる。

「ねえ、もうちょっと遊んでよ」

青年は妖しく囁きながら、郁恵を羽交い絞めに抱き寄せた。ボリュームのある水風船が圧迫されて形を崩す。

「なっ! ちょっ、やめて!」

額から流れた汗が、見開いた目の横を落ちた。郁恵は肘を突っ張って、狼藉者の罠から逃れようともがく。

「ヤベ、チョーかわいいよ、お姉さん。近くで見たら、マジオレ好みだわ」

男は、舐めんばかりに顔を近づけて、安っぽい口説き文句を並べ立てる。

郁恵は顔をそむけ、

「嫌……だ、誰か……!」

と、宙を見上げて助けを求めた。これはもう緊急事態だと早くも判断したらしく。

そんな彼女に、男は冷然と言い放つ。

「無理無理、来ねえよ。てか、誰も見てねえし。人少ねえじゃん? ここ」

確かにその言葉通り、この海水浴場の人口密度は低かった。かつて郁恵と夫は、そのことを喜んだりしたものだったが。

「誰か……!」

それでも諦めず、郁恵は助けを呼ぶ。

「無駄だってば。――けど、そうだね、変に邪魔されてもウザいし、あっちの岩場の方でも行ってみる? 二人っきりでさ」

不埒者はそう言って、不敵に笑った。彼の頭が近づいて、その茶髪が郁恵の頬に触れる。力づくで、本当に実行しそうな勢いであった。

「嫌っ! 嫌っ!」

必死で暴れまわる郁恵。海水と汗で乱れた髪の毛が、額に張り付く。

「いいじゃん、遊ぼうよ! てかさ、もうマジかわいいんだけど。人妻とかさ、子どもいるとか、もう関係ないわ。マジヤベえ」

浮ついた台詞を連発し、ナンパ男は剛柔取り混ぜて目の前の獲物を籠絡する構えである。もっとも、そのいずれもとどめを刺すには至らない。

「離してよっ! なんなの、もう!」

頑なに抵抗を続ける郁恵。その声音にはヒステリックに高い調子が混じっていた。

しかし、男は一向頓着しない。

「アーもうヤバい。チューしていい? チューしよ、チュー」

まるで酒に酔ってでもいるような強引な絡み方をする。ナンパとは飛び込み営業も同様、いささか下品な位食い下がって、己が主張を押し通すのが鉄則であるところ、ある意味、既定通りではあろうが、

「ちょっ、あっ、嫌っ! 嫌って!」

受ける方にすれば不快極まりないこともしばしばであり、現にこの場合も、郁恵は思い切り嫌がって顔を右左へと激しく振り向けた。

男は、しかし、それをものともせずに目的を遂行していく。嫌がる相手の頬に唇を押し付け、さらには舌で耳から首筋を舐めまわす。まるで、蛇のように不気味な絡みつきである。彼は舌先に女体の鳥肌を感じながら、ピチャピチャと唾液の音を立て、ついにはいとも奇抜なことを囁いた。

「ねえ、もうヤッちゃおっか、ここで」

彼にとり本懐の、とどめの一言であった。

それを聞いた瞬間、郁恵の瞳孔はさっと開いた。ビクリと肩には力が入り、体の芯まで硬直する。

「な、何言ってんの? バカじゃないの、あなた……」

切羽詰まった表情で、しまいにはカタカタと顎を震わせながら拒絶する。

「そんなにビビんなくてもいいって」

男は余裕で諭した。優しげですらあった。

「大丈夫、バレないって。二人だけの秘密ってことでさあ」

「い、いい加減にして!」

「いいじゃん! せっかくなんだしさあ、楽しもうよ!」

「やめてっ! 離して!」

二人の議論は平行線をたどる。一瞬はたじろいだ郁恵も、いよいよ最後の力を振り絞って激しい反抗を繰り返す。ここが、ナンパとレイプの分かれ道である。

「今さら何言ってんのさ。あんたも結構期待してたんでしょ?」

男は言いながら、ぐっと下腹部を相手の腹に押し付ける。かつ一方で、背中に回していた手をゆるゆるずらし、下方の双丘にまとわりつかせた。

たまりかねて、郁恵は叫ぶ。

「け、警察……」

それを途中で遮って男はせせら笑う。

「呼べよ。携帯持ってんの?」

彼は手の中の肉を握りしめてその感触を味わうと、そのまま谷間に沿わせて後ろから前へと、指を揃えて潜り込ませていった。

「うわぁ、ケツもチョーたまんねぇ」

さらには、

「お姉さん、Tバックも似合うんじゃない?」

などとからかいながら、ビキニを尻の谷間に無理やり引き寄せて、そこに挟んだりした。両の山が丸出しになる。そうして露出した尻をむんずとつかむ。丸々と膨らんだ尻だ。表面の柔肉に指が食い込んでいく。また、間の水着をズリズリと上下に引っ張って、股間を摩擦したりもする。

「うぅっ……くっ……! やめなさいよ……っ!」

不快感と悔しさに歯がみしつつ、郁恵はのけぞるようにして浜を窺う。頼みの綱は夫であるが……。

「いいじゃん、お姉さん。ひと夏の恋ってことでさあ、思い出作ろうよ。家族とかちょっと忘れてさ、今だけ一人の女に戻るってことで」

男はややトーンを下げ、柔らかな物腰になって相手を誘いにかかった。

「今日だけだぜ? それって悪いことじゃないと思うけどなあ。ちょっとだけ、今だけ気持ちよくなってさ、秘密でさ。ねえ、楽しまないと損だよ」

盛んに“ちょっと”“ちょっと”と言い、とかく人妻の心を揺さぶるべく、ナンパ師は面目躍如とばかりに御託を並べたてる。

しかし、郁恵もさすがに人妻であるからには、にわかには受け入れられようわけもない。

「い、嫌だって、言ってるでしょうっ!」

腕の輪から逃れようと、地面に着かない足をバタバタさせる。

一方のナンパ師、長身の彼は地面に立ってなお悠々と波から首を出している。

「頼むよぉ、お姉さぁん。もうこんななってんの、分かるだろ?」

目尻を下げて生温かい息を吐きながら、彼は尻ごと引き寄せた相手の体に、自身の肉体をこすりつけだした。海水パンツごしにも明らかな固い突起、人妻の柔らかい腹をえぐる。

「ヤバ、もう我慢できない。いいよね、ヤッちゃって。ね? ヤらして。ね?」

彼は息を荒げて言いながら、今度は手前から奥へと、相手の股の間に腕を通し始めた。

「な、何考えて……っ! 嘘、やめてっ!」

郁恵はもちろん抗うが、先程の尻同様、股間の前面も“Tフロント”とばかりに水着を細められ、それを中央の割れ目に集められた挙句に、ズリズリと上下にこすられてしまう。海中にはみ出した陰毛と陰唇、それらが水着の食い込みの筋を境に土手のように脇へと盛り上がる。

「いいよね、このまま入れても。海で濡れてるから入ると思う。てか、それ以前に中から濡れてたりして」

男は、暴れる女をがっしりと抱え込み、揃えた指の数本の間接をクイクイと器用に動かして割れ目をまさぐると、そこに挟まっていた布地を引っ張って横へずらした。

「な、何すんのよ! 嘘っ! 嘘でしょ? 冗談でしょ? こんなとこで。ねえ、お願い!」

郁恵は絶叫した。断末魔を思わせる痛々しさだった。ここが正念場なのだ。これまでの戯れとこれからの過ちは次元が違うのだ。

しかし、その悲愴な叫びも、結局幾千幾万の波のざわめきと、底抜けに青く広がる空に吸い込まれるだけだった。それどころか、発声そのものも遮られてしまう。

男が、必死に声を上げる彼女の、その唇を奪ったからであった。彼女の口が大きく開いた一瞬の隙を見澄ましてのことである。

「ンッ! ンッンッ……!」

パニックに陥る郁恵。首の後ろを押さえつけられ、唇の裏側や前歯の表面を舌で舐めまわされる。

「アイスクリームの味がする」

僅かに開いた隙間から、男は早口で言って、また夢中で接吻を続行した。

郁恵の歯には、アイスクリームのコーンのかけらが付着していた。さっき浜辺で食べたものだ。それが、相手の舌にこそげ取られていく。

「見てたんすよ、さっき、ビーチパラソルの下でアイスクリーム食べてるとこ。あん時から狙ってたんすよね、絶対ヤりてえって」

男はいつの間にか、自身の海水パンツもずり下ろしていた。飛び出した抜き身のものが、郁恵のへその下からなぞって、縮れ毛の群生に早くも合流する。彼はそうしながら、同時に接吻の継続も怠らなかった。

「ング……ッ、ウゥフ……ウグッ……!」

途切れ途切れの呼吸の狭間で、時折嘔吐感を露わにする郁恵。唇の貞操を奪われたという事実が、重圧となって精神をさいなむのであろう。接吻とは、多くの女性にとり貞操に関わる重要な儀式なのである。

「ウッ……グッ……!」

その瞳が暗く濁っていく。

そんな彼女の右膝を、粛々と持ち上げる男。本気で、公然とここで性交を始めるつもりなのである。

「やめ……っ!」

彼との間に両手を突っ張る郁恵。

しかし、それをものともせず、とがった亀の頭は早肉びらの割れ目に先端を隠していた。


(つづく)


人妻官能小説【蕩蕩】



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[2011/08/31 22:00] | 「夏のおばさん」 | トラックバック(0) | コメント(1) | page top
「二回り三回り年下男」(前編)

『二回り三回り年下男』



「波雄君? 今日燃えないゴミの日よ。ほら、早く出しなさい!」

ドンドンと戸を叩き、隣近所にも丸聞こえの大声で登志子は呼びかける。このアパートでは見慣れた光景だ。

ちょうどそこへ出てきた隣室の一家の主人も、いつものこととて苦笑しながら、この元気でお節介な大家に挨拶をした。

「おはようございます」

「あっ、おはようございます」

声をかけられて、登志子は途端に爽やかに振り向いた。

「ごめんなさいねえ、朝からやかましくて」

「いえいえ。大変ですね、大家さんも」

主人に続いて現れた妻が言う。さらにその後ろから息子が現れる。それを見た登志子、

「あらあら、みんな揃って出るのね。仲が良くていいわねえ」

と目を細めた。主人と妻は出勤、息子は登校である。皆行先は違うが、一緒に出発するのである。

「ほら、学、大家さんに挨拶して」

母に促されて、息子、

「おはようございます」

と、寝ぼけ眼をこすりこすり言った。

「はい、おはよう。えらいわねえ、早起きで」

登志子は笑顔で応じた。それを受けて父は、

「いや、もうすぐ十代なんだから、しっかりしてもらわないと」

と言って、息子のランドセルに手を乗せる。

「あら、もうそんなに大きくなったの?」

目を丸くする登志子。父はそれを聞くと、

「そうなんですよ。いよいよ十代ですよ」

と笑った。“十代”というフレーズを気に入っているらしい。子供の成長が嬉しい彼であった。

「早いわよねえ、子供の成長って。うちの子も学君ぐらいの頃があったんだけど、もう今じゃすっかりオッサンよ」

登志子はそう言うと、豪快に笑った。二十三歳になった彼女の息子は、大学を卒業後独立し、既に家を出ていた。

――三人家族は、こうして大家と挨拶を交わした後、それぞれの目的地へ向かうべく出て行った。その幸せそうな後ろ姿を見送ると、再び彼女は扉の方へと向き直る。

「波雄君、起きなさい! 今日予備校は?」

ドンドンと叩く。とうとうその喧噪に耐えかねて、中からドアが開いた。

「うるさいなあ、今日は休みだよ」

現れたのは、浪人生となって今年二年目に入る波雄。寝癖でボサボサの頭、よれよれのトレーナー姿の、いかにも不摂生そうな青年である。

「ゴミは? ……ああ、もうほらほら、またこんなに散らかして」

登志子は、彼が止めるのにもお構いなしに、開いたドアからズカズカと中へ入っていく。部屋の中には、脱ぎっぱなしの下着や、食べ終わったカップラーメンの容器などが散乱していた。彼女はそれらを拾い集めて、手早く選り分けていく。

「うるさいなあ」

波雄はもはや追い出すのを諦めて、ドッカと布団に腰を下ろした。止めても無駄であることは、もう十分思い知らされている彼である。何しろこのお節介な大家は、定期的にうちへ来てはこうやって頼んでもいない片付をしていくのである。

「ご両親に頼まれてるんだから」

その理由をこんな風に彼女は話した。波雄は大学受験のためにこの街へ出てきて、以来一人暮らしで予備校に通う毎日を送っているが、そんな彼の両親が、時々実家から出てきては、登志子に世話を頼んでいくというのだ。彼女はそれを快く引き受けたというわけである。

「もう、しょうがないわねえ」

登志子はぶつぶつ言いながら、散らかっている物をまとめていく。若くして一人暮らしと受験という二つの難問に同時に直面し、精神的にかなり不安定になっているであろう彼だ。それには同情を覚える。下手をすれば社会とすれ違う環境に陥って、孤独から思わぬ病に侵されぬとも限らない。そうならないように、ケアしてやりたいと思う。

それに彼女としては、自身の息子も大学受験をしたという経験から、どうしても他人事とは思われないのである。加えて、息子が独立したことから来る寂しさも多少は作用していた。いつしか、息子と波雄とを重ね合わせていた彼女である。そういう個人的な事情も、世話にいそしむ背景にあった。

「あ、あんまそっちの方はいいよ」

波雄は先ほどよりは幾分トーンダウンしながら、無駄とは知りつつも一応指示してみる。結果は、やはり予想通りであった。とはいえ、相手がこのなりふり構わぬおばさんであったれば、別に殊更に恥ずかしがるようなものもないのであったが。

「まったくもう……」

それでも彼は、いくらかは感じる照れを隠すべくぶっきらぼうに呟いて、顔から頭をぐるりと撫でた。そうして、ぼんやりと目の前の光景を見つめる。膝をつき前かがみになって作業をする登志子の、丸々と大きな尻がこちらの方に突き出されていた。腰からふくらはぎの下までを覆うぴったりと密着した布に、くっきりとパンティラインが浮き出ている。

波雄は、そんな所を見てどうするんだと自嘲しつつ、つと立ってトイレに向かった。

彼女の尻を見たからといって、性的興奮を覚えるはずはない。彼は年上の女性が好きだったが、その対象になりうるのは、女優のように美しく、且つ清楚で儚げな人なのだ。登志子のようにがさつで、どこにでもいるようなおばさんではない。それに、彼女は年がいき過ぎている。自分の母親と同年輩くらいだ。若い彼は、そんな女を抱こうなどとは夢にも思わなかった。

トイレから帰ると、今度はこちら向きに屈みこむ彼女の姿があった。そのゆったりとしたカットソーの襟首から、深い谷間の空洞とベージュ色のブラジャーが覗いている。かなり豊満な乳房である。そして、余りにも無防備な態度だった。

波雄はまたぼんやりと彼女を眺め始めた。登志子は丸い輪郭にぱっちりとした目が特徴の、人懐こそうに見える愛嬌のある顔をしている。波雄は彼女にうざったらしく当たりつつも、心の内では彼女に悪印象を持ってはいなかったが、それも、彼女の人好きのする明るい造作のおかげであった。

ただ、それが彼女の健康的な言動と相まって、彼女を色気から遠ざけていた。これまではそうだった。しかし、こうしてその肉体をまじまじと眺めていると、ふいに彼の中で何かが変わり始めた。彼にしてみれば、魔がさした、という表現が適切であったろう。

事件は唐突に起きた――。

「ちょ、ちょっとどうしたの」

突然後ろから抱きつかれて、登志子は驚いた。ゴツリと、その尻に固いものが当たる。その一事で、あることを察知する彼女。だが、まだ半信半疑だった。

「あ、これ触っちゃまずかった? ごめんごめん、はい、離したから」

そう言って手にしていたシャツを離してみせる。と、相手はそれに関係なしに、彼女の腰のゴムに手をかけてきた。もはや目的は明白になった。登志子はそれを知ったが、そこは年の功である、笑いながら彼をいなした。

「ちょっとちょっと、どうしたの、波雄君」

冗談にして紛らわしてやろうという魂胆だ。彼とて一瞬の気の迷いからこんな挙動に出たのだろう、彼女にはそれが分かる。自分としては、大人の対応で彼を正気に戻してやろうと考えた。

とはいえ、いくら年齢を重ねていても、女がみんなこんな状況を経験しているわけではない。登志子だってそうだ。彼女は日常の延長上で、母親のように彼に対応しようとしたが、一旦行動に出た男の迫力は思いのほか凄まじく、そんな悠長に事を構えてはいられなかった。

「こ、こら、いたずらはやめなさい。お父さん、お母さんに言いつけちゃうわよ」

作戦を変えて、彼の弱点への攻撃を試みる。しかし、何の効果もなかった。その間も絶え間なく、相手は着衣を脱がそうとしてくる。既に下着まで一気にずらされ、尻の谷間までが露出させられていた。

不利を感じた彼女は、しかしまだ大人の寛容さは捨てきれずに、

「こらっ、おばさん怒るわよ!」

と、やや声を荒げて、相手を威嚇しにかかった。しかし、これもやはり効果がなく、時を同じくして、下着を膝頭まで脱がされてしまう。ここまで恥をかかされては、いよいよなりふり構っていられなくなった。

「ちょ、ちょっとやめなさい! 落ち着いて!」

登志子は、前へ逃げようとしたり、手を突っ張って相手をどかそうとしたり、さらに手近にあるものを投げつけようとしたりしたが、それらはことごとく阻止され、ついには彼によって手の自由を奪われてしまった。

波雄は、そうして彼女の尻を引き寄せると、自身のスウェットを手早く腿までずらした。途端に、いきり立った肉棒が飛び出る。自分でもつい先ほどまで想像だにしなかったことだが、彼の陰茎は今、登志子に対して勃起していた。

彼女の視界にも、それは入った。

「や、やめて……!」

初めて恐怖を覚えて、登志子は声を上ずらせた。現実離れした恐怖だった。自分が犯される、考えもしなかったことだ。しかも、この歳になって……、と、彼女はそこから閃いてとっさに叫んだ。

「落ち着いて! こんなおばちゃん相手に何やってるの」

それは、常識的な考えに基づくものだった。普通に考えて、二回り以上も年の離れた相手に欲情するなど、お互いにあり得ないことだと。

しかし、性欲は時として常識を超える。いよいよ登志子の尻に固い突起が当たった。彼女としては、かれこれ久しぶりに感じる固さだった。ピクリと、女の肌が反応する。

「やめなさい。本当に怒るわよ。け、警察呼ぶわよ」

彼女は言った。そしてまだ言葉を続けようとしたが、それ以上は言えなかった。大声を出されぬように、波雄が落ちていた自分の下着を彼女の口に押し当てたからである。その行為は、彼女を絶望と屈辱に追いやった。

「ンングッ! ングゥッ!」

髪を振り乱し、必死で最後の抵抗を試みる登志子。このまるで現実感のないレイプを、とんでもなく恐ろしいことだと自らに思い知らせるように。その口から洩れる声は、断末魔の叫びに似ていた。そして、その声の途切れぬうちだった。

ペニスは入った――。

後はもう成り行き任せ、波雄は彼女の口を押さえながら、全体に覆いかぶさるような格好で、後ろから突きまくる。湿り気の少ない陰裂だったが、肉棒は難なく奥へ到達した。

「ングフゥッ!」

痛みと悲しみと諦めが、登志子の心に交錯する。彼女は眉根を寄せて、波雄の下着を噛みしめた。後ろから突かれるということが、余計に犯されているとの観を倍加して感じさせた。

「やめてぇ、お願い」

不確かな発音ながら、彼女はそう言って相手をなだめようとする。今からでも遅くはない、こんなバカな行為はやめさせようと、彼女は思った。

夫への裏切りという気持ちは不思議となかった。それは、自らの意志による行いではないことから当然ともいえたが、そもそも既に愛の冷え切った相手に対して貞操の観念は希薄であったからである。

それよりもむしろ、息子とダブらせてきた波雄の身の上の方が心配だった。彼女は、こんなことをされてもまだ彼を恨んではいなかった。一つには今でも現実感がないのである。相手が、よく知っている子供だというのがその一番の理由だ。そんな子と自分が性交渉するというのが信じられないのである。

だが、彼女がどう思おうと、彼は男なのである。波雄は、そんな彼を止めようと手を伸ばしたものの失敗してつんのめった彼女にのしかかり、情け容赦なく腰を振り落とした。露出した尻肉に、うなりを上げて股間がぶち当たる。

彼にとって、もはや彼女は世話焼きのがさつなおばさんではなかった。立派な性対象であった。自分の母親と歳の変わらぬことなどどうでもいい、ただ肉欲を満たせさえすればそれでよかった。

「ンッ……ンフゥ……」

彼によって、登志子も無理やりに女にされていった。結婚して四半世紀、女に戻るのは久しぶりだった。久しぶりでも、体は覚えているものだ。意識しようとしまいと、男根に対して受け身をとってしまう。いつしか波雄のそれは、淫汁によって包まれていった。

「ダメ……やめて……」

いい歳をして、こんな年端もいかない子供に恥をかかされて、なんて情けない女だろうと思いながら、その脳裏からはいつしか危機意識の薄らいできたことを、彼女は薄々悟っていた。

波雄は、ほとんどうつ伏せに伸びた格好の彼女に上から重なって、布団や枕で自慰をするがごとく、肉茎を一直線に摩擦し続けた。相手の心情を慮っている余裕はない。これがレイプであることも分かっている。いや、だからこそ、一度踏み切ってしまったからには後戻りできないと思った。

彼は登志子にしがみついて、がむしゃらに腰を振った。いつも強気な熟女も、抑え込めば意外に弱かった。やはり女だった。彼は自分の腕力に優越感を覚え、また大人の女を屈服させられたことに満足を感じていた。彼にとって母親のように振る舞う彼女は、ある種権力側の人間であったのである。

「やめなさい……」

建前が登志子をさいなみ、苦しげに呻かせる。肉欲はある。だが認めるわけにはいかない。しかし、逃げられもしない。彼女はただ、この拷問がすむのを待つしかなかった。幸い、そう長く耐えなければいけないわけではなかった。

射精――。突然に体内に流れ込んでくる熱いエキス。やはり久しぶりの感覚……。

終わった――、そう思うと同時に、涙が頬を伝う。おそらくは、ショックから一気に解放され、肉体の緊張の糸が途切れたためであったろう。登志子は、緩んだ彼の腕の下から出した手で、それを拭った。喪失感はないが、少女のような振る舞いだった。

彼女は身を起こすと、一瞬いつもの習慣でティッシュペーパーを探したが、相手が夫でなかったことにすぐに気づき、恥ずかしさから思いとどまった。注入された精液が熱を帯びて体内をうずかせる。もう一刻も早くこの場から立ち去りたかった。

とりあえず、ずり下げられた下着を元の位置に戻すことにする。この間、二人とも無言だ。登志子は、彼を叱責せねばならないのだろうと思いながらも、何と言っていいか分からなかった。今はただ、心までは彼に奪われたのでないことに満足するほかなかった。

と、その時、まだ下着が尻の下に引っかかっている時に、またしても事件は起きた。

「ああっ!」

思わず叫んだ登志子は、したたかに後頭部を布団に打ち付けた。波雄によって、今度は仰向けに押し倒されたのだった。

「な、何するの。やめなさい!」

声が震える。前以上の恐怖が、彼女を襲っていた。今度こそが本当の凌辱だとは、彼女の本能が叫んだことだった。古びた貞操を汚されただけで終わりではなく、女としての性欲を掘り下げられること、そうして彼のにおいを染み付けられてしまうこと、それこそ決定的に恐ろしいことである。

「は、離して! いい加減にしなさい!」

登志子は抗うも、例によって身動きができない。波雄の体重が両肩にのしかかる。と、彼の唇がこちらのそれに落ちてきた。顔をしかめてそれをかわそうとする、が、無駄なあがきだった。

「ン、ンンッ!」

精一杯つむった口に、波雄の口元が密着する。兄弟と交わすような、背徳的な接吻だった。味は無い。その感想そのままに、若さに対する引け目と彼の行動に対する疑問がわき上がる。

波雄とて、つい先刻まで女の数にすら入れていなかった相手に口づけをすることになろうとは、ついぞ考えもしなかったことだ。しかし、実際に接してみると、顎に触れる産毛といい、ギュッと閉じた瞼の皺といい、その一つ一つの印象が、完全に女であった。彼は舌を尖らせて、彼女の唇をなぞった。紅は引かれていなかった。

「ンンン……ッ!」

登志子は両手を握りしめて、今や真に犯されている自分を自覚していた。体のみならず、心まで侵食されていく自分を。相手はオスの本能として、自分をメスに仕立てた上に、この身を支配しようとしているのだ。彼は知ろうまいが、自分には分かる。あまつさえ久しぶりの接吻が、彼女を焦燥と混乱に導いていった。

弱気になった彼女は、とうとう年輩者としての威厳を放棄し、最後の懐柔策に出た。

「誰にも言わないから、だからもう、やめて、ね?」

しかし、それを言い終わらぬうちに、開いた口の隙間から舌と唇が侵入してくる。半ば予想通りの、当然ともいえる結果だった。そして、それと相前後して、当然のように再突入してくるペニス――。

「ヒグッ!」

登志子は肩をいからせてのけぞった。


  *

どれほどの時間が経ったのか、今朝まとめたごみ袋に赤い日差しが当たって、暗く翳った部屋に影を伸ばしている。その影の横にこれまた黒い影。ただし、こちらは大きく揺らいでいる。そして、それが揺れるたびに、ごみ袋が微動する。

「ウッ、ウッ――」

室内に響くは女、いな、獣の啼き声。影の動くごとに啼いている。

「ウッ、ン、ンァガハアァ……」

時折大きく息を吐いて、顎を震わせる。恍惚と絶頂を味わっている証だ。震えているのは顎ばかりではない。大腿部などは、さっきから震えっぱなしである。それは、セックスが長時間に及んだためばかりではなかった。かれこれ二発目の射精時には既に震え始めていた。下腹部なぞは痙攣しっぱなしだ。柔らかい肉がプルプルとしている。

経験は十分にあったはずなのに、久しぶりだということは、まして活気に満ちた相手と行うということは、想像以上に負担のかかるものだった。はっきり言って、これは半世紀近く生きてきた中で、初めて知ったセックスだった。

波雄も波雄で、初めて知る快楽だった。今まで見落としてきた熟女の肉が、これほどに具合のいいものだとは知らなかった。三度目の挿入に入ってからというもの、彼の欲求は止まらなかった。完全にアニマルと化して腰を振り続けていた。

熟女の肌は緩い。その緩んだ皮に覆われた腿の合い間に割って入り、これを押さえつけ、ゴシゴシと肉竿で突いてやると、体中の柔肉がタプンタプンと揺れるのだ。ことに乳肉が圧巻で、瞬間的には鎖骨やへそまで覆いつくすほどに上下運動した。

登志子はいつしか全裸にひん剥かれていた。豊かな乳房は両脇へと滑り落ち、乳輪も楕円に広がって、彼女の年輪を最もだらしない形で説明していた。波雄は、それらをギュウギュウ揉んで手形をつけ、自らの足跡を刻印していった。

足跡は、無論それだけにとどまらない。何と言っても極め付きは、彼女の女性自身である。散々種を植え付けられて、誰がその主人であるかを教え込まされていた。今しも彼が遠のくと、ドップリと溜まった白濁汁が、淫肉の盛り上がりからはみ出てきた。明らかに容量オーバーである。

「ンンッ、ンー、ンフゥ……」

はめ込まれていたものが外れても、すぐには呼吸が整わない。もうずっとこんな調子だ。そうして落ち着かない内に、またはめ込まれてしまうのである。それを繰り返してきた。

外からは、近所を通る子供の声が聞こえる。学校から帰って来たというより、一旦帰宅した後遊びに行って、そこから帰ってきたという頃合だろう。もうそんな時間だ。隣室の学も、ぼちぼち帰ってきたのではないだろうか。

ようやく登志子は解放された。背中をヒクヒクとバウンドさせながら、ぐったりと全身を横たえる彼女。動けない。ただ、その身には深い満足があった。久々にメスとしての務めを果たせたことへの満足だ。

しばらくして、やっと右に寝返りをうつ。本当は起き直ろうと肘をついたのだったが無理だった。乳房をはじめとした柔肉が、右の方へトロリと流れ落ちる。重なった腿の間から、白濁液が、ブブッと卑猥な音を立ててこぼれ出る。転がされ放置されたその姿は、まさに犯された女の哀愁を漂わせていた。

事後の女は惨めだ。男本位の性処理に付き合わされていながら、後処理は自分で引き受けなければならない。既に凌辱された後とあっては、取り返しがつかない。登志子は、もはや自分の物とも感じられない股間辺りを手で囲いながら、衣服のありかを探った。

腰が抜けたようになり力も入らないことが、余計にその境遇を惨めにした。彼女は、波雄のお節介な介護なしには、服を着るのもままならなかった。プライドの傷つくことであり、断りたかったが、もはやそんなバイタリティーは残っていなかった。彼女は、なぜか上下の下着を取り去ってしまう彼の理不尽な補助を受け、あれよと言う間に玄関へと送りだされた。

「また来てよ、おばさん。それとも、泊まっていく?」

冗談とも本気ともつかない顔で、波雄が言った。

登志子は無言で首を振り、そのどちらをも拒否する。今できる最大限の意志表示だった。すると、その口をまたしても彼に奪われる。彼女に抵抗の余地はなかった。今日から誰が主人であるか、その身は嫌というほど思い知らされていた。

結局玄関先でもとどめの種付けをされて、登志子はふらふらになって帰宅した。


  *


強姦された女は自己嫌悪に陥ることが多いが、彼女も例外ではなく、非難の矛先は波雄ではなく自分に向かうのだった。彼への慈しみを捨てきれないこともあり、また、確実に性的満足を得てしまったこともあり……。

結局彼女が出した行動方針としては、今までどおりに快活に振る舞い、それでいて無防備になり過ぎぬよう、女として最低限度の身だしなみを整えようということであった。自分に隙があったから、波雄が変な気を起したのだと、彼女は反省していた。加えて、それでなければ、自分のような年増に本気になるわけがないとも考えていた。

あの日以来、さすがに彼の家へは足が遠のいた。が、大家と賃借人という関係上、日頃から顔を合わせないわけにはいかない。ただでさえ、周囲の掃除などこまめに働き回っている登志子なのである。

だから、過ちは重ねずにいられない運命だった。登志子は傍目に、以前と変わらぬ体を装っていたが、波雄は違った。あからさまに卑猥な視線を送ってきた。そして、隙あらば実際に挑みかかってきた。

まだ誰か同伴者がいる場合はいい。彼も大人しくしている。だが、一たび一人きりになるや、彼は屋外でもお構いなしに彼女を羽交い絞めにしてきた。現に、外で犯されたこともある。外階段の裏側で、壁に手をつかされ、後ろから……。

そういう時、彼女は声を上げられなかった。普段の大声にも似ぬ体たらくである。それは、一種のトラウマのせいでもあり、他方、己の外聞や、さらにはいまだ相手への思いやりなども気にかかっていたからである。しかしながら、やはり誰かに見られるとまずいということで、大抵は彼の家へと連れ込まれる形でまぐわった。

そんな気も知らず、彼は時に非道なことをする。

「あら、あそこのおうちって、波雄君ちでしょう? やだ見て、ブラジャー干してあるわよ。カノジョかしら? それともお母さん来てらっしゃるのかしらねえ。それにしても、大きなブラジャーねえ」

近所の主婦が指をさして言った。見れば、ベージュ色の上下の下着が、物干しざおにぶら下がっている。一階にある彼の家なので、見間違うはずもない。それは、登志子のものだ。彼女は真っ青になって、早々にその場を辞すと、波雄の家へ向かった。そして、抜き身の男根をおっ立てて待ち構えていた彼に、案の定犯された。そんなこともあった。

波雄は、登志子の予期に反して、本気だった。少なくとも、彼女の肉体に対しては、本気で欲情していた。たとえ彼女がつつましやかないでたちをしようとも、彼の願望は減退することがなかった。

そんな彼にほだされて、登志子も次第にこの不倫にはまっていった。既に、セカンド・レイプの時点でその兆候は顕著に現れていた。本気で求められ、本気の固さで貫かれるセックス。ついぞ御無沙汰だったものだ。あまつさえ、そのにおいをマーキングされてしまった彼女だ。女として、それは素通りできない。

女は、体を重ねるたびに情が移る。登志子も本能でそれに気づいていた。だからこそ、恐くもあった。いい大人になって、後戻りのできない痴情に溺れることは、理性にとって自殺行為なのである。

「もう許して。もうこれっきりにして」

口では何度もそう言った。だが、蜜壷からは淫汁が漏れて、折角の強がりを打ち消した。

夫に見向きもされなくなった性器。だが使用期限はまだ切れていない。それを、夫の知らぬ間に、二回り以上も年下の男に、彼用にかたどりされていく。そこにある背徳的な悦びを、いつしか彼女は覚えた。

「言うとおりにするから、乱暴にしないで」

いかにも観念したように言って、赤ん坊のように手を肩の横辺りに置いてグーパーし、股を開いて受け入れ体勢を取るようになる彼女。その後は、甘い声で啼くようになる。

女の声は、段階的に変化する。男根を入れられても、初めの頃は自分を守って、控え目に声を上げる。演技の混じることもある。いわば、女性のたしなみといった声だ。次いで、陶酔が始まると、今度は秘めていた淫性が現れて女の叫びを上げるようになる。そして最後に出すのがメスの声。

「アガァーッ、アグ、アグァゥァゥアー……!」

獣の啼き声と言ってもよい。オスの種付けを受け、本能から悦びむせぶのだ。個人差はあるが、ある程度の年齢を重ねた者の方が、ここへの到達は早くなる。

登志子の啼き声は、いつも獣のそれだ。心底堪え切れなくなって、自分を見失ってしまうのである。よく母親代わりなどと言えたものだったと我ながら思う。息子より年下のペニスと子作りして、メスの悦びを謳ってしまうのだ。

そうして、満たされた気持ちと恥ずかしい気持ちを抱えて、頬を火照らせながら彼の家を後にするのである。しまいには、自ら訪問するようにもなった。いわば、抱かれに来るのである。大抵は、惣菜などを差し入れに来たという体だった。

二人は互いに慣れてくると、肉体関係以外のつながりももつようになった。以前にも増して会話を交わすようになり、二人は親密の度を加えていった。不思議な関係だった。

波雄は、彼女を女として見ていた。が、同世代の恋人とは違い、仮に傷つけたとしてもかまわないというような、少々雑に扱ってもいいと思う相手だった。そこにはある種の甘えもあったが、やはり体が目当てだったということである。

一方、登志子の方には思いやりがあったが、彼女とて認めたくはなかったものの、自分を満足させてくれるのが彼の若さであるとの事実からは、どうしても目をそむけられなかった。どんなに男と女で対等に向き合おうとも、やはり年齢の壁はどこまでも付いて回るのだった。

とはいえ、奇跡的なバランスながら何とかそれに慣れていった登志子だった、が、まさかこれ以上の壁に立ち向かうことになろうとは、さすがに想像しなかった。


<後編へつづく>


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[2010/12/25 22:00] | 「二回り三回り年下男」 | トラックバック(0) | コメント(0) | page top
「兄と妻」(急)

   急



――運命のその日、奇しくも会社は早仕舞いだった。こんなことは、少なくとも入社してこのかた初めてだった。後になって思えば、それは不吉の予兆だったのかもしれない。

しかし、賢次はもちろんそんなことを考えもしない。むしろ早くに帰宅できることを幸運とすら感じていた。それが証拠に、途中でケーキまで買って帰るという浮かれぶりを見せたものだ。今日が特に何かの記念日というのでもないのにである。彼は自らのいつにない気まぐれに、兄のような気ままさを見つけた気がしてほほ笑んだ。

そうして家へ帰る道すがら、彼の胸は幸福に満たされていた。目に映る全てが輝いて見えた。

自宅近くに来ると、近所の子供たちが道の上でケンケンパをしてあそんでいる。表通りはもう随分と進んだが、ここいらはまだ舗装されていない道も多かったもので、子供たちはそこへ丸や三角を書いて遊んでいたのである。

その横を物売りが台車を引いて通り、少し先の角では見知った顔のおばさん連中が井戸端会議をやっていた。そういう風景が、明るい日差しの中にきらめいている。もう夕方近かったが、夏の太陽はまだ高かった。

賢次は自宅に到着した。しかし、玄関の引き戸の前でふと立ち止まる。そうだ、いつかの兄のように、庭から入って驚かせたらどうだろうか、それは急に湧いて出た悪戯心であった。

その思いつきを早速彼は実行に移した。ぬき足さし足で玄関を逸れてそちらの方へ回り込んでいく。我が家に入るというのに、まるで空き巣のようである。

庭の入り口まで来ると、案の定縁側は開け放たれており、その上テレビの点いているのが見えて、居間に誰かがいるのは明らかだった。それを知ると、もう賢次はわくわくとして笑顔を禁じえない。

彼は今にも吹き出しそうなのを必死に堪えながら、相手に気取られぬようにそおっとそおっと近づいていった。テレビの前に仰向けに伸びる足が徐々に見えだす。すね毛の感じからそれは兄だとすぐに分かった。

だが、腰の辺りまで見えた時、賢次は、おや、と不思議に思った。さらに、腹、胸と見えて確信する、兄は裸であると。それと同時に、賢次は妙に嫌な感じを覚えた。そして、自分でもどうしてそうしたのかは分からぬが、とっさに身を低くして、庭と外を隔てる壁の方へと行ったのである。

それは、動物的勘というものだろうか。本能で危険を察知し、反射的に行動をとったものだ。彼はまた、驚くべき鋭敏さでもって事態を把握しようとしていた。人間、想定外の状況に置かれても、存外冷静に分析できるものである。

そもそも、暑い盛りのことでもあり、兄が裸で寝ているからといって別段驚くには当たらないはずである。だが、賢次の冷静な洞察は、平常ではない何かを早くも見抜いていたのだ。彼の動悸は次第に激しくなっていった。

彼は苦しい胸を押さえながら、庭石の陰に隠れた。兄が友人から貰ってきたというそれは、そもそも庭とは名ばかりの我が家の狭い敷地には不釣り合いな、かなり大きなものだった。

今にして思えばこのためにわざわざ兄が配慮したのではないかというぐらい、身を隠すのにおあつらえ向きなその裏にしゃがみながら、賢次は一時も目を離すことなく居間を見つめる。

一糸まとわぬ姿で肘をつき仰向けに寝る兄。それはよい。問題はその向こう。確かにその向こうに何者かがいる。それはかつて想像だにしなかった状況、しかしながら、今は胸をかき乱されそうな疑惑の場面。

果たして、それはすぐに確信に変わった。まるで彼によく確認させようとでもいうように、その人物は上体を起こしたのである。乳のまろみが胸板の上を斜め下に滑り落ちる。右手を後ろに突っ張り、左手で顔にかかったほつれ毛を直し……。

賢次は息をのんだ。どうして見間違えようか。それは彼の妻だった。確かに全裸の妻だった。

男女は寝転がってテレビを見ていた。ほどなく男も上体を起こし、女に何事か話しかける。女は笑った。テレビのことを言ったのか、それとも、愛のささやきだったのか。こちらまでその声は届かなかった。

二人は気だるい感じで肩寄せ合って、実に仲睦まじく語り合っている。傍目にはまるで夫婦のように見える。しかし、彼らは夫婦ではない。彼は夫の兄であり、彼女は夫の妻である。そして、夫は、庭にいる。まるで空き巣のように自分の家に忍び込んで、兄と妻の裸を見ている……。

それは、青天の霹靂にしても余りに奇想天外だったし、空想としても突飛過ぎた。賢次にとっては思いもよらないどころか、天地がひっくり返る位ありえるはずのないことだったのだ。

しかし、現実に見せつけられてしまっては、もはや信じるも信じないもない。動かぬ証拠というわけである。男女が裸で寝そべっていることに、一体ほかのどんな正当な理由があるだろうか。

事実は小説よりも奇なり、彼の脳裏にはそんな警句が渦巻いて離れなかった……。

ふと夫は気づく。縁側の上に皿が、その上に西瓜の皮が並んでいることに。彼の好物である西瓜の皮が。彼はそれが買ってあったことすら知らなかったが、ひょっとしたら彼が食べるはずだったかもしれないものだ。それは彼を癒すもの、家に稼ぎをもたらす夫を楽しませるはずのものではなかったか。

そういえば、二人の見ているテレビも、二人を冷ませている扇風機も、みんな夫が買ったものである。兄が買ってきたものなど一つもない。かろうじて兄の手のものがあるとすれば、今夫が身を隠している不格好な置き石だけだ。

夫の今の境遇のなんとみじめなることか。彼は暗澹たる気持ちに一気に沈みこみながら、受けた衝撃の大きすぎるために立ち上がることもままならなかった。

そんな彼をよそに、目の前の二人はつと立って、見えないところへ行ってしまった。二人の姿が消えたことは、賢次の目の前が真っ暗になったのとちょうど一致するようだった。

認めたくなかった。兄と妻が不倫の愛を営む、そんなことがあり得るわけないではないかと。

ふと思い出す。そういえば、妻が深刻な様子で何かを切りだそうとした日のあったことを。もしかしたら、あの時何かのきっかけがあったのではないか、そんなことを思う。もっとも、今となってはどうしようもないことだ。

そんな状態でじっと固まっていて、一体どれほどの時間が経ったろう。滝のように流れる汗が、背中にぴったりとシャツを張り付けた。

と、彼の視界に再び妻が、それに続いて兄が現れる。まだ裸、である。それになぜか、彼らの体にも多量の滴が伝っていた。――行水、そのフレーズが頭に閃く。

いつかの日、彼が帰ると慌てて奥から走り出てきた妻。行水をしていたのだと言った。後から出てきた兄も、そう、行水と。二人で、行水を……。我が家の自慢の風呂で、二人。その露見を恐れ、着の身着のままに夫の前に走り出る妻。悲しくもつじつまが合った。

白昼、彼らはいつもそうして過ごしていたのだろう。いつも家にいる兄と妻、夫のいない二人の時間、彼らはこうして不貞の関係を愉しんでいたのだ。だらだらと、淫らに。

我が物顔で台所の椅子に座る兄。そこへビールを出す妻。以前の賢次なら何とも思わなかった。たとえ人が働いている間、昼間から酒を飲んでいても、そればかりか、家の物を何気兼ねなく消費しても。兄なら何でも許せた。

だがしかし、だがしかし――瞬間、賢次は目をそむけた。グラス片手に立ち上がった兄、その足元に、妻が膝折って立ち、なんと、なんと彼の陰茎を口にくわえたではないか。

自分の物はことごとく兄のために使ってもいい、だがしかし、妻までもなのか! 賢次は戦慄した、現実の残酷さに。そして、妻の淫乱ぶりに震え慄いた。賢次は目を逸らした、つもりでいた。だが実際には、一寸も首を動かせなかった。

だから、彼は見ていた、その一部始終を。妻が両手を膝の上に揃えて兄の陰茎をしゃぶり、それにともなって陰茎が膨らみ起き上がっていく様を。

兄はコップのビールを妻にも与えてやった。妻は彼の手ずから与えられるままに飲み干す。そしてまたしゃぶる。また飲む。またしゃぶる。まるで酒のつまみのように陰茎を食す妻。

足もとから兄を見上げるその格好は、まるっきり餌を貰う犬のようだ。仮に犬にしてもすっかり飼いならされてしまっている。夫は妻の変貌ぶりに愕然とした。

しかし、驚愕の事態はそれだけにとどまらなかった。その時、電話が鳴ったのであるが、それに出た妻への兄の仕打ちは、もはや正気の沙汰とは思われなかった。受話器を握る彼女の尻を引き寄せ、なんと合体したのである。

「アンフッ!」

艶めかしく腰をくねらせて、妻がため息を吐く。背中に走る溝の影が、男根を受け入れた女の悦びを生々しく表わしているようだった。さらに、続いて妻が口にした言葉は夫を震え上がらせた。

「あ、お義母さん……」

なんと相手は田舎の母だった。電話だと大きな声音になるのか、明らかにさっきまでより妻の声が聞き取りやすい。分けても母の名は、賢次の耳膜を鋭くつんざいた。

「……ええ、今、お掃除を……」

呼吸を荒げて妻が言う。賢次の脳裏である回路がつながった。またしても記憶と符合する事態だ。あの時も、そうあの時も彼女はそう言った。では、あの時も……。

兄は容赦なく妻の尻へ腰をすり寄せる。先ほど膨張した兄の肉茎は、完全に妻の腹の中に埋まっていた。やがて、パチンパチンという肌と肌のぶつかる音がこちら側にまで響きだす。

「ア……お、お義兄さんたら……」

妻は甘えるように言い、その口角には笑みが浮かんでいた。彼女は兄と電話を替わる。まったく同じだ、あの時と。ではあの時も、夫と通話をしながら、彼らはこうして白昼堂々股間を突き合わせていたわけだ。

あの時はまったく気づかなかった。妻が自分としゃべりながら兄の肉茎に貫かれていようとは。また兄が妻を犯しながら平然と自分と話をしていようとは。よくもまあぬけぬけと、夫をないがしろにできたものだ。まったく狂者の仕業だ、賢次はそう思った。

しかも今は、あろうことか母までも欺いている。母の前で、堂々と不義密通を働いている。

妻は兄に受話器を渡した後、前のめりに体を折って、電話台の脚の下の方をつかみながら、もはや完全に肉欲に心を支配された者のごとく、ただただ息荒く喘いでいた。その顔は生殖を悦ぶメスそのものだった。

兄もまた母と会話をしながら、ただひたすら妻との肉交を愉しんでいる。彼らにはもはや人間的理性などないのだろうか。動物的野蛮な性欲のみが彼らを突き動かしているようである。

「……ああ……うん……仲良くやってるよ……」

兄は母に話す。そうして、その言葉を実証するつもりなのか、一層深々と肉茎を突き入れて、やがて電話を切った。

直後、彼が妻から離れると、両者の股間からポタポタと白い汁が垂れ落ちる。とうとうこの恥知らずな兄は、母との会話中に弟の妻へ子種を注ぎ込んだのだ。将来母が抱く初孫は、彼の子かもしれない。

もっとも、兄には何らやましいところなどないだろう。その心理が、弟の賢次には何となく分かる。兄は本当に、ただ目の前の欲望に忠実なだけなのだ。決して弟を害そうなどと計画してやっていることではない。

万事行き当たりばったりな男なのである。妻のことも、最初から狙っていたわけではないだろう。彼にとっては、この肉欲の戯れが楽しいだけなのだ。

他方、妻はどうだろう。妻は一体どういうつもりでやっているのか。兄の子ができてもよいというのか。夫に対してどう思っているのか。

彼女は、再び居間に移動して寝ころんだ兄の横に座り、彼の股間を一心に愛撫しだした。力弱くなった陰茎を手でしごき、そして舐めしゃぶっている。彼女に反省の情はあるのだろうか。

もし、賢次が彼女の前に現れたとして、彼女はどんな反応を示すのだろうか。そうして、彼はどうしたらいいのだろうか。彼には判断ができなかった。怒りの感情よりも、まだ裏切られたショックの方が大きくて、彼の脳は思考停止状態だった。

それに、既に彼は出ていくタイミングを逃していた。最初に偶然出くわすのが最も良かったが、妙に鋭く勘が働いためにそうはいかなかったし、その後もまたその後も体が固まって出て行けず、そうするうちとうとう子作りまでされてしまったのだ。

彼はすっかり塞ぎこみ、視線を地面に落していた。と、その時、妻のある一言が聞こえた気がして、またはっとして彼は頭を上げた。

「あの人が、帰ってきちゃう……!」

あの人、それは夫である自分のことに違いない。はっきりとそう言ったのかは分からないが、彼の耳にはそう聞こえた気がした。

はっきりしているのは、彼らが再び交接を始めたことだ。二人は飽きることなくまぐわい続けた。時折体位を変え、中には妻が兄の上にまたがるものもあった。妻は兄の上で、いかにも妖艶に舞っていた。

あの人が帰ってきちゃう、だからどうだというのか。だからやめてほしいのか。帰るまでに早くやりおおせてしまいたいのか。賢次には分からない。

だが、もし賢次が家にいても、彼の目を盗んで二人は痴情を重ねるのではないだろうか。今なら分かる、いつか彼が熱を出して寝ていた時、彼らが居間にこもって何をしていたか。見ていたように分かる。

彼らにとっては、夫という障害もただ情事を盛り上げるための舞台装置に過ぎないのだろう。夫に見つからぬようにいかに快楽を得るか、そういう遊びなのだ。

夫が熱にうなされている間、彼らは一つ布団で愛し合っていたのだ、何度も何度も。激しく性器を求めあって、互いの粘液をからめ合って。賢次が便所に立った時も、二人はつながっていたに違いない。なんという卑劣なことか。

自分はこんな家に帰らねばならないのか。妻が言うように、夫というだけの役割の者として、これから帰らねばならないのか。

しかし、真実を知った今、以前と同じような態度をどうして続けられよう。彼の精神は、それをこなせるほど強くも、あるいは弱くもなかった。

彼はふらりと立ちあがった。そうして、鞄とケーキの袋を提げ、家の門を出た。彼の心は土砂降りの雨だったが、外は相変わらずいい天気だった。

角を通ると、

「あら、旦那さんどこ行くの?」

と、打ち水をするおばさんに話しかけられたが、彼はそれに力ない愛想笑いで答えるのがやっとだった。彼は行くあてもなく、ただぼんやりと歩いて行った。彼の姿は、そのまま夕焼けの街へ消えていった。


<おわり>




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[2010/09/17 22:00] | 「兄と妻」 | トラックバック(0) | コメント(0) | page top
「兄と妻」(破)

   破



「まあ!」

そう妻が驚いた声を上げたので、賢次も思わず顔を上げた。折しも、あれほど強かった日差しを急速に広がった厚い雲が遮った時、縁側から中を覗く人影が畳の上に闇をもたらしていた。

「兄さん!」

賢次は狂喜して西瓜の種を飛ばす。噂をすれば影と言うが、話題にも上らぬうちからヌッと現れ出でた兄である。

彼はその社会的に不安定な身分と同様、今日もまたつかみどころのない怪しげな扮装をしていた。東南アジア風の派手な色のシャツ――但しその表面はほこりっぽくくすんでいる――や、よれよれのハンチング、足には雪駄……。

ぱっと見では何を生業にしている人か分からない格好だ――もっとも、実際その通りの生活なのだから実態に即してはいたが。

「お茶入れて来ますね」

妻は笑顔を作って立っていったが、内心不機嫌であることが賢次には明らかだった。彼女としてみれば、兄がこうやって唐突に、しかも庭からずけずけ入ってくる所も腹立ちの要因なのであろう。いかに兄弟といえども、ここは他人の家なのだから節度をわきまえろということである。

だが、いくら妻が不満を抱こうともこと兄の前では意味をなさない、それが賢次だ。彼は子供のようにはしゃいで兄を迎え入れるのだった。

兄が縁側に上がると間もなく、大粒の雨が降り出した。

「やあ、ちょうど良かった」

彼は言い、二人は笑い合う。親しい彼らにとっては、どんな現象も話の種となり会話が弾むのだった。

加えて兄は漂々と世を渡る人の常として非常に口が立つ。あるいは、達者な口先の才故に遊民生活が許されるというべきだろうか。その晩の食卓も彼の講演会だった。

だが、妻には心楽しまぬ時間だったようで、当然のように彼が泊っていくことと決まった時も、彼女はさりげないながら早くも懸念を表明したものだ。

「いつ頃までいらっしゃるのかしら」

それは賢次にも分からぬことだったが、むしろ分からなくても良いことだった。兄ならばいつまでいてくれても良かった。そんな彼の希望が届いたものか、実際兄はその翌日もさらに翌々日も出ていくそぶりを見せなかった。

妻の不安が的中したわけである。彼は金の無心こそしなかったが、朝晩きっちりと食事をし、彼女の手を煩わせたものだ。さても彼女にとっては厄介極まる話である。

何しろ相手は天敵ともいうべき人物なのであるから、そのうち堪忍袋の緒が切れるかもしれない、夫はひそかに憂えていた。

ところがそう思いきや、彼女も慣れたのか、あるいはようやく彼の美徳を解したものか、徐々に不満を口にしなくなり、ついにはぱったりと陰口を言わなくなったのである。人とは変われば変わるものだ。賢次は喜んだ。

ある時、

「あなた……」

深刻な顔をして妻が話しだしたことがあった。賢次は、やはり来たか、と身構えたものだったが、結局全然関係のない話で終わって一安心した。そんなこともあった。

また彼女の変化は次のような場面にも表れていた。

ある日、賢次は会社から自宅に電話をかけた。もちろん妻が出た。だが彼女は妙に息が上がっていた。問えば、いわく、

「ちょ、ちょっとお掃除の最中だったのよ」

ははあ、なるほど、雑巾がけか窓ふきか、あるいは押入れの整理か何かをしていて、それから慌てて電話に駆けてきたんだな、と彼は一人合点した。

と、ふいに、

「ア……お、お義兄さんたら……」

電話の向こうでこちらをはばかるように妻が言う。賢次は聞き逃さず、

「兄さんもそこにいるのかい?」

と尋ねた。すると、間髪入れずに兄が電話口に現れる。賢次は彼の声を聞き嬉しげに問うた。

「今日はどこへも出ないの?」

すると、兄は答えて言った。

「ああ……うん、出るよ……もうすぐ……出るっ……!」

この一件によって、賢次は自分がいない間も二人が平和に暮らしている様子を垣間見れて満足だった。彼が会社から帰宅する時、決まって兄は家にいたが、妻とだけでいる間家の中は殺伐としてやしないだろうかといつも気を揉んでいたのである。

帰宅時といえばある日、賢次が玄関に入ると、まるで電話の時と同じように息せき切って妻が走り出てきたことがあった。平生ならゆったりと奥から現れるのに、その日は些か取り乱しているような感じだった。

「あんまり暑いから、ちょっと行水をしていたのよ」

彼女はそう言った。確かに、裾の方の髪の毛が少し濡れていたし、首から鎖骨にかけて汗ばんだように水滴がついていた。それにしても、行水をしていたのならそれで、別にわざわざ出てこなくても良いのに、賢次はそう言ったが、泥棒が入ってくるかもしれないから、と言われて納得したのだった。

その日も兄は家にいた。賢次が部屋着に着替えた後、彼は風呂場から悠々と現れた。

「あれ? 兄さん、もう風呂に入ったのかい?」

賢次が尋ねると、兄は、

「ああ、行水だ。気持ちよかったよ」

と言って、台所に座った。賢次はそれを不審には思わなかった。彼は、自宅に風呂があることがちょっとした自慢で、それを兄が使うことに喜びを感じていたからである。その頃、まだ近所には風呂のある家が多くなかったのである。

兄は風呂のみならず、家にある物はなんでも遠慮なく使用した。そして、大抵家にいた。

いつぞや、賢次がひどい熱を出して珍しく会社を休んだ時も、たまたまかしれないが兄は家にいた。いや、いてくれたと言った方がいいのかもしれない。弟を心配し、寝室にこもる彼に度々言葉をかけに来てくれたものだ。

妻だってもちろんのことである。そうして、彼らは賢次をそっとしておいて、今やすっかり打ち解けたらしく、居間の方で二人くつろいでいるのだった。そのことは、便所に立った時にそちらの部屋から二人のひそひそ話が聞こえたことで確認済みである。

彼は熱に浮かされながらも、その状況を知ってほほ笑んだ。妻が兄を認めてくれたこと、そして、二人して自分を心配してくれることが嬉しかった。だから彼も、二人に余計に気を使わせないために、居間の方へは立ち寄らずに静かに寝室に戻ったのだった。

そんなことなどがあって、兄はすっかりこの家の住人、そして、弟だけでなく夫婦にとって大事な人となっていったのである。彼はこのことを歓び祝しこそすれ、不審や疑念を生じることなど一切なかった。何も。決して。


<つづく>[全三回]




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[2010/09/13 22:00] | 「兄と妻」 | トラックバック(1) | コメント(0) | page top
「兄と妻」(序)

『兄と妻』



   序



底抜けに晴れ渡った空に入道雲が湧いている。それに絡まんとでもするように、朝顔の蔓が懸命に伸びる。対して、庭の砂地はカラカラで死んだようだ。岩も地面も黄色くなって、疲労感を隠そうともしない。

塀の外では、近所のおばさんが打ち水をして、それらを癒しているのだろう。通りすがりの挨拶から発展した井戸端会議が、彼女の活躍を賑々しく伝えている。蝉よりもやかましいその声は、テレビの音すらかき消しそうだ。

「夏だなあ」

ふと外の方へと目を移して、賢次は言った。休日のこととて彼は着の身着のままにごろりと横になりテレビを見ていた。その足元には扇風機が首を振っている。いずれも最新式で、近来普及目覚ましい電化製品である。

「夕立でも来ればいいのにねえ」

そう言いながら近づいてきたのは彼の妻である。見れば、手に盆を捧げ持っている。

「おっ! 西瓜か!」

賢次は歓声を上げた。西瓜は彼の好物である。これを食べたいがために子供の頃は夏が待ち切れなかったものだ。西瓜を見るといつも彼は田舎の夏を思い出す。

そういえば、もうすぐ盆休みで帰省するから、いずれたらふく食べられるだろう、と彼は話した。

それを聞き、妻は複雑な顔をする。今の西瓜を前にして、田舎のそれを懐かしむことばかりが不快なのではない。帰省後に避けては通れないある事情が頭に浮かんだためである。

それは、夫の親類と顔を合わせること、とりわけ、彼の兄と会うことだった。元来人見知りな彼女は親戚筋との付き合いを苦手としていたが、義兄に至ってはそれ以上に彼の人となりが嫌いなのだった。

義兄は夫とは正反対の人物である。夫が真面目に会社勤めをし、結婚もし、家も持ち、着実に人生を築き上げていく一方、義兄はいまだ定職にも就かず、やれ文学だ、やれ活動だのと騒ぐばかりで、夢を追っていると言えば聞こえは良いが、要するにその日暮らしの風来坊みたいなものなのである。

彼女は彼のこういういい加減な所を常から軽蔑していたのだ。

賢次はそれを知ってはいる。世間一般の見方もそれとほとんど同調していることまで分かっている。しかし、いかに愛妻家を自認する彼とて、こと兄のこととなると譲るわけにはいかなかった。

彼は今幸せであるが、それは兄のおかげによるものと信じて疑わないのである。こういう話をすると、妻は決まって否定的に言う。兄よりも賢次の方が何倍も優れた人物なのにと。

しかし、それは違うと彼は思う。彼は妻の言葉を聞いて別に怒ったりはしないが、兄の名誉を守るため、やんわりと諭すように語るのだった。

自分が今の生活を送れるのも、東京で就職したいという希望に兄がいち早く賛成してくれたからだし、そのおかげでお前とも出会えた、それに、幼少の頃より兄は何くれとなく自分をかばってくれたし、悪ガキにいじめられればすぐさま駆けつけて助けてくれた、などなど。

彼はさらに、兄の性格上の美徳を数え上げ、現在の自分があるのは全て兄のおかげだとまで言い切った。

そうまで言われてしまうと、妻としても黙るほかない。彼女は夫の兄思いの揺るぎなさに、軽い嫉妬すら感じるのだった。実際、この話をする時、賢次はこの世で自分だけが兄の価値を認めていることに、一種の優越感すら覚えていた。

夫婦は、今はこの点について立ち入らず、ブラウン管に映る白黒の画面を見やりながら、黙々と西瓜をかじっていた。気だるくも平和な夏の日の午後だった。

だが、今日の平穏な時間は、もうそれ以上長く続かなかった。


<つづく>[全三回]




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[2010/09/12 22:00] | 「兄と妻」 | トラックバック(0) | コメント(0) | page top
湯けむ輪(38) 21:44

子宝混浴
『湯けむ
~美肌効


こだからこんよく
ゆけむりん
びはだこうかん






――午後九時四十四分


「もう、待ってたんだよ! ずっとお風呂にいたの?」

娘は唇を尖らせて母に詰め寄らんとする。

「ええ、まあ……」

母は焦っていた。左右を視界の端で窺って落ち着かない様子だ。

それを見て娘も周囲の人々を意識する。と同時に、母がこちらに出てくればいいのにと思いつつ、こう言った。

「これからみんなでカラオケに行こうって言ってるんだけど、お母さんも来てよ」

彼女は後ろの方を指さす。見ると、向こうの方に見覚えのある後ろ姿が幾人か歩いていた。

「ええそうね……でも……」

倫子は言い淀む。と、彼女の懸念を見澄ましたかのように、なんと彼女の体、それも股間の辺りに触れるものがあった。偶然手が当たったという程度ではなく、明らかにまさぐるような感じで。

(うそでしょ!?)

こんな堂々たる痴漢があるだろうかと、倫子は疑った。だが現実にその手は彼女の股間、浴衣の中にまで侵入してくる。さらに驚くべきことには、後ろから彼女の浴衣の裾をまくり上げさえし始めたのだ。

(ちょっと! いくらなんでも!)

倫子は動揺した。しかしさすがに母である。娘の前では表情を崩さない。たとえ下着を着けていなくとも、その恥部を男にまさぐられようとも、その上恥穴に指を入れられてさえも。

誰とも知れぬ男の指は、秘唇を無茶苦茶にかき回して、母たる女を容赦なく辱める。濃厚な粘液が肉襞から指の腹を濡らす。女の穴は彼女の分別に反して、もうメスの役割に専念しだしていた。

それでも倫子は耐えなければならない。火照りきった肉体はいまだ燃焼状態にあり、ちょっと気を抜けばメスの悦びに乗っ取られていまいそうだ。

だが、今さら指で責められたとてどうということもないのも事実だ。さんざっぱら種付され続けた後なのである。あまつさえ、この期に及んで貞操の呵責にさいなまれることもない。

と、一瞬でもたかをくくったのがかえっていけなかった。

「お母さんね……」

そう言いかけた時だった。ベッタリ、と尻の間に、あのすっかり慣れ親しんだオスの重みが乗っかったではないか。倫子はそれまでうまく演じきるつもりだったが、あまりにびっくりしてちょっと声を裏返らせてしまった。

幸いにそれを怪しまれることはなかった。が、いつばれるとも分からない。倫子の前にも男が乗っており、彼女は彼らの間から顔を出して娘と会話していたのだが、下半身まですっかり隠れているかどうかは、大いに疑問であった。

「お、お母さんね、一回お部屋に……」

(お、お願い! お願いですから、ここではやめて!)

表と裏で言葉が分離していく。

男の肉棒はますますいきり立ち、そして彼女の尻の下へ潜り始める。

(うそよ……さすがに……それはまさか……)

彼女はうたぐりなからも、既に本心では諦めざるをえないことを知っていた。彼女の性器はキュンと引き締まり、中からじんわりと汁を湧き出させてくる。それは悦びの証か、それとも条件反射か。

肉棒は盲目的に甘い水を求めてその入り口を行き来していたが、ようやく探り当てたと見えて、そこからは一遍にその頭を潜り込ませてきた。

(入って……くる……は、入る!)

「お、お部屋に、入る、から……」

彼女は言っていたが、それは“帰る”の言い間違いだった。

「エー! いいじゃん、このまま行こうよ!」

娘は言い間違いには気づかなかったが、なおも食い下がった。

「あ、でも、ね、一回帰ってから……」

(お願い許して……!)

娘にも男にも向けて彼女は願う。しかし、どちらも聞き届けてくれない。男の腰はじわじわと動いて、肉竿は穴の中でピクピクと脈打つ。

「なんでなんで? めんどくさいじゃん!」

娘はいつになく聞きわけがない。なんとしてもこれを説得しなければならぬ。そうして、この場を早く終わらせなければ。

「お化粧、直したいし……、ね? すぐに……イ……行くからぁ」

妙に色っぽい声で倫子は言う。認めたくはなかったが、この常識外れの状況において、妙にゾクゾクと肉体が感じるのである。先ほどまでの浴場という、ある種隔絶された空間での場合とは違う、現実的な緊張感がそうさせるのだろうか。

ともかくも、娘はようやくのことで納得してくれた。

(ごめんね……お母さん……お母さん……イく、から……)

「イくから……先に、イッてぇ……」

言った刹那、倫子は歯を食いしばった。それと同時に、膣肉も食いしばる。その時、後ろから咳払いに似せた呻きが一つ聞こえた。瞬間、熱いほとばしりが体の芯にしみ込んでくる。

それと、扉が閉まるのとどちらが早かったかは分からない。だが事実として、倫子は娘の目前で見ず知らずの男にペニスとザーメンを入れられたのである。

(最低……わたし……)

風呂場では忘れかけていた、あるいは気づかないように努めてきた罪悪感が心に充満していく。

「ハア~良かった。こういうシチュエーションはたまらんな。全然モたへんかった。そうか、あの子娘やったんか」

それは今回彼女を新しく犯した、榊原(さかきばら)という名の男。娘たちと一緒に降りてきたエレベーターに乗っていたところを、仲間たちと合流し、そのわずかの間に倫子の事情を知ったのである。

「無茶するなあ、あんさんは」

「そやけど、娘の前でチンポ突っ込まれて、どえらい感じとったやん奥さん。もうほんまチンポ狂いやな」

宇川と牛滝が口々に囃したてて笑いを誘う。そんな状況とはつゆ知らず娘は先へ歩いていたが、ふと後ろでエレベーターが再び開いたので振り返って見た。ちょっと見ただけだったが、そこに母の顔は見いだせなかった。

母はその時その場ににしゃがみ込んで、自分を犯し終えた榊原のペニスをフェラチオしていたからである。


<つづく>




現在時刻21:47(1時間54分経過)
挿入された男根=11本
射精された回数=15発(膣14・尻1)



(001)19:53~(010)20:15(011)20:18~(020)20:44
(021)20:47~(030)21:07(031)21:09~(040)22:03
(041)22:22~(050)23:53

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[2010/09/06 21:44] | 「湯けむ輪」 | トラックバック(0) | コメント(0) | page top
湯けむ輪(37) 21:37

子宝混浴
『湯けむ
~美肌効


こだからこんよく
ゆけむりん
びはだこうかん






――午後九時三十七分


男性用の脱衣所に、倫子は男らに連れられるままに入った。そして、そこでまた新しい男根を入れられた。

渡瀬(わたぜ)という、さっき須賀谷が言っていた男の一人だ。一行が脱衣所に出た時、ちょうど外から入って来た所をはち合わせた。そしてそのまま、ほぼ出会いがしらにセックス。無論、周りの男たちの誘導によって。

「アア~、最高やなあ」

後ろから倫子の尻を引き寄せて、その密着状態のまま膣内に射精しつつ渡瀬は言った。

「一杯飲んで、美味しいもん食べて、次は女やなあて、ちょうど思てたとこやねん」

と、満足そうである。肉穴から明るみに帰ってきた肉棒は、ピクンピクンと跳ねて、まるで彼の喜びに同調しているかのようだった。彼はその後須賀谷の待つ浴場へと入っていった。

他方、倫子は浴衣を着せられていた。無人の女性用脱衣所から持ってこられた、彼女が脱いだものである。外での移動にはさすがに全裸はまずかろうとの宇川の判断だった。

但し、下着は着けさせられなかった。誰が提案するともなしに、そういうことになっていた。男たちにとっては遊び心である。

「ごっついブラジャーやなあ!」

手に持って広げながら牛滝が言った。確かに大きなカップではあった。持ち主の胸の豊かさを想像するに余りある代物であった。

「どスケベな乳にぴったりやで」

彼はそれを倫子の胸に合わせてみた後、傍にいた栃尾の方へ放り投げた。それを見て宇川が言う。

「持って帰り、記念に」

冗談とも本気ともつかない言葉に、栃尾は赤石と顔を見合わせる。彼らは仲間内でちょっと譲り合ったりしたが、その場には捨て置けないので、結局上下の下着とも栃尾が持って出ることになった。

ぞろぞろと脱衣所を出る。宿泊客の少ない館内は静まり返っている。途中の売店も閉まっている。ただ自動販売機だけが変わらぬ営業を続けていた。その前を抜け、奥のエレベーターへ。誰にも会わない。倫子はひそかに胸をなでおろしていた。

また脱衣所から出ると外気が心地よく、その冷たさは彼女の神経をなだめた。一方でそれは現実に立ち戻らんとする空気でもあった。彼女は嫌な予感がした。これから起こる変態的痴情事への恐れ? どこまでも堕ちてみたいという自身の破滅的性向への恐れ? いな、それよりももっと直接的で具体的な恐れだ。

小規模な館内にエレベーターは一台だけで、一行はその前でしばらく待った後、降りてきた箱の中に順々に乗り込んでいった。倫子は気づかなかった。彼女の前には男たちの背中。だから見えなかった。開いたドアから出てくる人々の顔が。

「お母さん!」

その声は鋭い切っ先でもって倫子の胸を貫いた。

「お母さん!」

もう一度呼びかけられる。倫子は凍れる背筋のままに振り返った。既にその身は男達に囲まれて、箱の中に踏みこんでいた。

「あっ……!」

目で追うまでもなかった。最も近しい者の顔はどこにいても見分けられるものだ。エレベーターを出てすぐの所、そこに娘がいた。倫子の娘である。予感は的中した。決定的な事実、身内の者に遭遇するということ、しかも最も見られてはまずい相手に。

それでも、倫子の脳はフル稼働し、それにともなってある表情が形づくられる。母親の顔、である。どんな境遇を経ていようとも我が子の前では母でいなければならぬと考える、それが母親というものだ。

「あら」

浴場での痴貌から一転、凛とした顔になる。しかし、さりげなく浴衣の前を引き締めるあたり、動揺はうかがえた。

倫子は思った、このままエレベーターはもう上がってしまうだろう、あるいは、上がってしまえばいいと。これを機会として降りるという選択もありえたが、穢れてしまった体で娘の前に出るのは気が引けたし、それに、男達がどういう態度に出るか懸念がないではなかった。

とにかくエレベーターはもう出発する、それでとりあえずこのいたたまれない状況からは解放される、それでいいのだ、その後のことはそれから考えればいいと、見た目は取り繕えてもとても得策を練れるような心境ではない彼女は必死で念じた。

彼女は一瞬待った。扉が閉まりかけ、娘に何か言葉をかけ損なう演技を想定しながら。ところが、扉は閉まらなかった。室内の誰かが、気を回して“開く”のボタンを押していたからである。


<つづく>



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[2010/09/05 21:37] | 「湯けむ輪」 | トラックバック(0) | コメント(0) | page top
湯けむ輪(34) 21:18

子宝混浴
『湯けむ
~美肌効


こだからこんよく
ゆけむりん
びはだこうかん






――午後九時十八分


その人物は、呆気にとられて固まっていた。だがそれも、宇川が声をかけるまでの一瞬の間だけだった。

「吉野はん! 吉野はんやないか!」

「お、おお……!」

長四角の顔には縦に深い皺が刻まれ、そのてっぺんに申し訳程度に髪の毛が乗っている、まるでそれが野菜のヘタのように見える、そんな男だ。やはり宇川らの一行の一人で、名を吉野(よしの)という。

「な、なんや……どういう……?」

だいぶ酔っているらしくそれは赤くなった顔にも明らかだったが、さすがに目の前の状況を見ては、酔いながらも戸惑わざるを得ないよう。

「いやあ、ここで知りおうた奥さんでな、ほんでこの子らもここでおうたんやけど、まあ折角やしみんなで仲良うしょうか、いうことで」

宇川が言えば、湊山も、

「そうですねん。混浴やさかいに、色々出会いがありますわ」

と、ほのぼのした調子で説明する。それを聞いて吉野は、

「へえ……そうか、混浴か……」

と、基本的なことに感心しつつもまだ心おさまらぬ様子で、しかし口元は明らかに俗な興味で緩ませながら、湯船の中へ入ってきた。

「えらい仲良なったもんやなあ」

言いながら、吉野はついに満面をほころばせた。それと同時に、彼の股間の肉棒は早くも持ちあがりだす。

「そやで。どスケベな奥さんでなあ、一人で混浴風呂にマワされに来とんねん」

牛滝がそう話す途中で、吉野はあることに気づいた。

「いやっ、牛ちゃん! エラいとこに入ってるやんか」

そう指摘したのは、牛滝のペニスが倫子のアナルに入っていることである。

「どこから声出してんのかと思たら」

吉野の指摘を受けて、牛滝は答える。

「へへ、ケツや。ケツでしてんねん。混浴に奥さん一人やさかいな、女手一つでは穴が間に合わんねや」

まるで、混浴風呂に入ったら女はペニスを入れられるのが当たり前といったような口ぶりである。さらに、

「この奥さんも、ケツの穴つこてくれ、言いよるさかいな。見てみぃ、後ろから前から挿されて、ずっとあの世に逝きっぱなしやわ」

相変わらず勝手なことを並べ立てていく。もっとも、倫子の気持ちが昇天し続けているのは事実だ。

そんな彼女を取り巻いてずらりと残りの男根が居並ぶ。彼女にとっては、もはや男たちというより男根たちといった方がイメージしやすい。彼らという存在を、男根だけで認識しているのである。その部分だけが意味を持つと。

ここは彼女にとって天国なのか地獄なのか。快楽が精神を凌駕した今となっては、彼女に聞いてみてもはっきりしないだろう。

さて、吉野は彼ら男根たちを見まわして言うよう、

「これ、みんな?」

全員が倫子とまぐわったのかという意図である。

「そや、兄弟や」

宇川がニヤニヤと言う。その上、

「この子らなんかもう二回したで」

と、赤石と別所を指した。

「そや、自分の番やんか」

牛滝が気づいて、栃尾に言う。栃尾は待ってましたとばかりに倫子に挿入した。再びの二本挿しである。

「次、しまっか?」

宇川が吉野に聞いた。

「へへっ」

吉野は笑ってはっきり言わなかったが、その意思はもう明白だった。

「あ、別に焦らんでもエエねんで」

次が控えていると知って慌てないようにと、宇川は栃尾を気遣った。だが、栃尾にはそう言われようが言われまいが関係なかった。彼はあまりにもあっけなく射精を終えてしまっていたからである。

引きさがる彼、それと入れ替わりに、吉野が前に進み出た。


<つづく>



(001)19:53~(010)20:15(011)20:18~(020)20:44
(021)20:47~(030)21:07(031)21:09~(040)22:03
(041)22:22~(050)23:53

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[2010/08/30 21:18] | 「湯けむ輪」 | トラックバック(0) | コメント(0) | page top
湯けむ輪(31) 21:09

子宝混浴
『湯けむ
~美肌効


こだからこんよく
ゆけむりん
びはだこうかん






――午後九時九分


汚辱感が尻から突き上がってくる。それがどうしてなのかは、いかに平常心から離れた心境とはいえ、倫子にも知ることができた。

(ど、どこを触って……)

セックスなのだから、日常触れることのあり得ない相手の部位、典型的には胸などに触るのは当然としても、およそ性とは無関係と思しき場所も肉体にはあるわけで、そこに触れられることがあろうとは、ちょっと考えられないことだった。

すなわち牛滝は、倫子の肛門に指の腹をグリグリと押し付けてきたのである。

(や、やめて……)

たまらなく不安な気持ちが心に押し寄せる、これからどうなってしまうのかという不安が。汚らしさしかない場所をわざわざ触るとは! 確かに、性交の器官と排泄の器官は近い所にある。しかし、両者は絶対に別物だ。決してどちらかの最中に他方の存在が意識されるようなことがあってはならないはずだ。倫子はそう信じてきた。

それなのに、牛滝はまるで前戯のように肛門をいじくるのである。きつく集約する筋肉を揉みほぐすように、穴の入口を押したり、撫でたりする。

「ウゥ……」

倫子は目を閉じて口を歪ませた。彼女にとっては、膣に陰茎を挿入されることよりもやるせない瞬間だった。

「奥さんは、こっちも普段使いはんの?」

牛滝は聞いた。

「ええ? どやねんな、あるんか? つこたこと」

まさに拷問のような仕打ちだった。倫子は、とてもそんな卑猥な詰問には応じられなかった。彼女が黙っていると、それに代わって湊山が応じた。

「いやアナル経験のある人て、普通そんなおらんでしょ」

それに続けて宇川も、

「そやで、世の中あんさんみたいな変態ばっかりちゃうで」

と指摘する。それを聞いて牛滝は笑いながら、

「そうかなあ」

と言いつつ、しかし一方で反省することはなく、

「ほなら奥さん、あんたアナルは処女かいな」

と、むしろ現在の状況を肯定的に評価するのだった。そうして、とうとう中指を倫子の肛門に潜り込ませる。

「ヒッ! ゥヒィッ!」

(ア……ナル……? 処女……?)

倫子は混乱していた。だが、これからどういうことになるのかはもはや明らかだった。倫子はその運命から逃れるべく、これまでにないほど腰を跳ねさせた。

「おっ、しっかり押さえてや」

肛門に挿した指をクニクニ動かしながら、牛滝は別所に指示する。今倫子の膣と合体しているのが別所なのである。彼は、牛滝が肛門をまさぐる間に、栃尾から早々に後を譲られていたのだ。

「はい。……あっ……うっ……!」

彼は牛滝の指示通り倫子の腿を押さえにかかったが、その後なぜか軽くうめいた。その理由について、牛滝がいち早く気づいて言う。

「締まりが良うなったやろ?」

彼の言わんとするのは、ヴァギナが収縮して、よりペニスを締め上げるようになったということである。

「ケツの穴ほじられたらな、オメコ締まりよんねん」

(ケ、ケツの穴……)

倫子には、とても自分のことを言われているとは思えない話だった。しかし、事実、自分の“ケツの穴”の話なのである。

一方、無知な別所はただただ感心していた。ただ、大人しく感心している場合ではなかった。膣の締め上げが、彼には刺激的過ぎたのである。とうとう彼は、栃尾らのように次へバトンタッチすることができなかった。

「うぅっ……」

別所はまた小さくうめいた。それとともに、精液を垂れ流していた。


<つづく>



(001)19:53~(010)20:15(011)20:18~(020)20:44
(021)20:47~(030)21:07(031)21:09~(040)22:03
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[2010/08/08 21:09] | 「湯けむ輪」 | トラックバック(0) | コメント(0) | page top
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