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金光を乗せたタクシーが宿泊施設のエントランスに着いた。旅館らしい風情もなく、ホテルのように合理主義的でもない、町の集会所という役割にこそ適した、古びた四角い建物である。今その屋上角に、裏山の伸び過ぎた木々がザワザワと音を立てて黒く擦れている様子は、この先の波乱を暗示するようで、ちょっとゾッとするような不穏さだった。
しかし金光は意に介さない。玄関脇に停められた送迎バスの横を通り抜けながら、
「うう、少し冷えるな」
などと、軽く身震いして見せて、足早に屋内へ消えた。その目には、バスの向こう側にあった我が家のワンボックスカーなど無論止まるはずもない。暗がりならば余計である。本当にこの辺りは人寂しい場所で、ただでさえ過疎の町にありながら、そこからさらに山の上まで登らねばならないものだから、下界とは隔絶された感さえあった。
「だから、おあつらえ向きってか……」
金光から遅れること五分。別のタクシーから降りた島田が、木々のざわめきを聞きながらつぶやく。不仲な隣人の酒席に延長してまで付き合う道理はないが、今回ばかりは見届けねば済まない。ただ、不自然さを隠す為に、あえて時間差で乗り付けたものだ。金光は、彼の到着を知らない。
「よお」
先に着いていたタクシーの運転手・松倉が、柱にもたれながら、合流した同僚に手を振る。浪岡はそれに応じ、傍へ寄って軽く顛末を報告した。離れた所から二度、三度と二人は島田の方へ会釈した。島田は鷹揚に苦笑い。
「彼が?」
同乗してきた腹心の鈴木が、松倉を指して小声で尋ねる。島田は小刻みに顎を引いて応えた。学校からここまでの経過は、既に小林から報告を受けている。律儀なもので、共犯者間の情報共有はバッチリだ。先程車内で浪岡から話しかけられた時は一瞬頭を抱えたが、もはや事をし終えていたとあっては拒絶も出来ず、なし崩し的に承認した。
「それにしても――」
島田は二人の奥へ目を移す。はじめは気づかなかったが、どうも、もう一人並んでいるように見える。浪岡の話では、仲間の一人を加えて欲しいとの要求だったが。
間もなく浪岡が同僚らを伴い近寄ってきた。金光と共にここへ来たのは、彼の取り巻きとも言うべき者三人、それと花村、計五人である。それで二台に分乗となり、もう一台のタクシーが手配されたのだ。
七里川というその三台目の運転手は、浪岡や松倉よりも明らかに若く、そうして積極的だった。図々しいと言ってもいい。松倉が別に誘ったわけではないのだが、居残ろうとする彼を問い詰めて、自ら首を突っ込んできたものだ。ある種の嗅覚が働いたのであろう。
「お願いしますよ」
と、七里川は馴れ馴れしくも島田にすり寄って来た。島田は、こう参加者数が雪だるま式に膨れ上がっていく様に辟易としながら、可とも不可とも言わずに力なく口を歪ませた。こういう時、調子のいい小林や、向こう見ずな慶介らなら軽く迎え入れたのだろう、などと思いながら。
*
「こちらです」
玄関に入った金光をタイミングよく出迎えた袋田が、彼とそのお供を宴会場の方へ招じ入れる。金光は出されたスリッパに履き替えつつ、遠慮なしに軽蔑した目線で周囲をねめ回した。古臭い民芸品が並んだショーケース、寂しい葉数の植木、埃をかぶった鹿の剥製、それが掛けられている日焼けした壁……
「相変わらず黴臭いとこだな」
そんな憎まれ口にも動じる気配がない。この建物のスタンスは微妙なものだ。営利でもなく公共でもなく。この山の裏側に古い寺があり、ここらの土地及び施設はそこの所有だが、金儲けにはなっておらず、維持管理がやっと。
温泉が湧いており、実は寺と共に有名な古文書にも記録が残る程由緒があって、子宝の湯としてかつて賑わった時代もあったのだが、湧出量が減少し、いずれ枯れる枯れると言われながら、とうとうこの一軒を残すのみとなって現在に至る。
「今日は休みだったんだろう? わざわざ開けたの?」
でっぷり突き出た腹を抱え、のしのしと歩きながら金光が、先を行く袋田へ問うた。
「へえ、今日は休館日で。元々客もないもんでねえ」
自虐的に袋田は答える。わざわざ開けたことに対して礼でも述べるかと思いきやそうではなく、金光は鼻で笑って言った。
「ヘッ、大体いつ営業してんだ」
それを聞いて、周りの取り巻き連中がどっと笑う。うちの一人、金光と同輩位で猪瀬という男が、代わって袋田に訊いた。
「バスの日は、あれいつだっけ」
水曜日、と答えるのを聞いて、金光が、なんのことだという顔をしたので、猪瀬、及び同じ年恰好の中年男性、舛添が説明した。週に一回、麓からこの山の上まで往復するバスが出ており、地元住民、就中年寄向けに格安で温泉を解放しているのだと。表に停まっていたマイクロバスがそれで、その用と外からの客の送迎に供されている。ちなみに、このバスについては町から補助金が僅かながら出ていることを、町議金光は知らなかった。
「温泉、すぐ入れますよ」
袋田がにこやかに言うと、すぐに村本という、これは取り巻きの中でも一等若い男が、その飼い犬然とした立場を体現するかの如く食いついた。
「おっ、いいですね、温泉」
そうして主人の方を窺う。己の意思決定は金光の顔色次第だ。いかにも太鼓持ち気性の彼である。
すると、その反応より早く、脇にいた花村が口を挟んだ。実は花村、村本とはたまたま同級生であった。
「いいじゃん。そういや、最近温泉入ってねえなあ」
彼は別段媚びるでもなく、ただ先の打ち上げ時から、その体育会系な気質が妙に金光に気に入られて、同行してきたものだ。その行動は、当然例の仲間からの意を含んでのものである。実際の所、島田は金光と仲が悪いし、鈴木は人付き合いが苦手であるしで、花村が目付役を買って出たことは大いに助けになっていた。
「まあ、なんだ、ちょっと座ってから考えるか」
金光がそう決定したのは、ちょうど大広間に着いたからだった。煌々と灯りの点いただだっ広い部屋に、酒やらビールやらの瓶が用意してある。膳もあるが、載っているのは珍味が少しで目立った料理はない。今日が休みだからというわけではなく、この宿には常駐の料理人がおらず、外から客がある時は、麓から仕出しを取るか、手伝いを呼ぶことになっている。なお、今夜の主たるアテは、先程の打ち上げで使った店からテイクアウトしたもので、その袋を花村と村本がさっきから下げていた。
「じゃあ、料理もあったかい内に、とりあえず一杯飲み直しましょうか」
村本が主人の意を汲んで、上座へ彼を誘った。
*
「こっちこっち」
そう手招きする藪塚に先導されて、一向は建物の側面へ回った。島田の連絡を受け、迎えに出て来たものだ。暗闇の中、草の匂いのする先に、果たして、外を照らす灯りが見える。
「あっ!」
窓から中を覗いて、思わず七里川が感嘆の声を上げた。その目に映るギラギラは、決して照明の為ばかりではない。
部屋の中では、一人の女が後ろから前から犯されて、ブランブランと豊満な乳房を弾ませ、その周囲を男根の集団が取り巻いていた。
〈つづく〉
〈現在の位置関係〉
▼中広間
有紀、佳彦、慶介、浩樹、竜二、小林、比嘉、祥吾、雅也、服部、藪塚、矢板、鎌先、羽根沢、森岳、沼尻、島田、鈴木、浪岡、松倉、七里川
▼大広間
金光、花村、猪瀬、舛添、村本、袋田
▼別室
前原
▼帰宅
高橋、俊之、克弘、恵太、優斗、豊、聡、翼、清美、瑞穂
〈輪姦記録〉
挿入男根:28本
射精回数:75発
(膣48・口12・尻9・乳4・顔1・外1)
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