おことわり
R18
このブログには、エッチなことがたくさん書いてあります。まだ18歳になっていない人が見ていい所ではありません。今からこんな所を見ていると、将来ダメ人間になってしまいます。早くほかのページへ移動してください。

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なお、掲載している小説はすべて虚構であり、実在の人物・団体等とは一切の関係がございません。

    
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「オナこもりの小説」は、エロ小説を気ままにアップしていくブログです。たまに、AV女優や、TVで見た巨乳のことなども書いています。左サイドにある「カテゴリ」から、それっぽい項目を選んでご覧ください。



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妄想の座敷牢羞恥の風ましゅまろくらぶ



小説には、連続作品と一話完結作品があります。連続作品は、左「カテゴリ」の各作品名より一話から順番に読むことができます。また「目次」には、各作品の概要などをまとめた記事が集められています。

■連続作品
◆長編作品
「子宝混浴『湯けむ輪』~美肌効姦~」

◆中編作品
「大輪動会~友母姦戦記~」
「青き山、揺れる」 ▼「師匠のお筆」

◆オムニバス
「母を犯されて」

◆短編作品
「育てる夫」  ▼「最後の願い」  ▼「ママの枕」  ▼「ブラック&ワイフ」
「夏のおばさん」  ▼「二回り三回り年下男」  ▼「兄と妻」

■一話完結
「ふんどし締めて」
「旧居出し納め・新居出し初め」  ▼「牛方と嫁っこ」  ▼「ガンカケ」
「祭りの声にまぎれて」  ▼「シーコイコイコイ!」  ▼「サルオナ」  ▼「母の独白」
「童貞卒業式」 ▼「お昼寝おばさん」  ▼「上手くやりたい」 ▼「珍休さんと水あめ女」
「栗の花匂う人」「乳搾りの手コキ」 ▼「妻つき餅」 ▼「いたずらの入り口」
「学食のおばさん便器」 ▼「山姥今様」 ▼「おしっこ、ついてきて。」

作品一覧

育てる夫(1)初昇天


五歳



 ひとみは、恥丘の縮れ毛を手の平に感じながら、中指をぴったりと割れ目に沿わせ下降させていった。指先を腿の間まで潜り込ませると、ほんのりと汗ばんでいるのを感じる。

「一行さん……」

ちらりと仏壇の写真を見る。いつかと変わらぬ笑顔がそこにあった。かれこれもう五年になる。以来、疼く体は独りで慰める日々だ。殊に近頃は回数が増えた。四十も半ばになって、いよいよ性欲は盛んである。

「ン、ンン……」

胸元もまさぐり、自ら気分を出す。頬が色づきだすに連れて、陰裂はぬめりを帯び始めた。濡れやすくなったものだ。

「ア……アァ……」

誰もいない家は僅かな声でもよく通る。己の息が耳にこだまするのも興奮の材料だ。ひとみは思い切って下着をずらし、指を立てて花びらの口をなぞり回した。そして、わざとピチャピチャという音を鳴らしてもみる。

「ンハァ……ン……」

恥ずかしそうに見悶えしながら、しかし一層あからさまに、まるで誰かに見せつけるかのように膝を起こして股間を開き、両脇の指で器用に陰唇を左右へ広げると、中指を第二関節の手前まで挿入していった。より確かな刺激が訪れる。

「アハァ……!」

行為の虚しさは承知しているつもりだ。だがどんなに惨めでもやめることは出来ない。散々しつけられた快楽を急に無いものとされて、女の肉が平気でいられるわけもない。体は覚えている。罪である。

「ああ……イく……」

遠慮がちにひとみがそう言った、ちょうどその時、コツコツという物音がして中断を余儀なくされた。彼女は、すぐに身なりを正すと、足早に階下へ向かう。この時、表情はもう一転して平生の爽やかさに戻っている。

「あらあら、ヤンチャな子ダヌキさんがまた来たのね」

ガラス戸を開けながら、ひとみは自然と笑みを浮かべた。それは、隣の家に住む理生(りお)という男の子だった。生垣の破れ目をくぐって来たのだ。大人は無理でも、猫や小型犬はもちろん、五歳の子供でも訳なく通り抜けられる。

「まあ、今日は随分泥んこの子ダヌキさんね」

昨夜降った雨の所為で地面がぬかるんでいたのだろう。見れば、理生の膝から下は泥で汚れていた。

「カタツムリいたよ」

そんなことを言って差し出した手もまた泥だらけである。ひとみはとりあえず、彼を浴室へと連れて行った。

「あのねえ、ママがねえ――」

よく喋る子である。ひとみは終始ニコニコしながら、ハイソックスを脱がせた。そのたどたどしい物言いと、二親とも関西出身の影響を受けたアクセントも相まって余計に可愛らしい。

「もう、これも全部洗っちゃおう」

彼から一枚一枚被服を脱がせていく内、何かと世話してやりたい老婆心も湧いて、結局軒並み洗濯機に放り込んでしまう。そうして丸裸になった理生の手を引いて、ひとみは風呂場に入った。

「こらこら、じっとしなさい」

決して叱るでもなく、こそばそうにキャッキャとはしゃぐ彼に、まるでペットを洗うかのような調子でシャワーを浴びせていく。楽し気に騒ぐ彼とじゃれ合う内、仕舞いにはひとみもずぶ濡れとなってしまった。

「ああ、もう、おばちゃんも濡れちゃったじゃないの」

さも困ったという顔を作って、シャツの裾を絞る。

「もういいや、おばちゃんも脱いじゃお」

彼女は理生の快活さにつられて無邪気にそう言うと、さっさと衣服を脱いで、回転する洗濯機の蓋を開けた。下着を履き替えたかったのでちょうどよくはある。

「いつもお風呂は誰と入るの?」

「パパとかママとか。ぼく一人でも入れるよ」

「ほんとに? 偉いね」

ゴシゴシと体を洗われながら、理生はやや口数を減らしていった。母には無い胸の膨らみに面食らっている。ひとみは元来スレンダーな体型であるが、中年に入って少しずつ肉付きがよくなっていた。

「はい、じゃあこっち向いて」

背中側が終わって、言われるがままに回れ右する理生。そのすぐ眼下に豊かな双丘が広がり、彼はこれが予期せぬ幸運であったことを知った。遠慮もなく、まじまじとそこに眼をやる。

 ひとみは和式便器に跨るような明け透けな姿勢で膝を折り畳み、背の低い彼の華奢な体を優しくスポンジでこすっていく。小さかった頃の娘を思い出す。ただ違うのは、股の間の造りである。孫とまだ風呂に入ったことはないが、あの子もこんなだろうかとふと思った。

 小さな陰茎を慎重に摘まみ上げ、その裏側をこする。それも陰嚢も、想像より遥かに小さかった。ミニチュアのサンプルみたいに、まるで現実味がない。

「へえ……」

何度も見たはずの形ながら、ひとみは妙に感心してしまった。改めてその精緻な構造を知った感覚である。

 ここで、ようやく理生が大人しくなったことに気付き、取って付けたように尋ねる。

「大丈夫? 痛くない?」

「うん」

理生は依然乳房を見つめていた。腕の上下に合わせて、そこも土台から上がり下がりする。隣で二の腕の脂肪が震えるよりももっと大らかな波打ちが表面に起こり、反面紅桃色のくっきりとした乳輪は、落ち着き払った安定感を示していた。

 女を知らない男児であるから、その色香までは説明出来ない。しかし、豊かで艶のある髪がきらめき、面長で下膨れの白い頬に薄っすらと汗が流れる様は、どことなく日頃のおばさんたる枠を超え、新しい一面を感じさせる気がした。

 ひとみが異変に気付いたのは、そんな時だった。

「あら……」

ミニチュアがいつしか鎌首を持ち上げていた。摘まみ上げる補助も要らず、健気に自立している。

 チラッと上を窺う。その表情にはいつも通り屈託がなかった。ただ視線は合わない。彼女はようやく女として、その意味と行方を察した。それでもあえて胸は隠さず、

「ママはちゃんと洗ってくれるの?」

などと何気ない会話を続ける。少しからかってみたい気になった。

「こういう所もちゃんと洗わなきゃね」

そう言って探りを入れつつ、股の間に腕を差し込み、既に洗ったはずの尻の方へスポンジを這わす。股の内側を丹念に洗うというのである。ただ、ピーンと立った竿が腕に平行にピタリと寄り沿う時、彼女は急に体の芯がゾクゾクとするのを感じた。懐かしい感覚だった。

「痛くない?」

しつこくも確かめてみる。

「うん」

理生はやはり無邪気に頷く。己の発情には気が付かない。女の腕に跨って、陰茎も陰嚢も、肛門さえも乗っけている非現実さにも同様だ。

 ひとみはさり気なく、しかし思い切って、竿を掴んでみた。掴むといっても手で握る程のスケールはなく、精々指三本で足りる程度。そうしてやはりさり気なく、シコシコと軽くこすってみる。

 彼女は質問を変えた。

「気持ちいい?」

先程来よりやや間を置いて、理生は、

「うん」

と返事した。そういう聞かれ方は初めてだったが、そう問われれば今が気持ちいいことは確かなのだった。

 それを聞くと、ひとみは一瞬何か逡巡したが、冠りを振って気持ちを切り替えると、さっと立ち上がってシャワーを手に取った。

「じゃ、流していくね」

石鹸の泡を、肌に手を添えながら洗い流していく。滑々として、柔らかいが何のたるみもない皮膚が元気に水を弾く。勃起は継続していたが、今度は見ないようにした。

 理生としては、これ以上何かがあることを知らないから、ムズムズとする心の昂りを覚えつつも、されるがままに体を洗われ終わった。ただ、家なら入りたがらない癖に、この時ばかりは湯に浸かりたいと言い出した。

「だって、あったまってないわよ」

ひとみは困った風で湯船に手を入れてみる。実際、温水といった程度だった。

「大丈夫」

と言って、理生は構わずに飛び込んでしまう。そうして、プールみたいだ、とはしゃぎ、バシャバシャと水を立てる。また快活さが戻ったようだ。

「おばちゃんも!」

勢いのまま、ひとみに手を差し出す。

「おばちゃんも?」

訝しむように、彼女は理生の瞳を覗き込む。それは清く澄みきって好奇心いっぱいにキラキラと輝いていた。その中に、爛々と燃える雄々しさのようなものを見た気がして、ひとみの頬がだらけるように緩む。

「じゃあ、一緒に入ろうかしら」

自覚なく、理生が来た当初よりも彼女は上機嫌になっていた。

「やだ、やっぱり冷たいじゃない」

ごねながらも風呂に浸かる。湯の吹き出し口に共に向き合う形で二人は陣取った。ひとみの膝の上に理生が後ろ向きに座る体勢だ。理生はひとみと向かい合いたがったが、熱くて危ないからと言われ、仕方なく従った。

 理生はひとみに乗せられて、しきりに歌を歌った。保育園で覚えた歌もあれば、何かの番組の主題歌もあった。風呂に入る時はよく歌うのだという。

「上手い、上手い」

彼女が褒めそやすと、理生は良い所を見せようと得意になって歌った。次第に湯の温度は上がり、二人の体もカッカと温まっていく。互いの体温の高まりは、肌を通してダイレクトに伝わってくる。理生はひとみの腕に抱かれていたが、熱がりもせず、拒む素振りも見せずに彼女の胸に身をまかせ続けた。

 腹に回したひとみの手の甲に、硬い突起が時折当たる。初めはへその辺りにあった手も、いつしか下腹部へと下がっていた。ひとみが、今一度確かめるつもりで、つい軽く当ててみたのが始まりだ。その時まだ芯はなかった。だが、もう一度、もう一度と当てる内に、また膨らみだした。ちょっとした戯れだった。

 一曲歌い終わると、次の曲を探す。その間が、理生には少し気まずい。割合によく覚えている方ではあったが、レパートリーにも限界がある。次第に選曲の間が長くなっていった。ひとみはニコニコしながら、時に助け舟を出して、自分も知っている童謡を一緒に歌おうと誘う。理生は今や顔を真っ赤にしながらそれに応えた。

 トン、トンとぶつかる頻度が、こちらの思うより多くなった。理生はひとみの膝の上でモゾモゾと動き、小さな尻の位置を変える。その度に恥毛が擦れ、それにつれて淫肉も動いた。ひとみは上気した頬を男児の柔らかな髪に寄せる。乳房はもっぱら彼の背中に押し当てっぱなしだ。彼女は、とうとう手の甲もべったりと男根に添わせてみた。いきり立った棒は、倒れるどころかこちらを押し返さんばかりだ。

 理生はすっかり集中力を欠いて、次の曲を見つけられなくなった。

「どうしたの? のぼせちゃった?」

「ううん……分からへん……」

「もう上がろっか?」

「ううん、もうちょっと」

頑なに今この時間の延長を望む。実際、当人にのぼせている実感もなかった。

 ひとみの口元には、いつもの母性的なそれではなく、いつしかニヤニヤと何か企むような笑みが浮かんでいた。彼女は抱き直す要領で男児の股間に手を入れた。手の中に玉袋、手首に肉茎を当てて、抑えつけながら彼の軽い体を抱き上げる。

「大丈夫?」

「うん……」

曖昧な答えを返す理生。我知らず股間を前に突き出す。反動でその細い肩がひとみの分厚い胸を押しつぶした。

「ちょっとマッサージしよっか」

男児の反応に滑稽さを感じながら、ひとみは陰部を握った手を、患部をほぐすようにコネコネと動かした。柔らかい中に硬いしこりのあるものを、あるいは上下に、あるいは旋回するように揉んでいく。

 もう片方の手はあばらの上を行き来する。いかにももろそうな骨の下から、トクトクと心臓の鼓動が伝わってくる。乳首は硬くなり、肌には粟粒が浮き出した。ひとみは今やすっかりその身の中に相手を抱え込む体勢になった。まるでぬいぐるみを抱くような格好である。

 彼の頭部に頬を摺り寄せながら、その長い指で、それはちょうど先程陰唇を撫でていたように、袋の筋から竿の裏をなぞっていく。そうしててっぺんまで来ると、先端を四本の指先で包み、そのまま下降させる。間もなく亀頭の口が手の平の窪みにぶつかった。するとまた上昇。これをゆっくりと丹念に繰り返す。

「気持ちいい?」

今一度尋ねてみる。

「うん……」

熟女の胸に全力で体を押し付けながら、理生は夢うつつで答えた。例えば、犬や猫が撫でられて腹を見せ、うっとりとしているような調子だ。

 いたいけな彼のありのままな反応にほくそ笑みながら、ひとみはいよいよ興に乗って、そのか細いしこりを親指と人差し指で挟み、上下にシコシコと、今度はさっきまでより余程早くしごきだした。伸縮する包皮の感触もまた愛おしい。

 気まぐれに始まったこの遊戯も、しかしいたずらの度が過ぎた。次の瞬間、理生は下腹を中心に激しく痙攣し始めたのである。それは僅かの間だったが、二人を大いに焦らせた。

「大丈夫?」

さすがにやり過ぎたと思って、ひとみは一転心配になる。

「う、うん……」

初めての経験で、自分の身に起こったことが彼にも分からない。その年頃の故に、射精はもちろんしていない。実は、精通前でもエクスタシーは得られる。このことを二人は共に知らなかった。

「なんか……」

理生は青ざめた顔で告げた。

「オチンチンがスースーするよ」

「オチンチン? 見せて」

彼は立ち上がって、素直に陰部を見せる。ひとみは、顔の前に来たそれをしげしげと見つめた。外面的に何ら変化はない。

「おしっこ出そうな感じ?」

理生はちょっと考えてから、

「ううん、出そうじゃない」

と答えた。ひとみもまた考え込む。しかし考えても分からないし、今は彼の不安を和らげることが先決だった。

「ちょっとお風呂に浸かり過ぎたのかもね」

的外れな推理を自覚しながら、彼女は自分自身にも言い聞かせるように言うと、この問題をなかったこととするかのように、彼の手を引いて風呂から上がった。






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[2023/03/17 22:00] | 「育てる夫」 | トラックバック(0) | コメント(0) | page top
最後の願い〈下〉
 稔は予定より早く帰路に着いていた。今回の学会はどうにも身の入らない内容で、特別責任もなかった彼は、残りを切り上げて帰ってきたのである。明日に備え、浩介の好きな名産品を買いに途中寄り道をしたが、それでも大分時間が余った。

 自宅に着く頃には日が傾きだしていたが、家の灯りはまだ点いていない。通例ならもう灯っていてもおかしくない頃合いである。

「出かけているのかな」

そう思いながら、彼は鍵を差し込んだ。開いている。中に入ると、見慣れた靴が脱いであった。

「浩介が来ているのか」

と、その時だ、いとも不穏な声が上から聞こえてきたのは。

「オオオォォ……ン……」

それは何かの声には相違なかったが、地響きのように低く、獣のような唸りだった。

「なんだ?」

稔はたちまち不安になって、鞄も下げたまま二階へと向かう。屋内はシンとしているが、時折また思い出したように声が上がる。近づくにつれ、それは高みを帯びた女の声に似てきた。得も言われぬ胸騒ぎを覚え、彼は自然と忍び足になった。

 寝室の扉が開いている。光は漏れていないが、断続的な声は確かにそこから聞こえてくるようだ。稔は警戒心を引き上げて、恐る恐る中を覗いてみた。

「これは……!」

その目に飛び込んできたのは、目を疑う光景だった。電気も点けない薄暗がりの中、窓から射しこむ街灯の光にぼんやりと照らされているのは一組の男女。女の方は彼がよく見知った裸で、向こう向きに四つん這いとなり、その背後から細身の男が、やはり全裸で彼女を突き動かしている。彼らの動きに合わせ、女の生白い肌が波打ち、垂れ下がった乳房がブランブランと無尽に揺れていた。

 稔は言葉を失って、少しの間その場に立ち尽くしていた。

「浮気……?」

ややあってこのまさかの事態を把握しようと努める。妻の浮気など今まで想像だにしなかった彼である。しかも我が家に堂々と男を連れ込むなんて。

 だが彼にとって不幸だったのは、それが単なる浮気でなかったことである。

「まさか」

本当は瞬間的に察知していた。あの若々しい背中。張りのある肌。熟れた女と対照的なその姿は、どんなに否定しても疑いようがない。後ろ髪から体格から、そして玄関の靴。何もかも証拠は揃っていた。相手はあの浩介に間違いない!

「約束が違う」

彼は目まいを起こして、鞄を取り落とそうとしたのを慌ててこらえた。なんということだ。あれはあの夜限りの願い事だったはずなのに。

 これはもう看過できないと、稔は震える気持ちを励まして、二人を止めるべく動いた。が、その踏み出そうとした足を、妻の一言が止めさせる。

「あ……あなた……」

夫は驚いて静止した。それはうわ言のような声音で、ほとんど朦朧としながら放ったようである。よく見れば、あちらを向いた彼女の顔にはアイマスクが装着されているではないか。なるほど、妻は自分と性交渉しているつもりらしい。

「そんな馬鹿な」

どういう計略によってそんな大それたことが可能なのか。自分はずっと外に居たのだ。妻の方にその気がないと成立しないのではないか。稔には今日これまでの顛末など想像もつかないことだった。

 いずれにせよ、ここに居る自分に向けて彼女が呼びかけているのではなさそうだった。二人ともこちらに背を向けて、まるっきり主人が帰宅したことにも気づいていない様子だ。それ位夢中で情事にふけっている。

「オッ、オッオッホオオォォ……ッ!」

言語不明瞭な雄叫びが佳子の口から漏れる。さっきから聞こえていたのはこれだったのだ。それは長年連れ添った稔も初めて聞く声だった。何回セックスをしたって、妻がこんな声を出したことはない。まさしく獣のように野性的な、肉体の本能が出す、それは音だ。そうしてまた思い出したように、

「あな……あなたぁ……」

と、挟む。その口からはよだれを垂らし、普段の知性的な彼女の片鱗もない。浩介はほとんど暴力的なまでに激しく腰を叩きつけており、互いの下半身がぶつかる度に、パンパンという音が炸裂する。加えて、グチャグチャとか、ヌチャヌチャといったような、生殖器から発せられる汁の音も聞こえた。

 いつ果てるとも知れない交わりも、浩介の休止によって唐突に終わる。彼はグッと引き寄せた尻に股間をめり込ませて倒れ、佳子の垂れ乳を持ち上げてグニャグニャと揉みしだいた。

 その時、稔の脳裏に怖ろしい考えが閃く。これは今日が初めてのことではなくて、あの夜以降何度も繰り広げられてきた展開なのではないか。自分の目を盗んで、二人は逢瀬を続けてきたのではあるまいかと。それは絶望的な仮説だった。稔はいまや顔面蒼白となって立ち尽くしていた。

 その前で、佳子の体が仰向けにひっくり返されていく。稔はその動きに慌てて、壁の裏に身を潜めた。どうしてこちらがコソコソとしなければならないのか、自分でも意味が分からない。混乱する気持ちを抱えながら、しかし彼は再び部屋を覗いた。

 だらしなく広がった股の間に浩介が鎮座して、彼は佳子に覆いかぶさり、その唇を奪っていた。背中が街灯でキラキラと光っている。汗だくなのであろう。おそらく佳子もそうに違いない。あの様子では、いつかの夜の比ではない位に追い込まれているはずだ。稔は怖いもの見たさで二人の接続部を見た。すっかり刺さり切った肉棒の淵から、白いあぶくが沢山垂れている。もはや異次元のセックスに見えた。

 稔は暗澹たる気持ちに沈んでいった。愛していた二人が、同時に遠い所へ行ってしまったように思える。どうしてこうなったのか。言うまでもなく己が蒔いた種である。

「それにしても、あんまりじゃないか」

罰を受けるということ、罪を背負うということはこれ程までのことなのか。理不尽の観を禁じえない。

 そんな彼を深淵から引き戻すように、

「あなた……」

と呼びかける声がする。

「あなた……」

しつこく呼んでくる。それが粘っこく耳にこびりついて、稔の心を倒錯させる。

「あなた」

何度も聞いている内、その声音にはただの惰性ではない真心がこもっているように感じだした。考えてみれば、妻がそう易々と自分を裏切るとは思えない。彼女は賢い女だ。それに情も厚い。彼女はあくまでも真に夫と営みを共にしているつもりではないか。そうだ、佳子は俺を諦めてはいない。

 この時、稔は自身の体に異変が起きているのに気付いた。ズボンの前がこんもりと山になっている。

「なんで……!」

実に久しぶりの懐かしい感覚。彼は思い切ってチャックを下ろした。中から出てきたのは隆々と青筋の立った勃起である。

「何をしようとしている」

狂人を演じようとでもいうのかと、シニカルな理性が笑う。それでも彼がしがみついたのは、妻が自分を信じているという建前である。彼女は俺とセックスをしているつもりなのだ。であれば、現に繋がっている相手が誰であれ、俺と交わっているのと同じことだ、と。

 稔は音がせぬように注意深く鞄を下ろすと、おもむろに自らの竿をしごき始めた。まるで学生時分を思い出すような溌溂とした勃起だ。彼は、しかし決して目の前の痴態に興奮してオナニーをするのではない。これはあくまでも佳子とのセックスである。目前の男と彼の身は同化しており、佳子の膣にそのペニスは入っているのだ。

「あなた……」

「うん、そうだよ」

 稔は浩介の動きにシンクロさせて手を動かした。片や女の柔肉と、片や己の手と。本来あるべき地位が入れ替わっていることは意識の外に置いて。使用した回数では圧倒的に劣る女肉を相手取りながら、しかし今日思うまま回を重ねてきた浩介は落ち着いていた。その点で、ベテランであるべき稔の方がこの度は分が悪かった。同じように動かしながら、彼の方が先に事を済ませてしまったのである。

「何をしているんだ……」

少量の精液がポタポタと手からこぼれていく間に、急速に熱が冷めていく。我に返った稔は恐ろしい程の自己嫌悪に苛まれた。ハンカチを出して床を拭く間も、死んでしまいたい程に情けなくなった。頭上では激しいやり合いが続いている。

「イィーアァアッ……ハンアッ……ア、バァー……!」

相変わらず意味不明に吠える佳子。正体もないとはこのことで、髪を振り乱し、メスの本性丸出しで逝き狂っている。

 性の悦びを知っている熟女と、精力のまま奔放に突き進む青年との体の相性は、憎らしい程よく合うものである。その説を、まさしく身をもって証明していく佳子と浩介だ。彼は今、佳子にペニスをくわえさせている。夢うつつの彼女は、一心不乱にそれへしゃぶりついていた。その口へ、浩介は精液を飲ませる。

 稔はもはや後をも見ずにその場を離れ、書斎に引きこもった。暗い部屋のまま、ドッカと椅子に身を預ける。後はもう、ただそこで時の過ぎるのを待った。

 それからどれ位の時間が経ったのか、例の声が収まって、玄関の扉の開閉するらしい音が聞こえた。稔はゆるゆると立ち上がり、そっと廊下に出てみる。恐る恐る寝室を覗けば、放心した佳子がベッドの上に放置されていて、浩介の姿は見当たらない。玄関に下りると、そこに彼の靴は無く、扉は施錠されていた。

「帰った……のか」

彼はひとまずホッとして、さてこの後の始末をどうしたものかと思案しながら寝室へ取って返す。

 佳子は寝息を立てていた。素っ裸で布団もかぶらず、だらしなくベッドの上に仰向けで伸びていた。まさに犯された事後の女といった体たらくである。稔はその傍に立って、彼女の体を見下ろした。所々赤くなっているのは、いわゆるキスマークを付けられたのだろう。ほとんど至る所に見られた。どれだけしつこく愛されたのだろうか。

 その顔はさぞかし疲れ切って老け込んでいるのではないかと思いきや、案に反して気力の充実した、肌艶の良いものだった。口惜しいが女としての多幸感が見て取れる。目は優しく閉じており、さっきまでの狂ったような態度が嘘のような穏やかさだ。

 そこまできて、稔はハッとした。アイマスクが外されている。慌てて辺りを見渡すと、足元には剥ぎ取られた衣服が散乱しており、その中にそれは落ちていた。拾い上げて、また考え込む。これは果たして事後に外したものだろうか、それとも最中に外したものだろうか。事後自ら外したのなら問題はなし、もし最中にだったら事である。全ての前提を覆すことになるからだ。

 しかし、考えても分からないことだし、推理を働かせるには彼はもう疲れ過ぎていた。諦めて片づけに着手する。使用済みのコンドームがそこここに散らばっているのを、一つ一つ摘まみ上げ回収していった。ご丁寧にもこういう教えを守った点は彼らしいと思った。計五つ。これは例の夜を前に稔が買い求めた品で、六枚入りだった。あの晩に一つと今日とで全て使い切った計算になる。

 またちょっと立ち止まって、稔は思案した。

「五枚で、足りたのか……?」

五枚も一挙に使ったこと自体驚愕であったが、逆に言えば五枚も必要な絶倫が、それが切れたからここまで、といって諦めるだろうか。よく思い返してみれば、あの時の結合部にはそれらしい色が見えなかった気がする。

 彼はたちまち不安になって、それでも確かめずにはいられなかった。緊張しながら妻の股の間を覗き込む。シーツはぐっしょりと濡れており、その大きな染みの上にふやけた尻が乗っている。その水源は言うまでもなく女の園。縮れ毛の先からも滴が垂れ、早くも乾き始めた滝の跡は陰肉から下へ下へと無数に筋を残していた。

 水源地の淵は無残にもパックリと開きっぱなしになっており、突貫工事の凄まじさを物語っている。そして、その穴の下辺から白濁した汁がダラリとこぼれ出ていた。泡立った粘液にとどまらない、それは明らかに男が残していった子種汁に相違ないと思われた。もし指で掻き出せば、奥にはまだ残りが溜まっているかもしれない。稔はそう思ったが、一層惨めに感じる未来を恐れ、手は出さなかった。

 代わりに別の挙動に出た。さっきはあれ程の勃起をしたのだから今また挑めるかもしれない。ふいに思い付き、股の間に座り直す。妻を抱き、これまでの一連を夫婦の営みだったことにしてしまえば、彼女と浩介を取り戻せるかもしれない。いかにも稚拙な筋書きだが、彼は本気でそう考えた。

 股間を露出する。そこは今のこの家同様、静まり返っていた。竿をしごいてみる。が、あの情熱はどこへやら、うんともすんとも言わない。意固地になってしばし弄り回してみても、期待した反応は得られなかった。ハーッと彼はため息をつき、一物を仕舞う。妻は眠ったままだ。あるいは気絶しているのか。もしも勃起を挿入されたら、またあの淫獣が起動するかもしれないが、今は叶わぬ夢である。

 稔はゴミを捨て、散乱した衣服を畳むと、タオルで妻の体を浄めていった。出来るだけ痕跡を消してやることで、忌まわしい記憶も薄らぐように思えたからである。乳房の裏側も股間周りも順次拭いていく。妻が他人とした情事の後始末は惨めである。拭われている最中も佳子は目を覚まさない。微かに開いた口から、時折艶めかしい吐息が漏れる。何だかまだ淫らな戯れを続けているようだった。

 一通り仕事が終わると、稔は妻を見下ろしてまたため息をついた。股を閉じさせたから前よりだらしなさはない。彼はその上に布団を掛けると、最後にアイマスクを着けさせて、当てどもなく部屋を出、後ろ手に扉を閉めた。

 翌朝、いつもよりかなり遅い時間になって佳子は起きてきた。

「あら……」

居間にいた夫を見て、明らかに極まりが悪そうである。

「ごめんなさい、寝坊しちゃって……」

夫にどこまで知られているのか分からないから、どう話していいか迷う。朝起きてみれば、部屋は綺麗に片付いていた。彼女にはそれが、浩介によるものか、夫によるものか判然としない。それでつい、相手の出方を窺うのだった。

「朝飯はもう食べちゃったよ」

夫は平然と変わらぬトーンで静かに新聞を読んでいる。少なくとも特別な緊張感は漂っていない。

「あの……昨日は……?」

佳子はかまを掛けてみる。ベッドに夫が寝た痕跡はなかった。自分はアイマスクだけを付け、裸のままで眠っていた。寝間着を着ずに寝た経験など一度もない。

「昨日は」

稔は意外なことを言い出した。

「結局外に泊まったよ。ほら、あんまり遅くなったからね。連絡したろ?」

嘘をついた。彼自身驚く程スムーズに口から出たものだ。

「ああ……」

佳子は携帯電話を取り出す。確かに連絡が来ていた。ここは駆け引きである。

 彼女には昨日の記憶が途中から無かった。セックス中に意識を飛ばしたのは初めての経験である。浩介がいつ帰ったのかも知らない。ただ体だけは昨日のことを誰よりも覚えていた。口の中は妙にネチャネチャとしていたし、痴穴に至っては言うに及ばず、使い込んだ実感が今も残っている。恐ろしいまでに激しい情熱だった。一体彼がどれだけ種を残していったのかしれない。

「こ、浩ちゃん、何時頃来るかしらね……」

何気なくそう言いながら、彼女は部屋を出て風呂場へ行った。こんな時間にシャワーを浴びる習慣はなかったが、もし問われれば、浩介が来る前に身支度を整える、などと言って誤魔化すつもりだった。

 だがその日、浩介は結局来なかった。そればかりではない。もう二度と家に来ることも、佳子に迫ることもなかったのである。

 あの逢瀬の後、浩介の容態は急変していた。それはまるで、佳子に全ての精を吸われたかの如くに著しく衰弱していったのである。そうしてそのまま帰らぬ人となった。

「それはあんまり卑怯だよ、浩介」

弔いを終えてふと空白の時間が出来た時、稔は寂しく微笑みながら、一人ポツリと呟いた。間男の最期にしては、あまりにも潔さが過ぎる。いや、そもそも死を目前にしなければ、彼がああいう望みを掛けることもなかったのである。今はただ後悔も、まして恨みもなく、寂寥と虚無が稔の胸には去来するのみ。

 浩介の死に顔は穏やかだった。人生の心残りを叶えた彼だったが、その心に最期に浮かんだのは、決して佳子を抱いたことではなく、おじさん、おばさんと三人で山へ遊びにいった思い出だったことを、夫婦は知る由もなかった。

 それから瞬く間に三カ月以上が過ぎた。

 あの日以来泣き通して、憔悴しきっていた佳子も少しずつ落ち着きを取り戻していた。そんな彼女が、ある日、思い詰めた様子で稔に話があると言ってきた。

「実は……」

緊張した面持ちをしている。

「あの……わたし……」

極めて言い出しにくそうにしていたが、その覚悟はもう決まっていたのだ。

「赤ちゃんが出来たの」

稔は目を見開いた。そして、一瞬で全てを悟った。浩介の子だ! 浩介の子だからこそ妊娠を打ち明けたのだ。そして、妻はもう産む決断をしている!

「おめでとう!」

稔は思い切り妻を抱き寄せた。

 佳子ははらはらと涙を流しながら、夫の胸の中で言った。

「ありがとう」

 稔は、この運命を、責任を受け入れていこうと、そして、妻と生まれてくる子に生涯を捧げようと固く天に誓った。



〈終〉



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[2023/03/12 22:00] | 「最後の願い」 | トラックバック(0) | コメント(0) | page top
最後の願い〈中〉
 その事があってから、ひと月が過ぎた。浩介(こうすけ)は手術を受け、入院と一時退院を繰り返し、帰宅の折には以前と同じように家族で食事もとった。

 稔(みのる)は、少なくとも浩介の目には平生と変わらぬ様子で接してくれた。あの日持ち掛けられた提案には驚いたが、その真剣な面差しと重々しい切り出し方に接し、彼の覚悟と事の重大さを思い知りつつも、浩介は決意を曲げなかった。稔の方では、ひょっとすると翻意してくれるかもしれないという一縷の可能性に期待もしていたし、浩介もためらわないではなかったが、やはり今生唯一の心残りの成就を選んだのである。

 佳子(よしこ)は毎日見舞いに来てくれた。彼女もまた以前と何ら変わりなく母親としての顔しか見せなかった。浩介がどれだけ熱い眼差しを向けても、その牙城が崩れることはなかった。いっそ彼女を押し倒そうかとも考えた。だが、それをすればおじさんの決断が無駄になる。おばさんを悲しませてしまうことに思い至り、結局悶々と耐えるしかないのだった。

 しかし、彼女を知った後だからこそ一層思いは募る。知っているからこそ具体的に思い描ける。その度に彼は自分を慰めるしかなかった。あの人の柔らかさ、あの人の匂い、あの人の熱を思い出しては、あの人にくるまれるつもりで竿を握る。若くもあるし、病身でも性欲はある。むしろ死に近づく程に種の保存に執心するかのごとく、怒張はいきり立った。

「ああ……佳子さん……」

彼の中で、彼女は前より完全に女だった。愛しさが溢れ、一層可愛く見える。

そういった変化は、実は彼一人の内心にとどまるものではなかったのかもしれない。こんなことがあった。

「床嶋さん、なんか最近キレイになりましたよね」

「ええ?」

唐突にそう言ってきたのは、職場の年若い看護師である。

「みんなで噂してたんですよ。キレイになったっていうか、色っぽさが増したっていうか」

からかい半分とも取れる明るい声音ではあったが、興味津々といった様子もしている。しかし彼女の好奇心は先輩看護師の介入に阻まれた。

「床嶋さんは前からお綺麗でしょ。失礼なこと言ってないで、さっさとそれ片付けて」

後輩は唇を尖らせながら不承不承業務に戻っていったが、立ち去りながらもなお、

「でもいいなあ、優しい旦那様がいて、お仕事も出来て」

と、まだ何か言い足りない風であったのを、また先輩にたしなめられていた。

「キレイ……? どこがよ……」

独りになった時、佳子は鏡の前で自嘲気味に唇を歪めた。雰囲気にどこか変化が出ているのだろうか。そう考えると不安にもなるが、自問自答しても答えは出ない。

 浩介の前ではこれまでと変わらず、否これまで以上に慈愛の精神を持って振る舞っているつもりだ。思えば、彼が自分を女として見だしたのも、こちらに隙があったからかもしれない。本当の母性愛で包んでやれていれば、心の迷いは生じなかったのではないだろうか。自覚はもちろんないが、どこかで彼に良く思われようとしていたのかもしれない。そう考えだすと、先日の一件だってそもそも自分が蒔いた種という説も成り立つ。何しろ、浩介に責任転嫁するような考えは端から出来ないのだ。

 ただ、反省はするが、後悔はしない。そこは女だ。過ぎてしまったことは仕方がないと思う。今さら過去は変えられないし、その罪を背負って前に進むしかない。あの件を前提にした人生しか今後は無いのだ。だから、この秘密を想い出に変えて、夫を労わってこれからも家族の関係を大事にしていこう。そう強く強く念じた。

 他方、そう強くもいられないのが男だ。稔はあの日以来ぼんやりすることが多くなった。あれで良かったのかなどと、今更ながらに悩む。浩介の為だと言い聞かせてみても、自分自身を説得しきれないでいた。妻は屈託なく日々を生きているし、自分も支障なく日常を送っている。外面的に何も変わらない。秘密は秘密であって胸の内にしか存在しないもの、あまつさえ時が経てば夢のような形に変ずる。そう知ってはいても、さてそんな日が来るかどうかとなると……

 ある夜、妻の方から寝所に誘われた。十数年前ならいざ知らず、いやその頃ですら珍しかったし、近年では尚更なかったことだ。彼女自身何かしら期するところがあったと見える。稔は誘いに乗った。だが、出来なかった。彼の下半身は全く反応しなかったのだ。そればかりか、彼女の裸を見た時、あの光景がフラッシュバックしたのである。桃色に染まった肌で荒く息を吐いていた彼女の姿を。あの時のように自分は満たしてやれるのか。そう思った刹那、彼は浩介をライバルとして比較していることに気が付いた。一人の愛する女を取り合う構図は、まさにそれではないのか。

「違う! 浩介を……そんなわけはない」

強く否定しに掛かれば掛かる程、その疑念が浮き彫りとなる。また、あの若さに、あの満ち溢れた自信に勝てるのか、と弱気にもなる。

 浩介は間違いなく本気で、ひたむきに佳子へ愛を向けている。それ故に厄介だ。そもそもそんなことがあっていいはずはないのだ。本来であれば、稔は彼を叱責しなければならなかった。彼は初手で誤ったのである。それはなぜか。つまらない虚栄心の故か。ただ、その解を得たとて時既に遅し。それに、あの時拒絶していたら、それはそれで悔やんだのかもしれず……

「ごめん」

稔は静かに詫びて、妻に挑むのを止めた。

「いいのよ……」

佳子は優しく微笑み返す。女に恥をかかせたことを、夫は心から情けなく思った。

 佳子は寂しかった。別に性欲に駆られて誘ったのではないつもりだ。ただ、夫婦の絆を確かめ合うように、軽く抱いてくれるだけでも良かったのである。彼の心労を思いやれば心配ではあるが、彼から打ち明けられぬ問題である以上、後はもう時間が解決するほかない。それまで静かに寄り添っていこう。妻はそう決意を新たにした。

 その日、夫は学会の為に出張で、佳子は非番の時間に一人で家の掃除をしていた。明日は浩介が帰ってくる。それに備えてのことだ。

 掃除の後で寝室の片づけをしていると、ある引き出しに意外な物を見つけた。

「これは……」

見紛うはずもない、あの夜のアイマスクである。本来の用途から言えば何ら怪しむべき道具ではないのだが、あの件があった為にやましい物に思える。しかも几帳面な夫らしく、ご丁寧にも避妊具の箱と共に仕舞われていた。

 佳子は少し苦笑して、ふとそれを手に取ってみた。もうああいう使い方をすることはないだろう。となれば、今後は睡眠の際に使ってみようか。そんなことを思いながら、彼女はふと何気なく、本当に気まぐれでそれを着けてみた。昼間でもたちまち視界が真っ暗となる。

 ちょうどその時だった。ガバッと後ろから何者かにいきなり抱き着かれたのだ。

「キャッ!」

悲鳴を上げて、反射的にそれを振り払おうとする。だが相手の腕力がそれを許さない。筋力や腕の位置から察して明らかに男性のそれだ。

「あなた?」

佳子は恐る恐る尋ねたが、自分自身言い終わらない内にそれが間違いであることを悟っていた。では、ならず者が忍び込んできたか。いや、違う。直感がそう告げていた。

 彼女はふと、浩介がまだ幼かった頃、後ろから目隠しをしてきて、

「だれだ?」

と、よく言ってきたのを思い出した。その時はわざと何度か間違えた振りをしてから向き直り、満面の笑みを浮かべた少年を見て自らも笑顔となり、よしよしと頭を撫でてやるのが常だった。

 そうだ、あの時のように戯れにしてしまえばいい。早くこのアイマスクを外して。そう思った刹那、彼女は尻の上っぺりに硬いしこりが押し付けられるのを感じて動揺した。うなじには熱い息が掛かる。男からは冗談に出来ない殺気めいた気配が漂い出ていた。

 男は強引にも佳子をベッドへ押し倒した。そして、激しく抗う彼女に馬乗りとなって己の体ごと抑えつけ、カットソーの隙間から中へ手を差し込んできたのだ。それはひんやりと冷たい手だった。

 佳子がその冷たい衝撃を感じると同時に背筋には悪寒が走る。もはや犯意は明確であった。早く止めなければいけない。彼女は躍起になって相手を押し返そうとしたが、腕力では到底敵わない。もし浩介だとすれば、あの病身のどこにこんな力が残っているのか。

「ホントに浩ちゃんなの?」

訝しがるのも無理はない。それに、あの子がこんなことをするはずがない、とも思いたい。その時ハッと閃いた。これはまた夫が仕組んだ計画なのではないかと。だとすればその辺りで彼が見守っているのかもしれない。

 しかし、その考えはすぐに打ち消された。アイマスクを着けたのはあくまで偶然なのだ。そのことまで彼が計算していたとは考え難い。第一、彼は今出張に出ているではないか。

 その間に衣服はめくり上げられ、薄青い花の刺繍が施された白地のブラジャーが露にされる。

 これはもういけないと、佳子は相手を押し戻すことから方針転換し、アイマスクを取る方に注力することとした。これを外して、外して……外したら、どうなるのだろう。相手が浩介だったとして、今まさに禁忌を犯している彼と相対することとなる。つまりは彼を罪びとに貶めてしまう。そんなことはしてやりたくない。それに、今まで築いてきた関係を台無しにする結果ともなる。思えば、それを回避する為の道具立てではなかったか。

 この一瞬の逡巡が明暗を分けた。驚くべき手際の良さで男はスカートをめくり上げ、さらにアイボリーのショーツを脇へずらすと、まだ濡れてもいない陰裂へ早くも剛直を押し当てた。

「待って」

とばかり、佳子が下腹部へ手を伸ばすのと、男根が穴に納まるのとはほとんど同時だった。彼女が握る手の中をスライドして、肉竿が通り過ぎていく。その時彼女の指には、確かにゴムの感触があった。

「やっぱり浩ちゃん」

突然の強姦魔がコンドームを用意しているとは考えにくい。であれば、さっきアイマスクと一緒に置いてあったあれを彼がわざわざ取ったのだろう。佳子は彼の最低限の気遣いとまた避妊にちょっと安堵した。

 だが、だからといってもちろん現状を受け入れられるわけではない。夫が仕組んでいないなら、これは彼の管轄外の所業。夫の保護下にない以上、許されざる不倫なのだ。

「やめて」

奥まで入ってしまった不倫棒、その太さで無理矢理筋穴を広げられる苦しさに喘ぎながら、佳子は懇願するように言った。浩介の名指しを相変わらず避けている今、あとはもう頼むほかないのだった。

 しかし、ここまで来て浩介が止める理由はなかった。再び戻ってこられた肉穴の熱に感動しながら、彼は夢中になって自身の快楽を追求していく。

 浩介にとって、これは願ってもない僥倖だった。日々恋慕の情に悶々としていた彼は、とにかく佳子に会いたくて仕方なく、無理を言って半日早く帰宅させてもらうと、飛ぶようにして家までやってきた。初めは、いきなり行って彼女を驚かせてやろうという純粋な遊び心だった。それこそ佳子が思い出していたようなやり方である。ところが、いざ部屋を覗いてみると、なんとアイマスクを装着しだしたではないか。その瞬間に彼の理性は崩壊した。いわば突発的な犯行だったわけである。

 まだ濡れていない膣穴はギリギリと肉棒を締め付ける。だがさすが年の功というべきか、きつ過ぎるということはない。彼女の柔らかい人柄そのもののように、器もしっぽりと男をくるみ込む感じ。それでも出産を経験していない彼女であるから、やはり狭さは保っている。ほかに女を知らない浩介だからその辺りの機微には気づけない。ただただ愛しい人の中に入っている悦びがあった。そして、彼女が気持ちいいことを改めて知った。

 肉茎を断続的に摩擦すること二十数回、彼の限界はすぐに訪れた。自分でしごくのとは加減が全く違う。それにまた、この間の時みたいに執念深く粘れなかった。許されざる犯行だっただけに、やはり焦りがあったのである。

 しばし我慢を試みたがもう耐えきれないと見るや、浩介は最後に思いのまま腰を使った。そうして相手の両肩を掴んで上体ごと彼女に密着して抑え込みつつ、一気に思いの丈を愛する穴へとぶちまけた。

「ンンッ!」

あの日以来の熱を胎内に覚えて、佳子の体が反射的に驚く。

「終わった……のね」

とうとう最後までやりおおさせてしまったと、虚脱感が押し寄せてくる。事件なんて呆気ないものだ。あれ程の怖ろしいことが一瞬で終わる。それにしても前の時はひどく長く感じたものだが……

「いいえ、あの時は……」

佳子は少し頬を赤らめながら思い返した。あくまでも夫婦の営みとして始まったから、夫が前もって丁寧に愛してくれたのだと。その結果もあってのあれだから、決して浩介一人にやり込められたのではなかったのだと。

 浩介はうずめていた枕から顔を上げ、ちらりと彼女の喉を盗み見た。ちょうど生唾を飲んだらしく、そこが僅かに動いて見えた。その動きが可愛らしく、彼は思わずそこへ吸い付き、チロッと舌先を出しながら、そこから首筋、鎖骨の辺りへかけて、軽く舐めながら唇を這わせていった。

「イヤァ……」

くすぐったそうに見悶える佳子。ゾクゾクと総毛だつ。気持ち悪いわけではないが、背徳的な怖さがある。何より、事を終えた相手がすぐに離れようとしないのも気がかりだ。

 彼女の逆立った産毛が日光を浴びてきらめくのに目を細めながら、浩介はうなじの中に鼻をうずめ、彼女の髪から漂う甘い香りで肺を満たした。過去には肩より下まで伸びていた佳子の髪だが、現在は全体をショートに整えている。そのロングだった頃を思い出しつつ、浩介は彼女の髪をやんわりと撫でた。

 近くで見ると、本当に美しい人だと思う。美人といってもツンと澄ました所は全くなく、あくまでも柔和な母性的な顔立ち。この人に憧れてずっと生きてきたのだ。

「もっと、もっと知りたい!」

彼女の全てを知りたい。そう思った時、彼の準備はもう出来ていた。若い肉体が一発で済むはずもない。浩介は新しいコンドームに付け替えると、やにわにショーツの脇から再突入を開始した。

「ンアッ!」

佳子は驚いてのけ反った。再び入ってきた欲棒は、先程とも遜色なく、いやむしろ増したのではないかという程の硬度で、膣肉を遺憾なくえぐり抜いていく。

「もっと、もっと!」

浩介は彼女の両脚を肩に担ぎ、ぐっと前のめりになって上から下へと腰を叩きつけた。自然、佳子の尻が浮かび上がる格好となる。

「ヒアッ!」

子宮の口に亀頭が激突して、佳子は思わず悲鳴を上げた。それでも相手はお構いなく、硬直棒はドスドスと奥壁を激しくノックし続ける。彼女はたまらずに彼に抗っていた手をベッドへ振り下ろし、シーツにしがみついた。

 浩介はしばらくそうやって連撃を続けた後、小休止の合間にブラジャーに手を掛けた。そしてホックも外さずに無理矢理それをずり上げる。すると、一旦めくれ上がった乳房が乳首のとっかかりを通過した直後にドロンと落下して広がった。

 浩介はそれとの再会を喜びつつ、むさぼるように乳輪ごと吸引する。母乳の出ないことが不思議だと思う程ジュウジュウと吸った後、パッと離すと、乳玉は呆気なく形を崩し、自立出来ずにとろけた。見れば、乳輪の外側にほの紅い輪っかが残っている。彼は左の乳房にも同じことを施し、同時に肉穴を突いていった。

 少しく乱暴になりだした彼に恐れをなしつつ、それでも敢然と拒絶出来ない佳子。もはや貞操を奪われしまった今、それに付随する行為も一緒くたに許容してしまう自堕落さがある。もう罪の重さは変わらないというのか。結果、相手のしたいようにさせてしまっている。

「ンッンッ……」

予想できないタイミングでドクドクと流れ込んでくる熱汁。それをまた胎内に感じながら、今度は幾分驚きも収まって、相手のことを思いやった。この闇の向こうで、彼はどんな表情をしているのかと。

 二発目の射精を終え、浩介は上気した面持ちで、まんじりともせずに佳子の顔を見下ろしていた。初めより呼吸の荒くなった彼女の頬は、ほんのりと染まっているようだった。幾度となく見慣れた普段着の中から乳房を露出している様を見ていると、恋焦がれる人をとうとう自分の女にしたことを実感し、感無量であった。のだが、欲求というのは果てしがないものだ。

「ああ、もう……我慢出来ない」

浩介は辛抱堪らなくなって倒れ込むと、右手で彼女の頭を抱き、左手をその卵のようにツルリとした丸い頬に添えた。お互いの息が吹きかかる程の距離である。佳子は何かを察して本能的に口を閉じる。ちょうどその直後、浩介の唇が佳子のそれに押し付けられた。

「ダメよ、浩ちゃん」

佳子は衝動的に相手の胸へ手を突っ張ったが、無力にも押し返すことは出来なかった。頭は固定され横を向くことも出来ない。

 浩介の唇は、きつく結んだ相手の唇を剥がすかのように上下に挟んで動いていく。上唇から下唇、時に引っ張り上げようとしたかと思えば、横へ移動したりして、あっという間に全体を周回していった。

 佳子は口を開かぬ覚悟だったが、どうしても息苦しくはなるもの。油断という程の油断ではないが、ちょっと唇が緩んだのを見逃す浩介ではなかった。今度は舌が入ってきて、第二関門の前歯が蹂躙されていく。それはまるで掃除でもするように上の歯、下の歯、ゆくゆくは頬の裏の方まで舌は侵入し、丁寧に表面を舐めとっていった。

「イヤ、やめて」

 この接吻は、初め姉弟としているような違和感しかなかった。背徳というよりも意味の分からない感覚。核心の一線はとっくに越えているのに、やはり二人は男女の仲ではなく、佳子からすれば、浩介はいまだに我が子以上の何ものでもなかったからである。

 ところが、彼が三回目の挿入を始めてからその様相は変わってきた。

「ウソでしょ!?」

まずはそれが佳子の率直な感想だった。夫の若い時分でも一晩で二回以上のことはなかった。彼女はそれでも十分満足していたし、何ら疑問にも思わなかったのである。それが、若いとはいえこの短時間に三回もしようとしている。しかもまだまだ硬い。

 そして、この合体と並行してのキスである。夫との愛の営みにおいて、これは必ずあることだった。なので、彼女の中では暗に、セックスとキスが連想的に図式化されていたのである。ここに至って、浩介と交わすそれも少し意味が変わってきた。

 つい噛み合わせを直した隙をこれまた逃さず、浩介の舌はとうとう奥の空間に侵入してきた。佳子の舌は逃げ回ったが、彼は追い回すことにこだわらず、歯の裏や歯茎を舐めたりして寄り道も愉しんだ。そうこうして乱れ合う内には、いよいよ舌同士も絡み合う形となった。唇同士も密着し、互いの唾液で口の周りはベトベトになるし、彼の唾液は佳子の口内へトロトロと流れ込んでくる。経験のない浩介だが、彼を突き動かすのはとにかく探求心だ。佳子の歯や唾の味も、唇の内外の感触も、何もかも全てを味わい尽くしたい彼である。

 浩介は佳子の艶のある髪へ指を絡ませて頭皮をまさぐり、他方で額から頬を撫で、耳のひだをなぞった。肉棒の存在感とも相まって、我知らず佳子の目が熱っぽく潤みだす。体の芯から女にされていく。

 だが、二人はかかる情事に埋没していきながらも、当初からある共通の懸念を有していた。それは時間の経つごとに膨れ上がっていくもの。すなわち、

「あの人が帰ってくる前に」

 稔の出張のことは浩介も知っている。もちろん計画的な犯行ではなかったが、彼の居ないことが行動に踏み切らせた面は否めない。そうして実際に犯してしまった今、あとはもう、おじさんの帰る前に精一杯佳子を愛そうという腹積もりだった。

 一方、佳子はといえば、これはもう気が気ではなかった。大体の帰宅時間は予想しているし、まだ大丈夫とは思っているものの、こんなに浩介が粘るとは思わなかったし、そもそもが夫を裏切っているわけで後ろめたく、すぐにでも切り上げるべきだとは本心から考えていたことだ。

 かの夜の折は、あくまでも形式上は夫との情事だったところ、今回は端からの不倫である。このアイマスクが故に辛うじて建前を死守しているとはいえ……ここで佳子は、はたと気が付いた。そうだ、自分は夫と性交しているのだと。浩介もまたそれに乗っかって行為に及んでいるわけで、たとえ夫が介在していなくても、この交渉は夫婦のそれというべきなのである。ならば、自分は夫に抱かれている風を演じ続けなければならない。

 佳子はか細い声で試しに言ってみた。

「あなた……」

我ながら白々しく感じられ、その声は覚えず震えていた。言った傍から耳まで赤くなる。そうだ、夫だ。あの人に抱かれているのだと自己暗示めいたものを掛ける。こうなるともう自分との闘いだ。

 それにこれは、もしも夫に見つかった時に、いくらかでも彼の心を和らげようという打算もあってのことである。妻は夫と思ったからこそ抱かれているのだと思えば、彼も理解がしやすいだろう。そう考えた。が、そのすぐ後から、結局保身ではないかとの疑念が湧いてくる。妻が悪くないとすれば、責任は全部浩介に押し付けられるのだ。

 佳子は、しかしこれ以上満足に思案出来なかった。彼女の煩悶を台無しにするようなことを浩介が言い出したからである。

「佳子さん……」

彼は遂に声を出した。それは言ってはならない掟だったはずだ。佳子の背筋へ冷たいものが一気に走り、耳の奥がキーンと鳴って、彼女は恐怖から身を震わせた。

「佳子さん」

聞き間違いではなかった。聞きなれたあの声で、明瞭に彼は呼んでいた。

「ダメよ、ダメ」

「佳子さん」

「名前で呼ばないで」

「佳子さん!」

「浩ちゃん、お願い」

「佳子さん……ああ……佳子さん!」

佳子は必死に心で哀願したが、情熱をまとった彼には一切届かなかった。その勢いのまま男根を女陰の奥底へこすり付け、むさぼるように彼女の口を唾液ごと吸い上げる。佳子は息も絶え絶えになってきて、胸の奥がカーッと熱くなる。

「ダメ……ダメだったら……」

愁眉を寄せて見悶える。全身から汗が吹き出し、火照った肌は桜色に染まっていく。

「イヤァ……!」

腿の内側が、まるで自分のものでないように一人歩きしだし、もうどうしようもない感覚。そこへきて、浩介はとどめの連撃を繰り出し、そしてそのまま熱情を噴射して果てた。

「アァウァ……!」

彼とディープキスを交わしながら、佳子は絶頂していた。浩介が正体をバラシてしまって、この先どうなるのかなんて、今は咄嗟に見当も付かなかった。

 浩介は浩介でさらなる行動に出る。今度は下半身に移動し、そこにあったスカートもショーツも全部取り去ってしまった。

「イヤ……」

佳子は恥じらったが、制止する力も出なかった。恥部を見られていることは視覚を失っても分かる。なんとなれば、闇の中だからこそ想像力が逞しくなる。

 浩介は愛する人の陰唇をまじまじと見つめた。毛量は薄い方で、処理を徹底していなくてもそれ程繁茂していない。やや茶味がかった縮れ毛が申し訳程度に割れ目を包んでいる。その中に周りの肌よりも深い色の陰唇が可愛らしく鎮座している。その拓けた中心部には、先程来自分がくり抜いた穴が黒く開いていた。

 さらに視線を下げると、生白い尻の奥に集約した皺がある。そこは桃色がかって見えた。浩介は佳子の尻の穴まで知れたことに喜びを感じたが、彼女の羞恥を思いやるとあまり深くは追及しないことにした。何となく自身でも気恥ずかしいような気持ちがある。

 何よりも今は女陰だった。複雑な回廊のようなひだが重なっており、無知な彼には何が何やらさっぱり分からない。まずは鼻を近づけてみたが、匂いという程の印象はこれといってなかった。ただ彼の中の補正で、佳子らしい甘い香りが漂い出ていたような気はした。むしろ印象的だったのは、そこから湯気でも立っているのではないかという程、顔面に熱気を感じたことである。

 続いて、指の腹で外周をなぞってみる。瞬間、佳子がビクリと痙攣した。浩介はその反応をチラリと窺いつつ、肉の厚みを確かめるように摘まんでみる。そうしながら、自分が入っていた穴の奥を改めて確認した。なんだか新鮮なホルモンのような、オレンジとピンクの合わさった色の、しっとりとした粘膜が剥き出しになっている。彼は思い切って、そこに唇をくっ付けた。

「ヒィッ!」

佳子は悲鳴を上げて、思わず口の周りを両手で覆った。到底我が子から受ける仕打ちではなく、これ以上の辱めはない。合体よりも恥ずかしい。余程止めようと考えたが、止めることも恥ずかしいような気がして身動き出来ないでいた。

 浩介の研究は続く。まるでお定まりの如く指を差し入れてみる。

「熱い!」

彼は内側の熱にびっくりした。体の内部から直に感じる体温は、体の表面に触れるのと全く訳が違っていることを知った。医学生らしい感想といえば感想といえる。この場合、さながら佳子は実験体というわけだ。あるいは手術と言うべきか。いずれにせよ、続いては味覚を調べてみねばならない。

「ンンッ!」

ゾワゾワと総毛だたせて、佳子は口をへの字に結んだ。もう勘弁してくれと祈った。恥部を、それも今しがたまで使用していた痴穴を舐められている。

 浩介は彼女の反応を見て驚いた。一体に彼は、佳子が感じているという想定をしてこなかった。自分だけが気持ちよくなることで精一杯だったし、何より男として自分が見られていると思っていなかったから、相手を気持ち良くさせてやろうなどと高い目標を課していなかったのである。

 だが今の反応を見ると、あるいはそれが出来るかもしれない。そう思った彼は、佳子を喜ばせたくて夢中で舌を使いだした。内壁に沿って、グルリグルリと舐めこそぐ。先程指でも感じたことだが、中はしっとりと湿り気を帯びているようだった。汗も混じっているだろう。無論己の吐いた唾液もそこに混ざる。しかしそれ以上に、奥から汁が湧いてくるようである。これが愛液か。そう悟った瞬間、彼は無上の喜びを感じた。

「佳子さんのお汁」

浩介はこれこそ求めていた彼女の真髄と感じて、まるで名水を味わうかの如く、夢中で湧き汁を啜った。出来ることならこの汁で口中を一杯に満たしたいとさえ願った。

 ズズズとか、ピチャピチャとかいう音が聞こえだすと、佳子はもう身も世もなく悶え、

「もうよして……」

と、切に懇願した。確かに言いようのない快楽のある事実がまた彼女を苦しめる。浩介は指も織り交ぜながら、彼女の膣を嫌という程愛した。闇雲なやり方だったが、一旦火照りだした佳子の肉体は憎らしくも対応し、女体の悦びをまっしぐら。そういう時間が延々と続いた。

 やがて浩介は起き上がり、新しいコンドームを着ける。四回目の準備である。そうして、彼は平べったく伸びた乳房をそれぞれかき集めてギュッと搾ると、まるでそれを取っ手代わりのようにして体を支え、勢い衰えない怒張を、グショグショの水浸しになった雌穴へ、もはや慣れた調子でねじ込んでいった。

 まだ日は高い。稔が帰るまでには、十分時間があるはずだった。





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