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ショートオムニバス・シリーズ 『母を犯されて』
ケース2 母・麻美子(まみこ) 37歳 雅治は今日も家に来ている。保 育 園からの付き合いで互いの家を行き来する仲だが、とりわけ我が家に来ることが多かった。その理由は薄々オレも承知している。どうもうちの母親に惚れているらしいのだ。 やたら積極的に話しかけるし、母親が出てこないと“今日は居ないのか”などと必ずひと言聞く。この前なんて一緒に写真を撮っていた。それも入学式や卒業式、あるいはどこかへ遊びに行った時ならまだしも、何の変哲もない日常の自宅でである。 本人に気持ちを確かめたことはない。そんな気持ちの悪い話、したくない。想像してみてほしい、同級生が自分の母親のことを女として見ているなんて。母親を性と結びつけること自体、息子として考えたくもない話だ。 今日も今日とて、まるで自分の家みたいな顔で、こたつに入りテレビを見ながら蜜柑を食っている。それも例によって、楽しそうに母親としゃべりながら。昔は気にならなかったが、中 学に入って二年目の夏が終わろうという辺りから、そういう態度が妙に鼻につくようになった。 「(なんなんだコイツは)」 オレは割と露骨に最近では白い目を向けるようになっていたが、雅治は全く気にしない。憎たらしくも鈍感な奴なのだ。 母さんはどう思っているのか。コイツの馴れ馴れしさに気付かないはずはないと思うが、別にイヤそうな顔はしていない。むしろ、それを人懐こさと捉えて、微笑ましく感じていそうな雰囲気だ。息子と仲良くしてくれている子だからという認識もあるだろうし。 そういえば、以前雅治についてこんなことを言っていた。 「雅治君ってさ、痩せたらモテそうよね。顔は男前だしさ。高 校 生になったらモテだすかもよ」 オレには全くピンとこなかったし、そんな批評を息子に聞かせる意味も分からなかったが、確かに顔の造作自体は、もちろんかなり妥協して大目に見ての話、整っている方なのかもしれない。それでも現に太っていて、男とつるむことの多い、オタク気質で地味な男子なのは間違いないわけで、コイツにモテ期が到来しようとは到底想像できなかった。 だけど、母さんがそういう見立てをしたということは、ちょっとでも男として見たということだろうか。女として? ……寒気、いや吐き気がする。万が一にもあり得ないな。 オレは携帯をいじりながら、目の前で交わされる会話を聞くともなしに聞いていた。文字通り親子程も年の離れたババアと、よくもまあそんなに話が弾むものだ。あのドラマ見た、とか、今映っている俳優はアレに出ていた人、とかそういうネタが豊富に紡ぎ出される。オレが逆の立場だったとして、人の家のおばさんとこんなに会話を続ける自信はない。 途中、便所に立って戻ってきても、まだ話は続いていた。オレが出入りする瞬間さえ途切れない。雅治がちらっとこっちを見ただけだ。彼はいつしか蜜柑を剥くのをやめ、話に本腰を入れるつもりか、布団に両手を突っ込んで喋っていた。顔がちょっと赤い。 「(のぼせてんじゃねえの? 寒がりか暑がりか分かんないなコイツ)」 オレは“コイツ何しに来たんだ”と思いながら、再び携帯に目を落とした。それからどの位時間が経ったろう。相変わらず茶飲み話を続けている二人を尻目に“いつまで居るんだ”と不満に思いながら、オレは何気なく、本当に気まぐれでふいに布団の中を覗いた。 「(ゲッ!)」 すぐに顔を上げ、雅治を見る。奴もこちらを見ていて、さすがにこの時ばかりは血相を変えていた。 その異変に気付いた母さんが、 「何?」 と訊く。奴は口ごもってしまった。あれだけ饒舌にしゃべっていた奴なのに、咄嗟の一言が出てこなかった。 「いや……なんでもない」 代わりに言ったのはオレだった。 「コイツが、へこいたのかと思って」 「え、ヤだあ」 母さんは中を覗くことなく、分かりやすい渋面をつくって見せた。 「へじゃなくて、足がくさいのかも」 「コラ、言い過ぎよ」 結局それでこの件は有耶無耶になった。 だが、オレは確実に見てしまった。雅治が、奴が何をしていたのかを。 「(オナニーしてんじゃん!)」 ズボンの前を開けて、股間を露出させていた。本当は瞬間的に仕舞おうとしたのだろう、だがオレがあまりにも前触れなく急に覗き込んだものだから間に合わなくて、奴はやっと手でナニを押さえることしかできなかった。同じ男なら誰だって、それだけの状況証拠で十分だ。 一瞬しか見ていないが、確実に奴のチ○ポは勃起していたし、濡れてもいたような気がする。思い出したくもないが、脳裏に焼き付いてしまった。間違いない! 雅治は人の家でオナニーをしていた。 「(コイツ……マジか……)」 オレは心底奴を軽蔑した。それまで抱いていたモヤモヤの比ではない。コイツは同級生の家で、それも同級生の目の前で、その母親をオカズにシコりやがったのだ。しかも会話中に! よくあんなに何食わぬ顔で会話出来たな。しゃべりながらチ○ポしごけたな。考えれば考える程恐ろしくなる。コイツはヘンタイどころではない、異常者だ。オレはそれ以降奴と目を合わせられなくなった。どういう思考回路で興奮できたのだろう。その想像がつかないから恐怖が倍増する。 ここでシコる位だから、自分の家でも多分相当ヤッているんだろう。そうか、その為に写真を欲しがっていたのか、オカズにする為に。線が繋がった。このぶんでいくと、下着なんかも盗みだすんじゃないか。あるいは風呂や着替えを覗いたりして。果てはオレの居ない所で押し倒すかもしれない。いやいや、異常者だから何をするか分からない。 いずれにしても、コイツがどういう感情で母さんを見ていたのかははっきりした。コイツにとって母さんはオナペットだったのだ。恋とかそういうものではない。もちろんそれだったとしても気持ち悪いが、もっと分かりやすい目的、要するに性の対象として見ていたのである。まったくどこが良いのかさっぱり理解できないが! 雅治は、それまでの尻の重さが嘘のように、そそくさと帰っていった。オレは見逃していない、奴の膝元に丸めたティッシュペーパーが既に一つ転がっていたことを。その上でまだ握っていたということは、つまり二発目をヌこうと企んでいたのである。あのままバレなければ、さらに居座ってヌき続けていたかもしれない。 オレは見送りもせず、奴が去った後の場所を恐々覗き見た。あからさまな汚れは見えなかった。それでも、後で密かに雑巾でふいておいた。 なぜかばったのかというと、第一に母親の体面の為、またもう一つに男の情けである。期せずしてとんでもない秘密を知ってしまったわけで、これをネタに脅すことも、あるいは言いふらしてアイツの評判を下げることもできるが、オレはそうしない。出来れば知りたくもなかった。どうしてあの時覗いてしまったのかと後悔さえある。 いずれにせよ、オレはその後奴を二度と家に上げることはなかった。 〈おわり〉 |