ショートオムニバス・シリーズ 『母を犯されて』
ケース4
母・美菜子(みなこ) 27歳
盆休み、茂生は家族三人で父の実家へ帰省した。祖父母共に健在で、孫のことを目に入れても痛くない程に可愛がっている。だから茂生には何の不自由もないわけで、ましてまだやっと物心付いた位な彼に、嫁である母の気苦労など推して知る術もなかった。
地元は酒好きが多く、寄ると必ず酒宴となる。祖父は我が家に親戚一同をはじめ、近所の人間まで集めて宴会を開くが、その時も決まって皆の盃が進んだ。
父も良く飲み、母も弱くはない。だが、その日は気疲れもあって、母は早々にダウンしてしまった。
「なんね、こらえしょうのない」
近くにいた男が指差して笑う。母は後ろの柱に頭をもたせて上を向き、大口開けて眠っていた。
「疲れとるんやろ」
祖母は淡々と評するような調子で言うと、
「シン!」
と息子を呼んで、嫁を隣の部屋へ運ばせた。
「フルさん、あんまり調子に乗って飲ませるんやなか!」
「そない飲ませとらんばい」
フルと呼ばれたさっきの中年男は、祖母に注意されてもニタニタと笑うばかりで、ますます機嫌よく酒を飲み干している。祖母も別段説教する気はなく、ちょっとたしなめた程度で向こうへ行った。父は既に元の席へ帰って、旧友と昔話に興じている。茂生は一人、母の許へ向かった。
母は豆電球の灯りの下で静かに横たわっていた。申し訳程度にタオルケットがかけてある。宴会の騒がしい音は聞こえるが、廊下一つ隔てただけで随分違うものである。茂生はその傍で畳の上にゴロンと横になり、持ってきた人形で遊ぶことにした。
しばらくすると、祖母がやってきた。
「あれまあシゲちゃん、こんな暗いとこにおったと? 向こうでお友達と遊ばんね」
世話焼きの彼女はそう言ったが、茂生は素っ気なく首を振って、そこを離れなかった。
入れ替わるようにして、今度は例のフルが通り掛かった。トイレに中座したものだ。
「なんや、えらい暗いとこで」
中には入ってこず、襖の間から顔を覗かせ、フフンと相変わらず上機嫌に笑って去っていった。
またしばらくすると、今度は親類や近所の子らがやってきた。先程来気後れして輪に入れなかった茂生であるが、話してみるとこの年代ならではの簡便さで、すぐに打ち解けて友達になれた。やがて、向こうでゲームをしようという話になって、茂生は彼らに付いてゆくことにした。
部屋を出ると、またしてもフルにバッタリと出くわした。
「おおっとっと」
ぶつかりそうになって、大げさによろめく中年男。茂生が思わずはにかんで「ヘヘッ」と笑うと、相手もだらしなく口元を緩ませて笑い返した。茂生はすぐに、先を行く子 供達を追ってドタドタと走りだす。が、すぐに何気なく振り返ってみた。すると、母の眠る部屋の襖が、中からスッと閉まるところだった。
「なんしようと?」
友達に呼ばれて、慌てて目的を思いだす茂生。彼らと一緒に、子 供だけが集まる部屋に行った。
だが、遊び始めるとすぐに尿意を催した。誰かに付いてきてほしかったが言い出せず、一人で便所に向かう。その時頭に浮かんだのが、フルである。「あのオジサンもトイレに行った」その知識を頼りに目的地へ。
他方、そこからの連想が彼の足を止めさせもした。「オジサンがママの部屋に入った」ことを確かめたい気持ちに駆られたからである。茂生は例の部屋の手前から歩みを緩め、ソーッと襖を開けた。
隙間から覗くと、やはりフルは居た。母は相変わらず寝ており、その腿の間にフルが入って、彼女の上に覆いかぶさっていた。母は服をめくり上げられており、露になった白い乳房が薄明りにフルフルと揺れていた。
母は犯されていた。
しかし、茂生にはその状況が理解できない。子 供がどうして出来るかを彼はまだ知らない。それでも母が乳を放り出し、オジサンが何かしていることだけは見て取れた。
しばし観察を続ける。オジサンは母の脚を抱えたり、腰の辺りを掴んだりしながら、一心不乱にカクカクと動いている。母は無反応だが、やはり胸だけは雄弁に語り、薄暗い中でも存在感を放っていた。
これだけの情報では何も分からぬ。もっと近くに寄って、あるいは直接尋ねてみないと真相はつかめない。茂生はそう悟ったが、いかんせん当初の目的を忘れていた。目下、それを解決するのが先だ。
彼は事件現場を放り出して、便所に去っていった。
それを遡ること数分前、茂生と入れ替わりに室内に侵入したフルは、すぐに実行に移った。襖を後ろ手に締めるや、流れるように股間を露出。
「へ、へへへ……」
飛び出た陰茎は天を向く程硬く充実していた。そのまま獲物の股の間に飛び込むように座って、彼女の下着さえ脱がさずに、少しめくった程度で強引にねじ込んだ。蒸れた肉はまるで濡れているようである。剛直は抵抗を感じながらも、無理やりに押し広げて進んでいった。
「お、奥さん……」
小声で呼びかけてみる。例え大声を出されても止める気はない。もうここまで来たらば、本懐を遂げてしまいたかった。
彼女とは長い付き合いではない。この家の血縁ではない彼にとって、「シンの嫁」だと言われてもピンとこなかった。ただ若い嫁だという認識しかなかった。酒席ではコンパニオンみたいなものだ。酒飲み男にとって、若い女との会話こそ格好の肴である。
千鳥足で宴席を出る。ふと見るとあの女が薄着で横たわっている。俄然ムラムラと欲情してきた。彼は確かに酔っていた。その勢いで犯行に及んだのである。
「(し、締まるなあ)」
確かに若い母親の割れ目は適度にきつく、他方で頃合いに柔らかかったのだが、久しぶりにありついた女の肉だっただけに、彼には評論の資格がなかった。実は気持ちいいという感想しかない。それにまた時間もない。彼にとって幸いなことに、女は騒ぐ気配がなかったものの、いつ起きるとも、また誰かに見つかるとも限らない。
「うんっうんっ!」
鼻から荒い息を吐いて、汗だくになりながら男根をこすりまくる。途中、思い切ってシャツとブラジャーをまくし上げ、乳房を露出させた。これを拝まなければ、女を抱いた甲斐がない、と彼は思う。大ぶりではないものの、重量感のある、しっかりと中身の詰まった乳房だった。
「(あのボウズを育てた乳か)」
ふとそんなことを思いついて、目を上げる。瞬間、彼は息を呑んだ。
「(あっ!)」
締めたはずの襖が僅かに開いている。しかも何者かが覗いている。中年男の目は確認に時間が掛かった。
「(あ、あのボウズか……!)」
彼は動揺した。もはや止めて逃げるべきかとも思った。だが、「どうせ捕まるなら最後まで」とヤケになる気持ちの方が勝った。ほんの少しだけ良心が痛む。そういう人並な心情はある。しかし、快楽は優にそれを上回る。
「(ど、どうせ俺はクズだよ。お前の母ちゃん、レ イ プしてやる!)」
バッと倒れ込んで乳首に吸い付く。ペロペロやってちょっと噛む。肉棒はいよいよいきり立った。パンパンに膨れ上がって、産道をギュウギュウと押し広げている。
「(うおっ、ヤベえ)」
込み上げてきたものを回避する余裕はなかった。寸前で抜き去ると、その突先から溜まっていた白濁汁がボタボタと滴り落ちた。
最後に彼は美菜子の唇を奪った。それは接吻というより一方的な、唇を吸い、あるいは舐める行為だった。酒臭い息と唾液が彼女の口中に雪崩れ込む。こうして女の征服は終わった。
茂生が用を足して戻ってみると、フルもまた事を済ませた後だった。後ろ手に襖を締める彼の方へ、茂生は廊下の向こうから駆け寄った。
「よ、よお」
以前の明朗さとは打って変わって、フルは妙に余所余所しく、まともに目すら合わせない。そればかりか、
「か、母ちゃん、よう眠っとるよ。お、おっさんがまじないかけよったけん」
と、聞いてもいないことを勝手にしゃべって、足早に去っていった。
茂生が部屋に入ってみると、母はきちんと服を着てタオルケットをかぶり、前と同じように静かに眠っていた。彼は気づかなかったが、諸々の汁も綺麗に拭き取られていたのだ。元通りの彼女を見て、息子は小首をかしげたが、今はそれ以上の追究に精を出すことはしなかった。
その後は友達と思い切り遊び、祖母の切ったスイカを食べ、あくる日からは虫取り、花火と楽しい経験が目白押しで、茂生にとって田舎の思い出といえば、そんな楽しいことしかなく、母が犯されたことなどすぐに忘れてしまって思い出す事もなかった。
〈おわり〉