大輪動会
~友母姦戦記~ 今日は運動会である。大人も子供も一堂に会して、地区の一大イベントである。
「エー、本日は晴天に恵まれ、絶好の運動会日和で――」
開会に際し、地元町議会議員の金光が挨拶する。テカテカする黒い肌を朝日に照らされた、五十がらみの男である。三代続く地主でもある彼を、地元では知らぬ者がない。またその傲岸不遜な振る舞いも同時に有名で、敵も多かった。
現に今日の実行委員に名を連ねている島田、高橋などは、何度も煮え湯を飲まされてきた。今も朝日の眩しさに顔をしかめているように見せて、その実彼の存在が苦々しいのである。
一方、
「お父さん、お父さん!」
と、檀上を指さして興奮しているのは金光の幼い娘、瑞穂。その周りには姉で小学四年生の清美、兄で中学二年生の佳彦がいる。
「うるさい、静かにして」
三児の母、有紀は騒ぐ娘をたしなめた。金光の妻にしてはずっと若く、まだギリギリ三十路の三十九歳。明るい色の髪に濃い化粧、そしてショッキングピンクのブランド物のジャージに身を包んだ人目を引く装いだ。そうでなくとも、夫同様に有名な彼女である。
やはり今日の委員である鈴木は、つい先日彼女に関してトラブルに巻き込まれたばかり。また、長男佳彦のクラスの担任、比嘉も彼女の言いがかりには常々頭を悩ませていた。
母親だけではない、子供らも問題児である。何しろわがままで教師の指導に従わない。彼らの性質の悪いのは、暗に金光の威光を嵩に着ることだ。それで学校側も何となく有耶無耶にしてしまう。周りの生徒らも同様だ。適当に取り繕って、あまり深入りしないようにしている。
要するに金光家とは、事なかれ主義の狭間で生まれたモンスター一家なのであった。どんな狭い地域でも、憎まれっ子は必ず世にはばかるものである。
*
さて、開会宣言や挨拶などが終わると、競技に先だってまずはラジオ体操である。参加者全員、各々手がぶつからない程度にグラウンドに散らばる。ここでも金光一家の周囲に人が少ないのは、やはり彼らの評判の証左であった。
その広々とした陣地で、およそ真面目にとは言えないながらも体操はする有紀。彼女の肢体は周囲からよく見えた。
「おい、見ろよ、あのババア。スゲーデカ乳」
「どれ?」
「あれだよ、あのハデハデババア」
そう言って物陰から噂しているのは、地元の不良高校生ら。悪ぶっているくせに、この手の大会にはわざわざ出てくる。少子化の昨今、この地区では学校ごとの運動会はなく、小 学生から大人まで合同で済ませることとなっていた。
彼らの視線の先では、有紀が大きくのけ反っている。すると山のような二つの張り出しが、その指摘通り大いに生地を引き延ばしていた。
彼女に視線を向けていたのは彼らだけではない。彼女が前屈みになった時、そのピチピチのジャージの尻に浮いたパンティーラインをゴクリと生唾飲み込みながら見つめている父兄らがいた。彼らの中には、有紀の厄介な人となりを直接、あるいは間接的に知っている者もいる。また、今日のようなケバケバしい外見を軽侮している者もいる。が、男のサガとしては、彼女の肉体を素直に見過ごせない部分が確かにあった。
有紀の息子である佳彦の同級生らでさえ同様だ。それがあのトラブルメーカーの母親と知っていながら、視界の端へある種のたぎりを持って収めずにはいられなかったし、さらには、彼らよりずっと年下、清美と年の変わらない男子らの中にも彼女を女体としてチラチラと盗み見ている者がいた。
*
そういう蔑視的劣情の中で、有紀は豊満な肢体をタプンタプンと躍らせる。彼女はまず短距離走に出場した。そして、その際の“躍動感”といったら顕著であった。
そもそも昨年以前の彼女は見学を決め込んで競技に一切加わらなかったものだが、今年に限って急に出ると言い出した。というのも、PTAの役員に就いたからである。ほぼ持ち回りで決めていくこの役、周囲はどうせ引き受けないだろうと思ったし、また引き受けてほしくもなかったのだが、彼女ときたら期待を裏切り二つ返事で引き受けたものだ。かつはまた困ったことに、やたらとやる気を見せだしたのである。協調性がない上に、自身の発言をゴリ押ししては、強引に事を進めてしまう。それでいて普段づきあいをしないし、金持ちの癖にけち臭い。彼女に対する思いは、母親連中の間で共通していた。
ちょうど今も女達は陰口を叩いている。
「見てよ、金光さんの奥さん、本当に出るみたい」
「なんか派手なジャージとか着ちゃって、やる気満々って感じ?」
「すごいよね、あのセンス。あの歳であれはないわ」
「あれがセレブファッションなんじゃない? セレブ様の考えはよう分からんけど」
客席からも出場者の待機場所からもヒソヒソ話は聞こえる。
「負けたらさ、ぶつかったとか言って、クレームつけそうじゃない?」
「あるある、絶対人の所為にするよね」
「エーヤバいよ。わたしあの人と同じ組だ。泣きそう」
そんなアウェーの中、有紀はこれといって誰かの反応を気にすることもなく出走だ。この辺りの鈍感さ、あるいは自信過剰ぶりは天性の長所且つ短所である。つまり、周囲が彼女を意識する程、彼女の方では周囲を意識していないというわけでもある。
――号砲一発。有紀は、スタートラインを飛び出すや猛然と駆け出した。
男達は、さりげなく、しかし確実に彼女を目で追った。彼女の初めての競技参加に対して物珍しいという感情、ただそれだけでは説明できない視線の運びで。
「バイン、バイン……」
通過する弾みに擬音を付け、口の中で周囲にそれと分からぬようにつぶやく父兄がいた。花村という若い父親。彼は、娘を撮影する為に持参したカメラを密かにそちらへ向けていた。そのレンズは、大きく上下して行き過ぎる二つの塊をしっかりと捉えている。
塊はそのまま一着でゴールテープを切った。
「すごぉい! 金光さん速いんですね」
一緒に走った母親が声を掛ける。すると有紀は謙遜することもなく、
「わたしって意外と、昔から足速いんですよぉ」
と、あっけらかんと得意げであった。
レースを大会実行委員のテント下で見ていた夫・金光も、
「いやあ、あいつ、負けん気だけは強いからさぁ」
と満足げに周囲に話す。
息子・佳彦もクラスメイトらに母親の勝ちを誇っていた。周りはいつも通り軽くあしらいながら、ただ目線だけはいつもより興味を含んで彼女に注いでいた。
*
「わぁ、なんか懐かしいね」
整然と並んだ机や、壁に貼り出された絵を見ながら前原が言った。
「ネー、こうしてるとさ、学生の頃思い出すよね」
窓際の方へ歩きながら、有紀が応じる。二人は賑やかなグラウンドを離れて、空き教室に忍び込んでいた。
「うん、思い出すよね……あの時の事とかさ」
前原は外を見下ろしていた有紀を、後ろからそっと抱きしめて囁いた。その腕をやんわりとほどいて、彼女は言う。
「ダメ」
二人は見つめ合った。
「ダメ?」
前原は甘えるように少しすねて見せると、そのまま唇の距離を縮めていった。有紀もそれは拒まない。やがて唇と唇が重なり合う。
ややあって、有紀が口を開いた。
「ダーメ……今日は子供達もいるの」
優柔な声音である。その目は言葉と逆の要望を伝えているようでもあった。
それを察して、前原は背中から尻へと曰くありげに手を這わせる。有紀も激しくは抵抗しない。男はこの間合いを愉しみながら、彼女のジャージズボンのゴムにまで手を挟んだ。
「誰か来ちゃうってば……」
有紀が言う。それに前原が返す。
「あの時も、そう言ったよね」
二人は見つめ合って笑った。
有紀と前原は、高校時代に付き合っていた。そしてまた当時の体育祭の日、ちょうど今日のように二人で抜け出しては、空き教室で逢引きしたことがあったのである。
前原は現在、金光の顧問弁護士だ。有紀とは昨年偶然にも帝都で再会、焼けぼっくいに火が付いた。その後、厚顔無恥にも彼女が夫へ彼を推薦し、契約させたのである。前原の拠点はいまだ帝都にあるが、こうして機会を見つけては密会に勤しんでいた。
二人は、片時も視線を逸らさずに会話を続けた。
「あの時は若かったの」
「そう? 全然変わらないと思うけど」
男の手は女のズボンをズリ下ろす一方で、そのシャツの下へも潜り込み、ブラジャーのホックを手早く外した。急にくつろいだ胸に軽い焦りを覚えつつ、有紀はまた否定の言葉を述べようとした。が、その口へ前原が機先を制して唇をかぶせる。
「ン……」
やがて、有紀の手が彼の背中へと回っていった。
*
「ああ、金光君、お母さん見なかった?」
担任教師の比嘉が教え子の佳彦を捕まえて、その母親の所在を問うた。しかし、佳彦は知らないと言う。比嘉からその旨を聞いた実行委員の鈴木は嘆いた。
「困ったなあ。次の障害物競争にエントリーしてるのに」
それを伝え聞いた母親連中が、またヒソヒソ話を始める。
「訳分かんないよね、さっき、速いとか言って自慢してた癖に」
「いいじゃんいいじゃん、あの人居ない方が楽だし」
その会話を背中で聞くともなしに聞いていた父兄の一人花村は、何気なくカメラを片手に席を立った。どうせ我が子の出番は当分ないのである。
行方をくらました有紀の身勝手は、こうして小さな波紋を広げつつあった。
*
「ンッ、ンッ、ダメェ~……」
他人の迷惑を顧みず、男女はとうとう性交を始めていた。元より恋に落ちた男女に周りの声なぞ届かない。
ガランとした教室の中、誰かの机の上に横たわる有紀の股を開き、前原は劣情のままに性具を出し入れする。膝まで下ろしたスラックスのベルトと、机の脇にぶら下がった手提げ袋の中身が、腰を振る度にカチャカチャと鳴る。この机を使う子には、まさか休みの日にここがセックスに使われていたなんて想像もつかないだろう。見ず知らずの年増女の背中をくっ付けられていたと知ったら、その子はどう思うだろうか。
「ダメだってばぁ~……」
この期に及んでまだ拒絶の意思を示しながら、その実、有紀は垂れて広がりがちな乳房を両の腕で中央に寄せて形よく見せようと気を砕いている。この武器の有効性は彼女も知る所だ。
前原は、当たり前のように彼女のシャツをまくり上げていた。彼もまた、学生時代より彼女の胸を目当てに付き合うことを決めたのだった。
有紀はと言えば、彼のマスクに惚れていた。彼の当時とさほど変わらない肌艶や体型には嬉しかった。年相応に渋みの加わっている点はむしろ好ましく、いつも家で脂ぎった親爺ばかり見ている為に、余計彼の格好よさが際立って見えた。ちなみに、夫とは百パーセント金目当てで結婚した。結婚と恋愛とは絶対に相手を選ぶ基準が違うと思っている。
「有紀……有紀……!」
次第に動きをヒートアップさせ、陶酔的に名前を呼ぶ前原。やがてキスの為に覆いかぶさったのがフィニッシュの合図だった。直前で引き抜かれて、白濁汁が床に滴り落ちる。
「ンン~……ンフゥ~……」
有紀も満足げな風を作って舌を絡ませた。
しばらく抱き合った後ゆっくりと起き直った両者は、身支度を始めながら再び語らいだした。
「あ、大変戻らないと」
「まだ出るの?」
「うん、次はたしか……パン食い競争。結構忙しいんだからね、わたし」
二人はクスクスと笑った。
しかし、密やかな恋の愉しみもここまでだった。それは、前原がズボンを上げる前、有紀がブラジャーを着け終わった直後に起こった。恋の秘密が破られたのだ。
「何々、もう終わり?」
ゲラゲラと笑いながら入ってきたのは、地元の高校に通う不良達三名である。先程体操する有紀に目を付けて猥談していた少年達だ。彼らは手に手にスマートホンを持っており、うち一名が画面を操作するとそこから、
『有紀……有紀……!』
という、当事者らに聞き覚えのある声が鳴り響いた。
「マジビビったし。教室でセックスとか、オバサンら正気ですか」
「しかも運動会の最中とかハンパねえわ」
「どんだけヤりたいんだよ」
三人は鬼の首を取ったように喚き立てる。三十路カップルは絶句した。そこへダメ押しの如く、不良の内の一人、慶介がズカズカ近寄って来て、こんなことを言い出した。
「で、オバサン、オレにもヤらせてよ」
すると、この発言には彼の友人も驚いた風のリアクションで噴き出した。
「マジか、お前!?」
慶介は平然と答える。
「マジマジ。ババアだけど、あのデカ乳見たら勃ってきた」
振り向いてニヤッと笑いながら、彼は有紀の肩に手を伸ばす。有紀は、まだ下半身を露出したままで後ずさった。くるぶしにはパープルのレースの下着が巻き付いている。
「ちょ……ちょっと……!」
彼女は前原に助けを求めた。前原、見られてようやく行動を起こす。
「や、やめろ」
しかし、飛び出ようとした彼を、二人の不良が押さえつける。
「あんだよ、オッサン」
「オッサンは終わったんだからいいだろ」
仲間らの協力に感謝しつつ、慶介は、逃げる有紀の腰を後ろから引っつかんだ。
「助けて!」
叫ぶ有紀。さらに迫る慶介。
「いいじゃん、ヤりたいんでしょ? だからヤッてやるって、オレも」
両者のやり取りに、今度はもっと確固たる声で割って入る前原。
「やめろ! やめなさい!」
だが、それと同時にもがいたのはまずかった。ズリ下ろしたままだったスラックスに足を取られて、思い切り前方へともんどりうって倒れてしまったのだ。ガシャンガシャンと大きな音を立てて、彼は頭から机と椅子に派手にぶつかった。
それを見て、少年らは思わず爆笑した。
「おいおい、大丈夫かよ」
同情の色さえ見せて、近くの一人が倒れている前原の様子を窺う。前原は大きくせき込んだ。額から微かに血を流している。それでも義務は果たそうとする。
「やめろ……」
「まだ言ってる」
少年は呆れ顔で慶介を見上げた。彼の名は浩樹という。
「ていうかオッサン、“やめろ”って、お前が言うなって話だよ」
そう浩樹が言うと、慶介も同調した。
「学校でさあ、子供とか居んのにセックスしてる人らに言われてもなあ」
慶介の言葉に、もう一人の少年、竜二も肯きながら言った。
「まあ、そういうわけだから、ちょっとそこで見てな」
彼は言い終わると、“続けて、続けて”と、滑稽に手のひらを振って慶介に合図した。慶介は促されるまでもなく、事を進めていくつもりだ。
「うわあ、中グショグショじゃん」
有紀の痴穴へと乱暴にねじ込んだ彼の指は、彼女の愛液ですっかり濡れてしまった。言うまでもなく、恋人との逢瀬で分泌したものである。
「やめてっ!」
有紀は悲鳴を上げ身悶えするや教室の奥、すなわち窓の方へと逃れていった。もはや恋人が当てにならないと知って、いよいよ顔面蒼白である。
恋人はまだ一応“やめろ”を続けているがそれも形ばかり、二人に抑えられて歯噛みしている格好だ。
「ていうかオバサン、そっち行ったら外から丸見えだぜ?」
慶介はいよいよ窓際に追い詰めた。
「でさあ、あんまり声出すとまずいんじゃない?」
彼はパニック中の有紀に諭すように語る。
「だって、あんたら、ヤッてたことバレたらヤバいっしょ。オレらまだなんもヤッてねえし。で、逆にあんたらがヤッてた証拠はあるし」
それを聞いた竜二が、タイミング良くさっきの動画を再生した。
『ンッ、ンッ、ダメェ~……』
あられもない喘ぎ声が鳴る。
「素直にヤらせりゃいいじゃんよ。なあ、オッサン」
浩樹が前原の頬をペチペチ叩きながら言った。
「嫌よ!」
有紀は毅然と言った。
〈つづく〉
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